かぐやに影響された月人が、かぐやを追いかけて地球にやってくる話。

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ある月人の地球旅行

 

___姫様はお元気だろうか

 

 少し前に仕事を共にした貴人のことが、不意によぎる。

 突如脱走を謀り、船で飛び出していった変わり者として知られるあの方は噂にたがわず破天荒であった。

 

『もう一回地球行く!だから手伝って!』

 

 手が空いていたばかりに一介の技師であった私は新しい船の開発に巻き込まれた。

 データ容積の拡張、時間遡行機能、外殻の強化……革新的な機能から必要性の怪しいものまで。

 思い付きに振り回される目の回るような日々。

 そうして完成した船であの方は旅立っていった。

 

『それじゃあ行くね。待ってて彩葉!』

 

 地球という星はそれほど楽しかったのだろう。

 彩葉という方にそれほど会いたいのだろう。

 わずかなズレが致命的な結果を招きかねない旅路だというのに、あの方は喜色満面であった。

 私は地球という星に強く興味を抱いた。

 開発中ずっとその話を聞かされていたから。

 ここにはない体験を語る姿があまりにも楽しそうだったから。

 

___様子を見に行ってみましょうか

 

 自分が開発に関わった船が、問題なく動作するかどうかも気になる。

 実際に体験すれば、見えてくる課題もあるだろう。

 そんな言い訳を並べながら、作業を始める。

 私は随分と、あの方に絆されていたらしい。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

「着陸プロセスには見直しが必要ですね……」

 

 地球への旅路は順調に進み、私は無事地球へと降り立った。

 姫様の作ったプログラムはよく出来ている。

 その気になれば姫様お一人でもやれただろうに。

 あの時は一刻も早く地球に行きたくて仕方なかったのだろう。

 “ネコの手を借りる”とかなんとか……。

 ネコってなんだろう?

 

「姫様はどこにいらっしゃるだろうか」

 

 姫様は人里離れた地に隠れ住むような性質ではない。

 いるとすればもっと華やかで賑やかな場所だろう。

 まずは降下中に見えた集落へ向かおう。

 踏み出した足に伝わる大地の感触は、思いのほか柔らかかった。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

 真実はデート、彩葉は課題が立て込んでいるとかで今日は一人だ。

 家でのんびりと過ごすのも良いが、これでも人気インフルエンサー。リサーチもかねて街に出る。

 

「あれ?ナンパ?」

 

 高校生くらいだろうか。揉めるような声が耳に入った。

 少年は浮かれた様子で熱心にアプローチをかけている。が、あまり反応は芳しくない。

 どうやらあまり慣れていないようだ。

 少女のほうはというと———

 

「……かぐやちゃん?」

 

 目を疑った。

 五年ほど前、突如現れた友人にそっくりだったからだ。

 とびきり可愛くて、明るくて、好奇心旺盛なかぐや姫。

 最後まで全力で楽しんで月に帰っていったはずの彼女に。

 聞きたいことが山ほどある。

 少年には悪いが、ここは譲ってもらおう。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

「ありがとうございました。少し道を尋ねたところ、あのような事に……」

「あらら……。気をつけなー?可愛いんだから」

 

 こんな美少女に突然話しかけられては浮かれてしまうのも無理はない。

 しかし———よく似ている。

 艶やかな黒髪にやや硬い表情、纏う雰囲気は別人だが顔立ちは瓜二つといっていい。

 かぐやちゃんに化粧を教えた私の目は誤魔化せない。

 

「?私の顔になにか付いていますか?」

「あ、ごめんね?友達によく似てたから……」

 

 どうやら見つめすぎたらしい。

 思わずナンパじみた言い訳が口をついて出る。

 

「……もしや、姫様のご友人の方ですか?この星では“かぐや”と名乗っているとか」

 

 ———思考が止まる。

 

 この子、かぐやちゃんの知り合いだ。

 おそらくは“同郷”。

 

「ちょっと一緒に来てもらってもいい……?」

 

 誘い文句は先ほどの少年よりもぎこちなかった。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

「彩葉、そろそろ休憩したら?」

「あれ、もうそんな時間?」

 

 ヤチヨの声で顔を上げる。

 ずいぶんと集中していたらしい。

 カチコチに固まった体を軽く解し飲み物を取りに立つ。

 エナドリ……は先日怒られたばかりなのでコーヒーにしておこう。

 

「進捗、どうですか~?」

「まだまだ足りないものが多いね」

 

 この数年で人体の複雑さを思い知らされた。

 ハッピーエンドはいまだ遠く先。

 それでも必ずたどり着いて見せる。

 そう心に決めてコーヒーに口をつけた、その瞬間———

 

「彩葉っ!!」

 

 飛び込んできた親友のせいで盛大にむせた。

 

「っ芦花!?どうしたのそんな慌てて!?」

 

 普段の姿からは考えられない。

 見れば、どこか既視感のある少女が抱えられて目を回している。

 ……ここ、一応部外者立ち入り禁止なんだけどな。

 

「で、この子は?よく見たらすっごいかぐやにそっくりなんだけど……」

「……多分、かぐやちゃんの知り合い。“姫様”って呼んでたから同郷だと思う」

 

 つまり宇宙人か。

 なんでまた今地球に?

 

「ヤチヨ、何かわかる?」

「う~ん……まだなんとも。ツクヨミにアクセスしてくれれば何かわかるかも」

 

 当事者にも見当は付いていないらしい。

 まずは本人に話を聞くしかなさそうだ。

 

「……はえ?ここは……?」

 

 ちょうど目を覚ましたらしい。

 その仕草は、出会った頃のかぐやにどこか似ていた。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

「私は酒寄彩葉。で、こっちは綾紬芦花」

「さっきはごめんね〜」

 

 会議室に場所を移し、話を聞くことにする。

 あちらの目的が分からないため、ヤチヨには席を外させた。

 

「彩葉様!?まさかこうも早くお会いできるとは……」

 

 彩葉”様”!?

 ……月でどんな話になってるんだ。

 思考が逸れかけるのを押し戻す。

 

「あなたは月から来た、でいいんだよね?」

「月……?ああ、はい。その認識で間違いありません」

「その姿は?」

「我々が外で活動するための擬態です。今回は姫様のデータがありましたので、流用させていただきました」

 

 その後もいくつか質問を重ねる。

 分かったのは、敵意がなさそうなこと。

 そして、この子が拍子抜けするほど素直だということくらい。

 

 ……本当にかぐやと同族なのか?

 

「それで、地球に来た目的は?」

 

 核心に触れる。

 もしヤチヨの身柄が目的なら、丁重にお引き取り願うしかない。

 

「まずは新しい船の動作検証ですね。我々としても時間遡行は未知の領域でしたので」

 

 本来であれば検証を先に行うべきなのですが……と彼女は続ける。

 言葉の節々から滲む苦労に少し親近感が湧いた。

 

「まあこちらはある意味建前でして、最大の目的は姫様の無事を確認することです」

「かぐやを連れ帰るとか、月の技術を使ってる事への警告とかでなく?」

「特にお連れする理由はありませんし……えっ、そんなことしてるんですか?」

 

 おっと、藪蛇。

 

「……ま、まあ私にはそのような権限はありませんし……ご心配なく」

「ああ……うん。なんかごめんね?」

 

 なんとも言えない沈黙が落ちる。

 

「と、ところで姫様の事なのですが……」

「少し訳ありでね、ちょっと待って」

 

 手元のタブレットを操作し、ヤチヨを呼び出す。

 どうせなら当人の口から説明してもらった方が早い。

 

「ヤオヨロー!久しぶり……でいいかな?」

「……姫様?随分と雰囲気変わりましたね?」

「それには聞くも涙、語るも涙の物語が〜!」

 

 ヨヨヨ〜、とわざとらしく泣き崩れるヤチヨ。

 話を誤魔化すときによくやる手だが、この子には通じていない気がする。

 

 ヤチヨのこれまでを聞いて、この子は何を思うのだろうか。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

 ___八千年。

 

 姫様の辿った旅路に私は愕然とした。

 正直な所、この星の時間感覚を正確に把握している訳ではない。

 だが、満足に動くことも出来ないまま、先も見えぬ歳月をただ待ち続けるなど、私にはとても耐えられないだろう。

 

「……姫様、墜落地点を覚えてらっしゃいますか?」

「さすがにそこまでは覚えてないや。でもどうして?」

「ある程度時代と位置が分かれば救助隊を送れるかもしれません。船の改造も必要ですから、すぐにとはいかないでしょうが……」

 

 姫様は僅かに微笑み、静かに首を横に振った。

 

「確かに辛いことや悲しいことは沢山あった。消えちゃいたいって思うことも何度もあった」

「でも嬉しいことや楽しいことも沢山あったよ。いろんな人に出会って、話して、笑って……そういう誰かの営みに支えられて、また彩葉に会えた」

「だから、大丈夫」

 

 その姿は、月で思い出話を語っていた頃と何も変わらない。

 何千年と経ち、姿形が変わろうと姫様は姫様だった。

 

「失礼しました。出過ぎた真似をお許しください」

 

 とはいえ、関わった技士としてこのままではどうにも落ち着かない。

 

「せめて、なにかお力になれることはありませんでしょうか」

「うーん……ちょっとしたことなら彩葉がやってくれちゃうからなぁ」

 

 ……彩葉様すごいな。

 ああでもないこうでもないと問答はしばらく平行線を辿った。

 緩い膠着状態を崩したのは彩葉様だった。

 

「そういえば、その体ってかぐやと同じなんだよね?」

「え?そうですね。いくつか機能は減らしていますけど」

「ならさ、ちょっとデータ取らせて貰えない?」

「…………はい?」

 

 データ?何のために?

 

「仮想空間での五感の実装と全身義体の作製。彩葉の研究って要するに”かぐやの体を作ろう”ってことなんだよね」

 

 彩葉様すごいな!?

 姫様はさらりと言うが擬態用ボディの生成は我々にとっても高等技術である。

 

「今少し行き詰まっててね。実物の反応を解析出来ればなにか掴めるかも」

 

 そう言う彩葉様は目が据わっていてとても怖い。

 芦花さんに視線で助けを求めるも申し訳なさそうに目を逸らされた。

 

「ヤチヨの、かぐやのためなんだ。だからお願い!」

「は、はいぃ……」

 

 ずいと詰め寄られた私は情けなく首を縦に振るほかなかった。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

「彩葉、やりすぎ」

「はい……反省してます……」

 

 恐ろしい目にあった。

 脳波測定と聞いて安心していたが、あんな怪しげな機械が出てくるとは思わなかった。

 

「あなたも大丈夫?体に違和感とかはない?」

「は、はい。解剖されるかと思いましたけど……」

「……できれば血液検査とかもさせて欲しいんだけど」

 

 思わず芦花さんの後ろに隠れた私は悪くないと思う。

 

「彩葉、ステイ……ごめんね?今はちょっと冷静さどっか行ってるみたい」

 

 彩葉様は芦花さんに叱られて居住まいを正した。

 姫様から聞いていた話と随分と違う光景だ。

 

「そういえばこれからどうするの?ヤッチョがいろいろ案内できたら良かったんだけどね〜」

 

 空気を変えるような姫様の問い。

 そういえば何も考えていなかったな。

 

「目的は果たせましたので帰還の準備をしようかと。仮想空間の機能をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「え〜!?もったいな〜い!もっと満喫していけばいいのに」

 

 そうは言うものの、長期滞在など想定してはいなかった。

 端的に言えば拠点も当座の資金もないのである。

 

「行くとこないならうち来る?」

「芦花さん?」

「今1人だしね。しばらく泊めるくらい大丈夫」

「それならうちの方が広くない?」

 

 彩葉様も声をあげる。

 ……良い人達だな。突然現れた異邦人を、こうも自然に受け入れてくれるなんて。

 

「彩葉は遅くまで研究してること多いじゃん」

「ぐぬぬ……」

「それじゃあうちで面倒見るって事で。勝手に決めちゃったけど良かったかな?」

「あ、ありがとうございます。何もお返し出来ないのが申し訳ないのですが……」

「それならツクヨミでお仕事する?」

 

 今度は姫様だ。

 

「よろしいのですか?」

「月由来の技術も多いから、事情を理解してる人にしか頼めないことも多いんだ」

 

 おそらく姫様1人でも問題なく回していけるのだろう。

 それでもこうして滞在する理由を作ってくれている。

 

「お気遣い、ありがとうございます。お受けいたします」

「ん〜?なんのことかにゃ〜」

「それじゃ名前も決めないとね。いつまでも”あなた”呼びじゃ不便だし」

 

 名前!

 個という概念が薄く、役割で分類される我々には馴染みのない文化だ。

 

「黒かぐや……はさすがにダメか」

「髪だけじゃん。ルナちゃんとか月っぽいのは?」

「月を全面に出すと萎縮しちゃいそうだからなぁ……」

 

 やいのやいのと賑やかな討論が続く。

 そういえば姫様も、“かぐや”という名を大切にしていたように思う。

 

「さくや……さくやにしよう!かぐやの後に来たんだし!」

「いいんじゃない?どうかな、さくや」

「さくや……はい。私はさくやです!」

 

 こうして、私ことさくやの地球滞在は驚くほどあっさりと始まった。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

 地球という星は話に聞いていた以上に刺激的で、未知と彩りに溢れていた。

 

 降り立ったばかりの頃は気にも留めていなかったが、街には多くの人や物が溢れていた。

 姿形がバラバラな人々が集まったり離れたり……思い思いに活動する様子はとても新鮮であった。

 

 姫様のご友人、真実さんに連れられて様々な料理を食べ歩いた。

 五感全てで楽しむ食事という文化は肉体を持たない我々の対極にあると言え、姫様が魅了されるのも納得であった。

 姫様は作る方も一流だというのだから驚きである。

 

 芦花さんにはメイクを教わった。

 なんでも初心者向けのメイク動画を撮るとの事で、モデルとしてお邪魔したのだ。

 芦花さんが手を動かす度に鏡に映る私の姿が変わっていく様は圧巻であった。

 簡単な手法をいくつか教わったが、なかなか難しい。研鑽が必要だ。

 

 もちろん仕事の方も充実していた。

 環境も技術も月に近く、すぐに馴染むことができたのだ。

 ただ、少々馴染み過ぎたようで、時間を忘れて作業に没頭してしまい皆さんからお叱りを受けるとともに”彩葉族”なる称号を頂いた。

 もっとも、彩葉様も直後に御三方から叱られていたのだが。

 

 彩葉様の研究も何度かお手伝いさせて頂いた。

 なんと彩葉様は姫様の記憶を追体験したことで月の技術にも造詣が深いのだという。

 ……なぜ無事で済んでいるのだろうか。

 姫様が再び体を取り戻す。私の生体データがその助けになれば良いのだが。

 

 ゆったりとした夜の時間も好きだった。

 芦花さんとお茶を飲みながら、その日あったことや見かけたものを共有する、そんな取り留めのない日常が心地よかった。

 

 そんな地球での日々はあっという間に過ぎてゆき、とうとう月へと帰る日がやってきた。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

 ツクヨミ、姫様が作り上げた仮想空間。

 どこか月の世界に近く、それでいて賑やかで自由な世界。

 静止軌道上の帰還船にアクセスするならここからがいちばん早かった。

 

「皆さん、長い間お世話になりました」

 

 地球でお世話になった方々に改めて頭を下げる。

 皆さん忙しいだろうにこうして見送りに来てくれた。

 

「ひと月くらいじゃん。もっといればいいのに」

 

 思えば芦花さんがいなければ地球滞在は愚か姫様に会うことも難しかっただろう。

 

「そーそー。まだまだ行きたいとこあったのに」

 

 真実さんに教わった場所はどこも素晴らしかった。

 まだ見ぬ体験の予感に名残惜しさを抱く。

 

「色々手伝ってくれてありがとう。気をつけてね」

 

 彩葉様はこの地球訪問でもっとも印象の変わった方かもしれない。

 超人のようで、実際超人ではあるのだがーー意外と隙もある方だと知った。

 

「姫様が地球に来た理由が少しわかる気がします」

「いい所でしょ〜♪さくやも移住しちゃう?」

「……それも良いかもしれませんね」

 

 思わずそんな言葉が漏れた。

 だが、月へと帰還するまでが私の仕事なのだ。

 それに安全な渡航技術を確立できれば、再び地球へ赴くこともできるだろう。

 

「皆さん、本当にありがとうございました。またお会いしましょう」

 

 後ろ髪引かれる思いを振り切って私は帰還船へと跳んだ。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

 さくやが月へと帰って一ヶ月が過ぎた。

 一緒に過ごした時間は決して長くないはずなのに、喪失感はいまだ消えそうにない。

 元の生活に戻った部屋もどこか広く感じる。

 なんとなく、一人でいる気分になれなかった。

 彩葉や真実の予定は空いていただろうか。

 

 いつもの川床で待ち合わせ。

 こうして急な連絡でもすぐに会えるのがツクヨミの便利なところだ。

 

「どうしたんすか芦花さーん?」

「さくやが帰ったのまだ引きずってるんでしょー」

 

 少しからかうような親友たち。

 どうやらそんな寂しさも、二人にはお見通しらしい。

 

「ちょっと、彩葉には言われたくないんだけど?」

 

 かぐやちゃんが帰った時のこと忘れてないからね。

 

「私の場合数日塞ぎ込んだあと立ち直……てはないか」

「カンヅメ作業で駆け抜けた感じだよね。その後再会したし」

 

 ダメだ、参考にならない。

 

「まあ”寂しい”って気持ちはどうしたって埋めるのは難しいと思うよ?」

『そうそう!別のことして気が紛れることはあっても、ふとした時に思い出しちゃうんだ』

 

 いつの間にかヤチヨも来ていたらしい。通話越しだけど。

 

『でもそれは悪い感情なんかじゃなくて、”それだけ大切だった”ってことだと思うな』

「それにさくやのことだから、理由作ってまた来るんじゃない?」

 

 ニコニコともっともらしい建前を語るさくやの姿は容易に想像できた。

 

「今日のところはパーッと遊んで気分変えよー。何行く?」

『それならさくやの作ったゲームモードでもやって行かない?』

 

 あの子、そんな事もしてたんだ。

 さくやが残して行ったもの、せっかくだし遊ばせてもらおう。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

「いやー、遊んだねぇ」

「お腹すいた〜」

 

 ゲームにここまで熱中したのは学生以来だろうか。

 

「でもよく出来てたね。つい白熱しちゃった」

 

 彩葉の熱の入りようは凄まじかった。

 ゲームルールがかぐや卒業LIVEでの戦いを彷彿とさせたのもあるが。

 

「芦花、気は紛れた?」

「おかげさまでね。ていうか最後のボスキャラ何?」

「なんか悪いさくやみたいなのいたね。笑いすぎで落とされるかと思った」

 

 がんばって悪そうな顔をしていたが全然似合っていなかった。

 おそらくヤチヨの仕業だろう。

 

「みんな、今日はありがとう」

 

 次に会ったときに教えてやろう。

 胸のつかえは、そんな楽しみに変わっていた。

 

 ◇■◇■◇■◇

 

 現実に戻って数刻、突然インターホンが鳴り響いた。

 来客というには遅い時間だし、宅配の予定も特になかったはず。

 訝しみながらモニターを起動すると、

 

『芦花さん!お久しぶりです!』

「……さくや?」

 

 画面に映ったのは間違いなくさくやだった。

 慌てて玄関を飛び出しエントランスに走る。

 本物かどうか確かめるより先に、体が動いていた。

 

 息を切らせながらエレベーターホールを抜けた先に……いた。

 急に通話が切れたことに困惑してる様子だ。

 

「さくや!」

「うえっ!?芦花さん!?」

 

 抱きしめた体から本物の熱が伝わってくる。

 

「……でも、どうして地球に?」

「むこうで地球での報告をしたところ、長期滞在が必要な案件を任されまして……。せっかくなのでまたこの時代に」

 

 私が帰還してからどのくらいですか?なんて呑気そうに聞いてくるさくや。

 一ヶ月くらいと教えてやれば意外と誤差は少ないですね、などとのたまう。

 

「うにぃ!?ろ、ろかはん?」

 

 その様子が子憎たらしくて頬っぺたを引っぱってやる。

 まったく、人の気も知らないで。

 

「それで、長期って言ってたけどなにか決まってるの?」

「内容が内容なので、とりあえず1度姫様や彩葉様にご相談したいですね」

「まあ今日は遅いし明日以降かな。泊まっていくでしょ?」

 

 きょとんとするさくや。

 ひょっとして何も考えていなかったのか。

 

「急な訪問でしたので……ご迷惑じゃないですか?」

「1ヶ月しか経ってないんだから変わらないってば」

 

 月でどのくらいの時間が経ったのかは分からないが、さくやはさくやだった。

 

「おかえり、さくや。どんなことがあったか聞かせてよ」

「……はい!」

 

 再会の約束は、思ったよりずっと早く果たされた。

 


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