【完結済み、最終話まで更新予定】SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀 作:黴男
「――――シン様」
「ああ」
俺は目を開ける。
ついに、来るところまで来てしまったという感があるが、俺に後悔はない。
あるとすれば、衣装が重すぎて動きにくいので、もう少し鍛えておくべきだったかもしれない。
「行こう」
俺たちの控室として用意された部屋からでも、外の歓声が響いてくる。
獣人のやり方で結婚式をやると言ったのは俺だが、だからといって衣装が複数の獣の皮を繋ぎ合わせたレーザーアーマーで、バカでかい剣を身体のどこかに吊り、頭には大型の獣の骨を被るなんて聞いてなかった。
逆にルルとネムは、地球と同じく白い衣装に身を包んでいる。
獣人は一夫多妻制の事が多く、いちいち儀式などやっているわけではないそうで、夫の衣装は強さと権力のアピールになるが、花嫁の衣装の方は大したことがないらしい。
それでも一応注文をくれと言ってきたので、ウェディングドレスのようなものと伝えたらこうなった。
ルルの方はスタイリッシュに、ネムの方は多少だが少女趣味なデザインが入っているように思えた。
「正直に言うと.......もう少し布面積が少ないかと思ったな」
「その方が、よかったですか?」
「いいや」
今までその実感はなかったが、いざ結婚するとなると、この俺にも.......独占欲というものが、僅かばかり出てくるものだ。
ルルやネムの素肌を他者に見せたくない。
別に俺も見たことないし、興味もないんだが、これが男の心というものか。
愚かだな。
「開けるぞ」
長いように見えた通路は、俺の心理的状況によるものだったらしい。
落ち着け....落ち着いて素数を数えるんだ。
どうでもいい事を考えつつ、俺は扉を開け放った。
「.........っ」
獣人たちの咆哮が、真っすぐに俺を叩く。
だが、ここで屈服するわけにはいかない。
俺はリーダーであり、何より....
「シンさま?」
「シン様....」
ここにいる二人の為に、夫となる存在なのだから。
「ティファナ、場を持たせてくれてありがとう」
「...はい」
俺は衣装を翻らせ、颯爽と高台の真中へと進み出た。
「獣人達よ!」
俺は手振りで会場のスピーカーをオンにした。
「今日は集まってくれて感謝する」
視線が集中するのが、嫌でもわかる。
慣れた事だからな。
前世から、悪意と共になら同じようなことは何度もあった。
だが、今回は好意的なものだと信じる事にする。
「俺はシン。星空の帝王として、お前達を庇護する者だ」
ティファナからそれは絶対言ってほしいと言われたことを、一言一句違えずに口にする。
「俺は、ルルシア・レート・アールシアと、ネムリー・レート・アールシアと結婚する。...多くは語らん、目で見たものだけを真実と捉えよ」
『『『『『『『は!!!』』』』』』』
俺が二人と結婚することで、かつての獣人国の名...アールシアは完全に途絶えることになる。
だが、俺が獣人を気に入っているのはこの点で、彼等は過去に縛られることのない存在だ。
庇護する者に従い、それがいなくなれば、庇護する者が大事にしていた文化は失われて、新たな庇護者に準じるのだ。
前王からティファナへの政権移行が速やかだったのも、戦後彼女が、偶然とはいえ俺たちと獣人との架け橋になったためである。
ルルやネムがいなくなったあとは、獣人にとっては俺という人間と後腐れなく会話できる唯一の人物だったからでもあるだろう。
「...では、シン様」
「ああ」
ティファナが俺の前へと進み出て、舞台袖に目配せする。
「シン様、お幸せに」
「ああ」
彼女の頬を、一筋の涙が伝う。
俺はそれを、見なかった事にした。
ただ、単純に...罪悪感が胸の奥底で燻ったからだ。
やってきた二人の獣人が、俺に説明する。
「獣人の結婚は、森神様にその誠実さを証明することで結ばれます。」
「心苦しい限りなのですが、血の判をここへ」
「ああ、わかった」
俺は渡されたナイフを手に持つ。
まだ熱い、煮沸消毒をした後なのだろう。
戦いの種族だけあり、衛生観念は高度なんだな。
俺はそれで指先を切り、紙に押し付けた。
それを渡し、絆創膏をポケットから出して指に巻いた。
「これだけか?」
「あ...はい、そうなります」
二人を見ると、ルルは頷いているが、ネムはそれを知らなかったようで、物足りなさそうな表情をしている。
駄目だ。
このままで終わっては、二人のためにならない。
贖いには、ならないだろう。
「ひゃっ!?」
「えっ!?」
俺は二人を抱き上げて、声を張り上げた。
「俺はルルシア・ライツと、ネムリー・ライツを、その命尽きる時まで裏切らず、幸せにすると誓う!」
この言葉には嘘がある。
だが、言わなければならないことだ。
誠意を示す、それが俺のするべきことなのだから。
「文句があるならば、この場で叫んで示せ!」
俺は二人を抱きしめた。
互いから別々の匂いがして、一瞬それに気を取られた。
いいじゃないか。
両手に花、ここでケチをつける愚か者は居ないだろう。
会場は静まり返る。
それを見た俺は、二人を下ろしてやる。
「シン、様...ありがとうございます」
「えへへ〜、お姫様みたい!」
お前は実際お姫様だろ、と言いたかったが、俺はこれ以上羞恥に耐えられない。
勢いでやったが、思った以上に視線が痛い。
主に俺の背後から飛んできている。
俺はずっとその視線に気付かなかったわけではない、ただその義理はないと感じていただけだ。
「...お幸せに、星空の帝王様」
「ああ」
俺は二人を連れて、奥へと引っ込む。
俺が幸せにするべきなのはルルとネムであり、ティファナではない。
こうして、結婚式は終わった。
「シン様、お料理をとってきました」
「これ、デザート!」
数時間後。
俺たちは、宴の中にいた。
獣人の文化らしい、式はあくまで形式的なものであり、皆で集まり、歌い、踊り、飲み、食べる。
そんな、家族の絆、一族の絆を感じさせるものなのだ。
「ああ、ありがとう」
俺は料理の皿を受け取る。
バカみたいに重い料理だが、宴専用のものだろう。
「いい光景だな」
「はい」
獣人達は最早、何の苦しみにも縛られていない。
彼等は生きたいように生きられる。
この戦いが終われば、もう獣人達が戦いに駆り出されることも無くなるだろう。
「うん、甘いな」
「おねーさんが、特に甘いのをって!」
おねーさんというのは、多分ティファナの事だろう。
彼女は先程失恋したわけだが、そこは為政者だ。
公私を切り替え、宴の維持に努めてくれている。
「帰ったら、初夜ですね」
「.....そうだな」
年齢差的にも、気が引ける。
しかし、これも誠意のうちか.....
「よし、飲んで忘れよう」
俺は酒を飲んだことがほぼ無い。
流歌のために奔走してきて、酒を飲む時間がなかったというべきか。
「.....酔わないな」
しかし、二杯、三杯と、濃い料理を肴に飲み進めた俺は、全く酔わない事に気づいた。
前世で飲んだ時はしっかり酔っていた筈だ。
どういう事だ.....?
「あ、そうか」
俺はある事に気づく。
酔わなくて当然だ。
もう、「してある」のだから。
「帰るか......」
気付けば、宴も終わりかけていた。
俺は立ち上がる。
「んむ.....」
「ほら、帰るぞ」
眠りこけているネムを背負い、俺はルルを探す。
彼女はすぐに見つかった。
胸を抑えて、蹲っている。
「飲んだな?」
「.....はい」
酒を飲んだ時特有の反応だ。
俺は彼女の手を引き、連れ帰ろうとした。
「シン、さま....」
「どうした?」
「屈んで、ください....」
「ああ」
俺はネムを連れたまま、慎重に屈んだ。
「目を、閉じてください....」
「ああ」
俺は目を閉じる。
少しして、唇に何かが触れる感覚がした。
目を開けると、ルルは微笑んで言った。
「満足、です.....」
「そうか...」
俺はダウンしたルルを連れ、シャトルへと戻るのであった。