【完結済み、最終話まで更新予定】SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀 作:黴男
「っ...ここは、あたし...」
目を開けたズィーヴェンは、真っ暗のブリッジを見て青褪める。
オレブ=ザラクが破壊され、死を待つばかりと思ったのだ。
だが、慌てて呼んだ名が事態を打開する。
「メメントモリ!?」
『はい、お嬢様。無事ですよ』
「よかった...何が起きてんの?」
『お嬢様、覚悟を決めてください』
メメントモリの声は、いつもよりも真剣さを感じさせた。
ズィーヴェンは佇まいを直し、メメントモリの声に耳を傾ける。
『本機は現在、アドアステラの放った砲撃の余波により中破状態にあります。このままでも戦闘の継続は可能ですが、シールド機能と推進機能に障害が出ています。どうされますか?』
「それって、あたしの決める事.....?」
『はい』
ズィーヴェンは、赤く明滅するランプ...メメントモリを見据える。
彼は彼女に対して、必ず「提案」をしてきた。
承認ではなく、意思決定を求める今。
それは即ち、メメントモリの消滅ではなく、ズィーヴェンの死がその先に横たわっているからである。
彼女は無責任ではいられない、ここで選択するのだ。
『本作戦の命令は、アドアステラを撃破する事です。作戦行動の継続が可能なら、それをするべきでしょう。しかし、私はお嬢様...当個体を失う事を最大限のリスクとして捉えています、一度撤退し、時神の鍛冶場で修復を...』
「は? えーダル、いつそんなに仲良くなったんだっけ」
『...それは、どういう意味でしょうか?』
ズィーヴェンはクッションソファに身を沈め、言った。
「あたしは頷くだけで、メメはあたしが頷くのを待ってる。この数ヶ月、ずっとそれだったじゃん。...今更、あたしの意思を求める必要はないんじゃない?」
『では。...突撃を敢行する事を提案します』
「えーヤダ」
『...何故ですか』
メメントモリは心底困惑した様子であった。
意思決定を完全に委ねるな、提案しろ。
そう言われたのに、断られたのだから。
「突撃、じゃなくて攻撃っしょー? これじゃまるであたしが死ぬみたいじゃなーい」
『...かしこまりました、これより攻撃行動に移行します』
ボロボロのオレブ=ザラクは動き出す。
左の推進器が機能せず、右のマグパイ発進口は機能していない。
おまけに、宙域にいたマグパイはそのほとんどが機能を停止していた。
『マグパイ、再展開します』
機能を停止していたマグパイのうち、中枢回路が生きているものだけが再起動、オレブ=ザラクの周囲を展開しつつ、装甲修復を行い始める。
オレブ=ザラクがドルドリオンに接近した時、入り口から橙色の光線が噴き出した。
サマエルの直撃砲の直射砲撃である。
それはアドアステラへと直撃し、放射状に逸れていく。
『派手にやってんねー』
『彼方へ突入するのは危険です』
『いーじゃん、行っちゃおう!』
『了解です』
オレブ=ザラクは命令を無視し、マグパイを率いて内部へと突入する。
誰にも聞こえないように、ズィーヴェンは呟く。
「――――あたしだって、守りたいものはあるんだっつーの」
『―――直撃砲、変換器の熱ダメージが最大に達しました、使用不能。次回使用可能なのは三十分後です』
「くっ...聖なる一撃をこうも容易くっ!」
要塞内部では、未だに激しい戦闘が行われていた。
戦闘不能になったアインスをフュンフが持ち帰ったので、戦闘に参加しているのはゼクス、ズィーヴェン、ノルン、エルフだけである。
要塞内部にはツインフェイト級駆逐艦やスレイプニル級戦艦が待ち構えており、圧倒的な火力で、弱体化したアドアステラを撃っていた。
直撃砲を使い果たした今、サマエルは単装レールガン六門しか持っていない。
それでも、それを撃ちながらホドとネツァクを支援していた。
ネツァクはシールドを失い、装甲が剥げ落ちているが、シャードキャノンはまだ生きている。
アドアステラは三連装重レーザー砲を十六門まで減らしており、艦隊の対処に回っているため、ネツァクは装甲の薄い箇所を狙って攻撃を続けていた。
先程のアインスが放った「昇華」の波導を受けているため、ネツァクの攻撃は装甲を実際に一部破断させる事に成功していた。
そして、
『助けに来ました』
『ったく、なっさけなー!』
『助かる!』
アドアステラの背後から、マグパイの群れと共にオレブ=ザラクが襲い掛かった。
容赦なくレーザー砲がオレブ=ザラクに突き刺さるものの、致命傷ではない。
損傷個所を段々とパージし、その機影は小さくなっていく。
『ふふん、見たか。あたしたちの船は、そんなもんじゃ沈まない!』
『バイタルパートを破壊されない限りは、ですが』
積んでいるマグパイを遠慮なく全放出したオレブ=ザラクは、ブリッジとパワーコア区画を除き被弾しても大丈夫なように、メメントモリによってダメージコントロールが図られていた。
マグパイが一斉にアドアステラに攻撃し、オレブ=ザラクはアドアステラの後部副砲による砲撃を受け止め続ける。
『お嬢様、機体のダメージが深刻です』
「それで?」
『貴方だけでも脱出する事を提案します』
「拒否。ここで抜けたら、誰がメメの提案を承認するの?」
『遠隔でも――――』
メメントモリが反論しようとしたその時、アドアステラの副砲が、これまでとは打って変わって不気味なほどに流麗に旋回し、正確無比な精度の一撃でブリッジを撃ち抜いた。
ブリッジの防護装甲がプラズマ化し、徐々に内側へと突き抜けていた。
中は火の海だ。
『ズィーヴェン!?』
『もう助かりません、私たちだけでも...!』
『はっ!』
『私がなんとかする!』
ホドが飛び出していき、残されたサマエルとネツァクは示し合わせたように動き始めた。
だが、ホドという攻撃を逸らす役割を失った今。
『ぐっ...』
『やはり...これが運命なのですか!?』
ネツァクはアドアステラからの推進妨害を受けた上で集中砲火を受け、中心から二つに折れて破壊され、サマエルは正面砲火での撃ち合いに敗れ、蜂の巣になって爆散した。
そして...
『ドルドリオンのネクサス防衛ビーコンが破壊されました』
オーロラが、無常に彼女たちの敗北を告げた。
残ったホドを嘲笑うようにして、アドアステラは宙域を離れていく。