【完結済み、最終話まで更新予定】SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀 作:黴男
――――数年前。
俺は成長した妹が、段々と俺の手から家事や彼女自身の世話をする仕事を奪っていくのを見て、感動していた。
だが同時に、危機感も抱いていた。
「お兄ちゃん、テストの順位、一位だったよ!」
「凄いでしょ、陸上の大会で優勝したよ!」
「陸上はもういいから、剣道で優勝することにしたんだ! ….転部届を出してきたよ!」
妹には挫折が必要だ、そうでなければ一度折れた後に立ち直れなくなる。
俺は妹に挫折を味わわせることにした。
俺が散々味わったそれを味わわせることで、妹はより高い位階に羽ばたける。
その才能には挫折が必要だ。
そう思っていたが、どんなに無茶なことをさせても妹は一度も失敗しなかった。
それに、
「テレビの取材? 全部蹴ったよ! お兄ちゃんと一緒に過ごす時間がなくなっちゃうもん」
どうでもいい事を気にかけて、輝くチャンスを自らふいにしていた。
俺は背景でしかない。
妹を育てる機械であり、時間が来れば踏み台として役割を終えるはずの機械。
もし妹の人生が本ならば、序盤で名前すら出てこないわき役だ。
そんな俺に、流歌が執着する理由は無い。
「お兄ちゃんはいつも凄いね」
「ああ、そうだな」
「お兄ちゃんなら何でもできるね」
「ああ、そうだな」
最高の妹には最高の兄が必要だった。
俺は最高の兄で居続ける必要があった。
そのためには、削っていいものは全て削った。
睡眠時間、自由時間。
そんなものは不要だった。
俺の人生には価値がない。
だが、妹にとっての「親」でいられるならば、その価値は無限大なのだ。
妹が空に羽ばたくまでの猶予期間、その間だけ輝く価値。
――――そんな俺でも、趣味が出来た。
Star System Conquestor、通称「SSC」。
数百万人のプレイヤー人口を持ち、所謂盆栽ゲームと呼ばれる部類のものだ。
船を操り、プレイヤー同士で組み、最終的に同盟に辿り着く。
悪くない、そう思った。
「お兄ちゃん、このアカウント貰ってもいいの?」
「ああ」
「本当に?」
「もう必要ないからな」
規約違反だが、俺は妹に前にやっていたゲームの「Star Novas Online(SNO)」のアカウントを託した。
流石にSSCとの両立は出来なかった。
思えば、他人にとってのゲームと、自分にとってのゲームは、大分毛色が違うものだったように思える。
妹の為に完璧でいなければならなかったが、ゲームの中で俺は完璧ではなかった。
周囲も俺に完全である事を期待しなかった。
その不完全さを楽しんでいた。
――――だが、それももう終わった。
Noa-Tunは崩壊し、俺は現実に引き戻された。
夢を見る時間は終わり。
時針が時を刻み始めた。
「.........」
最早、世界が変わり、Noa-Tunが俺の元に戻ってこようと。
それは変わらない不変の事実だ。
ただ、時が来たのだ。
妹をより高い位階へと引き上げる、無視することはできない不可避の試練。
妹を縛る枷を解き放ち、その才能を遺憾なく発揮できるように、
流歌に.......何の柵もなく幸福になってもらうために。
俺を忘れてもらうために。
「来たか」
俺は目を開ける。
ずっと立って待っていただけに、来なかったらどうしようかと思っていた。
戦闘指揮所に行って非戦闘員を殺すのも選択肢にあっただろうが、真っすぐここへ来たか。
「お前は優しいな。そして――――俺はそれが嫌いだった」
「(.....本当は、その優しさもお前の数ある長所のひとつだ)」
俺はゆっくりと、部屋の中央に進み出る。
そして、視線を真正面.....流歌に合わせた。
記憶より、少し大きくなったような気がするな。
「.......お兄ちゃん」
「お前にも、頼れる仲間が出来たか」
「(良い事だ、それはお前の人生を輝かせてくれる存在だからな)」
「うん」
「だが、――――そいつらは皆死んだ」
俺は背後に映像を投影する。
ファイス。
ノルス。
シトリン。
ケイン。
ラビ。
エンテ。
そして、今回戦闘には参加していなかったが、アドアステラの内部で最後まで抵抗した二人。
ソフ。
ハディーマ。
彼等の死体が、そこら中に分割されて表示される。
流歌は驚いている様子だな。
「どうして......ファイスは、人間相手に負ける程弱くないはず.....」
「インプラントだよ、流歌」
インプラントを満載した、サイバネティクスマシマシのアインスに、ファイスは直接殴り殺されたのだ。
他の指揮官も、インプラントとドリップによって最大限強化されている。
無論、諸刃の剣だ。
「まあ、副作用も酷いんだがな.....」
「お兄ちゃんは、どうして.....どうしてそんな酷いことを、部下に強制するの?」
「強制?」
強制ではない。
「俺が最初に手術を行ったからな、皆しぶしぶ応じてくれたさ」
「.....ッ!?」
「お前は優しいな、本当に優しい――――俺の部下にまでその慈悲を向けるか」
「(その気持ちを大切にしろ。皆に優しいお前は、いくらでも高く羽ばたくことができる)」
俺も、もう。
ノーマルな人間体ではない。
副作用で廃人になるレベルのインプラントを身体に盛り込み、流歌との最終決戦に臨んでいる、正直、全身が苦痛を訴えかけてくる。
後の事は考えなくていい。
今、この瞬間が重要なのだ。
「俺は....俺は、流歌。 お前を殺す」
「(嘘だ。 嘘だけどな.....)」
「どうして? 私は、お兄ちゃんのためならなんだって捨てられるよ! お兄ちゃんさえ居てくれれば....だから、そんな事言わないでよ!」
「その甘さは、俺の失敗だった。お前の次に期待する」
「(流歌、どうか許せ。 お前に代わりはいない)」
嘘をつきながら、俺は脳波操作でとあるプログラムを起動する。
「お願い、何が悪かったの!? 私に悪い所があれば、何でも言ってよ、お兄ちゃんっ!! 直す、直すからあっ! いくらでも、出来る事なら、なんでもするからっ!」
「説明しても、お前には分からない。分かるはずがない」
「何でもわかるよ! お兄ちゃんのためだったら、宇宙の謎だって解明できる!」
「........俺の気持ちを見透かす事も出来ないのにか?」
「それは.....でも、出来ないわけじゃ....!」
会話は一方通行。
これ以上の会話は無駄だ、本当はもっと長く語り合うべきだろうか。
だが、俺の心は決まっている。
「話し合いは無駄だ、結果が全てを物語る」
「どうして....」
俺の背後に、音を立てて何かが着地する。
俺は伸ばされた「手」に乗り、その中へと入る。
直ぐにコンソールが起動し、呆然とする流歌の姿が映し出される。
叫ぶ流歌が、閉じるハッチに覆い隠された。
『お兄ちゃん!! 新輝お兄ちゃん!!』
「さようなら、流歌。お前は俺の失敗作だった」
「(さようなら、流歌。俺はお前の結果に満足だ)」
俺は機体に神経接続を試み、それが成功するのを確認した。
素晴らしい力だ、これなら流歌を追い詰めることができる。
『そんなに戦いたいなら.....私、戦うよ。お兄ちゃんの望むものだもの』
「死ね。無意味に死ね」
『メインフレーム、戦闘システムに移行します』
「(そして、結果を掴み取るんだ。お前は栄光を手にする)」
オーロラの声とともに、俺の乗機、ケテルが起動した。
ケテルと一つになった俺は、勢いのまま流歌へと襲い掛かった。