【完結済み、最終話まで更新予定】SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀 作:黴男
『お兄ちゃん、将来の夢ってなぁに?』
『.....流歌が立派になってくれることだな』
『もう! それって、私の事じゃん。お兄ちゃんは?』
『俺は.....分からないな、このままバイトを続けても、俺を正社員として雇ってくれるところはどこにも無いしな』
『どうして?』
『俺はいいように使われてるだけだしな、何も知らない本社は正社員で雇うなんて話をちらつかせてるが、店長として使い潰されるのが目に見えてる』
『でも大丈夫だよ! お兄ちゃんなら、バイト全部やめてもいいところに行けるよ! だって、すごい高学歴でしょ? イケメンだし!』
『....だといいがな。ところで、大学と言えば.....お前は日本の大学なんて行かないよな?』
『...え?』
『大丈夫だ、俺に任せろ。海外の大学を今から調べてる』
『で...でも、友達が日本に』
『京子ちゃんと、春香ちゃんか?』
『どうして知ってるの?』
『交友関係は俺が管理してるだろ』
『そっか、流石お兄ちゃん!』
『今時はRINEで繋がれるだろう、会いたければ休暇に会いに行けばいい。お前はもっと広い世界に羽ばたけるんだから、友人に縛られるな』
『....うん』
『とはいえ、友人が大切なのも分かる。今のうちに思い出をたくさん作っておけ』
『うん!』
『....ねえ.....ちょっといいかな?』
『お兄ちゃんは、お父さんみたいに...急に居なくなったりしないよね?』
『..........ああ、しないよ』
『私、お兄ちゃんが居なくなったりしたら、死んじゃうかも』
『...そうか、だけど、そう言ってもお前は死なないだろ?』
『...本気だもん』
『お前は賢くて、誰よりも強い。俺なんかに囚われなくていいんだ、好きに生きろ』
『.....本気だもん』
「――――がっ!」
直後、俺は首筋に衝撃を感じて地面に倒れる。
手刀を落とされたらしいが.....意識は飛ばない。
「...何をするんだ」
「な、なんで....確かに気絶させたはずなのに」
「簡単だ、
ズィーヴェンに投与されているものと同じだ。
眠くもならないし、仮に意識を失っても、別のドリップの効果で意識を回復させる。
目覚めるまでのプロセスが通常の何乗倍にも加速されている為に、気絶したとしても俺は何度でもすぐに起き上がれる。
「俺はここでお前と対等に戦うために準備してきた。だから、俺は致死量のインプラントと体内点滴で武装している。仮にお前がここで俺を殺さなくても、お前が生きている限り俺は24時間以内に確実に死ぬ――――さあ、殺せ」
俺は武器を放り捨てて言った。
視界がおかしい、多分右目に何か攻撃を喰らったな...
そんな俺を見て、流歌は不思議な質問をした。
「お兄ちゃんは......お兄ちゃんは、絶対死ななきゃいけない?」
「ああ。お前は未来を見たなら、俺の真意を知ってるんだろう」
何を今更。
俺は、流歌に対して全てを遺す準備をしていた。
オーロラの権限を流歌に半分移行し、俺が死ぬと同時に全権限が移行される。
俺が設定した遺言をオーロラが再生し、流歌は俺の持っていたすべてを手に入れる事が出来る。
数十万の戦力、蓄えた物資、俺に服従する人間、そして広大な領土を。
そして同時に、俺が死んだという事は、流歌が殺意を以て俺を殺したという事である。
それは、俺を憎むか、嫌うという事だ。
そうなったら、俺に対する執着は流歌の中から無くなる。
流歌はもう、俺みたいな三流の、役立たずで要領の悪い、価値のない無能に引きずられずに、自由にどこにでも行けるし、何にでもなれる。
俺のことなどすぐに忘れてしまうはずだ。
それでよかったはずなのに......
「お兄ちゃん。私、お兄ちゃんに初めて怒ったよ」
「...そうか」
「お兄ちゃんが私を大事に思ってるように、私も...お兄ちゃんが好き、だから」
「怒ったなら、俺を殺せばいい、それで全てが...」
「だから、私はお兄ちゃんに反省してもらう必要があると思ったんだ」
「....?」
「生きてね、お兄ちゃん。これが私の――――最善」
「待て、何をする気だ――――」
次の瞬間。
流歌は取り落としたはずの
俺は全力で手を伸ばした、だが間に合わなかった。
流歌が起動した光の剣が、彼女の胸を刺し貫いた。
見なくてもわかる、自分を殺すつもりで。
「流歌! なぜ!」
「...お兄ちゃん、幸せになって」
「死ぬな! どうして!」
俺は流歌に這い寄る。
流歌は笑っていた。
違う、そうじゃない。
幸せになるべきなのは俺じゃなくてお前なんだ!
何故わからない?
死んでしまったら、お前のこれからの人生は全て無意味になる。
死の淵に残される俺はいい、だがお前だけは駄目なんだ。
幸せになってくれ、だから死ぬな。
「お兄ちゃん」
「....なんだ」
流歌は笑いながら、泣いていた。
思えば、流歌は泣かない子だった。
幼い時を除いて、俺の前ではいつもニコニコと笑っていた。
だからか、悲しい顔も、怒った顔も、俺はほとんど見た覚えがなかった。
それに気づいたとき、俺はあることに気づく。
....俺たちは、すれ違っていたのか?
本当は、俺は流歌の気持ちを何一つ分かってやれていなかったのか?
「私が死んだら....悲しい?」
「当たり前だ!」
「じゃあ.....大丈夫そう、だね....お兄ちゃんは...人間、なんだよ...?
「流歌っ、死ぬな!」
「みん.....なと.....幸せ.......」
流歌は目を閉じた。
気付けば、もう息をしていなかった。
俺は信じられなかった。
この世界の全てが、嘘のように感じた。
身を苛む激痛も、混濁する意識も、どうでもよかった。
俺の妹が........俺の、宝物が。
死んだ。
「う、わ.....」
俺は蹲った。
どうしてこんな事当たり前の事に気づけなかったのか。
流歌は俺さえいればよかった。
俺は流歌を愛していたが、同時に才能を発揮させることに執念を向けていた。
流歌が何も言わないのをいいことに、それを流歌のためだと目的をすり替えて。
反対に、流歌は単純だった。
俺がいればそれでいい。
いつも、その姿勢で俺に接していた。
全てに気付いた俺だったが、この血塗れの手の上には何も残ってはいなかった。
過去も、未来も。
どちらも俺が、この手で排除した。
排除して、しまったんだ。
『司令官.....』
「.....どうした」
『泣いているのですか?』
「.....」
頬を拭った俺は、自分の目から涙が出ていることに気づいた。
俺は慌てて流歌から離れた。
俺のような愚かな人間が、流歌の体を汚していることに耐えられなかった。
「俺は......生きている価値のない人間だ。だから、流歌の人生の美しい背景になりたかった。だが....」
「――――いいえ、貴方は主人にとって、何にも代え難いものでした」
虚空に向かって言い訳を並べ立てる俺に、背後から声が掛かる。
振り向くと、息も絶え絶えの狼頭の男が立っていた。
胸からは剥き出しになった肋骨と内臓が見えており、そこから夥しい血を流している。どちらにせよ長くはなさそうだ。
ファイスとか言ったか...?
「お前は...?」
「貴方の部下を倒させてもらいました。私も致命傷を受けました、長くはもちませんが....主人のもとに馳せ参じるため、ここへ....」
「俺を殺すのか?」
「既に結果はここにあります。これ以上あなたが何かを失うことを、主人がお望みになられるとでも?」
「こんな価値のない男が.....」
「それでも」
ファイスの声が、俺の言葉に割り込んだ。
「主人にとっては、貴方...様の価値は....いえ。あなたは、主人にとって.....たった一人の兄だったのです。その価値に、上限はないと....」
「うそだ....」
「嘘ではありません。貴方が主人を愛していたように、主人は、流歌様は....うっ、あなたを、いつも......一番に...信じて.....常に......我々が割り込む、隙間も....」
ファイスは血を吐き、地面に倒れ込む。
血の中に身を浸しながら、ファイスは俺にそう言った。
俺は滂沱のように溢れる涙を誤魔化すように、ファイスに言ってやった。
「.....当然だ、お前のような...男に流歌がやれるか...!」
「は.....では、冥府で貴方の妹に相応しい人間に....なれるように....精進、いたし......」
ファイスはそう言う途中で、動かなくなった。
流歌と同じ場所に逝ったのだ。
「流歌...お前には、お前のために命を賭ける友人がいた.....」
俺は流歌の元に戻って、何をするでもなく呆然とした。
流歌がいなくなって、俺はもう何をすればいいかを見失った。
どうすればいい?
誰か俺を導いてくれ、何をすればいいんだ?
『司令官、治療を...』
「いい、どうせ俺は死ぬ」
『それならば...せめて、妹様を埋葬されては?』
「...そう、だな」
俺は命が尽きるまでに、流歌を埋葬する。
その隣に眠る為に。
俺は自分で墓には入れないだろうが、俺には仲間がいる。
「オーロラ、シャトルの準備を...」
『不要です、もう来ていますから』
その時、何もない空間からホドの巨躯が姿を現す。
迎えに来てくれたらしい。
「シン様....中へっ」
「ああ、ありがとう」
俺は流歌の身体を両腕で持ち上げ、ホドのコックピット中へと入った。
流歌と俺の血が混じり、床を流れていくのが見えた。