オンテギ・ウルト   作:ヤン・デ・レェ

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外伝25:虎の毛皮

戦闘には一度に一つの面に対してぶつけられる戦力や数の限界というものがあり、これを戦闘幅と呼べるとして、全周数キロに及ぶ総構えの外郭を誇るタタラ場は、この戦闘幅が非常に広くなる恐れがあった。

 

これは即ち、数的不利がダイレクトに戦況へと影響を与えかねないという意味を持っていた。

 

だが、その点において初期の三重層からさらに追加された二つの外郭は、それぞれより広大ながらも、より洗練された、鋭角の凹凸形状…即ち星形要塞に特有の突出部を有しており。

 

その突出部が戦闘幅を半ば強引に縮小し、一点における戦力比をタタラ場側に有利なものへと引き寄せる効果を持っていた。

 

加えて、これを更に拡大したのが明から伝来した石火矢を改良し、拡張性を生かして生産された大小の新式石火矢であった。

 

この新式石火矢は据え付け型の大型と、携帯型の小型とが生産され、前者は大口径化を通じ破壊力において、後者は小口径化と軽量化を通じ汎用性において拡張性に見合う改良が施されていた。

 

その実態は、鉄砲伝来の1543年より遥かに以前の段階で達成された、火縄銃に匹敵する高い汎用性を誇る小火器の登場であると共に、『国崩し』とも称された大筒に匹敵する大型火砲の登場である。

 

加えて、オンテギにお得意の前世の入れ知恵を好き勝手に投入したことで、戦術的な醸成がほぼ最初期の時点で完成している状態であった。

 

それは徹底的な火力投射の概念であり、十字砲火の概念であり、狙撃による指揮官の排除を優先する首狩り戦術の概念であり、観測砲撃を利用した反斜面陣地による防衛構想であり、臼砲などを用いて行われる敵の射程外からの一方的なアウトレンジ戦法の概念などであった。

 

工房都市国家とも呼ぶべき、職工集団であるタタラ場は、これらの思想や概念を非常に貪欲に吸収し、その成果物として最新式の大小の石火矢の各『旗衆』への配備を、富強に飽かせた高い生産性にも援けられて、非常に高い充足率と共に実現したのである。

 

海上においては機動戦闘による積極攻勢を、陸上においては専守防衛を主たるドクトリンとして堅持するオンテギの勢力に対して、アサノ公方が選んだ消耗を恐れない真正面からの大兵力の投入は、考えられる限りの中で唯一の戦術であり、と同時に最悪の類であったと言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はなてーーーーーー!!!」

 

ゴロゴロゴロゴロッ!!!

 

タタラ場への攻撃が始まる以前の段階で、大黒門の門前にある跳ね橋は引き上げられており、その橋自体が鋼と硬い木材を合わせて作られた堅牢なものであったため、城塞の正面玄関は実質的に二重扉として鉄壁を誇っていた。

 

拡大された二層の外郭を建設するにあたり、オンテギは堀の深さをより深くすることに決めて、自らも鉄匙を用いて参加した結果、非常に深い空堀が形成されていた。

 

この城が湖の上にでもあれば足がかりとなる船を浮かべることもできただろうが、それも叶わず、アサノ側がオンテギに太刀打ちできる海軍力を有していない点は言うまでもないことであった。

 

結果…侍たちが石火矢を一度、撃ち込めば。

 

「放てッ!!!」

 

パパパパパパパパン!!!

 

撃ち込んだ数倍の小石火矢が狭間から突き出されて火を噴き。

 

「放てッ!」

 

ドバン!ドバン!!ドバン!!!

 

と同時に、大石火矢も傾斜をつけて撃ち込まれ。

 

「ぎゃああああ!?」

 

「身を隠せ!!」

 

「ひぃいぃぃ!奴ら、雷を落とすぞ!?」

 

「そんなわけあるかぁッ!石火矢の巨いのが向こうにゃあるんだ!」

 

侍たちは小石火矢はともかくとして、盾を越えて落ちてくる大石火矢には成す術なく蹂躙され、被害が一方的に拡大しているのだった。

 

「か、敵わねえッ!」

 

「ええいッ!怯むな!はなてッ!はなてッーーーー!」

 

武士たちが及び腰になる中で、攻め手の指揮を任された侍大将は無謀にも身を乗り出して、公方から預かる石火矢衆へと命令を下した。

 

ゴロゴロゴロッ!!!

 

命令に従って師匠連が青息吐息で掻き集めてきた石火矢衆が再び城壁の狭間や詰所めがけ、その石火矢に火を噴かせる。

 

が…

 

チュン!チュン!チュン!

 

狭間や詰所にぶち当たった礫は甲高い音を立ててはじき返され、何を成すわけでもなく空堀へと落ちて溜まった。

 

「なッ!?奴ら、壁にまで鉄を張ってやがる!?」

 

侍が青竹の後ろから慎重に伺えば、城壁はどこも黒々としていて、まるで鋼に覆われているように見えた。

 

「あれすべてに黒鉄が張り付けてあるだと!?そんなわけあってたまるかッ!」

 

壁全体が鉄で覆われているものかと憤慨するが、それは恐怖の裏返しの虚勢に過ぎない。

 

「いやっ…黒いのは塗られてるだけだ!だが…狭間と門、それから詰所には黒鉄が張られてて、こっちの礫は届いてねぇ!!」

 

だが、事実としてはこの侍の言う通りで、要所要所に錆びることのない黒鉄が張り付けられていることは確かであり、その量は明らかに非常識なのであった。

 

と、話している間にも、城壁の向こうでは弾込めが済まされて、今にも、狭間からぬっと小石火矢の口が突き出されてきた。

 

「放てッ!!」

 

パパパパパパパン!!!

 

明らかに数でも優れる、タタラ場側の石火矢の一斉射の音が木霊する。

 

そして。

 

「次だッ!『国崩し』を放てーーー!!」

 

ドバンッ!ドバンッ!!ドバンッ!!!

 

頭の命令で、特に巨大な大石火矢が三門、火を噴き、吐き出された巨大な、しかもぶつかる瞬間に散らばる礫が侍たちの青竹の盾の列に炸裂した。

 

「ぐああああぁぁ…!?」

 

「向こうの石火矢は盾を貫くぞ!二重に重ねて使え!!」

 

「盾の後ろに隠れても死ぬだけだ!動けッ!動き続けろッ!!」

 

エボシが名付けた大石火矢『国崩し』の直撃を受けた隊列は、見事にも、その頼りになる青竹の盾ごと粉砕されていた。

 

人の手足が散らばるような阿鼻叫喚の中を抜けて、またしても指揮官が頭を出した。

 

「はなてーーーー!!」

 

ゴロゴロッ!

 

目減りした石火矢衆が礫を浴びせるも、効果はなさそうで、聴こえるのは味方の侍たちの悲鳴ばかりであった。

 

それどころか、指揮官と思しき武者を見つけたことで、城壁の向こうでは頭が叫んで指示を飛ばしていた。

 

「あそこだ、息を合わせろ!射線を交差させるんだ!!」

 

「放てッ!!」

 

パパパパパパパン!!!

 

一斉射が武者を狙って放たれるが、生憎とライフリングは未熟である。命中率を補って余りある弾数なので問題なかったが、明らかに命中率は低く、武者は青竹の壁の後ろに身を隠して難を逃れた。

 

「ちっ!外したかっ!」

 

だが、そこで終わらないのがタタラ場の石火矢衆だ。

 

「大石火矢に居場所を知らせろ!盾ごと吹き飛ばせ!」

 

頭が命じて伝令が走る。大石火矢の射手はすぐさま反応して、タタラ場製の高価な遠眼鏡で位置を確かめた。

 

「後ろの武者が指揮官だ!あれを狙え!」

 

「すこし傾斜を下げろ!いいか?さっきより手前に落とせよ?」

 

おおよその目安で一発、二発と試射した後で、華やかな鎧を纏う武者目掛けて効力射を始めた。

 

「放てッ!」

 

ドバン!ドバン!!ドバン!!!

 

飛来した『国崩し』の礫は的中とは言い切れずとも、十分な破壊力を届ける範囲で立て続けに炸裂した。

 

「ぐぶぅッ!?」

 

馬から降りて青竹の盾の背後にいた侍大将は三発の大礫に八つ裂きにされた。

 

「まただ!また侍大将が死んだぞ!奴ら、狙ってやがる!!」

 

この時、既に数人の指揮官が死亡しており、馬鹿ではない侍たちも向こうが指揮官を狙い撃ちにしていることに勘づいていた。

 

だが…

 

「くそぅッ!!足も届かねえ、礫も届かねえじゃ埒が明かねえ!梯子だ!梯子を作って持ってこい!!」

 

だが、現状では理解していても一方的にやられるしかなかった。

 

「火矢を絶やすなよ!射るだけ無駄だが無いよりましだ!射ろ!射続けろ!!」

 

手も足も出ない侍たちは、嫌がらせとばかりに無駄と知りつつも、雨あられと火矢を打ち込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

侍どもが一方的な被害を被っている、前線の悲惨な状況はアサノ公方の本陣にも届いていた。

 

「随分、やられましたな…先鋒は特にひどい有様です」

 

「そうか…」

 

本陣には暗い沈黙が満ちた。明らかに状況は彼らの知る戦の常識から外れ過ぎていた。

 

「して、あの壁、どう越えましょうや」

 

「郎党たちは梯子を作れと騒いでいる。まずはそれを試すしかあるまい…ところで、地雷火は試したのか?」

 

アサノは判断力が鈍ってきていることを自覚しつつ、残り少なくなってきた側近に尋ねた。

 

「はい、最初に」

 

郎党は頷いた。地雷火とは、師匠連が寄越した最大の破壊力を秘めた火薬兵器である。

 

「どうだった?門は吹き飛んだか?」

 

「…」

 

「いや、言わなくていい」

 

その沈黙が答えだった。

 

「小動もしませなんだ…」

 

「言わずともよいと言った!」

 

アサノは声を荒げて言ったが、立ち上がる気力も声を張る体力も残されてはいなかった。

 

「ははっ…では、次の攻め手の指揮はどなたが?」

 

「もうか?もう死んだのか?」

 

アサノは呆気にとられて尋ねた。

 

「はい…雷に打たれたように、三度も火がはじけたかと思えば一瞬で姿形もなく…」

 

郎党がその時のことを思い出しながら答えると、アサノは目を瞬かせた。

 

「何も、残らなんだか?」

 

そして、そう問うたが…。

 

「いえ、鎧兜の欠片だけしか…」

 

「ちっ…鬼どもめッ!!」

 

舌打ち一つ、それから悪態一つ。

 

それが今のアサノにできることの全てだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高く分厚い城壁の向こうでは、タタラ場の最前線で防衛戦を展開する、男衆からなる『銀黒鬼旗衆』の頭が、次の攻勢に備えていた。

 

「かしらぁ!連中、火矢ばっかり打ち込んできますぜ?消火はしなくていいんで?」

 

「ゴンザ様が放っておけと言っておる。そのままでも構わん」

 

伝令役の男との会話の中、火消しの必要はないと言い切る。

 

そう言い切れるのも、自分たちが籠る城への信頼がある上で、知識としてこの城壁は分厚く、要所には黒鉄が張られているので、そうそう火も付かないことを知っているからだった。

 

「へいっ!あ、怪我人ですが、いくらか出ました」

 

「死んだ者はいるか?」

 

頭が問うと、伝令役は首を振った。

 

「いえ、皆、無事でさ。怪我した連中も、火付けでヘマして軽い火傷を負ったやつと、あとは運悪く矢が狭間から入り込んだのを浴びた奴くらいなもんで」

 

各所から情報を集め、紙束に書き付けている伝令が被害状況を確認しながら答えた。

 

「矢を受けた奴は無事なのかっ?」

 

頭が敏感にその部分に反応して問うが、

 

「へぇ、鏃は絹の下着の前で止まってました」

 

伝令役は暢気なもので、のんびりと、そう答えるのだった。

 

「じゃあ、なんでい、どうして怪我なんかしやがった?」

 

頭が続けて問えば。

 

「へい、矢にびっくりして転げ落ちて打ち身を…」

 

自分のことでもないのに、恥ずかし気に伝令役は答えるのだった。

 

「はぁ…どこのどいつだよ、そんなドジは…」

 

「アイツですよ、甲六のやつです」

 

頭は安堵と呆れの混じった溜息をついた。

 

「…おトキに泣かれると敵わん。後ろに送ってやれ」

 

「構わないんで?まだ戦えると喚いてましたぜ?」

 

伝令役は「頼むから後ろに送るのだけは堪忍してくれ」、と敵なんかよりも嫁の雷が落ちることに怯えていた甲六を思い出す。

 

だが、無常…頭だっておトキに叱られるのだけは御免なのである。

 

「手は足りてるし、初めからその調子じゃ次は足を折るぞ。落ち着けと言い聞かせておけ」

 

そう理由を付けて安全な後ろに送ってしまう。

 

「へい!それじゃあ、あっしはこれでっ」

 

伝令役がそう言い、頭も頷いた。死への恐怖や、敗北への不安は不思議と微塵もなかった。

 

「あぁ、ゴンザ様にもよろしくな。側面(こっち)は石火矢も殆ど潰した後だからな、増援は大丈夫だ」

 

「へい!」

 

両者ともに「気の毒にな甲六の奴」と内心でぼやきながら、頭と伝令役はその場で別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時と場所は変わり、打ち身で運ばれた甲六の噂があっという間に広がる頃。

 

「え!?甲六の奴が打ち身で運ばれてきたって!?」

 

「ああ、そうらしいよ?」

 

その甲六の妻であるおトキは、自分が預かる『銀紅扇旗衆』の、一応は部下でもあり、平時は共にタタラを踏んでいる女と、内城の楼閣の指揮所の中で話していた。

 

無論、今は二人とも分厚い絹の下着と鋼の鎖帷子を纏い、傍らには石火矢を置くなど完全武装である。

 

「まったく…あの愚図っ!」

 

亭主の無様を聞きつけた途端、これである。

 

「そう言ってやんないで、心配してんのは皆知ってるよ」

 

だが、おトキがちゃんと甲六に惚れていることは周知の事実である。

 

「いいんだよ、そんなことは言わなくたって!」

 

「はいはい、お幸せに!」

 

女友達に言われて、顔を赤らめるよりも、勝気に怒ったふりを見せるおトキに、友人は嫌味なくそう言うのだった。

 

「こら!言うなって言っただろ!」

 

「あっはっはっはっはっ!偶には惚気の一つも聞かせとくれよ!」

 

そうだ、おトキからは惚気の一つも聞いたことがない。

 

ゆえに、いつ出るとも知れないそれに期待して、彼女の周囲の女武者たちは、二人の会話に耳を欹てるのだった。

 

「そんなの聞かせらんないよ!もうっ!これだから独り身は!」

 

「いいさ!好きでやってんだからね!独り身には独り身の楽しみがあるのさ!」

 

そう言って友人が胸を張った所で、内城の楼閣の指揮所の戸が開き、入ってきた影が軽い足取りで二人に近寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トキ、何か楽しい話をしてるね、私も混ぜてもらえるかな」

 

それは天主閣に詰めているはずのエボシ御前だった。後ろには護衛も続くが、その表情は平静で、喫緊の事態に緊張感が漲るといった様子ではない。

 

「あら!エボシ様!こんなところまでどうして?」

 

「港の方で何かあったんですか?」

 

おトキと女が歓迎するように、しかし、一応は緊張したように尋ねると、エボシは安心させるように自然な笑みを浮かべた。

 

「いいや、港は積み荷を降ろしてる最中だ。それ以外は静かなもので、ああ…あの人の御蔭で、高麗製の虎の毛皮が入ったと商人連中が喜んでいたよ」

 

そう言って、つい今まで見回りをしていた港の様子に思いを馳せる。攻城戦の最中だとは思えないほどに、そこは何時も通りだった。

 

「虎って?あの?」

 

「そうさ、あの虎だよ」

 

「あたい、絵巻でしか見たことないよ!」

 

『虎』という単語を拾い女が問うと、エボシは頷き、おトキが興奮したように、けれど無知を恥じらうように言った。

 

すると、エボシはトキと女の無邪気な反応を楽しむように、けれど母親が子供を諭すように言った。

 

「トキ、それは皆同じだよ。あの人が言うには日ノ本には居ないらしいからね。なら、帝だって私たちと同じさ」

 

二人が口を揃えて「「みかどぉ~?」」と厭うように言った。

 

彼女らにとって、今攻め寄せている敵を遣って寄越した帝と同じであることは、むしろ不名誉なくらいのことだったのだ。

 

「エボシ様、その虎って大きいんですか?」

 

ふと、女がそんなことを尋ねた。

 

「ああ。でも、シシ神の森の猪神や犬神ほどではないみたいだ」

 

エボシは港で見た虎の毛皮の大きさを思い出しながら、大したことではないように答えた。

 

「なーんだ、案外、ちっちゃいんですね。虎って」

 

「期待して損したぁ…なんだい、ずいぶんご立派だって絵巻には書いてあったのにさ!」

 

そんなエボシの答えに、女もおトキも興味が失せたのか、鼻先を掻いて、期待外れだと言うような素直な調子で応じた。

 

その反応に笑みを転がしながら、エボシは二人の素直さを肯じて言う。

 

「ふふ…そうだね、確かに案外小さなものだ。でも、それも仕方ないさ」

 

それは心底嬉しそうな、自慢気な、自信ありげな様子だった。

 

こういう時、大抵は相場が決まっているのだが、女たちは分かっていて問うのだった。

 

「エボシ様、そりゃまた、どうしてですかぁ?」

 

すると、エボシは待ってましたとでもいうように、鼻高々にこう答えた。

 

「だって、向こうにはあの人(私の夫)が居ないからね」

 

それは平然と答えている割にはしてやったりという感じが、なんとも可愛げに溢れているのだった。

 

「あ!エボシ様、それってもしかして惚気ですか?」

 

「そうさ、トキの分も私が惚気てやらないとね?」

 

女がエボシを慕うがゆえにじゃれ合う様に言うと、エボシも遊びに混ざるように軽く、そう言い返すのだった。

 

「もうっ、エボシ様まで!あたいは惚気たりなんかしませんからね!」

 

言われたおトキは流石に顔を赤くして、困ったように言う。

 

「いつか、トキの口から惚気が飛び出すのを聞いてみたいもんだよ!」

 

「ああ、その時は私にも聴かせておくれ?」

 

女が笑いながら本心から言い、エボシもまたクスリと笑いかけながら言った。おトキの顔は真っ赤だ。

 

「ああああもうっ、この話はおしまいです!あたいはっ…こっ、甲六の奴を叱ってきます!」

 

そう言い、ずんずん戸へと向かった。

 

「心配だから会いに行くの間違いじゃないの?」

 

そこへ女は追い打ちをかけるように、こう言ってやるのだった。

 

「叱るんだよ!始まったばっかなのに、打ち身くらいで運ばれてきやがって情けない!」

 

「あっはっはっはっは!可愛い嫁じゃないか、甲六も幸せ者だね」

 

おトキがわざわざ振り返って言うと、もう堪え切れないと言った様子で、エボシは晴れやかな笑い声をあげたのだった。

 

楼閣の中には、しばらく女たちの姦しく、生き生きとした笑いが響いた。

 

そして、その中には、自然、エボシ御前の零す笑顔と笑い声も混ざっているのだった。

 

 

 

 

 

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