オンテギ・ウルト   作:ヤン・デ・レェ

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外伝2:鐡打之御天戯

くろがねうちのおんてぎ。

 

それが巷で呼ばれるところの、私、オンテギの御名(みな)であるらしい。

 

正直、オンテギは家族以外からは何と呼ばれようとも、基本は気にしないたちであるつもりでいるのだが。

 

なんとも御大層な音の名前を嘯かれているようで、どうにも居心地が悪いのであった。

 

私の名前の話はさておくとして、最近はタタラ場も好調に拍車がかかっており、妻の、えぇ、『(伴侶)』であるところのエボシの言うには「新しい銭倉が必要になるぞ」とのことで。

 

金があることは悪いことではないのだが、金を淀ませておくことは悪いことだという程度のことは、オンテギも知っているつもりである。

 

であるので、折角、売るほど鉄と銭とがあるのだからと新しい産業基盤を整えることにした。

 

というのも、考えてもみれば鉄のまんまで売るのは効率が悪いなと。

 

今、絶賛金余り中の状況で更に儲けられそうな話を考えるのは、少し空気が読めていない気もするのだが。

 

そうは言えど、思いついてしまったものは仕方がないのだ。

 

だってほら、鉄で売るよりも鉄の農具や工具として売り出した方が付加価値で高く売れるし、消耗品なら継続収入が望めるだろうし、ブランド化も視野に入れつつ、まず何よりも内側に新しい仕事が生まれて、技術水準も向上すると考えられるではないか。

 

無論、妻ならばそんなことはとうの昔に思いついているのだろうが、ここは何しろ私、オンテギの城である。

 

言い出すなら私からの方が、どこにも角を立てずに済むだろう。

 

私たち結婚しましたー!と内外に宣言した上で、それでも私のことはさておき、妻を女と侮る人間は完全にいなくなったわけではないらしいのだ。

 

そのことを知れたのは無論、基本的に自己中心的な自覚があるうえに、興味関心がフラフラしてる私、オンテギによる発見ではない。

 

巷には男衆と女衆がいるわけだが、その中でも女衆のまとめ役を務めるおトキがちょくちょく内情を知らせてくれるので、専ら妻とゴンザ以外の口となると、巷のことはそこから知っているのだ。

 

今回、オンテギが鉄をただの鉄として売るのではなく、農具や工具に作り替えて売り出そうと言い出すきっかけになったことも、もとはと言えばエボシやおトキたちの境遇を聞いたからである。

 

今のまま鉄を鉄として売り出し続けても、その鉄で武器を作られては笑えない。それに、その鉄で世の戦乱が加速すれば、荒れ果てた農村から売りに出される女が増えるばかりであるし、その女たちをオンテギたちが買うことがあっては本末転倒である。

 

どうせ殖えるならば、健全に好き合った男女の間から生まれる新芽によって殖えたいと、そうオンテギは思うのだ。

 

赤心から言って、タタラ場の外のことはどうでもよい。

 

けれども、タタラ場の外がタタラ場の所為で今以上に荒れ果てた結果、その報いが返ってくるようでは、いったい誰に誇れるというのか。

 

今までオンテギが生きてきて、ずっと大事にしてきたのはそういう意味での清潔さでもあるのだ。

 

…などと、倭寇の頭目が偉そうに言うことではないのだが…オンテギとて、それは理解している。

 

それでも、オンテギは村に配ったことはあっても、村から奪ったことだけは無いのだ。

 

それはオンテギの子分になった連中にも絶対の掟として言い聞かせてきたことであるし、連中も一度たんこぶを作ったあとでは素直で可愛げがあるものだ。

 

少なくとも、オンテギの腕の中から取りこぼすことだけは、これまでにしてこなかったことと、そう私は胸を張るのである。

 

 

 

 

 

 

エボシのお腹が大きくなってきた今日この頃、私、オンテギは忙しい日々を送っている。

 

誰だ、念願のニート生活だぜ、などとのたまった馬鹿者は!

 

皆まで言うな、私であることなど承知の上である。

 

さて、そんな感じで、妻が身重なので、オンテギは慣れない書類仕事はゴンザに丸投げしつつも、それ以外の仕事は全部を捌いているのが現状だ。

 

オンテギはこの時代の文字など言うまでもなく読めないし書けないので、そこは明の言葉もペラペラなゴンザにお任せし、それ以外の…つまりは決断力を求められることの大抵は私の仕事なのである。

 

例えば…喧嘩の仲裁だとか、そういうのだ。あとは外交的なことも、ゴンザとエボシと膝を突き合わせて議論をし、その上で最終的にはオンテギが決めているのだ。

 

オンテギは意外かもしれないが、決めることが得意だ。それは海の上でも陸の上でも同じであるようで、オンテギは海の上では迷った例が一度としてないし、航海の予定が狂った例もないのだ。

 

海図が読めるわけではないが、匂いと言うか、色と言うか、なんとなく分かるものなのだ。

 

そうして、それは同じように外交でも現れてきたのだ。

 

だから、オンテギはその色やらの解釈をエボシとゴンザに伝えて二人の反応を見てから決めるのである。

 

最初は戸惑いもあったかもしれないが、今では二人とも、否、二人以外の幹部連中も慣れてきたように見える。

 

これはよい傾向だ、なにせオンテギが一々説明したりの面倒がないからな!

 

そんな塩梅で時折訪れる使者を捌いているのである。あ、裁判所がないので、内々のことであれば裁くのもオンテギである。

 

基本的には殺しをしたら絶対死ぬってことで、それ以外はオンテギの拳骨一発か、それぞれの財産を適当に遣り繰りするものである。

 

中にはオンテギの拳骨を食らうくらいなら死んだ方がマシだという奴もいたので、殺人事件は今のところ一件も起きておらず、治安は非常に安定しているとみてよいだろう。

 

タタラ場も大きくなってきたので、多少の窃盗やら喧嘩は日常茶飯事だが、そういう時は警邏の連中が飛んで行って悪い方か、あるいは両方を問答無用で気絶するまで殴り飛ばすことにしている。

 

あはっ、この世界に人権など無ぁーい…のだが、オンテギが勝手に全員自由人ということに決めているので、私の基準での最低限の衣食住は保障されているのだ。

 

その上で問題を起こすようなら、馬鹿に合わせると基準がどこまでも下に下がるということで、困っている人は助けるけど困った人には容赦しないのだ。

 

治安の話はこれくらいにして、タタラ場ではもうすでに家庭が誕生しているという話をしよう。

 

第一号は言うまでもない、このオンテギとエボシの夫妻である。

 

祝言とかの仕来りは全然、全く、さっぱり知らないので、皆でいつもよりも美味しいものを食べて、皆の前で唇を奪ってウェーイと騒ぐということをした。

 

唇を奪った時は、流石に殺されるかなとか思ったけど、意外や意外、舌を絡ませてきましたもんで驚いた次第。

 

けどまぁ、それくらいだったかな。

 

分捕り品のビロードのマントをオンテギが着て、灰吹き法で最初に抽出した金銀で揃いの指輪を作って嵌め合って、花吹雪の代わりに金箔銀箔をばら撒いたくらいで、特別なあれこれはほとんどなかったけど、皆で楽しめたので全然、オッケーって感じだったぜ。

 

ちな、男女同権である。

 

当たり前だけど人間だからそれぞれ違いはあるけど、わざわざ差はつけないのである。

 

そりゃそうよ、仕事にだって貴賤はないんだから。

 

もしも働けない人がいたら、その人にできる仕事をオンテギたちが考えればいいだけなのだし。

 

流石にニートは嫌われる…というか、死なないけどシンプルにモテないので、暇なときのオンテギを除けば見たことがまだ無いなぁ。

 

いずれは、ニートが二三人いたって回るような居場所にしたいなと思う今日この頃です。

 

 

 

 

っと…閑話休題。

 

少し話がずれたが、このタタラ場は比較的新しいコミュニティであるにもかかわらず、世帯向けの家屋を絶賛建設中であることからも分かる通り、夫婦は寝食を共に出来る居場所へと変わりつつあるのだ。

 

これは、ずっと個人のプライバシーを重視してきたオンテギにとってはある意味で一つの到達点に至ったと考えているという意味で、非常に嬉しいことだった。

 

そもそもオンテギとエボシが夫婦の契りを交わすきっかけになったのは、女衆の頭であるおトキが牛飼いの甲六と好い仲であることにエボシが気づいたからだったのだ。

 

後から聞いたときは、気持ちが優しいのが取り柄だが、特段スペシャルな色男といった風体でもない甲六とあの面食いのおトキがくっついただなんて、やはり人間の好き嫌いは論じてわかるものではないな、と強く思ったものである。

 

それはさておき、タタラ場の主である私、オンテギが妻を娶ったということで、その下にくっついている誰しもに自由な結婚への筋道が生まれたのでした。

 

この変化が齎す効果には色々なものが考えられるが、悪い点を先に言えば、これまでになかった色恋沙汰での裁きを求められそうなことである。

 

これは正直面倒くさいので、当人間での解決ができなかったらご縁がなかったということで納得していただくしかあるまい。

 

粘着した挙句、相手を刺すような輩はこの時代には余計に居そうで困るが…まぁ、そういう奴には先にオンテギかエボシかゴンザからの裁きが与えられるだろうがな。

 

よし、悪い話はここまでにして、続いて好い所を話そう。

 

これは何を隠そう、一番には帰属意識が今まで以上に強く各自に表れるということだな。そして、帰属意識が強まるということは責任感やモチベーションの向上に繋がるわけで、このコミュニティに属している誰もが、自主的にコミュニティに貢献してくれるようになるだろう。

 

システムや組織や集団と個人とが運命を共有する、という言い方をするとかなり物騒に聞こえるが、事実、これは非常に重要なことだろうな。

 

今はオンテギが、エボシが、ゴンザがいるし、オンテギなんかは百年でも二百年でも生きられそうな気がしているのだが…それはさておき、優れたシステムは寿命の面では優れた個人に優るものなのでね、概ねは。

 

なので、今はこのコミュニティが半永久的に継続していけるようにするための下準備段階を踏んでいるというわけである。

 

コミュニティの大きさは過度に帝国的に膨張しないようには気にしているし、実際、オンテギの手の届く範囲に定めつつも、高砂の沿岸部と日ノ本のタタラ場はいずれも申し分ない黒字経営である。

 

ここに所謂、人口ボーナスが加われば、オンテギの城はより一層盤石になるのだ…と想定しているのである。

 

再来年にもなれば気を遣って今年は子供を作らなかった世帯からも子供が生まれるようになるだろうし、そうなればタタラ場はもっと好ましい意味で騒がしい場所になっているだろう。

 

その頃には、オンテギの子供も生まれていて、もしかしたらハイハイや掴まり立ちが出来るようになっているかもしれない。

 

それは…それは実に魅力的な未来予想なのである。

 

はぁ、妻の出産が待ち遠しい。

 

こういう時、男は何もできないことをオンテギはよく理解しているので、どっかりと待ち構えるに一徹、かくあるのみである。

 

娘でも息子でも構わないから、母子ともに健康であれ。

 

オンテギの今一番の望みは、結局のところそこに落ち着くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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