満月を抱きしめて   作:岬すみれ

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告白

 

目を開けると、知らない天井……ではないようだ。

 

「頭痛ったぁ……」

 

激しい頭痛に苦しみながら自分の身体を見ると、既に修理は終わっており、左腕の稼働も問題なく確認できた。

 

「目は覚めましたか?」

 

後ろを振り向くと、ドロシーを筆頭にゴッデス部隊全員が揃っていた。

 

「えぇ……それはもう、滞りなく……はは」

 

私を見るドロシーの目には光が宿っていなかった。

 

「全く。貴女はいつもそうです! 食事も休憩も取らずに稼働を続けて、その上襲撃が起こったら、貴女は真っ先に飛び込んで!」

「はい。すみません……」

「私というリーダーは、貴女にとってそんなにも頼りないものなのですか!?」

「いや、別にそういうわけじゃあ……」

 

そこから叱られた。それはもう、何度謝ったか分からないほどに。

 

「まぁ、ドロシー。そこまでにしようじゃないか。ここまで絞られたら、流石にルナも懲りることだろう?」

「はい。十分過ぎる程に……」

 

完全に縮こまった私を見て紅蓮は笑っていたが、やがて真剣な眼差しに戻る。

 

「それはそうとルナ。今回の作戦もそうだが、君はここの誰よりも襲撃に敏感だな?」

「……えぇ、それはまぁ」

「それに、今回はまだラプチャー共との距離が離れていたにも拘わらず、食糧倉庫を狙っていると分かったのは何故だい?」

「……」

 

どう答えるべきだろうか? 今、ここで言った所でみんなは信じてくれるのだろうか?

 

目線を紅蓮の後ろにずらすと、スノーホワイトと目が合った。彼女の目は一点に私を見ていた。

 

「出鱈目に聞こえるかもしれないけど、それでもいい?」

「まずは聞こうじゃないか。判断はそれからでも遅くない」

「……分かった」

 

息を吐き、私は目を閉じる。そして、再び目を開けると、スノーホワイト以外の面々は驚いた表情を見せた。

 

「君、それは……」

「ラプチャーの侵食を受けた時に発生する症状。みんなも散々見てきたと思う」

「そ、そんな……今回の修理でも、侵食を受けている痕跡なんて一つも……」

「ふざけた話かもしれないけど、私が抱えてる侵食は私自身、ある程度融通が効く」

 

ラプンツェルは信じられないものを見るかのようだった。当たり前だ。侵食はニケにとって最も危険な攻撃。その前提が崩れることになるからだ。

 

「では貴女は簡単に言うと、その……ラプチャーと繋がっているからこそ、今回の奇襲も対応ができたということですか?」

「いや、違う。私がラプチャーと繋がっていることは絶対にない」

「では何故……」

 

ここからは、スノーホワイトにも伝えていないことだ。しかし、もう迷っている場合ではない。

 

「私は、未来が見える」

 

この場の空気が止まった。

 

「はい? その、未来が見えるとは?」

「そのままの意味。私は未来が見えるからこそ、今までも素早く対応することができた」

「何だいそれは……そんなことが……」

「戯言だと思われても仕方ない。けれど、ここで冗談を言った所で、既に私にはメリットもないでしょう?」

 

紅蓮は何か口に出そうとしていたが、やがて黙り込んだ。

 

「では、何か証明できるものはありますか? 貴女が本当に未来を見ていると証明できるものが」

「証明と言ってもなぁ……まぁ、ここまで私が生きていることが証明かな。もし私が見た未来が変われば、私、もしくは他の誰かが犠牲になっていたかもしれない」

 

多少の誤差はあれど、ここまではある程度原作に沿って時間は動いてきた。けど、私というイレギュラーがいる以上、何が起こるか分からず、もしかしたら最悪の事態になっていた可能性だって十分にある。

 

「では、リリスやレッドフードの犠牲は必然だったと?」

「うん。正しい未来に一度進むためには、申し訳ないけど、二人の犠牲は必要だった」

「そう、なんですね」

 

ラプンツェルは俯いて呟いた。

 

「けど、二人についても対策は講じるつもり。けれど、その目標までいくには、まだまだ時間が足りない」

「全く。初めて出会った時から奇妙な奴だと思っていたが、まさかこんな事実を抱えている者だとは予想もしてなかったよ」

「でも、私から言える真実はこれだけだ。ドロシー」

 

不意打ちを喰らったかのように、ドロシーは肩を跳ね上がらせた。

 

「以上が、私の真実だ。これからの私の扱いは、ドロシーに委ねる」

「……」

「最初にも言ったけど、私がラプチャーと繋がっていることは絶対ない。この侵食は、まだその症状がニケの自由を奪うほどでもなかった時代に、私に施されたものだ。今みたいに信号を出すような複雑な機能も付いていない」

 

立ちあがり、ドロシーに自分の拳銃を握らせる。

 

「それでも、私が今後脅威になる可能性があると思うなら、私はゴッデス部隊を抜け、事実上の敵対関係になる」

「待て……! 何を──」

 

紅蓮が立ち上がるが、私は手を出して制止させる。そして拳銃を額に当てさせる。

 

「仲間殺しの責任は取らせない。あなた達の敵として、殺される覚悟は出来ている」

 

ドロシーの拳銃を握る手が震える。

 

「やめろ」

 

その声が聞こえた場所に全員の視線が向く。

 

「……スノー」

 

「ルミナスムーンの侵食について、私は安全性を立証できると考えている」

「理由を聞いても……?」

「侵食を受けている者でも、自らの意思で行動できる事例は既にあった」

「……レッドフードのことですか?」

「ああ、それに、もしラプチャー共と繋がっているとしたら、コイツがラプチャーの戦力を削る意味は何だ? もし奴らと結託しているなら、私達は既に何らかの被害を受けているはずだ」

 

スノーは私の腕を掴み、拳銃を放させる。

 

「馬鹿な真似はやめろ。おおよそ、死を突きつけて同情を誘う気だったのだろう?」

「……」

「図星か。お前は危機的状況で、あえて命を投げ出すような行動をよく取る。今回もそれだろう。違うか?」

「……今回、覚悟を見せるにはこれが一番かなって」

 

拳銃をしまい、ドロシーに向き合う。

 

「ごめんねドロシー。君の良心に付け込むような真似をして」

「えぇ、全く。悪い冗談ですよ」

 

ドロシーは大きく息を吐き、私を見る目が鋭くなった。

 

「やり方はどうであれ、私も君に大きな恩があるのも事実だ。まぁ、それも演技ならとんだ名優だな」

「はい。色々謎はありますが、恩を仇で返すような真似をするわけにも行きません」

 

紅蓮は私の背中を叩き、ラプンツェルは私の頭を撫でた。

 

「さて、どうするドロシー? 既に多数決は過半数を超えているようだが?」

「分かってます。はぁ……ルミナスムーン」

「はい」

「貴女が見た未来を教えてください。それと、リーダーは私です。今度から一人で先走ることはやめてください。この二つが条件です」

「じゃあ……」

「はい。ゴッデス部隊は改めて、貴女を部隊の一員として認めます」

 

その言葉を聞くと同時に私は倒れた。理由は言うまでもない。

 

「良かったぁ」

 

みんなが心配する中、私は一人笑った。

 

───

 

「アークには裏切られる。私の見た未来に間違いがなければ、確実に起こる」

「やはりか……ドロシーの希望を踏みにじるようだと思い、黙っていたが」

「……」

 

天下のゴッデス部隊でも、所詮上の人間にとっては使い捨ての駒に過ぎないというわけだ。

 

「大丈夫かいドロシー?」

「えぇ……問題ありません」

 

本人はそう言っているが、誰がどう見てもショックを受けているように見えた。それもそうだろう。何せ希望としていた楽園にもいけないとなったら、私達は一体どうなるのかなんて、想像に難くない。

 

「連絡が取れたら、中央政府に問い詰めてもいいけど、もうアークはニケにとっての楽園にはならない。そしてニケと呼ばれる者達は、ラプチャーから地上を奪還できなかった戦犯として扱われる」

「そんな……」

「まあ、ゴッデス部隊に関しては戦死したことにして、英雄として処理する。下手にアーク側の人間にヘイトを溜めない為だろうけど、私が見た未来の結末はこうだ」

 

全員が口を開くことはなかった。

 

「そこでだ。今の状況は、はっきり言って私の見た未来より格段に状況がいい。資源も人員も申し分ない。けれど、アークは私達を入れる気はない。となると、別の受け皿が必要になってくる」

「受け皿……地上に楽園を作るということですか?」

「正解。アークに入れない以上、もはや自分達で作る以外に方法はない」

 

史実ではインヘルト部隊が所属していたエデンを、ゴッデス部隊所属にしてしまおうという考えだ。

 

「何だか、壮大な話になってしまいましたね」

「ああ、楽園を作ると言っても、どうする気だ?」

「計画に関しては、こちらで設計を行う。研究者として腕の見せどころだ」

「なら、私が協力しよう。元々設計に関しては得意分野だ」

 

スノーホワイトが声を上げた。元々、勝利の翼号の設計を担当していたのだから、断る理由もないだろう。

 

「うん。ありがとうスノー。さて、概ねこんな計画だけど、どうかなドロシー?」

 

私が視線を移すと、ドロシーは大きくため息を吐いた。

 

「……正直、驚くべきことが多過ぎてついていけていないのですが。しかし、えぇ。そうですね。その未来が本当に訪れるとしたら、然るべき対応を取らないといけませんね」

「まあ、今はとにかく封鎖作戦に集中しようじゃないか。ルナの未来が本当なら、幾らでも考える時間は生まれるはずさ」

「えぇ……そうですね紅蓮。はあ、すみません。少し外の風を浴びてきます」

 

そう言って、ドロシーはよろよろと部屋を出て行った。

 

「色々と抱え込んだりしないかな……」

「なに、心配することはないよ。ドロシーならすぐにいつもの調子に戻るさ。にしても、私も随分と頭を使ったな。こんな時は一杯やるに限る」

 

そう言って、紅蓮は部屋を出て行った。

 

「ルナ。貴女の告白には、大変勇気がいることだったと思います。それでも、私達に伝えてくださり、ありがとうございます」

「うん。ラプンツェルも私を受け入れてくれてありがとう。あっ、そういえば、この前渡した本、どうだった?」

「へっ!? あぁ、それは、その……た、大変素晴らしく……あっいや、違くて……!」

 

一瞬、本音が漏れたラプンツェルは顔を赤くする。

 

「良かった。お礼に後でとっておきをあげるよ」

「と、とっておき!? あの本であれだけすごいのに、さらに!? ……はあ、はあ!」

「後で持って行くから、待ってて」

「は、はい……お願いします」

 

ラプンツェルは息を荒くしながら部屋を出ていき、残りは私とスノーのみになった。

 

「随分と息が荒れていたが、ラプンツェルは何かあったのか?」

「スノーは気にしなくていいよ。ラプンツェルの趣味の問題だから」

「そうか。なら、下手に聞くのは野暮か」

「うんうん。それがいい」

 

そのままの純粋な君でいてね。

 

「……お前が見た未来では、私はどうなっている?」

 

突然、スノーホワイトが呟いた。

 

「そうだねぇ……思考転換によって、レッドフードやリリス、指揮官の記憶がなくなって、より冷酷になる」

「そうか……」

「怖い?」

「当たり前だ。そんな恩知らずなことが出来るか」

「そう言えるなら、今のスノーはもう大丈夫だ」

 

私は立ち上がり、スノーホワイトの頭を撫でる。

 

「何故撫でる」

「可愛いからに決まってるじゃん。ツンツンとした性格になっても、やっぱりおちびちゃんは可愛い……痛!?」

 

スノーホワイトに頭を叩かれた。

 

「……戻る。怪我人があまりはしゃぐなよ」

「ちょ、ちょっと待っててば! 謝るから!ねぇ!!」

 

私の必死の呼びかけも虚しく、部屋には私がポツンと一人残った。

 

「はぁ……まあ、ここまでは順調……後、あの子はどうしよう」

 

ゴッデス部隊として、入れない選択肢も考えたが、精神的支えが必要と考えると、やはり必須だろう。

 

「相談してみるか」

 

そう言って、私も部屋を抜けとある場所へ向かった。

 

───

 

「……」

「ドロシー、調子はどう?」

「ああ、ルナでしたか……すみません。途中で抜けるような真似を」

「いいや。私の方こそ悪かった。無駄にドロシーを追い詰めるような真似をしちゃったしね」

 

そう言って、私達はしばらく風にあたり続けていた。

 

「ねえ、ドロシー。リーダーってのは大変?」

「ええ、リリスのありがたみを感じていますよ」

「さっきも言ったけど、現状、私が見た未来より遥かに状況はいい。本来なら、量産型は一人を除いて全滅しちゃったし。だから、リーダーとしては、今の方が遥かに難しくなってると思う」

「そうなんですね。なら、より一層、気を強く持たなければなりませんね」

「うん。そこで何だけど」

 

私はドロシーに耳打ちをする。

 

「いえ。そこまでする必要はありません。第一、彼女達に無駄な労力は……」

「そうやって、肝心のリーダーが潰れたら、元も子もないでしょ? 一度会ってみるといい」

「ですが……」

「まあまあ、ちょっと待ってて」

 

そう言って、私は走った。向かう先は、量産型のニケ達が集まる駐屯場だ。

 

───

 

「失礼します。ここにピナという名前のニケはいらっしゃいますか?」

 

私が声を出すと、ゴッデス部隊がここにいることが珍しいのか、瞬く間に量産型のニケ達がわらわらと集まってきた。

 

「は、はい! 私がピナです!」

 

しかし、そんな中でお目当ての人物を見つけることができた。

 

「初めまして。第一次封鎖では、負傷者の救助を行ったと評価を受けています」

「そ、そんな大袈裟です!」

「実はあなたに頼みごとをしにきました。ですが、ここでは人の目もありますし、場所を変えましょう」

 

そう言って、私はピナを外に出し、誰もいないことを確認すると、改めてピナと向き合う。

 

「さて、ここでいいかな。あっ、緊張してる? 大丈夫だよ。別に取って食おうなんてしないから」

「それは、はい。その……ルミナスムーン様は、私に何を……」

「呼び方、それじゃあ長くて面倒でしょ? ルナでいいから」

「は、はい! えっと、ルナ様?」

 

未だ抜けない尊敬の眼差し。しかし、それがゴッデス部隊にとって良い刺激になると考えている。

 

「実は、ゴッデス部隊と量産型部隊には目立った連絡網がなくてね。試験的な意味も兼ねて、君に両部隊の伝達の役割を頼みたい」

「わ、私がですか!? 頼むなら、私なんかよりももっといい人が──」

「君じゃなきゃダメな理由があるから、折り入ってお願いをしに来た。どうかな?」

 

私が頭を下げると、彼女はあたふたと何か呟いていたが、やがて決心したように頷いた。

 

「……分かりました。私がどのくらいやれるのか分かりませんが、ゴッデス部隊の為に頑張ります!」

「ありがとう。それともう一つ。むしろこっちが重要かもしれない」

 

いや、むしろこの為に頼んだと言っても過言ではない。

 

「は、はい。私が出来ることなら」

「ゴッデス部隊のリーダーであるドロシー、彼女の話し相手になってほしい。まだリーダーになって日が浅くて、色々抱え込んじゃうからさ」

「話す? あの、一体何を……?」

「それは勿論自由だよ。自分の趣味を語るのも、相手の趣味に合わせるのも、とにかく精神的な手助けの為にお願いできる? 多分、これは長く付き合いがある私達より、遥かに君の方が優れている」

「……分かりました。やってみます……!」

 

初めは困惑していたが、本命の願いにもピナは首を縦に振ってくれた。

 

「うん。そんなに気を張る必要はないからね」

 

この時間軸では、もしかしたら出会うことのなかった二人。しかし、この出会いはどうしても必要と確信している。

 

張り切っているピナを前に、次の改変の計画を思い浮かべた。




ピナの喋り方がよく分からない。

サブイベントや過去編はやってほしい?

  • 欲しい
  • さっさと本編書け
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