満月を抱きしめて   作:岬すみれ

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改変を超えて

 

「ごめん。動けないんだけど」

 

地べたに這いつくばり、立ちあがろうにも力が入らない。

 

「やれやれ。君がまた一人で特攻してると聞いた時は、冷や汗が出たものだ」

「しょうがないでしょ。ドロシーはピナの方へ、じゃあ目の前のソイツは誰が相手をするかとなったら、私しかいなかったんだから」

 

紅蓮の言葉に必死に反論するが、今の私の姿は何とも滑稽に見えているだろう。

 

「ひとまずここを離れましょう。駐屯所の方に被害が及んでないか確認しておきたいですし。さぁ、行きますよピナ」

「あっ、はい!」

「にしても、ここまで動いたのは久しぶりだ。さぞ酒も美味いだろうな」

 

紅蓮とドロシー、工程ピナは背を向け、駐屯所の方へと歩いていった。

 

「ひとまず応急処置は施しました。後は向こうに戻ってからですね」

「うん。ありがとうラプンツェル」

 

再び立ちあがろうとするが、よろめき何かに当たってしまう。

 

「……」

「あっ……ス、スノー」

 

後ろを振り向くと、凍てつくように冷たい眼差しがこちらを見ていた。

 

「い、いや! だってしょうがないでしょ!? あそこで行かなきゃ誰が……ってうわ!?」

 

スノーホワイトは無言で私の身体を持ち上げ、歩き始めた。

 

「行くぞラプンツェル。コイツには、後で聞きたいことがあるからな」

「ですね。あの装置についても」

 

そう言って私を抱えたまま二人は歩いているが、今の私の状態は荷物の様に横に抱えられている。

 

「ねぇ、怪我人なんだからもうちょっと優しく……ちょっと、ねぇ聞いてる!?」

 

結局、私に返してくれる言葉はなかった。ああ、後が怖いなぁ……

 

───

 

私は全力で走った。それはもう全力で。今まで自分がこんなに早く動けるのかと驚いた程に。

 

『ピナが危ない! こっちは何とかするから、すぐに向かって!』

 

ルミナスムーンからの一つの通信が、私の中にあるネジを一つ外したのかもしれない。

 

ピナ。ゴッデスに突如現れた新たな光。思えば、私にピナを紹介してくれたのも彼女だ。彼女はゴッデス部隊の私ともすぐに親しく接してくれた。どこへ行くにも彼女がついてきてくれて、私もいつの間にか彼女を連れ回していた。楽園に見捨てられるという事実を聞き、未来が曇りかけていた所に現れた彼女は、まさに光だった。

 

それすら失ってしまったら、私には何が残る?

 

「ピナッ!」

「ド、ドロシー様!? そんなに慌ててどうしたんで……」

「今すぐここを離れてください!! ラプチャー達がまもなく──」

 

突如、目の前の地面が爆ぜ、大地が抉れる。

 

「くっ……! ピナは私の後ろへ! 決して私より前には出ないでください!」

 

私がここを死守しなければ、ピナ諸共、駐屯所は全滅してしまう。こんな時、リーダーならどうする?

 

「ピナは信号弾を撃ってください! 私はここでラプチャーを食い止めます!」

 

目の前のラプチャー達が、私達に向けて照準を合わせている。

 

「……ッ邪魔です!!」

 

私が発砲した弾丸は装甲を粉砕し、ラプチャー達は機能停止となったが、そのスクラップを越えて、10倍はゆうに超えるラプチャーが押し寄せて来ている。

 

「き、危険ですドロシー様! 私達だけじゃ、対処できません!」

 

ピナの声が遥か遠くから聞こえる。どうする? どうするどうするどうする? 考えている暇はない。私一人だけならまだしも、ピナと駐屯所のニケ達を完璧に守りながら応戦できる程の能力が私にあるのか? けれど、私が逃げてしまえば、ここまで積み上げてきた僅かな希望も全て塵と化す。それに、私はゴッデス。私が逃げる訳にはいかない。彼女から受け継いだリーダーという立場を、こんな所で汚す訳にはいかない。

 

「ドロシー様ッ!!」

 

ピナの声で私は我に返った。

 

「やっぱり危険です! 一度……きゃあ!?」

 

付近の地面にミサイルが降り注ぎ、大地が揺れる。

 

「ピナ、信号弾は撃ちましたね?」

「えっ? は、はい!」

「なら、他の量産型のニケ達に決して前線には出ないように指示していただけますか?」

「それは勿論ですけど、ドロシー様はどうする気ですか!?」

 

そんなの最初から決まっていたことだったのだ。

 

「私はラプチャーと応戦します。安心してください。今なら何でもできそうな気がしますから」

 

覚悟を、ゴッデスとしての責任を。

 

「だから信じてください。私という存在を」

 

私達に向かって顔を覗かせた鉄屑共に引き金を引き、ラプチャーの海に飛び込んだ。

 

───

 

「ちょ!? ドロシー様!?」

 

私の制止も虚しく、ドロシー様は駆け出していってしまった。けれど、ここで私が出しゃばっても、状況を良くするどころか、むしろ悪化させてしまう可能性だってあることは事実。憧れの人達に重要な場面で恩が返せない。それがこんなに歯痒いことだと知った。

 

「……ッ!」

 

彼女が戦っている風景に背を向け、私は駐屯所の方へと走りだした。

駐屯所に着くと、多くのニケが既に防衛の為に慌しく動いていた。

 

「ゴッデス部隊から報告です! 現在侵食型のラプチャーが多数確認されています! ですから量産型部隊は、決して前線に出ないようにしてください!」

 

声を上げ、自分自身も防衛の準備をしていたが、やはり脳裏にあの光景が焼きついている。

 

「………」

 

やはり、じっとしていられず、もと来た道を見つめていると、遠くから爆発が見えた。そして、その下にいるのはもちろん……

 

「……ッ!? ドロシー様!!」

 

ドロシー様は信じてくれと言っていた。でもそれなら、私のことも信じて欲しかった。ここまで生き残ってきた私にだって、何かやれることはあるはずなのに。

 

我慢出来ずに来た道を戻ろうと一歩踏み出そうとした瞬間、身体が後ろに引っ張られる。

 

「どこへ行こうとしてるのかね?」

 

振り向くと、そこには正面部隊と戦っていた筈の三人が立っていた。

 

「どこって、ドロシー様の所以外ありますか?」

 

時間が惜しくて、口調が強くなってしまう。

 

「やめておけ。そもそも、そのドロシーから待機を命令されていたのではないか?」

「……でも!!」

 

分かってる。こんなのただの癇癪だ。でも、守りたいと思って何が悪い?

 

「安心してください。必ずドロシーやルナと共に帰還することを約束します。ピナさんはここで引き続き防衛をお願いします。さぁ、二人とも行きましょう」

 

そう言って、聖女様の後に続き三人が去っていく。

 

悔しかった。自分に守れるだけの力がないことを。無意識に首飾りを握りしめていた。

 

首飾り……?

 

『君が危機的状況になった時、自動で発動する。私が何かあった時は、ピナ。君がドロシーを守ってくれ』

 

ルミナスムーンの言葉を思い出す。

 

「危機的状況……」

 

私ではない。けれど、私の大切な人達が戦っているのだ。これを危機的状況と呼ばずに何と言う。

 

「お願いしますッ!」

 

私は駆け出した。首飾りを握りしめ、誰かに対してでもなく、私は願った。

 

走って、走って、自分でもこれだけ走れるのかとちょうど驚いていた所だった。

 

「……えっ?」

 

気がつくと私は宙に浮き、驚く三人の前を優に飛び越えた。

 

「何だ……今のは」

「え、えっと、私にもよく分からないですけど。でも……」

 

今はそんなことどうでもいいではないか。

 

「今なら、何でもやれそうな気がするんです!」

 

そう言って、私は地面を勢いよく蹴り上げた。

 

「ピナのあの姿は……」

「さぁね。だが、あの能力を誰が授けたか……大体予想がつくよ」

「ひとまず私達も向かいましょう! ピナさんもそうですが、ドロシーとルナの二人も心配です!」

 

ラプンツェルの言葉に二人は頷き、駆けて行ったピナを追うように現地へ走った。

 

───

 

「……ッ一体、どれだけの数が!」

 

迫り来るラプチャーをどれだけ倒し続けても、一向に終わりが見えない。確かに一人で戦うことは久しぶりだが、いくらなんでも異常だ。やはり、一度撤退して……

 

「駄目です。私が逃げては」

 

ひたすら自分に言い聞かせ、弾薬を込め、また目の前のラプチャーに対して引き金を引く。その繰り返しの筈なのに、無情にも息は上がってくる。

 

「これは、今日が最期の日だと言われても仕方ないかもしれませんね」

 

半分冗談のつもりで考えていたことが、現実味を徐々に帯び始めている。だが、それなら仕方がない。幸い、次のリーダーとなれるべき人材は今のゴッデス部隊には多くいる。悔しいが、私抜きだとしてもゴッデス部隊は存続するだろう。

 

「ああ、ですがピナ達とお茶をする約束をしていましたね」

 

諦める理由を探していたつもりが、生きる為の理由ばかり浮かんでくる。

 

「やれやれ。約束は無闇にするものじゃありませんね」

 

銃を構え、目先のラプチャーに引き金を引こうとした瞬間、目の前のラプチャーが弾け飛んだ。

 

「……え」

 

私がやった訳ではない。そう、今目の前にいる彼女が……

 

「ピ、ナ?」

「はい私です! 大丈夫ですかドロシー様!」

 

振り向き、私に笑いかけるいつもの彼女の背中には翼が生えていた。

 

「その姿は……?」

 

「これですか? えっと、ルナ様がもしもの為に作ってくれてたみたいなんです! もしものことがあったら、私がドロシー様を守れるようにって!」

 

そう言っているピナの背後で、ウルトラが再び照準を合わせていた。

 

「……ッ!? 伏せてくだ──」

「邪魔です!」

 

ピナは飛び上がり、銃撃を躱すと、お返しとばかりに手持ちの銃を連射した。弾丸はウルトラの厚い装甲を貫通していく。

 

「ドロシー!」

 

背後から私を呼ぶ声が聞こえた。

 

「スノー……ピナのあの姿は」

「さあな。だが、あれを誰が作ったのかは大方予想できた」

 

スノーホワイトは、宙に浮かぶピナの様子を眺めながら呟いた。

 

「ピナはルナが作ったと言っていました」

「やはりか。これも未来を見据えてのことなのかね?」

「きっとそうでしょうね。ですが、ピナさん一人に任せる訳にも行きません」

「はは! 当たり前じゃないか。日の浅い新人に遅れをとる訳にはいかんよ」

 

紅蓮は刀を引き抜き、ラプンツェルは杖を構えた。

 

「行けそうか?」

「ええ。彼女の憧れがこんな所でつまづいている訳には行きません」

 

スノーはドロシーの手を引き、自分も武器を構える。

 

「速やかに片付けます。目標はラプチャーの殲滅です」

「了解」

「ゴッデス部隊、エンカウンター!」

 

新たな翼を得た者の後ろには、人類の希望であった女神達が再び羽を広げた。

 

───

 

「状況終了です」

 

ドロシーの声で一度態勢を解いた。

 

結果的に言えば、大勝だった。一人でさえ苦戦を強いられるゴッデス部隊が集結し、更に戦力を増したというのだから、ラプチャー達は戦う前から既に勝敗は決していた。

 

「皆さんお疲れ様でし……うわっ!」

 

首飾りが輝き、武装が消えていくと同時に、ピナの身体が揺らいだ。

 

ゴッデス部隊全員がその様子に焦ったが、当の本人は笑っていた。

 

「あ、あはは。ちょっとまだ使いこなせていないみたいです」

 

地面に倒れながら、ピナはそう呟いた。

 

「追加で新たな機能を取り付けているんだ。本来量産型が耐えられるスペックではない筈だが、アイツがそんなことを考えない訳がないか」

「詳しいことは本人から聞けばいいだろう。一度迎えに行ってやらねばな」

 

紅蓮とスノーホワイトは、ルミナスムーンがいるであろう方角を見つめた。

 

「ドロシー、ピナさん。二人はどうしますか?」

「私は問題ありません。ピナは……」

「わ、私も行きます! ちょっと動きづらいですけど、後方支援ぐらいなら……!」

「では行きましょう。あまり長くここに留まっている訳にもいきません」

 

ドロシーはピナの腕を引き、立ち上がらせた。

 

「ピナ。貴女が私を助けてくれたことには感謝しています。ですが、今度からは私の目に入る場所にいてください」

「は、はい! あの、ごめんなさい。私、ドロシー様の命令に背いてしまいました。でも、あのままジッとドロシー様達の帰りを待ち続けるのも、自分の意志に背いている気がして! だから……」

「なってしまったことを責めても仕方ありません。ですけど、貴女はこんなにも強い人だったのですね」

 

ピナの手を握る力が強くなる。

 

「さぁ、最後の一人を迎えに行くとしましょうか」

「はい! ドロシー様!」

 

落ちる筈だった翼は再生し、より強く、より美しく羽ばたいた。

 

───

 

「てな訳で、スノーが言っていた通り、ピナのネックレスにちょっとした細工を施したってわけ」

 

損傷の修復の為に寝かせられながら、私はピナに追加武装のことを説明していた。

 

「いいんですか? その、こんな精密な物を私なんかに……」

「いいのいいの。それはピナにしか扱えない。私達が使っても、持て余すだけだ」

「そう、なんですね。えっと、ありがとうございました!」

 

私に向かって深く頭を下げるピナを見て、私は息を吐いた。

 

ピナが生きている。これはこの世界においてかなりの改変だ。当然ピナが生きていて嬉しいし、新たな戦力として迎え入れることができたが、この改変がどう影響してくるかは未知数。それを覚悟して行ってきたが、やはり不安は抜けない。

 

「あの、ルナ様」

「ん? どったの?」

「さっきドロシー様がアークと連絡がついたと言っていました」

 

ああ、そういえばそうだったな。

 

「了解。みんな集まってるの?」

「はい。念のためルナ様にも伝えて欲しいと……」

「ありがとう。損傷も粗方修復した。私も行こう」

「分かりました。あっ、手伝いますよ?」

 

ピナに手を引かれ向かうと、そこには収集用ロボットとゴッデス部隊の面々が揃っていた。

 

「動いても平気なのか?」

「普通に歩く程度なら。やっぱりニケの身体は便利だね」

 

腕を回して修復が完了したことをアピールすると、スノーは少し不機嫌そうに視線を逸らした。

 

『アークから転送された音声ファイルがあります。お聞きになりますか?』

「全員揃いましたね? では、再生をお願いします」

 

ドロシーの声に反応し、収集用ロボットから電子音が鳴り響き、やがて男性の声が聞こえてきた。

 

『アークからゴッデス部隊へ。まず、ゴッデス部隊のリーダー、リリーバイス少佐の死に哀悼の意を表します。彼女は最高かつ完璧な、人類の守護者でした。アークの多くの人々が彼女の死を悼んでいます』

 

ロボットから聞こってくる音声を、全員固唾を呑んで見守っている様子だった。

 

けれど、私はこの内容もこの声の持ち主も既に知っている。

 

そこからアーク内部において問題が発生したという話題に入る。これも同じ。

 

一つ目はエブラ粒子発生装置の破壊。

二つ目は特定座標の大規模なラプチャー部隊の殲滅。

三つ目は物資運搬用の大型エレベーターの破壊。

 

『以上です。ゴッデス部隊の決定をお待ちしております。……そして、この言葉が支えになるか分かりませんが、アークはゴッデス部隊を待っています。みなさんの犠牲や奮闘をすべて忘れられるほどの報酬を準備しておきます』

 

その言葉を残して、音声ファイルは終了した。

 

「……ふむ……」

「どうやら、アークの封鎖に問題があったようですね」

「ルナ、このことも既に知っていましたか?」

「うん。でもどうする? 全てを忘れられる程の報酬って言ってるけど?」

 

少し悪戯っぽくドロシーに問いかける。

 

「事前に見捨てられることを知っていますから。もし、本当に報酬があるとしても、ただ記憶を本当に忘れさせられるだけでしょうね」

「では、行かないのかい?」

「まさか。アークとの連絡が取れるだけでも充分な成果です。やる価値はあると思います」

「なら、担当を決めておこう。わざわざ全員で行動する意味はないだろう」

「皆さんもそれで宜しいですね?」

 

断る意味もない。全員が首を縦に振った。

 

「最初は私とピナ、ラプンツェルで行きましょう」

「はい!」

「了解しました」

「では早速行きましょうか。他の皆さんはこの場の防衛をお願いします」

 

そう言ってドロシーはピナとラプンツェルを連れ、この場から離れていった。

 

「せっかちだのう」

「思い立ったが吉日ってやつじゃない? にしてもドロシーも随分と活発になったなぁ」

 

三人は既に見えなくなっていた。

 

「暇を持て余すのは得策じゃない。今のうちに武器の整備をしてくる」

「ん。いってらー」

「相変わらず働き者だのう」

 

駐屯所の方へ戻っていくスノーホワイトを見ながら、私は紅蓮と共に笑った。




タグ欄に原作死亡キャラ生存を追加します。




ちょっと後書き。





原作のドロシーは資源の枯渇や量産型がピナ以外全滅してしまったりしたことで、既に壊れてしまっており、あまり感情を表に出せることが出来なかったのではないでしょうか?ですが、この世界のドロシーは、困難なことはあるにしても、それを吐き出せる程の弱さを表してみました。
まぁ、あくまで独自の解釈なので、こんなのドロシーじゃない!と言われればそれまでですけれど。あくまで解釈の一つということで、そこは多めに見てください。

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