満月を抱きしめて   作:岬すみれ

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今回はオリジナルの要素が満載です。ガバい部分もあるかもしれませんが、ゆるしてヒヤシンス。


受胎

 

「それを取ってくれ」

「ん」

 

工房には、私とスノーの声しか聞こえない。

 

静かだ。こんなに静まり返った時間は久しぶりな気がする。

 

「ねぇ、そろそろ休憩しない? 流石にぶっ続けはキツいんじゃ」

「いや、ドロシー達が帰ってくる前に仕上げておきたい」

「……働き者め」

 

部品を手渡し、私も設計図を見ながら組み立てていく。

 

金属が擦れる音、タイピングする音、聞こえる音は精々この程度。作業自体は好きだし、別に苦という訳でもないのだが、なんとも味気ない。

 

「よしっ」

 

パネルを操作し、再生をタッチすると音楽が流れ始める。

 

「どうスノー? 少しは気分転換になるでしょ?」

 

この作品が生まれたのはおそらくもう何十年、下手をすれば百年以上経ってしまったのかもしれない。それでも、聴き続けることができるというのだから、音楽は素晴らしい。

 

「……聞いたことがある」

「あっ、やっぱり?」

「あぁ、レッドフードがたまに聞いていた曲だ」

 

スノーは懐かしむように目を閉じた。

 

「……お前が見た未来では、レッドフードは故郷に辿り着けたのか?」

「……いや」

 

レッドフードはラピのボディを共有している。原理は分からないが、それが事実だ。そして今は恐らく、スリープ状態にある。

 

「レッドフードは今はスリープ状態のはず。でも、生きているから安心して」

「……そうか。分かった」

「あれ? 詳しく聞かないの?」

 

少しでもレッドフードの現状を知りたいのかと思っていたため、少し意外だった。

 

「今は私達もやるべきことが多すぎる。それに、ここで私達が動くことも、お前にとっては好ましくないんだろう?」

「よくお分かりで。正しい方向で、尚且つ最善の選択肢を選び続ける。これが難しいのなんの」

「ならいい。今は出来ることをするだけだ。だが、その時が来たらまた黙って突っ走るな。いいな?」

 

そう言って、スノーはまた作業に戻り始めた。

 

「成長かな……」

 

工房に新たな音が流れる中で、私達は作業に熱中した。

 

───

 

『ジジッ、ジジッ。アークとのリアルタイム通信を実行します』

 

収集用ロボットの電子音が流れる中で、やがて声が聞こえてくる。

 

『────聞こえますか? こちらはアーク。ゴッデス部隊、聞こえますか?』

 

ロボットから、聞き覚えのある男性の声が聞こえた。

 

「!!」

「……繋がったか」

「こちらはゴッデス部隊。聞こえます」

『あっ……! よかった。エブラ粒子の濃度が急激に低下したのでもしやと思い通信を試みたのですが、成功したようですね。お見事です』

 

男性の声は賞賛を上げるが、全員が疑いの目を向けている。

 

「私はゴッデス部隊のリーダー代行、ドロシーです。そちらは?」

『私は中央政府で、今回のアーク封鎖プロジェクトの総責任を務めています。事情により、名乗ることができないのです。ご理解ください』

 

やはり、名乗り出ることはないか。良いだろう。ならばこちらも相応の対応を取らせてもらうとしよう。

 

「少し良いですか?」

『はい。貴女は……』

「初めまして。ゴッデス部隊、ルミナスムーンです」

『……! あぁ、貴女が……!』

 

何か驚いたような声を上げていたが、今はどうでも良いことだ。それより、本題に入る。

 

「御託はいりません。ここから先は、下手な希望を持つような嘘は言わないでください。無駄な恨みを買うだけです」

『一体……』

「アークは今、混乱状態のはずです。当然でしょう。あんなに多くの人をすぐに捌けるような技術を、今の人類が持ち合わせているはずがない」

『……』

 

男性の声は黙り込んだ。

 

「そんな状況で、私達に対しての最高の待遇なんてある訳がない。そうでしょう?」

『そんなことは……』

「どうでしょう? 仮に貴方がそうしたいと思っても、更に上の人間はどう思うでしょうね。私達は所詮、都合の良い実験材料程度にしか思っていないんじゃないですか?」

 

ここまで言えば充分だろう。

 

「安心してください。今の所、私達が貴方に対して恨みを抱いていることはありません。ただ、私達の質問に嘘偽りなく返答してくれれば良いんです。貴方なら出来ますよね?」

 

通信越しだというのに、私は迫り、圧を掛けた。

 

『……分かりました。ただし、私自身、質問に対する答えを持ち合わせていない可能性もあります。そこはご了承ください』

「ええ、構いません。じゃ、ドロシー。後はお願いね」

「…………はい。それでは──」

 

ひとまずアークの現状と、指揮官の安否を確認したが、どれも目新しい情報はなかった。

 

「最近、君が時々怖くなるよ」

「心外だね。嘘を吐くのはやめたつもりだけど」

「そうじゃない。君がもしラプチャー側の戦力として立っていたら、今頃アークどころか人類すら滅ぼしていたかもしれないからね」

 

一瞬アホらしいと思ったが、確かにこの記憶があれば人類の動きは当然筒抜けだ。圧倒的不利な立場である人類を、あっという間に追い詰めることができる。

 

「やめて、縁起でもない」

「フッ……それもそうだな」

 

最終的に、一日一回の情報共有のために連絡することを約束させ、通信を終了した。

 

「一歩ずつ、進んではいるようだな」

「いえ、ルナの見た未来より遥かに状況はいいんです。大躍進とは言わないまでも、かなり前進はしているはずです」

「そうか……では、今日は休んで、明日すぐに出発だ。今度は私が参ろう」

 

計画通り、今度は紅蓮が出る方向性だ。

 

「分かりました。では、私達は先に戻って休みますね」

「はい。皆さんおやすみなさい」

「ああ、お休み」

 

ドロシーとピナが去っていく。

 

「それじゃあ、私はもうひと頑張りかな」

「おや、休めと言っているはずだが?」

「やらなきゃいけないことがあるの。それじゃ」

 

駐屯所を抜け、目的の場所へ駆けて行く。本来ならラプチャー達が蔓延っているはずだったが、ここ最近は、駐屯所周辺に限って姿が見えなくなった。

 

「まぁ、こんだけ倒しても氷山の一角にすら満たないと考えると、人類が地下に逃げ込むのも納得だ」

 

しばらく移動すると、やがて目的地が見えてきた。

 

「損傷は……なし」

 

廃墟と化した研究所の瓦礫を退かして、地下へ潜っていく。やがてドアが見えると、生体認証を何重にもクリアしてやっと中に入る。

 

「ちょっと、厳重にしすぎたかな……」

 

三次封鎖が始まって少し経ったぐらいの時に見つけたこの施設。一見すると、すでに崩壊した研究所に見えるが、地下の設備はまだ生きており、まさか当時はここまで頻繁に出入りするとは思わなかった。

 

「思いついたらやってしまう。科学者の性だね」

 

目の前に置かれている三つのカプセルの中には、少女達が液体の中で浮かんでいた。

 

「当初の予定通りに行くなら、あと二人……まぁ、それはエデンの建設に取り掛かった後でも遅くない」

 

とにかく、この研究所がニケの製造を取り扱っている研究所で助かった。バイオテクノロジーや人間工学の観点から見ても、概ね設備は揃っており、足りない部分に関しては、廃材で補える所は補った。これによって人間の肉体を模倣することは造作もなくなった訳だが、いくら身体を作った所で、動かす頭脳がなければどうしようもない。

 

けれど、この場所に残っていた最も重要な物は、その五つの冷凍保存された脳だ。誰が、何のためにこの五つの脳をこの場所に冷凍保存していたのかは不明だが、私が発見した当初、すでに冷凍保存の稼働年数は十年を切っていた。このまま腐らせるくらいならと考え、利用させてもらった。

 

「記憶の複製も異常は見られない。時期的にも、もう良いだろう」

 

この子達には、私の改変における補助を担ってもらう。私一人ではとても全員を見て回ることはできない。ならば、改変を行える人数を増やしてしまえばいいのだ。

私の原作知識や研究者としての頭脳を侵食を経由して複製し、人類への攻撃性を限りなく少なくし、ラプチャーへの憎悪を与えた。

 

「よし」

 

パネルを操作すると、カプセル内の液体が抜け、少女達の身体が地面に横たわる。

 

「よいしょっと」

 

身体を持ち上げ、ひとまずベッドに寝かせ、目覚める瞬間を待つ。

 

「…………ん」

「あっ、起きた」

 

初めに目覚めた少女は身体を起き上がらせると、周りを見渡した後、私を凝視した。

 

「おはよう。私が見えているかな?」

 

手を振ると、その動きに合わせて瞳孔が動いており、後ろに回って声を出すと私の方を向いた。視力、聴力に関して異常は見られない。

 

「う、あ……」

 

少女は何か言いたそうに必死に口を動かしていたが、上手く言葉を紡げない様子だった。

 

「落ち着いて。まずはゆっくり慣らしていこう。ほら、あー」

「……あー」

 

言葉の意味も理解できており、思考できる能力も確認できた。この後、続々と少女達が目覚め始めたので、同様の検証を施し、全員にひとまず仮の服を着せ、椅子に座らせた。

 

この時にはすでに二語文程度の会話はできるようになっており、私の会話の意味も大体は理解しているようだった。人間の頃の記憶が残っているかも確認したが、全員なくなっているようだった。

 

「じゃあ、この先の……未来の記憶を君たちは持っているね?」

 

三人はうなずいた。

 

「よし。アークガーディアン作戦が終わる前に、それぞれ分断の場所へ行ってもらいたい。通信機器や装備に関してはこちらで用意する。あー、えっと……」

 

一番最初に目覚めた少女を呼ぼうとするが、名前がなかったことに気づく。

 

「それじゃあ、君は……」

 

一人一人に名づけをして、一人一人に目的を告げる。

 

「これで、改善できれば良いけど……」

 

ボロボロの椅子に座り、天井を見上げて嘆く。

 

「お母さま。疲れた?」

「え? お母、さま?」

 

まさかの呼び方に困惑していると、ぞろぞろと私の周りに集まってくる。

 

「お母さま。大変?」

「お母さま、なでなで」

「ちょ、ちょっと待って! 私は君達のお母さんじゃ──」

 

いや、実際私が作ったようなものだと思えば、この子達は私の子供? いやいや! 元の親だってこの子達には当然存在している。しかし、脳だけの状態だったことを見るに、恐らく──

 

「まさか……侵食の影響か?」

 

脳に対する侵食は万全を期して行った。検査してみても、侵食が残っている痕跡は一切なかった。だが、記憶を複製する時に、何か別の物を同時にプログラムしてしまったのかもしれない。

 

「ひ、ひとまず離れて!」

 

ぎゅう詰めとなった彼女達から離れて、情報を記録する時も、周りをうろつき、記録どころではなくなった。

 

結局、夜通し彼女達の相手をして、なんとか全てのタスクを終わらせる時には朝帰りとなった。隠れて帰ろうとしていた時、朝食を準備していたピナに見つかり、それからスノーやドロシー達に詰められたのは、言うまでもない。




改変計画担当者名簿
No.1『パトラ』担当────
No.2『マーニ』担当────
No.3『カソ』 担当────

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