ピピッ──ピピッ──
「……んぅ? 連絡……?」
通信機を耳元に当てると、聞き慣れた声が聞こえてくる。
『あっ、お母様! やっと出ましたね!? もう三回は掛け直したんですよ!?』
「すみませんねぇ……休む時間が増えてから、どうも頭の回転が遅くなってしまって」
通信機から聞こえてきた娘の声で頭を叩き起こし、椅子に座り直した。
「それで、どうしました? 何か進展がありましたか?」
『あっ、はい! レッドフードとラピと呼ばれていたニケ達が接触しました』
その一言で、脳は一気に覚醒した。
「そうですか……はぁ、長いようで短かったですね」
アークガーディアン作戦が完了してから、すでに三十年近くが経過していた。その間、ここエデンは目まぐるしい発展を遂げていた。しかし、まだ完成とは言えず、重要なキーパーソンである新星の指揮官やM.M.R.の天才科学者も未だエデンには来ていないが、それももう間もなくだろう。
「報告ご苦労様です。では予定通り、計画を第二段階へ移しましょうか」
さて、ここからが本番だ。彼女の救済のための事案も、一気に動かしていかなければならない。
『了解しました。あの、研究所を作成するのって、本当にここで宜しいのですか?』
「はい。そこは彼女にとって大切な場所ですからね。目覚めるのに適しています。設計についてもこちらで確認しました。完璧です。流石ですね」
『そ、そうですか? えへへ』
「資材に関してはこちらで準備します。カソ、貴女はポイントへ移動を始めてください」
『了解です。それではまた』
通信が切れると、私は深くため息を吐いた。
「忙しくなるな……」
向こうに資材の輸送を行うのと同時に、エデンの完成も素早く行わなければならない。
各種インフラの増加、防衛力の増強、やることはごまんとある。
「資材に関しては……二人に行ってもらうか。ちょっと心配だけど」
部屋を出て、彼女達の顔を思い浮かべながら向かった。
───
「良いですか? 今回はあくまで運搬が目的です。戦いに行く訳ではありませんからね? 良いですか、ホウライ、ラエン?」
「つまんなーい」
「つまらないじゃ済まないんです、ホウライ」
「何で私達なんですかー?」
「適任だからです。そうじゃなきゃ頼みませんよ、ラエン」
あの日、残していた脳をエデンに来てからニケとして蘇らせた。この二人を後回しにしたのは双子だったからという理由が大きいが、一番扱いが大変な二人でもある。
「とにかく任せましたよ。成功した暁には、また好きな装備を作ってあげますから」
「……はーい」
「分かりました、お母様ー!」
本当に分かっているのだろうか。スペックは量産型より上なのは間違いないが、それでも大型のラプチャーとの戦闘経験があまりない彼女達では、やはり不安が残る。
「戦闘は極力避けるように!」
「「勿論でーす!」」
ひとまず人材は確保できた。後は少し訓練でもさせてあげるとしよう。
───
エデンは未だ未完成だが、最近私は単独でエデンの外に出ることが増えた。その理由は──
「うーん。最近ここも多くなってるな……」
大量のニケ達が倒れている道を、私は一人で歩いていた。
「頻度が明らかに多い。第一次地上奪還作戦が始まった影響だろうけど、にしてもこれは……」
あまりに多い遺体の数。ニケだけでなく、指揮官らしい人間も見られた。
「第一次の時点では、指揮官は一般に実戦投入していないと思っていたけど、試験的なものなのか」
隆起した地面を登り、回収した装備品の品質を確認しながら、辺りを見渡す。
「酷いもんだな。ほぼ使い捨てのような扱いだ」
人類は本当に地上を奪還する気があるのだろうか?
進み続けると、僅かに動くものを発見した。生存者だろう。バイザーを被り近づく。
「待てッ……! 何者だッ!」
一人のニケが私に気づくと、迷うことなく銃口を向けてきた。
「随分と熱烈な歓迎ですね。今の貴女達は、そんなことを言う余裕もないでしょう?」
「黙れ! そもそも、ニケ一人がこんな所で何をやっている!」
量産型のソルジャーE.G.が叫ぶ。
「貴女達のような生存者を探しているんですよ。ほら、実際貴女は足を欠損している。こんな所で止まってたら死にますよ」
指摘されたことが嫌なのか、彼女は切断された足を隠して、銃口を一度下げた。
「一度怪我人を見せてください。話はそれからでしょう?」
「……分かった。ただし、下手な真似をしたら容赦なく撃つ」
「ええ、構いませんよ」
這いずりながら瓦礫の下に入っていく彼女の後を追うと、複数人のニケと、男性と思われる形をした肉塊が寝かせられていた。
「さて、少し見させてもらいますよ?」
そこから数人のニケの状態を確認した。どのニケも何かしらが欠損、または破損しており、すでに侵食の疑いがある者は頭を撃ち抜かれ機能停止していた。
「こんな劣悪な環境で良く生きてましたね。まぁ、ニケならある程度融通が利きますけど、問題は──」
恐らくこの男性は、試験的な指揮官の一人だったのだろう。しかし、ラプチャーの流れ弾が当たったのか、体の一部が焦げ、血の匂いが充満している。
「まだ、まだ生きているんだ!! 急いで運ぶことが出来れば、まだ……!」
「無理ですよ。ここからアークまで最短でも半日程度掛かります。その間にラプチャーとは間違いなく接敵しますし、そもそも最短で移動させるとなると、この身体が持たない可能性があります」
「……ッ」
彼女達は震えていた。理由は大方理解できる。
「彼が死ねば、貴女達が処罰されるのは分かっています。しかし、ええ、そうですね。貴女達は生きたいと思いますか? もし生きたいと願うなら、私が楽園に連れて行ってあげます」
私の言葉にニケ達はお互いの顔を見合わせ、困惑したような表情を浮かべている。
「そんな……アーク以外に楽園なんて」
少し気の弱そうなプロダクト08が呟く。
「別に信用出来なければ、来る必要はありません。ただその場合、地上でラプチャーに……おっと」
地面が揺れ、小さな土埃が身体に当たる。
「貴女達はここにいてください。念の為、予備の弾を渡しておきます」
「あの、あなたは……?」
「勿論、迎撃します。貴女達は指揮官の身体を出来るだけ守ってあげてください。すぐに終わらせます」
そう言い残し、遮蔽から飛び出すと、挨拶代わりにライフルを構え、目の前のラプチャーを撃ち抜く。
発砲したことで周りのラプチャーも続々と集まり始め、あっという間に私を囲んだ。
「エンカウンター」
声を上げると同時にジェットパックを吹かして、僅かに上昇すると、小型ミサイルをラプチャーにロックオンし発射する。
もろにミサイルを喰らったラプチャーに接近すると抜刀し、装甲を完全に切断した。
「はい一丁。次」
再びジェットパックを吹かして急接近し、切断、また射撃。その繰り返しで、8割ほどは撃退した。
「最後」
後方から攻撃してくるラプチャーに対しては壁を生成し、向こうに流れ弾が当たらないようにする。そんなことをしていたら、あっという間に終わった。
「状況終了。大丈夫でしたか?」
「は、はい! あの数をたった一人で……」
「もう慣れたものです。さぁ、行きますよ。動ける者は負傷者を支えてあげてください。指揮官については……貴女が運んでくれますか?」
「わ、分かりました」
プロダクト08が指揮官の身体を抱えたことを確認すると、私も怪我人の一人を支えてその場を後にした。
───
「お帰りなさい、ルナ様……って! また怪我人ですか!?」
「そうそう。ピナ、悪いけど手伝ってくれる?」
「ええ、もちろんです」
ピナに負傷者の一人を渡して、臨時の医務室に入り込む。
「お前、また連れてきたのか。医薬品だって無限じゃないんだからな」
「補給は安定してきたんです。救う価値のある人は救った方がいいでしょう、隊長さん?」
「……はぁ、負傷者を並ばせろ。今担架を持って来させる」
隊長さんは付近のニケに担架を持って来させ、足を欠損しているニケを運んでいく。
「それと……そいつは人間か?」
「ええ、どうやらアークではニケの指揮官が試験的に使われているようでしてね」
彼の身体を持ち上げ、医療用ベッドへ寝かす。
「こいつはアークの人間だろう? ここで目覚められたら面倒だぞ」
「発信機などは外してあります。彼についてはある程度治療したら、直接アーク付近へ私が連れて行きますよ。そこで、出会った部隊にでも連れて行かせます」
未だ息の荒い指揮官を見ながら、ひとまず応急処置へと移った。
───
「応急処置は完了しました。火傷部分はまだ残ってますが、命に関わる程ではないでしょう」
「あぁ、助かった。その……出会った時はすまなかった……」
「銃口を向けた程度でしょう? 気にする必要はありませんよ」
向かい合うように座り、彼女を眺める。
「さて、貴女はどうしたいですか? ここに居たいと思うなら、それは一向に構いません。実際、アークに戻っても碌な目に合わないと思いますけどね」
「……」
「幸い、今は猫の手も借りたい程人手が足りてません。もし望めば、エデンはあなた方を歓迎しますよ?」
「……分からない。命令を飛ばす者が無くなった時、どう生きればいいのか……」
ニケにおいて、指揮官は絶対服従の対象だ。指揮官が死ぬことは、同時に自らの死でもある。ニケはそういう命令を脳に刻み込まれている。
「ここでは、それを見つける権利があります。今はそうじゃなくても、直に見つかりますよ」
「……そうか、ありがとう」
「お礼には及びませんよ。とにかく、まずは体を治してください。話はそれからです。では」
病室を出て、別室へと移動する。そこには包帯で巻かれた男性が寝ていた。
「悪いけど、貴方を長居させる訳にはいかない。ここで暴れられても面倒です。眠っている内に行きましょうか」
念の為、布で視界を覆っておく。
「にしても、貴方の場合、指揮官が瀕死でニケが無事って中々レアなケースだ」
ニケは捨て駒という印象が多い中で、この事案は珍しかった。
「もしかして、ニケを庇ったせい?」
この指揮官が、果たして善人なのかは分からない。もしかしたら、ただ狂ってラプチャーに突っ込む自殺行為をしただけだったのかもしれない。
どっちにしても、指揮官がこれ程の怪傷を負っている以上、あの量産型のニケ達をあのままアークに返すのはあまりにも危険だ。
ここは大人しく、指揮官だけお帰り願おう。
───
アーク周辺にて、私は数名のニケと共に偵察に来ていた。
数時間の偵察をするだけの任務だったが、突然ニケの一人が声を上げた。
何事かと顔を上げると、そこには顔をバイザーで隠し、フードで頭を隠した謎のニケがこちらに手を振っていた。
慌てて戦闘態勢に入り、向こうへの牽制を促したが、謎のニケは戦う意志が無いかのように腕を振ると、背中に背負っている大きな布に包まれた何かを指さしていた。
私が不思議に思っていると、そのニケが布を取っていき、中から焼け焦げているが見慣れた指揮官の服装に身を包んだ男が見えた。
そしてそれは、つい最近行方が分からなくなり、そのまま死亡扱いされていた指揮官だった。
まさか、あのニケが助けたのか?
指揮官を地面に下ろして、そのニケはこちらの様子を遠くから眺めていた。
当然、急いでニケ達に回収させ、あのニケのことは気になるが、一度撤退しようと思っていた矢先、ラプチャー共が現れた。
怪我人がいる中で万全の指揮は取れないと判断し、ニケ達に私達を死守する様指示しようとした瞬間、あのニケが動き出した。
それはもう、凄まじい速さで。量産型のニケではありえ圧倒的な強さだった。
接近、遠距離、どれを取っても美しい程にラプチャー共を蹂躙していくその姿は、まさに怪物だった。
私が呆然とその様子を眺めていると、戦闘が終わった彼女がこちらを振り向き、軽く手を振った。
しかし、次の瞬間、まるで嵐のように飛び去った。
名前、所属、分からないことだらけだった。
おそらく、二度と彼女と会うことはないだろう。
しかし、もし次に会う機会があるとするならば、今度は面と向き合い、お礼を言いたいものだ。
とある指揮官の記録
担当者名簿
No.4『ホウライ』
No.5『ラエン』
今回でOVER ZONEは終了です。いよいよ本編に入ろうと思っていましたが、少し短編のストーリーもやるかもしれません。
サブイベントや過去編はやってほしい?
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欲しい
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さっさと本編書け