注意
今回、オリジナル要素が満載です。原作キャラとの血縁関係などがあります。苦手な方はご注意ください。
Faded memories : 懺悔
これは、私の物語ではない。そして、思い出すこともない。遠く、古ぼけた記憶。
タイピングの音だけが、嫌に大きく聞こえる。
「……駄目だ。これでも限界なのに、これ以上コストを割けなんて、何考えているのかしらあのクソ上司は」
不満を漏らしながら設計図を描き続けても、まるで良いものができない。いや、これが最良のはずなのだ。量産型のニケの製造が確立されたといえども、武器をケチればどうなるか、戦場を見てきた人間には分かるはずなのに、上の人間は少しでも命を安くしようとしている。
「何が必要ないよ!!このカスタムに辿り着くまでに、どれほどの時間が──」
すると、背後から扉が開く音が聞こえた。
「荒れてるな」
「えぇ、勿論よエイブ。丹精込めて作り上げた物が簡単に却下されるこの気持ちッ!貴女は分かってくれるかしら?」
「さあな。と言うか少しは休め。ムキになって本末転倒になったらどうする」
「天才には、私の苦労なんて分からないんだ!!」
コーヒーカップに手を伸ばし、冷めたコーヒーを一気飲みする。すると、少し気分が落ち着いたのか、別の話題を考えることができた。
「はぁ……あの子達の調整は順調?もうすぐ実戦投入するって噂が絶えないわよ?」
「いいや」
「慎重ねぇ」
まぁ、それもそうだろう。あの子はゴッデス部隊を超えるように設計された。時間も、費用も、あり得ないほど積まれている。
「それに比べて、私に対して慎重なんて言葉はないも同然。所詮私は、貴女と姉さんの後を追うだけの存在なのよ」
「またそれか」
「当たり前じゃない。死ぬまで言い続けてやるわ」
駄目だ。思い出すだけで、また苛ついてきた。
「ニケになれば、少しは感情のコントロールが上手くなるかしら?」
「やめておけ。私でもない限り、すぐに戦場に駆り出されるぞ」
「随分な自信ね?」
「当然だ。それに、お前には──」
すると、入り口の扉が開き、パタパタとこちらへ向かってくる音が聞こえた。その音を出しているのは勿論──
「お母さん!」
黄金色の髪を靡かせている、私の愛娘だ。
「走るのは駄目と言ったじゃない、『カトレア』」
「ねぇ、お母さん見て見て!シンデレラに貰ったの!」
嬉しそうにそう言った娘の頭には、見慣れない髪飾りが付いていた。
「休めと言っていたはずだが?」
カトレアの後ろから出てきたのは、フェアリーテイルモデルのシンデレラだ。
「あら、ごめんなさい。でもカトレアの髪はとても美しいわ。それなら、その美しさを磨かなければならないと思わない?」
シンデレラはカトレアの髪を撫でながらそう言うと、続々とフェアリーテイルモデル達が集まってきた。
「はい。私達も手伝わせてもらいました」
「うう。あうう」
「ヘンゼルとグレーテルも、カトレアと遊んであげたわ」
「お前達の場合は、『遊ばせてもらった』の方が正しいだろう?……ったく。お前達は製作者の言うことも聞けないのか」
レッドシューズにリトルマーメイド、そしてヘンゼルとグレーテル。全員一癖あり、それに対してエイブが悪態をつく。もう何回見た光景なのだろうか。
「カトレア?検査は大丈夫だったの?」
「うん!私、てきごう?を持ってるみたいなの!」
嬉しそうに報告する娘を見ているのに、何故か素直に喜ぶことができない。
「……お母さん?」
娘は優秀だ。当然だろう、私とあの人の子供だ。優秀でないはずがない。でも、もしものことがあるとすれば?それに──
「おい、大丈夫か?」
エイブに肩を叩かれ、ようやく正気に戻れた。
「一度寝ろ。何度も言うがお前はニケじゃないんだからな?」
「は、はは……そう、ね。うん、そうさせてもらうわね」
ゆらゆらと立ち上がり、仮眠室に直行する。
「それじゃあ、私達も行きましょうか」
レッドシューズはカトレアの手を引き、部屋を出て行った。寝室に連れて行ってくれたのだ。
「……」
そう願いたい。
「おい。本当に大丈夫か?」
「心配すぎよ、エイブ。こんなこと、もう何度も経験したわ」
「娘に余計な心配をさせるな。いいか、『ルミナス』」
「……ええ、勿論よ」
そう言って、私は部屋を出た。
───
あぁ、まただ。
痛い!!苦しい!!信じていたのに!!裏切り者!!
ドロドロと私の身体を包み、視界が、音が、呼吸が、ひとつずつ確実に奪われていく。
呪ってやる。
「……ッハ!?」
ベッドから飛び起きて、手を見る。なんてことない、何年も付き合ってきた手だ。
「……」
机に置いてある薬を飲み干し、鏡を見る。ここ最近、薬の消費が激しくなっていっているのを感じる。
「酷い顔」
でも、もはや人間ではなくなった私に対しては、この方がいいのかもしれない。
「ごめんなさい」
誰に向けて?誰もいないのに。
「……ごめんなさい」
私は鏡に向かって謝り続けた。
やがて部屋を出て、ある一室に向かう。
ノックをすると、一人のニケが現れた。
「あら、遅かったですね」
「ごめん。ちょっと寝過ごしてたみたい」
「ふふっ、構いませんよ。貴女は多忙ですもんね」
私に向けられる笑顔が恐ろしい。血が繋がっている家族のはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「じゃあ、ルミナス。お願いしますね?」
「うん。姉さん」
私は姉、レッドシューズと共に地獄への扉を開いた。
姉さんは優秀だ。それこそV.T.C.の高い地位に選ばれるほどに。私はその後をひたすら追うしかなかった。
けれど、それこそが私が最も選択を誤った行為だったのかもしれない。
姉さんがどんな研究をしているのか見せてほしいと、必死に頼み込んだ。
姉さんは、誰にも言わないこと、そして私の知恵を貸すことを条件に、研究を見せてくれることを承諾してくれた。
すでにこの頃、姉さんはニケになっていた。だから裏切ることは死を意味したと言ってもいい。
これが過ちだった。
夥しい遺体の数々。もはや原型を留めていないナニカ。姉さんはラプチャーとの共存を望み、『侵食』と呼ばれるものを研究していた。
私は信じられなかった。実の姉が、人類を守るための存在が、こんなことをしていたのかと。
そして、私は逃げられないことを悟った。誰かに相談する?とんでもない。この行いがバレようものなら、姉さんは間違いなくあのラプチャー達をこの場に放つ。そうなったら、一体どれだけの被害が出る?そもそも、姉さん自身もフェアリーテイルモデルだ。簡単に勝てるような相手ではもうなくなってしまった。
「ルミナス。やっぱり貴女は素晴らしいです!こんなことなら、貴女にもっと早く頼めばよかったですね!」
私は逆らうことができずに、姉さんの研究に加担してしまった。そして皮肉にも、私はこの研究において遺憾なく才能を発揮してしまい、姉さんを喜ばせてしまった。
ニケ達に容赦なく人体実験を行った。
私は人を殺してしまったのだ。最早、私に人間としての尊厳はなくなった。
「カトレアももう間もなくですね……あの子が生まれつき心臓に病気があると発覚した時はどうなるかと思いましたが……」
私に人間としての価値は無くなった。
「それももうこれまでです!この研究が完成すれば、もう何も苦しまなくて済むんですよ!」
「……そうね」
でも、私の命一つで人類に、あの子に貢献できるなら、喜んで捧げよう。
私は一つの設計図を隠して、姉さんに微笑んだ。
───
どう頑張っても、時間は待ってくれない。いよいよ、カトレアがニケに生まれ変わる当日を迎えてしまった。
「大丈夫ですよ、カトレア。眠っている間に終わりますからね」
「ニケに生まれ変わっても、きっと貴女は美しいわ。応援してるわね」
「あうう!」
「ヘンゼルはカトレアとまた遊びたい。グレーテルもそう思っているわ」
「うん!また遊ぼうね!」
カトレアはこんな日になっても、笑顔を絶やすことはなかった。本当に強い子だ。
「行くぞ。私も同行する」
「忙しいのではなかったの?」
「ニケの製造は私の専門分野だ。これ以上の適任もいないだろ?」
「……それもそうね」
審判の時が迫っている。
───
進捗に関しては、何も問題なく進んでいた。元々適正の高いカトレアは量産型ではなく特化型。言わば異例のフェアリーテイルモデルとして生まれ変わることが決定した。
私の立場もあるが、エイブも色々と取り合ってくれていたらしい。
本当に私は良き友人に恵まれた。
「大丈夫よ、カトレア」
ああ、私はなんて最低な親だ。自分の娘に未来の責任を押し付けるなんて。
カトレアは言っていた。自分がニケになったら、沢山の人を救いたいと。
ならば、その願いを叶えることがせめての親の務めだろう。
私は、娘の身体にある装置、そしてメモリーデータを埋め込んだ。
「……これが精一杯ね」
もしかしたら、娘は私のことを忘れてしまうかもしれない。けど構わない。こんな最低な親は、この子が今後生きていくためには不要な記憶だ。
「貴女という子供を持てて、私は幸せだったわ」
カトレアが入ったカプセルに手を当てる。
ニケになった影響か、カトレアの髪は黒く染まっていた。
「じゃあ、行くわね。…………愛しているわ。私の最愛の子」
カプセルに背を向け、私は部屋を出た。
ああ、でも。最後にこの子を抱きしめられなかったのは、心残りだ。けれどもうそんなこと後の祭りだ。
さあ、私も最後の落とし前をつけるとしよう。
───
「ルミナス!カトレアは大丈夫でしたか!?」
レッドシューズは、私に慌てて駆け寄ってきた。そんな様子を見ていると、彼女もまた、本気で人類の幸福を考えていたのかもしれない。
「ええ、問題ないわ」
だからこそ、こんな結末になってしまい、残念で仕方がない。
「あぁ……よかったです。でも、これからが楽しみですね!」
「本当にそうね」
レッドシューズに抱きつく。
「あら?もしかして不安になっちゃいました?よしよーし。心配いりませんからね」
鼓動が速い。でも、恐怖は不思議と感じない。
「ねぇ、姉さん」
「はい。どうしましたか?」
「きっと、あの子は素晴らしいニケになるわ」
「ええ、勿論ですよ。貴女の子供なんですから」
ゆっくりとポケットから一つの装置を取り出す。
「うん。だからさ」
私がゆっくりと解除すると、一つのボタンが見えた。
「地獄で、あの子の成長を一緒に観ようね」
「え?」
疑問に思っているレッドシューズの前で、私はボタンを押した。
瞬間、爆ぜた。
───
「はぁ……はぁ……!」
私は走っていた。何故か?たった今、別室で謎の爆発を確認したからだ。
しかもそこには、ルミナスとレッドシューズがいることが分かっている。
走って、走って、煙が見えていたが、私は迷わず部屋に飛び込んだ。
「ルミナスッ!!レッドシューズッ!!」
二人の名前を叫んだが、返事はない。
煙と金属のような匂いが部屋に充満していた。
最悪の事態が脳裏をよぎる。必死に打ち消しながら、私は煙を払い奥へと進んだ。
すると、一つの人影が見えた。
「……ッ!レッドシューズ!」
そこには、レッドシューズが倒れていた。
「おい!大丈夫か!?」
身体をゆすり、安否を確認する。損傷はあるが、十分修復が可能な状態だった。
「エイブ!大丈夫!?」
同じく様子を見にきたであろうシンデレラが、部屋に入ってくる。
「シンデレラ!お前はレッドシューズを運べ!!まだルミナスの安否が分からないんだ!」
「……ッ!?わ、分かったわ!」
シンデレラに一度レッドシューズを預け、私は部屋の捜索を再開する。
いくらなんでもおかしい。この部屋はそこまで広くない。レッドシューズが見つかったなら、ルミナスだってあっという間に見つかるはずだ。それなのに何故だ?
煙が外に出ていくのと同時に、金属の匂いが強くなっていく。
「なんだ……この匂いは」
そう言って壁に手を当てた瞬間、何か粘り気のあるものが手に触れた。
「うわっ!?さっきから一体何なん──は?」
手を見た瞬間、その色は赤黒く染まっていた。
「なんだ、これ……」
そして、煙が晴れて見えてきた景色は、惨状そのものだった。
「……あり得ない」
壁、床、天井、あらゆる場所に赤黒いナニカが飛び散っていた。
「嘘だ」
そして、ルミナスの姿はどこにもない。
ここから導き出される答えは……
「嘘だッ!!」
何故だ?どうしてこんなことになってしまった?敵襲?誤爆?
まさかアイツは……
「いや、あり得ない……」
アイツが自らの姉に手をかけるなんてことは……駄目だ、上手く頭が回らない。
「……クソが!!」
私以外、誰もいなくなった部屋で叫んだ。
───
あれから調査が入り、詳しい原因を調べたが、遺体が殆ど残っていなかったため、一体何故ルミナスだけが死ぬことになったのか、何故こんなことになってしまったのか、誰にも分からなかった。
「エイブ、大丈夫?」
「…………あぁ」
「ヘンゼルとグレーテルは、エイブが嘘をついてると思っているわ」
「うう……」
結局、ルミナスは爆弾による自殺ということになったが、フェアリーテイルモデルに危害を加えたとして、世間の混乱を避けるため公表されることはなかった。
「レッドシューズはどうだ?」
「……あまり変わらないわ。ずっと心ここに在らずって感じよ」
「そうか……」
無理もない。恐らく実妹が爆死する瞬間を目の前で見たのだ。精神的ショックを受けないはずがない。
「レッドシューズのテストは遅らせる。それと……」
「ええ、もうすぐね」
「あう、あうう」
間もなくカトレアが目覚める。果たして記憶がどこまで残っているか分からない。もし残っていたら、なんと伝えればいい?もし記憶が失われていれば、母親のことは伝えた方がいいのか?
「レッドシューズの所へ行ってくる」
「エイブ、一人で抱え込んじゃ駄目よ?」
「……分かってる」
ぶっきらぼうに返して、私はレッドシューズの元へ向かった。
「……レッドシューズ、居るか?」
彼女がいるはずの部屋の前に来たが、ノックをしても、声をかけても返答がない。
「入るぞ。いいか?」
この言葉にも返答はなかったため、私はドアを開けて中に入った。
「調子はどうだ?」
「……さぁ?良いとは言えないと思います」
椅子に座り、天井を見上げている彼女は、まるで別人のようだった。
「カトレアがもうすぐ目覚める。立ち会わなくていいのか?」
「……ああ、そう言えばもうそんなに経ったんですね。ええ、同行させてもらいます」
「……そうか。それと、あんまり深く抱え込むな。フェアリーテイルモデルであるお前がそんな状態じゃ、人類に悪影響だ」
「ふふっ。もしかしてそれ、慰めのつもりですか?」
「ああ、一応な。もう一度言うが、あまり──」
私が言い切る前に、いつの間にかレッドシューズは私の目の前にいた。
「面白くありませんね」
その一言だけを言って、私の横を通り過ぎて部屋を出て行った。
たった一瞬だけだったが、殺意を感じた。
───
起動シーケンス起動
身体的損傷 異常なし
各種機能 異常なし
機体名:名称無し 覚醒。
アナウンスの声が研究室内に響き渡る。
カプセルの中の液体が排出され始め、徐々にその姿を現していく。
「……」
全員、その姿をただ静観していた。
「……カトレア」
「その名前で呼ぶな。アイツは、もうカトレアじゃない」
「……そうね。ごめんなさい」
やがて、完全に排出が終わり、ボディが地面に横たわる。
幼子にしては妙に身長も大きい。恐らくニケになった影響だろう。
黄金色に輝いていた髪も、すっかり黒く染まってしまった。
「……おい」
軽くゆすってみるが、反応なし。
「起きろ」
声を出し、さらにゆすると反応を示した。やがて、その瞳が開いた。黒く染まっていた瞳は、今度は黄金色に変わっていた。
彼女は起き上がり、自分の身体や周りの景色を何度も見渡し始めた。
「耳は聞こえているな?」
その声に彼女は反応を示し、こちらを視界に捉えたようだ。
「私達が、分かるか?」
無垢な瞳に、私は恐る恐るそう問いかけた。
本編に入る前に、OLD TALESです。あんまり長くしてもあれなので、この話に関しては、前後半に分けます。
サブイベントや過去編はやってほしい?
-
欲しい
-
さっさと本編書け