『愛してるわ。私の最愛の──』
起動シーケンス起動
身体的損傷 異常なし
各種機能 異常なし
機体名:名称無し、覚醒。
「……」
どこか聞き馴染みのある声の後、機械的な音声が頭を駆け巡る。
やがて、宙に浮くような感覚がなくなっていく。身体を見ると濡れていたので、どうやら水の中に浮かんでいたらしい。
「……おい」
……誰だ? この声は自分を呼んでいるのか? 声のする方に顔を動かそうとするが、何年も付き合ってきたはずの身体なのに、ほとんど言うことを聞かない。
「起きろ」
いや、そうしたいのは山々だが、こっちも身体が動かないんだって!
無理に立ち上がらなくてもいい。せめて反応を示さないといけないと感じ、陸に打ち上げられた魚のように身体を震わせた。
すると、全身に血が通ったかのように身体が動かしやすくなった。
「……んっ」
よろよろと起き上がり、周りを見渡すと、少なくともそこは自分の見知った景色ではなかった。
そして、肝心の声がする方に顔を向けると──
「耳は聞こえているな?」
エイブがいた。
それ以上でもそれ以下でもなく、エイブがいた。
現実にいたんですね。いや、そんなわけないだろ!! 何これ夢!?
「私達が、分かるか?」
「……エイ、ブ?」
口が上手く回らないが、今の自分にはこう答えるしかない。しかも、声が妙におかしい。
「そ、そうか! 私が分かるか!」
何故嬉しそうなんですか……貴女と接点はないと思いますけど……ん? そう言えば私『達』?
エイブがいるとなると、あと誰がこの場に……
「おはよう」
「あうう」
いた。シンデレラ、及びフェアリーテイルモデル第二世代の面々が。
「ヘンゼルは目が覚めて良かったと思っているわ。グレーテルも目が覚めて安心と思っているの」
「おはようございます。私達も覚えていますか?」
ヘンゼルとグレーテル、そしてレッドシューズも。
「……」
絶句した。何だこの状況。夢? いや、それにしては意識だってこれほどはっきりしている。
ゆっくりと立ち上がり、一歩を踏み出そうとすると、肩を掴まれた。
「待て。せめてなにか着ろ」
そう言うと、エイブは自分の白衣を私に着せた。見ると、私は服を着ていなかった。しかも、どう考えても今の自分は元々の身体ではなかった。妙に幼く、スレンダー。周りを見ると置いていかれそうな体つきだった。
「あーあー」
声も妙に幼く、髪も全然違う。
「シンデレラ。鏡を見せてやれ」
「分かったわ。ほら、見えるかしら」
シンデレラの手鏡に映った自分に、二度目の絶句をした。
「……なにこれ」
年齢は、10代程度だろうか。艶のある黒髪、黄金色の瞳に整った顔立ちの美少女。どう考えても自分の顔じゃない。
「……今日はひとまず休め。明日から、記憶や身体の検査をする」
呆然としていた自分に、エイブが手を当てた。
「レッドシューズ。連れて行ってくれないか?」
「ええ、勿論です。それじゃあ、行きましょうね?」
彼女に手を引かれ、部屋を後にする。
「もう一度聞きますけど、私は分かりますか?」
歩いている途中、レッドシューズはそんなことを言ってきた。素直に答えていいものか……だって、レッドシューズは──
「別に無理をしなくても大丈夫ですよ? それにしても……貴女の可愛らしさが残って良かったです」
レッドシューズは私の頭を撫で、その手で私を一室に案内した。
「色々あって疲れたでしょう?今日はしっかり休んでくださいね?」
一人、部屋に残されてため息をつく。さて、ここからどうしよう。
椅子に座り、状況を整理する。
第二世代がいると言うことは、人類はアークには行っていない。つまりこの時代は、人類が反撃に出る相当前の時代だと言うことだ。
今ここで侵食の原因を断ち切れば、シンデレラの侵食も止められる。しかし、そのためにはレッドシューズを相手にしなければならない。
「……」
自分にできるか? ニケのボディ、しかも量産型では見たことないタイプ。間違いなく自分専用に作られたボディ。しかし、相手はフェアリーテイルモデル。まともに相手をしたらどうなるか。
「はぁ……」
話し合いで解決できる相手じゃない。それに、自分が彼女の研究を知っているとバレたら、何をしでかすか分からない。
「はぁ──はぁ──」
それに、もしも。もしも私が彼女を殺して、侵食を完全に抑えた場合、ラプチャーの動きが大幅に変わってしまう。恐らく生まれるはずだったものが生まれなくなり、未知の存在が現れてしまっては──
「駄目だ……考えがまとまら──」
息が妙に上がり、気持ちを整えようと椅子から立ち上がった瞬間だった。
「……うっ!? が、あっ!!??」
突如、激しい頭痛と動悸に襲われた。
「はっ、はっ、はっ」
息を吸おうにも上手く吸えない。痛みと焦りで視界がぼやける。
「たすけ──」
『莉悶?諢剰ュ倥↓縲∝?縺ョ莠コ譬シ縺ョ險俶?繧貞セゥ蜈?@縲∫オア蜷医@縺セ縺吶?
蛻・蟄伜惠縺ョ險俶?縲∽ソ晏ュ倥?よュヲ蝎ィ陬ス騾?蜿翫?縲√ル繧ア陬ス騾?蟾・蟄ヲ縺ョ謚?陦薙?∽ソ晏ュ倥?ょ?縺ョ莠コ譬シ縺ョ險俶?繧貞炎髯、縺励∪縺吶?』
「あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?」
頭が割れそうだ。身体が握りつぶされるかのように痛い。
それと同時に、自分ではない記憶が脳に刻み込まれていく。
どうして、どうして自分がこんな目に遭う? 今さっき目覚めたばかりだというのに、この仕打ち。ああ、忌々しい、忌々しい、忌々しい!!
それでもただ耐えるしかなかった。だって、それが最善だと感じたからだ。助けを呼ぼうにも声が出せない。ただ身体を捻らせて悶えることしかできない。
そんな時間を、果たしてどれだけ過ごしたのだろう?
10分? 1時間? 数十時間だってあり得るかもしれない。
それでも耐え続けた。耐えることができたのだ。それは何故か? 自分のではない記憶が入ってくる度に、この世界への興味が湧いてくる。自分なら結末を良くできる。自信過剰な自分をおかしいと感じても、止めることができない。
「そうだ。『私』は」
ならば、この身体に身を委ねよう。この身体をこの世界の救済のために捧げようではないか。
痛みで震えていた身体は、いつの間にか何事もなく動いていた。頭も、まるで生まれ変わったかのように冴え渡っている。
「……酷い顔」
部屋の隅に置かれた鏡で自分の顔を見る。瞳は赤く染まっていた。
ニケと呼ばれる者達にとって最大の脅威であるはずの侵食を、今まさに私は受けていた。
しかし、意識を持っていかれるようなことはない。瞳を閉じて「消えろ」と念を送れば、瞳は黄金色に戻っている。
つまりオンオフ自由。私自身でコントロールが可能だということだ。
設計は既に頭に入っている。少し怖いが、ひとまずこのまま利用させてもらおう。
そんなことを考えながら、私は一人で部屋を出た。
───
長い廊下を通って、私は再度自分が目覚めた研究室の前に立っていた。
「エイブ」
中に入り、画面と睨めっこをしていた彼女を呼ぶと、肩を震わせた。驚かせてしまったらしい。
「お前……勝手に部屋から出るなとレッドシューズから聞かされていなかったのか!?」
「そんなこと、聞かされていません」
そう言うと、エイブは自身の手を顔に当てた。
「……はぁ、全く。まぁいい。随分と口が達者になったみたいだな」
「ええ、記憶の整理ができたみたいです」
「そうか。ならば少し早いが検査を終わらせるぞ。ついてこい」
そこからエイブの後に続き、様々な検査をした。身体的検査、五感の正常性、そして何より記憶の状況。
「成程。私やシンデレラ達との接点はないが、名前や顔の記憶は残っているんだな?」
「ざっくり言えばそうです」
「そうか……お前、自分の母親のことは覚えているか?」
母親。そりゃこの身体の元となった人間にも親はいる。しかし、どれほど記憶を探っても、それらしき記憶は出てこない。
「分かりません」
「……分かった」
「あの、私の母親って」
「爆死。自殺だ」
自分の実親が死んだことを伝えられても、特に強い衝撃は感じなかった。本当に記憶からなくなっているのだろう。にしても、中々酷い死に方だ。
「貴女達と私にどんな関係があったのかは知りませんが、少なくとも名前や顔は分かります。ですが、家族の記憶は覚えていません」
「レッドシューズもか?」
何故ここでレッドシューズの名前が出る?
「あの、私と彼女って何か関係が?」
「お前の母親は、レッドシューズの実妹だ。つまりお前はレッドシューズの姪にあたる。これも思い出せないか?」
この事実には流石に驚いた。本来、レッドシューズに姉妹は存在しない。これだけで、この世界がおかしいと感じた。
「はい。それも分かりません」
レッドシューズと過ごした記憶なんて思い出せるはずもなく、素直に口にした。
「分かった……それと、お前に伝えておいた方がいいことがある」
改まったエイブに、私は首を傾げた。
「お前の今後についてだ。お前の母親が自殺したという話はしたな?」
「はい」
「調査書によれば、お前の母親はレッドシューズとともにいた。そして爆発物を点火させた。レッドシューズを殺すために、と」
殺す? 自殺ではないのか?
「アイツとレッドシューズが共に心中することはあり得ないと上が決めたんだ。レッドシューズは人類の重要な戦力になる。あらぬ噂が起こらないように、お前の母親にヘイトを移した」
自分の母親が本当にレッドシューズを殺そうとしたかどうかは不明だが、彼女の本心を知ればあり得る話だ。つまり、私の母親は深く入り込みすぎたというわけだ。
「そして、そのヘイトは今度お前に集まり始めている」
「……」
「お前の製造の時もアイツは関与していた。レッドシューズを殺しかけた研究者が、自分の子供に殺しを託している……そんなふざけた理由だ」
「貴女は、私の母親を信用しているんですね」
「当たり前だ。アイツとはずっと同期だ。お前という子供がいて、後先考えずに殺人に走るような奴じゃないのは知っているからな」
真相は分からないが、私の母親が侵食の研究に関わっていた疑惑が生まれる。そうなると、私の侵食も母親が仕込んだのだろうか?
「今、お前に一つの作戦が来ている」
そう言ってエイブは画面を私に見せた。
「……この軍勢に、たったこれだけの人数で?」
それは、戦ったことのない私が見ても、どう考えたって無謀とも言える特攻作戦だった。
「お前は量産型ではない。戦力となるお前をただ処分するより、使い潰した方が効率的だと奴らは考えたんだろうな」
相変わらずの上層部に、思わず溜息が出てしまう。私だけならまだしも、作戦という名目にするために集められた他のニケ達が不憫でならない。
「今、奴らと掛け合っている。こんな無謀な作戦──」
「やります」
「……なに?」
「だから、その作戦に参加します」
そう言うと、エイブに胸ぐらを掴まれた。
「ふざけるな!! 死にに行くようなものなんだぞ!?」
「命令ですから。それに、私一人のせいで貴女に迷惑を掛けたくありません」
彼女の本質は知っている。とてもニケを大切にする人だと。だからこそ、私はいかなければならない。
「要は生き残って帰還すれば良いだけの話です。安心してください。私もフェアリーテイルモデルの端くれなら、これぐらいこなさなきゃでしょ?」
徐々に私を掴む手の力が弱っていく。
「……親が親なら、子も子だな」
そう言って、エイブは私から手を離した。
「深追いはするな。アイツに笑われるような死に方はやめろよ?」
「勿論です。それで、作戦はいつ始まるんですか?」
「……三日後だ」
「そうですか。なら、準備しないといけませんね」
今後のためにも実戦練習は必要だろう。練習で死んだら元も子もないわけだが。
「……お前の名前をまだ登録していない。一応聞いておくが、要望はあるか?」
「要望……」
自分の名前を自分で決めるという何とも不思議な感覚だが、あたりを見渡しながら考える。すると、一つの名簿表が目に留まった。
「ルミナス」
「……!」
そうだ。これにしよう。
「けれど『ルミナス』だけじゃ味気ないので、『ルミナスムーン』なんてどうですか?」
「……分かった。申請しておく」
「はい。お願いします」
こうして、私の初作戦が始まった。
───
時間はあっという間に過ぎて、いよいよ当日を迎えた。
「あの、わざわざ全員で見送らなくても……」
私の前には第二世代が全員いた。
「貴女の初舞台なのよ? 見送らなきゃいけないと思わない? でも、まさか私達より貴女が先なんて、少し複雑よ」
「うあ、がんば……って」
「ヘンゼルは羨ましいと思うわ。グレーテルは無事に帰ってきて欲しいと思っているの」
「うん。ありがとうございます」
双子の頭を撫でて、ライフルを担ぐ。
「行ってきます、レッドシューズ」
「はい! 無事に帰ってくることを願ってますね!」
今度は頭を撫でられる。今後を考えると彼女は許されないが、今動くわけにはいかない。
「行ってきます、エイブ」
「ああ、ゴッデスだって驚かせてやれ」
「了解。ルミナスムーン、出撃します!」
さあ、初陣と行こう。
───
地上へ立ち、他部隊のニケ達と合流すると、さっそくポイントへ急行する。
「私が注意を引きます! 貴女達は後方からお願いしますね!」
私は飛び出し、ライフルを構える。初めて持ったはずなのに、不思議とどうすれば良いのかは既に頭に入っている。
「市民は速やかに退避してください! 向こうには近づかないでください! ニケの射線に入ります!」
周りに声をかけ続けながら、目の前のラプチャーに引き金を引く。放たれた弾丸はコアを貫通し、ラプチャーは爆発を起こす。
「ここはお任せください! 兵士さん達は速やかに市民の避難を!」
「わ、分かった! 援軍に感謝する!」
こんな救助作戦をしているが、実はまだ本命の作戦目的ではない。あくまで道中の戦闘だ。
「状況終了。すぐに移動しますので、今のうちに準備をお願いしますね?」
ラプチャーの全滅を確認し、素早く弾を込める。
「来たか。好都合だ」
対象は、こちらに移動していた。恐らくこの戦闘を感知したのだろう。
「き、来ますッ! エンカウンター!」
一人のニケが叫ぶと、ビルを崩して巨大なラプチャーが現れた。
先程と同じで、まず私が先陣を切り、ラプチャーに先制を仕掛ける。
しかし、分厚い装甲は弾丸一つでは貫通しない。
「硬いな……」
ミサイルを潜り抜け、ビルの残骸に身を隠す。
「脚の関節部分を狙ってください! 装甲は硬すぎて貫けません!」
通信にそう叫び、私自身も再度攻撃を仕掛けようとした瞬間、私の周りにラプチャーが集まってきた。
「……ッチ。面倒な」
集中砲火を瓦礫の隙間を走り抜けて掻い潜り、一機、一機、確実に潰していく。
しかしここで、引き金を引いても弾が出なくなっていた。
「くそ、弾切れか……」
まだ数体のラプチャーがこちらを狙っていた。補給をしようにも、コイツらを向こうに連れていくわけにはいかない。
仕方ない……
「邪魔だアアア!!」
私は目の前のラプチャーに思いっきり拳を振った。
装甲はグシャっと若干抉れた程度だったが、これではまだ足りない。
「ふんっ!」
私はラプチャーの頭上に登り、足蹴りを放つ。
バランスを崩したラプチャーが瓦礫の山にぶつかり、轟音が鳴り響く。
「さっさと、壊れろ!」
動くことができないラプチャーに私は何度も拳を振り上げ、装甲を破壊していく。
周りのラプチャーはそんな私を逃すまいと照準を定め、ミサイルが放たれる。
「邪魔」
手を広げると、その中からオイルのような黒い液体状の物が私の腕を素早く進み、大きさを増していく。
「よっと」
私の身体の3倍以上の大きさとなったそれは、放たれたミサイルを水に落としたかのように包み込む。
「返すよ」
振りかぶり、ミサイルをラプチャー側へ向けて投げ飛ばす。そのまま狙われたラプチャー達に命中して爆発した。
「雑魚が、面倒事を増やすな」
コアが露出した動けないラプチャーに今度は液体を尖らせてそのまま突き刺し、ようやく動かなくなった。
「はぁ……ふぅ……」
残骸を目の前にして息を整える。砕けたガラスを眺めると、瞳が赤かった。
「人前では使えないな」
瞳を閉じて黄金色に戻す。
初めて使ったが、あの黒い液体のような物は何なのだろう? 自在に動くし、意志があるかのように私を守った。ナノマシンとかそういう類のものなのだろうか?
「……急がないと」
まだ仕事は残っている。投げ捨てたライフルを回収して、私は部隊の方へと急いだ。
───
「……づがれだ」
地面に寝っ転がり、深呼吸をする。体重が何倍にも膨れ上がったかのようだ。
あの後、現場に戻りラプチャーを撃退することは出来たが、犠牲者を出さずに済ませることは出来ず、おおよそ部隊の三分の一が犠牲になった。
「床で寝るのは美しくないわ」
「私の勝手でしょ? はぁ……」
私はぶっきらぼうにそう答えた。第二世代との交流を通じて、私は少しずつ本音で言葉を言えるようになっていた。
「そう落ち込むな。お前が来なかったら全滅していた可能性すらあったんだからな?」
「そうですよ。初陣にしては上出来です」
確かにそうかもしれない。けれど、改善すべき点があまりにも多すぎた。やはりイメージトレーニングだけでは限界がある。
「戻る」
自室に帰る途中、通信機が鳴った。
「はい、こちらルミナスムーン……はい。了解です」
通信を切って、空を仰ぐ。
「やれやれ。仮眠すら取らせてくれないのか」
そこまでして私を追い出したいらしい。まあ、いい。それなら全力で応えてあげよう。
そこから私は任務の毎日だった。帰還して、休む間もなく戦場に駆り出される。
一人、また一人、援護はいなくなり、遂には誰も付き添う者はいなくなった。
「私、そんなに邪魔?」
侵食を受けているという事実を知らなければ中々の戦力になると思うが、上の人間は一体何を考えているのやら。
すぐに終わると思っていたはずなのに、淡々と任務をこなし、確実に戦果を上げて帰還してくる私に、上層部も扱いに困り始めていた。
毎日、毎日、毎日毎日毎日毎日、どれだけ戦場へ送っても私は帰還した。そしていつしか妙にあだ名がついてしまった。
「酷くない?」
「何がだ?」
「あだ名だよ! あだ名! 何、『怪物』って!」
「それだけお前の戦績が異常ってことだろう。誇ることじゃないか」
そうかもしれないが、うーむ……なんとも複雑な気分だ。
「ねえ、結局行くの?」
「うん。命令なら仕方ないね」
「貴女の戦う姿は、とても華麗で美しいわ。でも、いつの間にか先を越されてしまっていてつまらないわ」
「文句を言うなら上層部へどうぞ。私が決めてるわけじゃないんだ」
あの後、私の扱いに困った上層部は、私をゴッデス部隊に配属するという暴挙に出た。表から見れば大変名誉なことなのかもしれないが、実際は私を取り扱える人材が見つからず、結局一番成果を上げられているゴッデス部隊の指揮官に放り投げようという考えなのだろう。
「ヘンゼルは寂しいと思っているわ。グレーテルは遊び相手がいなくなってつまらないと思っているけど」
「別に今生の別れじゃないんだから、再会したら今度は思いっきり遊ぼう。ね?」
「……うん」
グレーテルが頷き、私は二人を抱きしめた。
「セイレーンも、またね」
「うあ……元気で、ね」
セイレーンの頭を撫でる。
「寂しくなりますね。向こうへ行ってしまったら、会うことが出来なくなりますから」
「……そうですね」
レッドシューズの笑顔の裏では、果たして私にどういう感情を向けているのだろう。
結局、私は最後まで彼女を殺すようなことはしなかった。それが正しい判断なのかは分からない。けれど、下手な独断は破滅への一本道となる。この世界を改変する上では、やはり彼女の行いも計画に入れるしかない。
「エイブ、ありがとう」
「ああ、お前を信じてる」
「ありがと。それじゃあ、ルミナスムーン、出撃します!」
そうして私は改変への一歩を踏み出したってわけ。
───
「今思ったら、U.N.I.S.O.Nを作ったのも私の母親だよな」
懐かしい思い出を整理しながら、私は険しい雪道を進んでいた。
エデンの建設が始まって、既に100年の時が過ぎていた。
当然それまで様々な出来事があり、一言では表すことのできない濃密な100年だった。
こんな長期間を過ごしていれば思考転換は避けられなかった。記憶の保持など対策は講じたが、全ての記憶を守ることは出来なかった。
「にしても、険しすぎる……こんなことなら、一度スノーと下見に来れば良かった……」
愚痴を言いつつも、内心は心躍っていた。いよいよだ。ここまで長かったが、遂に私は本編へと追いついたのだ。
「スノーと合流、それから……おしゃべり野郎に挨拶しないとね」
装備を背負い直して、私は再びさらに北へと進み始めた。
OLD TALESはこれで終了です。今後ストーリーに動きがあったら、追加で書くかもしれませんが、ひとまず次話から本編に入ります。(やったー!)
サブイベントや過去編はやってほしい?
-
欲しい
-
さっさと本編書け