満月を抱きしめて   作:岬すみれ

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あはっ あはっ (文字数が)こんなになっちゃった......... たはは
なっちゃったからにはもう...ネ...


最善の負け戦を

 

「降下ポイントに到着した」

 

早朝、私達は現在、目的地であるエリシオン第3ニケ研究所の上空にいた。

 

「全員、パラシュートの用意はいいか?」

「当然です」

「座標も覚えているな?」

「はい、問題ありません」

 

ドロシーとラプンツェルの言葉に、心臓の鼓動が狂ったように跳ね上がる。

 

「よし。では、準備が終わった者から降下を開始」

 

いよいよ作戦が始まる。自ら死に向かうような戦いの筈なのに、不思議と恐怖はあまり感じない。

 

「先に行きます。みんな、あとでね」

 

先陣を切ったのはリリスだった。けれど、彼女はパラシュートも持たず、そのまま空にその身を投げ出した。

 

「相変わらず、規格外なニケだよね」

 

もう全部彼女に任せておいたらいいのではないかと、そう思ってしまう。だが、そんな彼女においてすら、避けられない事象がこの先に待っているのだ。

 

「……さてと」

 

リリスは……まぁ、今は大丈夫だろう。今、私が注力しないといけないことは──

 

「スノー」

 

ちょうど降下を開始しようとした、スノーホワイトの足が止まる。

 

「……何ですか?」

「悔いを残さないようにね」

「……え?」

「それだけ。じゃ、お先」

 

私は地面に向かって、その身を投げ出した。

 

激しく降下し、地面を踏みしめる。その瞬間、無数の赤い目が私を認識した。

 

「邪魔だ。どけ」

 

やはりと言うべきか、私の警告なぞ関係なしに、ラプチャー達の機銃が私に向けて発砲される。

 

「エンカウンター!!」

 

弾幕の嵐の中に私は飛び込み、目の前にいた小型ラプチャーの装甲を蹴りつける。

 

「お前ら全員、皆殺しだ」

 

バランスを崩したラプチャーを盾にして、手持ちのスナイパーライフルをその赤い目に打ち込んでいく。

 

『対空砲を確認!!』

 

リリスからの通信が入ったのは、僅か数秒後のことだった。

 

「くそ……次から次へと!!」

 

無限にも思える相手の兵力を前に、思わず舌打ちしてしまう。

だが、癇癪を起こしたところでどうしようもない。すぐさまリロードを挟み、また戦場へと飛び込む。

 

「たった一人に、こんな過剰な戦力を費やすなんて恥ずかしくないの?」

 

四方八方から向けられる銃口を、確実に一つずつ減らしていっている筈なのに、終わりは一向に見えない。

弾薬も無限ではない。まだ調整もままなっていないが、例のシステムを使用した。

 

周りに他の人間やニケがいないことを確認し、私はゆっくりと目を閉じる。

戦場において自殺行為とも言えるその行動を、ラプチャー達が見逃すはずがない。すぐさま私に襲いかかる。

 

「同調…………発動」

 

眼球が赤く染まると同時に、頭に無数の針が刺さったかのような激痛に襲われた。それと同時に、目の前にいるスクラップ共への憎悪が膨れ上がる。

 

「ぐっ……がぁぁ!?」

 

頭が割れそうだ。今、この瞬間に死ねと言われたら、その選択肢を選んでしまうかもしれない。

だが、目の前の敵を消す。目的はただそれだけだと自分に言い聞かせる。痛みを憎しみに変え、足を振り上げて地面を叩いた。

 

地面は最初、ただ隆起しただけに過ぎなかった。だが私の足を中心にして、タール状の黒い液体が地面を激しく飲み込んでいく。

ラプチャー達は、一人のニケが黒い液体を放散したところで気にも留めない。一匹のラプチャーの脚が、その液体に触れた。

 

「……死ね」

 

刹那、その液体は黒い槍の様なものへと変貌し、ラプチャーの装甲を貫いた。

一体何が起きたのか、そんなことをラプチャー達が考える余地はない。既に液体は至る所に侵食しており、回避行動は間に合わない。

何百、何千、何万という黒い槍が、針山の様にラプチャーの体内を突き刺していく。

 

「殺す。殺せ」

 

辺りの音が少し静まり返った時、私の瞳は赤から金色に戻った。

 

「はぁ、はぁ……やっぱ、長時間の使用は無理か……」

 

立ち上がろうにも、足が上手く動かない。

辺りを見渡すと、生物と金属が混じった肉塊が、そこらじゅうに転がっていた。

 

「うわ、グロい……」

 

嗚咽しそうになるのを堪えて、クールダウンしながら通信を入れる。

 

「指揮官。こちらルミナスムーン、周辺のラプチャーを殲滅しました」

『流石だな。よし、私はリリスと合流してから研究所に向かう。お前もそのまま研究所に向かってくれ』

「了解しました」

 

通信を切ると、足の感覚が徐々に戻ってきたのを感じた。

 

「じゃ、さっさと行っちゃお」

 

再び地面を蹴り上げ、私は次の戦場へと向かった。

───

「おい! 応援はまだ来ないのか!?」

「駄目です……既に救援のニケは全滅してます!!」

 

私は、地獄にいた。

 

「くそ……ならば、私達だけでやるぞ!」

「む、無謀です!! 戦力差があまりにも──きゃあ!?」

 

突如、私の背後で爆発が起こる。

振り向くと、私の何倍もある巨体がコアを唸らせ、こちらを覗き込んでいた。

何が起こった? 背後にいたニケ達はどうなった?

 

「……チッ! おい! 体勢を立て直──」

 

瞬間、私の隣にいたニケの頭が弾け飛んだ。たった今言生きていた仲間が、ただの鉄の塊になってしまった。

 

「あ、あぁ……ああ……」

 

認めたくない。あり得ない。今日が最期?

 

「……ふ、ぅう」

 

戦わないといけないのに、震えが止まらない。銃口を仲間の仇に向けることが出来ない。

 

「た、助け──」

 

命乞いをしても、ラプチャーは無情に私に照準を合わせていた。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

絶叫し、まともに目も開けずに、私は震える手で引き金を引いた。

最早、あれだけ激しかった銃撃戦の音も聞こえない。終わりだ。蜂の巣になるのはどちらかなんて、答えるまでもないだろう。

 

なのに、覚悟していた痛みはやってこなかった。

 

「あ、れ?」

 

ゆっくりと再び瞼を開けると、私を殺そうとしていたラプチャーは、無残な鉄屑と化していた。

 

「ふぅ、ここにも生存者発見。危なかったね、君?」

 

そのラプチャーの装甲を抉っていたのは、私と背丈の変わらない一人のニケだった。

 

「あ、ありが……」

 

お礼を言おうにも、恐怖で口が上手く動かない。

 

「君、損傷も激しいし、これ以上は無駄死にになる。すぐに撤退することを推奨するよ」

 

彼女は何事もないかのように、ラプチャーの残骸を調べている。

 

「あ、あの! 貴女は……」

「私? 私は……まぁ、ゴッデス部隊のお手伝いさんって所かな?」

 

ここで彼女の通信機器に連絡が入ったようだ。忙しなく動いたかと思ったら、その場で何かを考え始める。

 

「はぁ、もっと早く来ていれば……」

 

やがて、自分の装備を回収して彼女は去ろうとした。

 

「あ、あの!」

 

何を思ったのか、私は彼女を呼び止めていた。

 

「ん? どうかした?」

 

「あの……お名前を伺ってもいいですか?」

 

その一言に、彼女は一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「ルミナスムーン……私に援護してもらったってことは、あんまり周囲に言わない方がいい。……まぁ、分かるよね?」

「やっぱり、貴女は……むぐ!?」

 

ルミナスムーンは私の口を指で押さえ、自らの唇に反対の指を当てる。

 

「ここで会ったことは秘密、ってことで。多分『私に会った!』なんて言ったら、上官は嫌な顔をすると思うから……」

 

そう言い残し、彼女は軽く手を振ると、地面を蹴って風のように消えていった。

 

いつの日か聞いた彼女の噂、それは決して良いものではなかった。

けれど、目の前にいた彼女は、間違いなく女神だったのだ。

 

「なんだ……やっぱり、噂なんて当てにならないや」

 

しかし、私は気づくことはできなかった。去り際の彼女の目の色が、一瞬だけ赤く染まっていたということに。

───

「作戦は、例の融合体を引き渡した後、すぐに開始する」

 

現状確認のブリーフィングの後、遂に軌道エレベータへ突入する作戦が立案された。

皆の反応はまちまちだが、まだ希望を失っていないように思える。

だが、この作戦が人類の歴史において大きな汚点になることを、今はまだ誰も知らない。

 

ブリーフィングが終わり、各自の準備に取り掛かると、私は真っ先に向かう場所があった。

 

「スノー? ちょっといい?」

「あっ、はい。どうかしましたか?」

 

スノーの周りには、相変わらず数多くの部品が散らばっていた。

 

「いやー、ちょっとスノーに装備の作成を頼みたくてさ」

「……え?」

 

私の発言に、スノーは拍子抜けした声を出す。

 

「何? 私がスノーに依頼するのが不思議?」

「だ、だって! ルナはいつも自分の装備は全て自分で作成するじゃないですか!」

「まぁそうだけど……ほら、たまにはスノーの意見も聞きたいからさ」

 

そう言って、私は強引にスノーの隣に座る。

 

「あっ……」

「私はスノーと喋りたいんだ。駄目かい?」

「ち、近いです! わ、分かりましたから!」

 

こうしてしばらく共同で作業を行い、スノーの警戒を少し緩めた所で本題に入る。

 

「ねぇ、スノー? レッドフードとは話したかい?」

 

その一言で、スノーの作業する手がピタリと止まる。

 

「……はい。でも、会っただけで、会話なんて殆ど……」

「そっか、うん。今はそれで十分だろう」

 

レッドフードの侵食が深刻化しているのは、私から見ても明らかだった。そしてその時、スノーが逃げ出したことも。

 

本当に、この世界は幼い心にどれほどの苦難を与えるつもりなのだろう。

 

「あの、ルナ?」

「ん? どうかした?」

「あの……ルナもいつか、私の前から消えちゃうんですか?」

 

私を見つめるスノーの目は、どこか震えている。

 

「それは、どうして?」

「だって、侵食が発覚して、あんなに強いレッドフードですら、簡単に……」

「うん。そうだよね」

 

スノーを不安にさせないためには、ここで「死なない」と言うべきなのかもしれない。けれど。

 

「スノー、申し訳ないけど、私も絶対に死なないとは言い切れない。そりゃあ、死なない用意は万全にするつもりだけど、ここは戦場だ。私達が想像もつかないような事態になることだって十分あり得るんだから」

「……そう、ですか。はい……そうですよね」

 

スノーは袖で目元を拭うと、休めていた手を再び動かし始める。

 

「ごめんなさい。作業、再開しないとですね」

「うん。分かった」

 

ごめんね、スノー。今は、下手に言葉をかけるわけにはいかないんだ。

 

「じゃあ、スノー。こうしよう」

 

でも、これくらいはいいだろう。私はスノーに対して小指を向ける。

 

「私達が必ず生き延びるっていう約束を」

「でも、絶対はないんですよね?」

「うん。でもさ、ほら。この約束をしたことによって、これから運命が良くなるかもしれないよ?」

 

私が小指を差し出し続けると、スノーはやがてそれに応えた。

 

「約束、ですからね?」

「うん。約束だ」

 

指を離すと、不思議と先ほどより空気が軽くなった気がした。

 

「さて、作業進めないとね」

「あっ……はい!」

 

負け戦でも、死ねなくなっちゃったな。

───

「高度維持! 速度を落とすな! なるべく深く切り込むぞ!」

 

覚悟は十分出来た。私はスノーに作成してもらったショットガンを携え、逆噴射装置を取り付ける。

 

「おいおい。何先陣切ろうとしてるんだよ」

 

私の肩をグイッと引っ張ったのは、レッドフードだった。

 

「別に、そんなつもりはないですよ。なんたって、今日は貴女の晴れ舞台なんですから」

「ふぅん……よく分かってんじゃん」

「レッドフード!」

「ほら、愛しのスノーが待ってますよ?」

「あぁ、そうらしいな。よし! 行くぜ!」

 

そう言って、スノーとレッドフードは飛び降りた。

 

「フゥ───よし」

 

さぁ、ひと暴れしてやろう。私も二人に続いて飛び降りた。

 

既に二人が雑魚共を掃討してくれていたが、相変わらずラプチャーの勢いは止まらない。生き残りが、私に照準を向けてくる。

 

「本当、何処からでも湧いてくるよね!」

 

弾丸が幾度となく顔を掠める。

 

「二人とも! 逆方向から増援!」

「了解!」

 

空中で何度も何度も体勢を変え、確実にラプチャー達を無力化していく。

 

「地面が近いです!」

 

スノーの言葉に、私は逆噴射装置を起動した。

 

「あっ、これ絶対激突する」

 

そう呟いた瞬間、私は地面と衝突した。

 

「くそ、二度とやらんぞ……」

 

文句を一言。すぐに体勢を整え、ライフルからショットガンに持ち替える。

 

既に地上での戦闘は始まっている。

 

「敵発見、ビーム式モデル!」

 

ドロシーの言葉通り、巨大なラプチャーが立ちはだかった。

 

紅蓮は刀でビームを切れないか試したがっていたが、ラプンツェルに止められる。そして、彼女が持つ杖から放たれたリングがビームの軌道を逸らし、その隙を見て紅蓮がラプチャーを一刀両断した。

 

「流石、人類の希望……!」

 

目の前で巻き起こる、本物のゴッデス部隊の戦闘。こんな状況じゃなきゃ、もっとまじまじと見ていたい。

 

「……ん?」

 

ふと、空が一瞬暗くなった。

 

「!? 上空に警戒!!」

 

私の言葉より早く、それは頭上から現れた。そのラプチャーは、人間を模したかのように細く、人の四肢のような部位を私達に向けていた。

 

「こいつは……」

 

紅蓮がその正体不明のラプチャーに構え、斬りかかろうとした瞬間、ラプチャーは棘のような物体を射出した。しかし紅蓮は迷わずに突っ込もうとする。

 

「まさか……!!」

 

それを見た瞬間、悪寒が走り、私は迷わず紅蓮の懐に飛び込んだ。

 

「何を……!」

 

紅蓮を捉えるはずだった棘は標的を外し、瓦礫に突き刺さった。

 

「すみません、紅蓮! 指揮官!! あのラプチャーの相手は私がします! 皆さんは前方のラプチャー達の対処を!」

「おい! 待てルナ!!」

 

指揮官の制止も振り切り、私は正体不明のラプチャーにショットガンの弾丸を何度も浴びせる。

 

「お前、何者だ?」

 

ラプチャーが答えられる筈もないのに、私は目の前の敵にそう問う。

 

「お前のようなラプチャーは、本来存在しないはずだ」

 

再びショットガンを構えると、ラプチャーは再び棘を飛ばしてくる。

 

「あの棘、いや、そんなはずは……」

 

私の知っている限り、現時点で侵食を誘発する大型ラプチャーはウルトラしかいないはずだ。

 

「なら、ますますお前を見逃すわけにはいかない」

 

私が飛び上がると、その隙を逃す筈もないラプチャーは、空中の私に向かって容赦なく棘を飛ばしてくる。

 

「そうやってくると思ったよ!!」

 

私は身体を回転させて棘を躱し、ラプチャーの脳天に着地する。

 

「死ね」

 

ラプチャーは自分の頭上に乗っている私に棘を向けようとするが、もう遅い。赤く光るコアに、私は弾丸を何十発も撃ち込んでいく。既に普通のラプチャーなら何十体も吹き飛ぶレベルの弾丸を、容赦なく浴びせ続ける。

 

『ガ──ガ──』

 

最期に何か言葉にならない声を呟いていたが、既に撃ち続けた箇所は後ろの地面がはっきり見えるほど抉れており、ラプチャーは完全に機能消失した。

 

「何だったんだ、コイツは……?」

 

私の知っている限り、こんな大型のラプチャーはこの作戦に現れないし、こんな人のような姿をしたラプチャーは見たことがない。

 

「まさか、改変の影響か? いや、今は考えてる暇はないな」

 

リロードを完了させ、みんなの元に戻ろうと振り返ったら──そこには腕を組み、ゴッデス部隊のみんなですら顔を逸らすようなリリスの笑顔があった。

その笑いは、何か喜ばしいことがあったわけではない。怒りだ。

 

「ルナ?」

「……は、はい!」

 

その一言で、私の身は一気に縮こまった。

 

「ねぇ、どうして一人で勝手に行っちゃったのかな?」

 

人の笑顔が怖いなんて経験は、今日が初めてだった。

 

「それは、その……未知のラプチャーが現れて……」

「ふぅん。でも、みんなと協力することもできたよね?」

「えっと、この中で今一番特攻できるのは私だと思いまして……」

 

その一言に、リリスは深いため息を吐いた。

 

「ルナ?」

「はい……」

「次は、絶対に一人で行かないこと。いい?」

「はい、分かりました……」

「本当にわかってる? あなただって、私の大切な一人なんだからね?」

「はい、心に誓います……」

「よろしい♪ じゃあ、みんな行こっか?」

 

リリスは何事もなかったかのように進み始め、その後ろを全員が付いていった。

 

「アタシ、思わず目を逸らしちまったぞ……」

「あぁ、大事な作戦の前なのにチビる所だった」

 

指揮官が冗談を言いながら私の横を通り過ぎ、レッドフードに腕を引かれて私は立ち上がった。

 

「なぁ、ルナ? お前がアタシより先に死ぬなんてなしだからな?」

「それは保証できない」

「おい、そこは素直に頷いておけよ〜」

 

決戦を前にしているというのに、レッドフードは相変わらずの調子だ。

 

「ねぇ、レッドフード?」

「ん、どうした?」

「身体は大丈夫?」

「何だよ急に。こんな大事な時に『休ませてくれ〜』なんて言えるわけないだろ?」

「そっか……うん、そうだよね」

「まぁ、この戦いが終わった後は何も保証出来ねぇけどな」

「……そっか」

「おいおい! 大事な時なのに、そんな湿っぽくなるなよな? ほら、さっさと行こうぜ?」

「はいはい、了解」

 

私達は、いよいよ軌道エレベータ付近に接近する。

───

「状況終了」

 

リリスの言葉で、私は銃を降ろす。

 

「ふんっ。奇襲じゃなきゃ大したことないな」

 

エレベータに向かう間、ウルトラとの戦闘もあったが、そこは問題なく対処して軌道エレベータの前まで来ることができた。

 

「指揮官。宇宙服は問題ありませんよね?」

「あぁ、宇宙服を着られると思うと昨日からワクワクして眠れなかったよ」

 

リリスの質問に、指揮官はおちゃらける様子を見せていたが、私の手は少し震えていた。

 

「うっ、眩しい……」

 

レッドフードの一言で、やはり来てしまったのかと察する。

やがてレッドフードが指を指した方向を見ると、そこには人影があった。

 

「新種のデコイでしょうか? 制空権は諦めたのかと思っていましたが、考えを改めたようですね」

「デコイにしては、形が変わりすぎていないかね?」

 

違う。あれはデコイなんかじゃない。

 

「あれ? 動きましたよ」

 

ラプンツェルの言葉通り、その人影はゆっくりと動き出し──

 

「!?全員、伏せろッッ!!」

 

瞬間、無数のレーザービームが私達に向かって降り注いできた。

 

「な、何だよいきなり!?」

「回避不可能! ラプンツェル!」

 

ドロシーが叫び、ラプンツェルが再びリングを展開して防御を始める。しかし、レーザーは一向に収まる気配を見せない。やがて、ぼんやりとだがその姿を目視で確認できた。

 

「あれは……!」

 

指揮官は驚愕し、リリスも顔を顰める。

 

「シンデレラだ……」

「……なに?」

 

レッドフードを筆頭に、全員が指揮官の方を向く。

 

「ガラスの靴がある。それに、目の色は……」

 

止まないレーザーの雨の中で、何とかレッドフードは狙撃を試みるが、それも失敗に終わる。

 

「ディストーションリング、生成できません! 出力不足です!」

 

やがて、ラプンツェルのリングも事切れる。

 

「ならば、私が!」

「ふざけたこと言わないで、みんなしっかりつかまって!」

 

紅蓮が刀を構えようとしたが、リリスがそれを制止して退却の準備を試みていた。

 

「馬鹿な……いくら何でも激しすぎる」

 

本来、シンデレラの攻撃には多少の余裕が生まれていた筈なのに、今回は問答無用で襲いかかってきた。

 

「ルナ! 早く!」

 

リリスに呼ばれ、その手を握ろうとした瞬間──。

 

「………………」

 

シンデレラと目が合った気がした。気のせいかもしれない。いや、気のせいであって欲しかった。

 

「ラプチャー! 更に増加しています!」

 

ここで、またあり得ないことをドロシーが叫ぶ。何故だ? 今はシンデレラだけではないのか?

1秒すら惜しいというのに、頭の中ではグルグルと現状を理解することに精一杯になる。

 

「……ッ! とにかく撤退するよ!」

 

やがて、一つの結論が出た。

 

「ふざけんんな! アタシはここで……!」

 

撤退を拒むレッドフードの間へ、私は割って入る。

 

「皆さん! このままじゃ逃げられません! そして、シンデレラの狙いは恐らく私です!!」

 

みんなが何かを言う前に、言葉を畳み掛ける。

 

「今から私が道を切り拓きます! リリスは全員を連れて退却を!」

「何言ってるの! 死ににいくようなものなのよ!!」

「全滅か、一人か、なんて比べるまでもないでしょ!?」

「……」

 

リリスは、その一言に押し黙った。

 

「必ず生還します! だから、行ってください!!」

「ルナ!!待ってください!!」

 

スノーの呼び声も、この時はもう聞こえなかった。

 

やがて、リリスは震える声で答えた。

 

「必ず、だからね」

「はい、勿論です」

 

その声を皮切りに、私とみんなを背負ったリリスは飛び出した。シンデレラはそれに合わせて、ガラスの靴を私達に向ける。

 

「邪魔だ!!」

 

目の前のラプチャーを貫き、リリスの道を作り出す。

 

「おい! 狙いは私なんだろ!」

 

シンデレラに向かって一発の弾丸を撃ち込むと、彼女は何百発ものレーザーに変えて撃ち返してきた。

 

「それを、待ってた!」

 

私は旋回し、ラプチャーの前に姿を晒す。当然、レーザーは私に向かっていくが、私より巨体のラプチャー達がレーザーに当たらない訳がない。

無数のレーザーがラプチャー達の装甲を破壊し、次々と機能停止にしていく。

 

「流石、殲滅兵器……!」

 

ガラスの靴が放ったレーザーはラプチャー達を巻き込み、結果として退却の道を作っていた。

 

「行け!! リリスッ!!」

 

私の横をリリスは無言で突っ切った。これで、史実通りだ。これで、二人きりになれた。

 

「ハァ……ハァ……やぁ、お姫様」

 

上空に浮かぶ赤い瞳は、私を静かに見つめている。

 

「悪いけど……まだ死ぬ訳にはいかない……申し訳ないけど、容赦しないよ」

 

目を閉じて、起動準備に移る。もう、誰の目も気にしなくていい。

 

「同調……発動」

 

また激しい頭痛に襲われるが、もはや今の私にはどうでもいい。

 

「アハハ、ほらお揃いだ」

 

私の瞳はシンデレラと同じ、赤く染まっていた。

 

「…………」

 

シンデレラは変わらず私にレーザーを放つ。

 

「ぐっ……ぎぃ……」

 

応戦の為、私が足で地面を叩くと、そこから黒い水が地面を飲み込んでいく。

 

「やれ……」

 

私が手をかざすと、地面から黒い槍がシンデレラに向かって伸びていく。

 

「…………」

 

だが、ただ黙って刺されるほど彼女は甘くない。すぐさまガラスの靴が輝き、無数のレーザーが私の槍を迎撃した。 

 

「ぐお……!?」 

 

槍はシンデレラの付近にすら接近できずに全て撃墜され、さらに残ったビームが私を目がけて撃ち込まれた。

 

「ぐ、うぅ……」

 

力の差は歴然。勝てるなんて希望は微塵もない。しかし、無常にもガラスの靴は第二陣の用意を完了している。

 

「クッソ……守れッッ!!」

 

私の言葉に反応して、黒い水は私の前に壁として現れ、レーザーを受け止める。

 

「防戦一方、だな……」

 

笑ってしまうくらいの力の差、無謀な戦い。いや、戦いにすらなっていない。これは蹂躙だ。

 

一瞬、諦めるという言葉が脳裏によぎったが、すぐに頭を振る。

 

「スノーとリリス、二人とも約束しちゃったし……ねっ!」

 

ボロボロの体に鞭を打ち、何とか立ち上がった。

 

「ほら! さっさと狙ってこいよ!」

 

私はわざとらしく身を乗り出す。シンデレラから容赦なくビームが撃ち込まれた。

 

「これで駄目なら、もう終わりだな……」

 

私は再び壁を生成すると、その陰に入り込む。そこから動けない私は、彼女にとって格好の的だろう。何百もの光線が私に向かって放たれた。

初めは持ち堪えていた黒い壁も徐々に崩壊し、遂に貫通する。

 

「………!」

 

しかし、崩壊した壁の内側に私の姿はなかった。

シンデレラは一瞬困惑したように見えたが、殲滅すべき相手がいなくなったことを確認し、軌道エレベータの方角へと飛んでいった。

 

「はぁ……はぁ……こんな原始的な隠れ方も案外役に立つものだな」

 

崩壊した壁の下から、私は地面から這い上がり顔を出す。あれほど騒がしかった戦場は、不気味な程静まり返っていた。

 

「帰ら……うっ!? 帰ら、ないと」

 

突如、言いようのない吐き気に襲われる。

でも行かないと、みんなが待っているんだ。まだやるべきことがあるんだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息が荒い。足もあまりおもうように動かない。

 

「帰る。帰らないといけないんだ」

 

ラプチャーに襲われるかもしれない恐怖のなか、私はただひたすら、元来た道を歩いた。

 

「リリスはオーバーヒートしてるだろうし、レッドフードもそろそろかな……」

 

無事に帰っても、やることが多すぎて気絶してしまいそうだ。

 

「はぁ…………はぁ…………あ、やば」

 

意識が朦朧としてきた。足元がおぼつかない。

 

「野垂れ死には、ごめんだぞ……」

 

必死に足を動かそうと身体に指示を出しても、それはもう意味を持たない。

 

「ごめん、リリス、スノー。みんな……」

 

約束、破っちゃうかな……。

遂に歩くこともやめ、私の身体がゆっくりと地面に横たわる──ことはなかった。

 

「あ……れ?」

 

一体誰だ? 私の身体を掴んでいるのは。朦朧とする意識の中で上を見上げると、赤い髪がなびいていた。

 

「あ、あぁ……」

 

何でここにいるんだ? いや、この際もうどうでもいっか。

 

「レッド……フード」

 

見上げた彼女の顔は複雑そうだ。

 

「あ、あはは。どうしました? こんな所で……痛い」

 

言い切る前に、レッドフードは私の額を軽く弾いた。

 

「馬鹿。お前を迎えに来る以外あるか?」

 

「でも……身体は……」

「私以上にボロボロのお前に言われても、説得力ねぇぞ?」

 

そう言って私はレッドフードの肩を借りて、二人で歩き始める。

 

「ねぇ、レッドフード」

「どうした?」

「きっと、これが君の最後の作戦なんですよね?」

「…………」

「ねぇ、教えてください……いや、違うか……ねぇ、教えてよ。引退したあとのレッドフードを」

「教えるって……そんな大層なことはしねぇぞ?」

「別にいいじゃん。むしろ、私達はそういうことから離れるべきだ」

「フッ、まぁ、確かにな」

 

レッドフードは少し遠くを見ながら呟いた。

 

「もう……限界なんだ。もってあと数日、いや今日限りで終わりかもしれない」

「うん……」

「お前らとこのまま戦って死ぬのも悪くはないと思ってたけどよ。でも、やっぱり最期は故郷で死ぬって、ずっと前から決めてたんだ」

「そっか……」

「おいおい。もうちょっとリアクションしても良くねぇか?」

「このこと、スノーには?」

「……言ってねぇよ。言える訳がないだろ?」

 

レッドフードは唇を噛んでいるように見えた。

 

「なぁ、その……お前は怒鳴ったりしないのか?」

「どうして……?」

「どうしてって……アタシは嘘をついていたんだぞ? お前達と最後まで一緒にいるって言っておきながら、お前達を見捨てるんだぞ?」

「別に、怒る必要もないでしょ。レッドフードの人生は、全部レッドフードが決めないといけないんだから。部外者の私が勝手に入り込むのはおかしいよ」

「成程なぁ……やっぱりルナはルナだな」

「何、文句ある?」

「いいや? 別にぃ?」

 

やがて、見覚えのある景色が見えてきた。

 

「よっと。もうそろそろだな」

「ねぇ……レッドフード?」

私の声に、レッドフードの足は止まる。

「ねぇ、もしさ……もし、助かる道があったら、貴女は生きたい?」

「なんだよ、藪から棒に」

「もしもの話だよ。侵食をどうにか克服して、何事もなく、日常を過ごせるとしたらだよ」

「……さぁな。正直、よく分からないな……いつも戦って散ることが当たり前だと思ってたから、こんな終わりも、一つ可能性だったんだよ」

「君には、仲間がいるでしょ?」

「仲間……」

「君を大切に思ってくれる、家族のような存在。君にはいるはずだ」

「おい、ルナ。本当にどうしたんだよ? 死にかけて幻覚でも見てんのか?」

「ねぇ、レッドフード。君は生きたい?」

 

しばらくレッドフードが言葉を発することはなかったが、やがてポツリと話し始めた。

 

「アタシは、お前らとは違う。ただの田舎者だぞ?」

「いいじゃないか、そういう人の意見も取り入れないと」

「いつも自分勝手に生きるだけのアタシに、どうしてそこまで気に掛けてくれるんだ?」

「……? 君が好きだから。それ以外ないでしょ?」

「…………そうかよ」

「今はさ、君の好きにするといいよ。故郷に帰って、好きなだけ音楽を聴くのも悪くない。でもさ……」

 

私は一呼吸おいて、レッドフードを見る。

 

「生きたいと願うなら、必ず迎えに来る。みんなを連れて、必ず」

「……おいおい、どうする気だよ? アタシの身体の状態なんて、お前は知り尽くしてるだろ?」

「だからだよ。私、こう見えても研究者だよ? ニケなら何十、何百年と同じ研究を続けられる。その中で貴女を救う手立てを必ず見つける」

 

私達の間に暫く沈黙が流れるが、その沈黙を破ったのはレッドフードだった。

 

「はぁ、随分と熱いアプローチをかけられたもんだなぁ……」

「勿論。返事は?」

「そうだなぁ…………まぁ、いつまで待てるか分からないけど、期待せずに待ってやるよ」

「うん……期待せずに待ってて」

 

言いたいことを言い切ったからか、急に身体の力が抜けていく。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「……ごめん。大丈夫じゃないっぽい」

「そうか、なら休んでな」

レッドフードの肩に寄りかかると、瞼が落ち始めた。

「ありがとう、レッドフード……」

「あぁ、お疲れさん……ルナ」

 

その声を最後に、私は意識を失った。

 




ちなみに、ルナというあだ名はレッドフードが付けたものです。
いつか、ゴッデス部隊との出会いも書いていきたいと思っています。
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