現実が忙しくて投稿できてませんでした。すみません
「……」
「……」
現在、私はスノーホワイトと共に雪道を歩き続けている。北部へと向かい、合流したのは良かったが、そこから気まずい時間が始まった。
「……あの」
「……」
しかし、私たちの間には何とも言えない距離感があり、スノーは一切足を止めることはない。
「スノーさん?」
「……何だ」
彼女は振り向かず、私の言葉に反応した。
「お、怒ってます?」
「そう見えるか?」
「……はい」
「なら、自分が行った愚行を思い返してみるんだな」
愚行というのは、勿論独断でアークへ行ったことだろう。
「……すみません」
「お前が未来の為に行ったということは分かっている。だが、現在の私たちの立場を理解しているのか? 私たちはまだ何も達成できていない。お前の行動一つで、アークとの関係を見直さなければならない事態にだってなり得るんだぞ?」
「はい……ごもっともでございます」
縮こまり、スノーの顔が見えない。
「そのことを心に刻んでおけ、以上だ。さっさと行くぞ」
「……了解です」
しばらくスノーに逆らうことは出来ないな……
それからは、とにかく険しい雪道を歩き続けた。
私たちの共通目的であるトーカティブと、主人公である指揮官の発見。既に向こうもこちらに来ているはずだ。
「今頃、アンリミテッド部隊と出会っている頃か……」
歩いて歩いて、疲れ知らずのこの身体も精神的に流石に堪えてくる。
「スノー? ボディは大丈夫そう? 酷使しているなら、一度休憩して点検した方が……」
「問題ない。それに、今はそんなことをしている暇はない。一刻も早く、あのおしゃべり野郎を捕まえたい」
「……了解。でも異常が発生したら言ってね? いきなり戦闘ってことにもなり得るんだから」
「あぁ、分かった」
私に言われたくないだろうが、スノーも中々自分の体に対しての関心がない。もしもの事態のために、スノーがいなくなるというのは非常に危険だ。もし最悪な状態になったら、スノーにも強制的に退却してもらうしかない。
「……これは」
「ああ、間違いない。奴の痕跡だ」
雪の上に記されている、トーカティブのものと思われる痕跡。
「近いな」
少し屈んで覗くと、その姿を見つけた。
「いたぞ」
「あれは……指揮官もいるね」
「例の人間か?」
「うん。私は彼を保護する。スノーはあのデカブツをお願い」
バイザーを下げ、私は雪道を滑り降りた。
───
トーカティブに拘束され、私は窮地に陥っていた。寒さで身が凍り、意識がぼんやりするが、指を折られた痛みが無理矢理意識を呼び戻す。
「諦めろ。そして自爆するならもう止めはしない」
そんな私に、トーカティブは完全に勝ちを確信している。
「人間は死んだらおしまいだ。それは分かっているだろう」
だが、その慢心が命取りになる。
「……来た」
「……まだ強がりを」
瞬間、轟音が鳴り響き、トーカティブの身体に巨大な穴が空いた。
「!!」
「会えて嬉しいよ。おしゃべりさん」
「巡礼者ぁーー!!」
トーカティブは怒りの声を上げた。あの時も見た、白髪のニケ。コードネーム──
「災難ですね、あなたも」
「ルミナスムーン!」
そして、ジェットパックで私の元に降り立った黒髪のニケ、ルミナスムーン。
「やぁ、デカブツ。彼は貰っていきますね」
私を抱き抱え、ルミナスムーンはジェットパックを後ろに蒸す。
「貴様ッ!!」
「どこを見ている」
トーカティブが私たちに手を伸ばそうとした瞬間、白髪のニケがその手を撃ち抜いた。
「ぐぁ……!?」
「今度は逃さない」
間髪入れずに、トーカティブに弾丸が撃ち込まれる。
トーカティブが距離を取り、白髪のニケも私の前に立ちはだかった。
「無事そうか?」
「うん。あっ、応急処置でテーピングしときますね」
私の曲がった指に、ルミナスムーンが処置を施していく。
「助かった、ルミナスムーン。それと、スノーホワイト?」
「ああ、そうだ。助けが必要か?」
「必要だ」
「よし。助けてやろう。ルナ、処置が終わったなら手を貸せ」
スノーホワイトは武器をトーカティブの方向へと構える。
「了解。指揮官さんはここにいてください。何かしようだなんて、今は思わないでくださいね」
ルミナスムーンも私を遮蔽に隠し、前線に向かった。
「忌々しい巡礼者どもめ! 過去の遺物が!」
「失せろ、異端。地上はお前たちには渡さない」
「あなたに時間を取っている暇はないんです。ここで始末します」
「エンカウンター」
そう呟いた二人は、トーカティブへと向かっていった。
───
二人のニケによる戦闘はまさに圧倒的だった。あれだけ手も足も出なかったトーカティブを、赤子の手をひねるように追い詰めていく。
「ぐぁ……!!」
「あっははは! お前、こんなに弱かったんだね!」
人が変わったかのように、ルミナスムーンは接近戦を繰り広げていた。
「図に乗るなよ貴様ッ……!!」
飛びかかり、トーカティブは拳を突き出す。
「スノー」
そう呟きしゃがむルミナスムーンの上を、弾丸が通過する。
「がぁ……!!」
そのままトーカティブに直撃し、倒れ込む。
「状況終了」
「……あっけな」
「……」
喧しかったトーカティブは倒れ、震えていた。
「人間、下がれ。私はあいつに話がある」
スノーホワイトがトーカティブに向かって歩いていき、ルミナスムーンもその後に続く。
「やっと捕まえた。貴様に聞きたいことが山ほどある」
「……」
スノーホワイトはトーカティブに向かって銃を向け、ルミナスムーンは辺りを見渡している。
「助け……て……」
「……命乞いか。哀れな異形の獣よ。いかなる理由でこの世に生まれ、それほどに悲しく鳴くのか」
「助け……て……くだ……さい」
トーカティブの声はあまりにも弱々しい。
「……醜いな」
「女……王……様」
その瞬間、薄暗かった空に亀裂が走った。
「下がれスノー!!」
「!!」
ルミナスムーンが叫び、その上空には、光なのか闇なのか区別がつかないものに包まれて舞い降りてきたラプチャーをまとったニケがいた。
「……トーカティブ。可哀想に。安心してください、私が助けてあげます」
「……やはりか」
ルミナスムーンはバイザーを閉じて、そのニケに銃を構える。
「……あなたたちですか? 私の仲間を傷つけたのは」
「……ヘレティック。クイーンの直属。異端……! 人類を切り捨てた裏切り者!! ラプチャーを選んだニケ──!!」
「……多いですね。あだ名」
ルミナスムーンが軽口を叩くと、ヘレティックは笑った。
「ええ、本当ですよね。モダニアと呼んでくれませんか?」
「今日はついてるな。クイーンにまた近づけた! お前がいるからか?」
「どうだろうね。でも、彼女は重要参考人になる」
彼女たちの間にある緊張感で鳥肌が立つ。
「トーカティブのことを考えると、ここで死んでもらいたいですが。大切な仲間の命のためにも、この辺で引き下がります。ですが……」
モダニアはルミナスムーンを指差した。
「あなたには、今死んでもらった方が良いかもしれませんね」
突如、地面が揺れた。大蛇のような装甲を持つラプチャーが現れた。
「……何だこいつは」
「分からない。こんなラプチャーはこの場に──」
そして、私達を取り囲むように巨大なラプチャーが集まってきた。
『Aaaahhh!!』
正体不明のラプチャーは空に向かって咆哮し、その巨体を震わせた。
「では、お願いしますね。みなさん」
モダニアの合図で、ラプチャーが一斉に動き出した。
「ちっ! 面倒な……」
「スノーは周りのラプチャーを! 私はアイツの相手をする。指揮官さんは絶対に隠れていてください!」
ルミナスムーンはそう言い残し、戦場へと走り去っていった。
───
「余計な仕事を……」
正体不明のラプチャーに愚痴を吐き、私はミサイルを発射する。
『grua』
ラプチャーはトグロを巻き、私のミサイルに備えた。
「防御のつもりか……なら」
接近戦に切り替え、抜刀する。
「出し惜しみはしない」
機関銃から放たれた弾丸を走り抜けながら避け、頭上で刃を振り下ろそうとした時だった。
『Gwaaaaa!!!』
「……うっ!?」
悲鳴のような声が地面を揺らした。それだけだったならなんてことない。最後の抵抗程度のものだった。しかし、このラプチャーは違った。
(身体が……動かない)
コイツの能力か、僅か一瞬の強制的な硬直。しかし、その隙は反撃を加えるのには十分な時間だった。
「まずっ……!?」
慌てて防御姿勢をとるが、もう遅い。私は雪が積もった地面に叩きつけられた。
「がはっ……!!」
吹き飛ばされて狼狽えている時間はない。素早く立ち上がり、もう一撃を躱す。
「生意気な……」
スノーの方は問題なくラプチャーたちを仕留めているようだった。なら、ここで時間を取るわけにはいかない。
「U.N.I.S.O.Nコード発動」
姿勢を低くし、一気に加速する。接近してきた私を再び叩き潰そうとしてきたが、私はそれを待っていた。
「フッ!」
体に急ブレーキをかけ、横に飛び上がりそのまま地面についた装甲を切断する。
『AAAUUUAAA!!!』
「黙れ」
いい加減その声も耳障りだ。
切断した断面を引きずり、後退するラプチャーのその断面に、私は手を突っ込む。
「……死ね」
ラプチャーの身体に私の侵食を受けたナノマシンを流し込む。ナノマシンはラプチャーの全体へと広がり、装甲を内部からズタズタに崩壊させていく。
『A……AA……』
やがて、耳障りな声も完全に聴こえなくなった。
「……改変の影響か。また面倒ごとを増やしたな」
恐らくこのラプチャーとも今後付き合っていくことになるのだろう。
動かなくなったラプチャーを眺めていると、スノーが戻ってきた。
「ヘレティックは!?」
「コイツを片付けた時には、もう姿はなかった」
「くそ! 逃したか!!」
そして、背後から指揮官が歩いてくる。
「人間! お前は帰れ!」
「一緒に行く」
「お前は役に立たない!」
「きっと役に立つ」
「……!」
彼がいなければ、この先の行動に支障が出る。
「ペースは落とさずに行こう。最悪担げばいい」
「……この人間が必要だからか?」
「その通り。目測が正しければ、連れていって損はない」
「……分かった。なら、さっさと行くぞ」
スノーは走っていった。
「今はああいう感じだけど、本当は優しい子なので、勘違いしないでくださいね?」
「ああ、分かった」
「なら、行きましょうか。簡単にバテないでくださいね?」
───
指揮官のバテは思ったよりも早く来た。
「人間にとってこの環境は最悪に他ならない。なのについてくるなんて、愚かの極みでしかないな」
「……」
「まあまあ。こういう時に私がいるんだから。よっと」
そう言って指揮官を担ぎ上げる。
「ちょっと苦しいかもしれませんが、我慢してください」
「……分かった」
まるで重傷者のような格好のまま指揮官を担ぎ、進行する。不服そうだが、仕方ない。
「よし。痕跡が続いている。しかし、吹雪がこんな調子では急がないと痕跡が全て消えてしまうな」
「行けそうですか?」
「問題ない」
指揮官はそう言っているが、体は明らかに震えている。
「強がりはいりません。そんなことを言って低体温症にでもなった方が迷惑です」
着ていた衣服を脱ぎ、指揮官にかける。
「発熱機能を付けましたので、じきに暖かくなるはずです。それまでは我慢してください」
「分かった。ありがとう」
休憩時間をなくしたためか、思ったより進行の時間を巻くことができた。
「何故、お前はトーカティブに捕まっていたんだ?」
「分からない」
「重要人物だということは、既に知っている。虚勢からしてただ者ではないだろう」
「……重要参考人」
「前にも言いましたが、あなたは今深く考える必要はありません。ただ自分がそうだと自覚しておいてください。あっ、スノー」
困惑している指揮官を横目に、スノーホワイトに尋ねる。
「どうした?」
「ヘレティックについて新しい情報は掴んだ?」
「めぼしい情報はない。クイーンの直属ということ以外、何一つな」
「クイーン?」
指揮官が尋ねる。
「ラプチャーの女王だ。ヘレティックを追いかければ、クイーンに会えるはず。それを倒せば、再び人間の時代が来るだろう」
少しずつ、視界が悪くなっていく。
「……吹雪が悪化してきたな」
バイザーを閉じれば視界は回復できる。しかし、人間の指揮官にはますます酷な状況になってくるだろう。
「行けそうですか?」
「大丈夫だ。心配するな」
「……そう多くの指揮官を見てきたわけではないが、お前のような滅茶苦茶な奴は初めてだ」
ますます吹雪が強くなり、体が風に煽られる。
「私も歩ける」
「この状況でよくそんなことが言えますね。私の体の居心地はお嫌いで?」
「……」
「冗談です。歩くなら出来るだけ私たちの後ろにくっつくように歩いてください。少し風を軽減できるはずです」
「分かった」
指揮官を下ろして、改めて先に進む。
「トーカティブとはどうやって出会ったんだ?」
「私が最初に見つけた。あの時はクイーンに会うために、手当たり次第ラプチャーを見つけて破壊していた。ラプチャーは言語はおろか、内部データもごく普通のものだった。そんな中、偶然出会ったんだ。トーカティブに」
雪を踏み締める音のみが聞こえる。
「多分……私の記憶が正しければ、アークから大きな光の柱が上がった日だと思う」
「アークから?」
「そう。あの日、アークの近くで出会った。しゃべるラプチャー。突然、希望が見えた気がした。クイーンに関する情報を引き出せると思ったからだ」
トーカティブと初めて接敵した時、改変の影や影響を受けていることはなく、ひとまずそこは安心する。
「しかし、奴は狡猾だった。あの手この手で逃げてしまう。そのおかげで今まで一度もまともに話したことはない。今回こそはと思っていたが、予想もしていない奴が出てきた」
「それに、あのラプチャー。完全に未知数の存在が現れた。ニケが二人いる状況に辻褄を合わせるように、向こうは新種をぶつけてきた」
「お前が見た未来に影響はあるか?」
「決定的な何かが変わることは今のところないと思うけど、警戒するに越したことはないと思う」
次々と生まれる問題にため息が出てしまう。
「ラプチャーをまとったニケ。あれは何だったんだ?」
「……裏切り者だ。敗北者でもある」
スノーの説明では理解しきれないため、補足を入れる。
「簡単に言うと、彼女たちは侵食を受けラプチャー陣営に寝返った存在。今言えるのはこのくらいだろう」
「……寝返った」
今、下手に情報を与えるのも得策ではない。気にすることが多すぎる。
「まぁ、そんなとこだ。ペースを上げるぞ。話が長くなってしまった」
更に進むと、吹雪はより一層激しさを増していく。
「体調は? やっぱりもう一度担ぎましょうか?」
「……問題ない」
私のマントを与えているが、それでも生身の肉体はどんどん寒さに蝕まれていく。
「はぁ……被れ。私の発熱マントも貸してやる。多少マシにはなるだろう」
「優しいんだな」
「……それこそが、ここまで私たちがやってこれた原動力量だからだ」
更に私たちは奥へと進み続ける。勿論、指揮官には細心の注意を払って。史実通りならここで死ぬことはあり得ないが、既にズレが生じている部分もあるため、警戒は怠らない。
「アークへ戻ろうと思ったことはないのか?」
指揮官が口を開いた。
「ない。私たちは何も達成できていない」
「きっと歓迎されるはずだ」
「そんなことは望んでない。慰めからの歓迎なんて、私たちには無意味だ……否定された気持ちになるだろう……私たちは失敗してもよかった、そんなに頑張る必要はなかったんだ……そういう気持ちになるだろう。そうはなりたくない」
「それに、あなたは歓迎かもしれませんが、アーク全体から見れば果たしてそれはどうでしょうね?」
「……どういう」
「さぁ? 自分で考えてみてください」
更に奥へと進んでいく。
「……私たちはアークを知らない」
「??」
「言葉通りだ。私たちはアークを知らない。どんな世界なのか、どんな環境なのか。全く知らないんだ。隣にいるコイツを除いてな」
スノーが私の肩を叩く。
「まぁ、私もあなたたちと初めて出会ったあの時しかアークには入ったことはないけど」
「じゃあ、何故前哨基地の場所を知っている?」
「言ったでしょう? 未来が見えているって。アークの構造は概ね頭に入っているんですよ。疑って当然でしょうけどね。まぁ、私たちは地上でやるべきことがあるからアークには行けない。そういうことです」
「あぁ、だから私たちはアークに行けない。正直、行きたいかどうかすら分からない。私たちは僅かに輝く希望を抱いて、地上を彷徨う巡礼者だ」
すると、スノーが立ち止まる。どうやら目的地に着いたらしい。
「……見つけた。ヘレティックとトーカティブだ。トーカティブを修理しているのだろうか。仲間思いな奴らだな」
「周囲に反応はない。奇襲の心配は今のところ大丈夫そうだ」
スノーホワイトがライフルを構え、私もライフルのスコープを覗き、刀を抜刀できるように準備する。
「いいか。私が狙撃をしてそこから一気に畳み掛ける。人間、お前は隠れてろ」
「いや、間に合わない」
この一瞬で、モダニアが目の前に現れた。
「なぜ、分かってくれないのですか」
「!! いつに間に……!」
「あなたたちを逃がしてあげたのは、私の慈悲だったのに。この世界で寂しく彷徨う、その悲しい限りの運命に送る同情だったのに」
「よく言うよ。私は真っ先に殺そうとしたくせに」
「あなたにはこの世界で生きるにはあまりに不合理です。その歪んだ生を終わらせてあげようと思ったのですが」
「……消えろ」
轟音と共にスノーホワイトのライフルが火を吹いた。そしてその弾丸は、モダニアに届くことなく爆発した。
「磁場……!? 単身でこの密度は……!」
「単身でこの程度の武器とは……少し驚きました。でも、メンテナンスが行き届いてないようですね。かわいそうに」
モダニアの羽がスノーホワイトを投げ飛ばし、遠くまで吹き飛ばされた彼女はそのまま雪原に突っ込んだ。
「ぐはっ……!」
「痛覚センサーも故障したんですか? 本当にかわいそう」
「そう思うなら大人しくしろ」
モダニアの背後に回り込み発砲するが、全て磁場によって意味を成さない。すぐさま刀を持ち替え、振りかぶる。
「近接戦なら勝てると思いました?」
しかし、翼によって刀はモダニアまで通ることはなかった。
「邪魔しないでください」
モダニアは私の顔めがけて、翼を振り下ろす。
「……ッ!」
「……あら?」
しかし、翼は私の顔ギリギリで動きを止めた。
「なるほど、それが貴女の……」
私の腕から全身を守るように、ナノマシンが硬化する。
「やはり危険ですね。速やかに殺しましょう」
片翼が駄目と判断すると、もう一つの翼でナノマシンの壁を崩し始めた。
「ぐっ……!」
「対応される前に壊さないとですね」
翼は壁を破り、私の半身を抉った。
「がぐぁあ!?」
「ふふ。いい声です。もっとしてあげますね」
モダニアは私とスノーを翼で抱き上げた。
「あなたたちが人類のために貢献した時間に敬愛を表して、最大の苦痛と共に殺してあげます」
ボキッ、ミシッ、体が悲鳴を上げる。
「……!!」
「……ぅ!?」
「ふふ。うふふふ。あはは、あははは!……ああ、下品な笑い方でしたね。どうです、耐えられそうですか?」
痛みに耐える。まだだ。
「おい……!」
「はい、どうぞ」
まだだ。
「下が……かゆいな……! ちょっと……かいてくれるか?」
ま……だ……
「ふふ、もちろんです。あなたも何か要望は?」
「……慢心するな」
「はい?」
ゆらりと、モダニアの背後に二つの槍が生成される。
「……!」
磁場を発動されても、もう遅い。槍はモダニアの身体を貫いた。しかし、翼は一切緩める素振りを見せない。
「……ふふ。あははは! 本当にあなたは苛つきますね」
槍が粉砕され、地面に落ちていく。そして翼が私の顔を貫いた。
「ルナッ!」
「安心してください。すぐには殺しませんよ。あなたたちには最高に苦しんでもらわないと」
顔半分が使い物にならなくなった。視覚、聴覚ともに一部を喪失した。
そして、翼は力を込め、さらに私たちを押し潰していく。
「がはっ……!」
「うぁ……!」
────
スノーホワイトとルミナスムーン。トーカティブを圧倒していたあの二人ですら窮地に陥っている中で、私は何も出来ていない。
「……何とかしなくては」
辺りを見渡すと、さっきスノーホワイトが落としたライフルが目に入った。人間はニケ用火器を扱えない。でも、一発くらいなら……
ライフルを掴み、全体重で持ち上げようとする。
「ふんっ……!」
全力で持ち上げる。足に装備された外骨格に台尻を当てると、奥から黒いタール状のものがこちらに向かってきた。
「あれは……」
先ほど、ルミナスムーンが放った槍の破片が、意思を持っているかのように私に接近してくる。そして、スノーホワイトのライフルにまとわりつき、銃身を支え、機関銃の銃座の形に変わっていく。
ここでも彼女の世話になるとは思わなかったが、これで安定性が増した。
「チャンスは一度だけ」
だが、標的は決まっている。
息を吐き、引き金を引いた。
「……!!」
地面が揺れるほどの振動と共に、反動で肩と鎖骨に強い痛みが走る。幸いにも不発にならずに済んだらしい。弾は大きな音を立てて爆発した。
「……? 何をされているんですか?」
「ゴホ、ゴホッ! お、おい」
「はい。どうしました?」
「後ろ、気をつけろ」
「……はい?」
ドン!と弾丸がモダニアの身体に命中する。
「前もね」
僅かに緩んだ隙にルミナスムーンは抜刀し、翼の一部分を切断する。
「!!」
モダニアは二人から離れた。
「……何ですか、これは」
「やっと来たか」
後方から見知った三人が現れた。
「指揮官!」
「師匠!」
「指揮官様!」
カウンターズの面々が私に駆け寄る。
「遅くなり申し訳ありません。カウンターズ、合図を見て集結しました」
「気づいてくれると信じてた」
「……指揮官様、ひどい格好ね」
「師匠……」
「あと、あいつら何なの? ルミナスムーンもいるし……まさかピルグリムとヘレティック? へえ、伝説の存在が一堂に会するなんてどういうこと」
「どうもこうも、見たままが全てですよ?」
こちらに向かってきたルミナスムーンの顔半分が崩壊していた。
「……大丈夫なのか?」
「私はニケですよ? 機能さえしていれば、戦闘に支障はありません」
「……指揮官、ご命令を」
「ピルグリムと協力してヘレティックを倒そう」
「できたらね! ねぇ、そっちの二人はできる?」
「……もちろんだ」
「了解です。でも指示はしっかりお願いしますね? 顔が壊れて見えづらいったらありゃしない」
ルミナスムーンはバイザーを閉じ、ショットガンを構える。
「では、行きます!」
「エンカウンター!」
───
カウンターズが合流したところまでは予定通り。しかし、替えの効かない損傷を受けるのは正直想定外だ。
「スノーホワイトは後方でルミナスムーンの援護を頼む」
「了解」
「何だか久しぶりの感覚ですよ」
私は飛び出し、モダニアにショットガンを連射する。
「無駄です」
「そんなことは百も承知だ」
ジェットパックを蒸して、落下の軌道を急激に変える。
「スノーッ!」
合図と共に、スノーの弾丸が私の目の前を通過し、モダニアへ狙撃が加わる。
「くっ……!」
「ほら、そっちばっかり見てたら駄目ですよ?」
背後に回り、モダニアの装甲に斬り込む。そのまま急降下すれば、カウンターズの銃撃が始まる。
「……おかしいですね。性能にしろ何にしろ、どう見ても私が優位なのは確かですが。なぜ、互角になるのでしょう」
「さあね、私たちも知らない」
「もしかして、自分を過大評価してたんじゃないですか?」
もはや彼女に優位性など残っていない。
「性能だけに頼った貴女にもはや勝ち目はないんだよッ!」
至近距離でショットガンを浴びせると、モダニアのバイザーに命中する。そのままバイザーは崩壊して崩れ落ち、その顔は指揮官、ラピやアニスにとって見覚えのあるものだった。
「あら……やっぱりニヒリスターも一緒に来るべきだったでしょうか」
「……!!」
「あなた……!」
「??」
───
『心配なさらないでください。私があなたをお守りします』
記憶の中で蘇る彼女の顔。
『指揮官。ここにも包帯を巻いてください。ふふ、ありがとうございます。もう全然痛くありません』
包帯を巻いた時に見せた笑顔。
『ここ……で……す。指揮……官。包帯……うれし……か……った……です』
私はその名前を無意識に呼んでいた。
「……マリアン?」
「……?」
「マリアン!」
「私のことですか? 悪いですが、人違いのようです。私はモダニア、クイーンに仕える──」
突然動きが止まった。
「……マリアン?」
彼女はその名前を口にした。
「マリアン。不思議ですね。何だか、すごく懐かしい気分です」
認識し、その言葉の意味を知るため。
「マリアン、マリアン、マリアン」
何度も、何度も。
「マリアンマリアンマリアンマリアンマリアンマリアンマリアン」
突然、周囲が振動し始めた。それと同時に、モダニアの体から黒いエネルギー波が発生した。
「シルバーガン……分隊の……マリアンと……申します。よろしく……お願い……します……」
振動は激しさを増し、黒いエネルギー波は暴走するように散り散りになった。
「限界か……! 全員、私の後方に下がれッ!」
ルミナスムーンが叫ぶ。
「くっ……! あ……ああああ!!」
「マリアン!! 私が分かるか!?」
「!! 指揮……官?」
「!!」
「下がれ指揮官ッ!」
ルミナスムーンの言葉を最後に、黒いエネルギーが爆発を起こした。そして、私達を包み込むように黒いタール状の物が見えたのと同時に、衝撃によって意識を失った。
───
微睡む意識が徐々にはっきりしていく。
「……」
「気が付きましたか」
隣にはラピがいた。
「……ここは?」
「近くにあったバンカーです。ルミナスムーンが運び込んでくれたみたいです」
「あの様子で、よく全員運べたわね」
「ひとまず、全員生きていて良かったです」
奥の方を見ると、顔半分が崩れたルミナスムーンが目を瞑り座っていた。
「……」
その近くにはスノーホワイトもいた。
「状況を報告してくれ」
「……ヘレティックが起こした爆発でカウンターズおよびピルグリムが大破。現在、近くのバンカーで救助を待っています。通信は依然として断絶状態であり、外は吹雪がさらに激しさを増し、視界は1m以下です」
「……みんなの負傷程度を教えてくれ」
「私はあばら骨が破損し、コアを刺しています……移動不可能な状態です。アニスは骨盤が大破しました。移動不可能な状態です。ネオンは脊椎部分のスタビライザーが破損しました。移動不可能な状態です」
状況は想像より深刻らしい。
「ピルグリムは比較的良好ですが、片足が大破した状態です。……同じく、移動不可能な状態です」
「ルミナスムーンは、顔半分の損傷による視覚、聴覚の障害。四肢全体も損傷しています。同じく移動不可能な状態です」
全滅と言って差し支えなかった。
「救助が来る可能性は?」
「正直に申しますと、ありません。吹雪が酷すぎて、絶えず地形が変化しています」
「まあ、きっとここでゆっくり死んでいくのね」
「私が救援要請をしに行く」
「無理です。外に出たら10分、いえ、5分も持たないでしょう。指揮官の体調もお考えください」
では、ここで死を待つのか? 否、そんなことは許されない。
「それしか方法がない」
「得策ではありません。絶対に認めません。……指揮官を何度も危険な目に遭わせてしまいました。それなのに、そんな死と紙一重な状況に追いやるなど、絶対にありえません」
他に方法が思いつかない。うなだれていると、ガタンと奥から音が聞こえた。
「貴女……動いて大丈夫なの?」
「……全然。というか、私の心配よりも指揮官さんの心配をしたほうがいい。マントの発熱機能も既に使い物にならない」
「……」
万事休す。そんな時、ある物が見えた。足を覆っている外骨格は無傷だ。
「この外骨格をスノーホワイトが使え」
「……はい?」
「……は?」
「元々ニケ用だ。問題なく使えるはずだ」
「……私を信じるのか? 今すぐルナを連れて、お前たちを見捨てるかもしれないんだぞ。逃げてしまった方が、目撃者もいないし楽だ」
それでも、全員が助かる道はこれしかないと思った。
「君を信じる」
「……分かった。外骨格を借りよう。ルナ、お前もそれでいいか?」
「構わないよ。元々その予定だったし」
「分かった……必ず助けに来る」
スノーホワイトは外骨格を付けてバンカーから姿を消した。
「行ったか……」
ルミナスムーンはよろよろと立ち上がろうとするが、すぐに崩れ落ちた。
「無理はしないで、貴女が一番損傷が激しいんだから」
ラピに支えられ、ルミナスムーンは地面に横たわった。
「大丈夫か?」
「さぁ? 正直分かんないです。まあ、スノーは優秀ですし、お喋りでもしてたらきっとすぐですよ」
彼女たちのことを知る良い機会なのかもしれない。
「聞きたいことがある。私を守ったあの黒い物体は何なんだ?」
「ナノマシンです。体内から放出して、様々な形状を生み出せるんです」
「それにしては、妙に生々しかったというか、意思があるみたいだったけど」
「そりゃ勿論、そういうプログラムを埋め込んでいますから」
ガタガタと揺れ、眼球を失った部分を触る彼女の姿で、改めて人間ではないと実感する。
「そうだ。あなた達には見せておきましょうか」
「?」
ルミナスムーンはもう片方の目を閉じ、息を吐く。
「じゃーん」
「!?」
再び目を開けると、その瞳は赤く染まっていった。
「侵食……!?」
「離れてください、指揮官」
衝撃の事実に全員の警戒が一層深まる。
「まさか、あなたもラプチャーと繋がっていたんですか!?」
「違う違う。それも含めて説明しますから、ちょっと待ってください」
それからルミナスムーンが話したことは、にわかには信じられないことだらけだった。
「信じられないわ。侵食を受け続けて正気を保っていられるなんて、本当は都合のいいように言いくるめようとしているだけじゃないの?」
「この事は、スノーも知っている。それに、もし私がラプチャーと繋がっているなら、あなた達に奇襲を仕掛けるタイミングはいつでもあった。それをしなかった……というだけでは不十分ですか?」
赤く光る瞳。あの日の彼女が頭に浮かんでしまう。
「何故、私たちに話してくれたんだ?」
「あなた達とは今後とも付き合っていく必要があると思ったからです。そのために、この秘密を抱えるのは失礼に感じたからですよ」
彼女の息が荒くなっていく。
「まぁ……あなたが私を不穏分子だと感じるなら、もう言い訳もしませんよ」
「無理をするな。安静にしてろ」
「おや、優しいですね。私はあなた達を皆殺しにするかもしれませんよ?」
「恩を仇で返すわけにはいかない」
「……そうですか。ふふ、やっぱりあなたは相応しい人だ」
彼女の言葉の真意は分からないが、先程よりも距離が縮まったのを感じた。
「指揮官様! 本当に大丈夫なの?」
「彼女は恩人だ。それに、私達を信じて打ち明けてくれた。私は彼女を信用する」
「指揮官がおっしゃるなら、私はその言葉を信用します。ですが、もし危害を加える危険性があったら迷わずご指示を」
出来れば彼女たちも多少の信頼を築いてもらいたいが、今はまだ難しいのかもしれない。
「あの!」
ネオンが声を上げた。
「……どうしました?」
「暇なら、火力について話しません?」
「…………いいよ」
どうやらネオンは思ったより早く馴染めるかもしれない。
───
スノーホワイトが出て行ってから、三時間が経過していた。
「……ねぇ、まずいわ。雪がバンカーの中まで入ってきている」
「このままだとバンカーの中が雪で埋まってしまうかもしれません」
「ピルグリムが去ってからどれくらい経った?」
「3時間」
「……来ないね。まあ、理解できないこともないかな。ピルグリムは、人間に捨てられたニケだもの」
スノーホワイトを信じるしかない。しかし、仮に助けに来ても、果たして私の体はそれまで保つのだろうか?
「……師匠、大丈夫ですか?」
「大丈……夫……」
自分の言っている言葉もよく分からなくなってくる。寒い……寒い、寒い、寒い、寒い、寒い。
「……体温が……ラピ、このままだと……」
「みんな、指揮官を身体で覆って。出力をすべてボディ温度へ転換するように」
「この状況で出力を切り替えたら、私たちも長くは……いいや、やるわよ。指揮官様が私たちより先に死ぬなんてあり得ないもの」
「はい」
三人が一斉に私を抱きしめた。
「え……これ……思ったよりもちょっと……」
「恥ずかしいですね」
「指揮官、これでしばらくは──」
「いや……これでも……体温が下がりすぎている」
遠くからルミナスムーンの声が聞こえる。
すると、私達を取り囲むように、ルミナスムーンのナノマシンが構成されていく。
「……私ができることはこれが精いっぱ……ゔお゛ぇ!」
ドーム状に熱が逃げない構造を生成したと同時に、ルミナスムーンが吐血する。
「待って! これ以上の無理は本当に危険よ!」
「かいへ……んは未知数なんだ……不安要素は……少しでも潰した方がいいで……しょう?」
体温が上がり視界が一時的に回復すると、目の前には生死不明のルミナスムーンが倒れていた。しかし、これだけやってもまだ足りないのか、徐々に意識が遠のいていく。そんな時、温もりを感じられた。
「これはこれは、熱い光景だこと」
「きゃっ、恥ずかしいです」
「ルドミラ!」
「大変だったでしょう。私たちが来たからには、もう大丈夫よ」
───
その後、私たちは無事に救助され一命を取り留めた。発煙筒に導かれ、私達を見つけたらしい。そして重傷者のルミナスムーンは、現在屍のように目覚めない。
「本当に起きるのでしょうか? だって、あの状態から……」
「信じるしかないわ」
ひとまずルミナスムーンを前哨基地に連れ込んだ。当然、この事についての報告は一切していない。
そして三日後。後遺症は残っているが、何とか動けるようになるまで回復した。しかし、ルミナスムーンはいまだ目覚めることはない。コアは僅かに稼働しているが、呼吸も脈動も感じない。これではまるで──
ガチャン! そんな時、重たい鋼鉄が下に落ちる音が聞こえた。この部屋でそんな音がするものはなく、慎重に振り返ってみると彼女がいた。
「……借りたものを返しに来た。それと、貸していたものを回収しに来た」
目線を下にずらすと、床には外骨格が置かれていた。
「私は大丈夫だ」
「お前はそれしか言わないな。あのヘレティックと何か関わりがあったようだが?」
「……仲間だ。一番最初の仲間」
「……そうか。受け取れ」
スノーホワイトは弾丸を一つ手渡した。
「調べてみろ。必ず役に立つだろう。アイツのお墨付きだ」
「スノーホワイト」
「何だ?」
「仲間になろう」
スノーホワイトは少し上を向き、何かを思うようだった。
「悪いが、仲間はもう間に合っているんだ。二度と失わないと誓った仲間がな」
「ルミナスムーンのことか?」
「そうだ。どこにいる?」
「……あれから目を覚まさない。コアは稼働しているが……」
「……そうか。この事を外部に漏らしてはないな?」
「問題ない」
「……分かった」
スノーホワイトはルミナスムーンを担ぎ、部屋を出て行こうとする。
「……何か私に手伝えることはないか?」
「……その時になったら連絡する。その様子だと、コイツの秘密は聞いたか?」
「ああ」
「そうか。なら、受け入れてくれたこと、感謝する。私とコイツの命を助けてくれたことは、絶対に忘れない」
そう言って、スノーホワイトはルミナスムーンを担いで部屋を出て行った。
───
「無茶をしすぎたバカ」
私が声をかけるが、コイツは何一つ反応を示さない。
ここまで朽ち続けて、果たしてコイツはどこに向かおうとしているのだろう。
もし二度と目覚めなかったら?
「……ッ」
……嫌な思い出が蘇ってしまった。あの日、私の憧れが朽ちたその瞬間を……
「目覚めたら覚悟しろ。だから、早くその目を開けろ」
足が動くスピードが早くなる。一秒でも無駄にしないために、後悔しないために。
サブイベントや過去編はやってほしい?
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欲しい
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さっさと本編書け