満月を抱きしめて   作:岬すみれ

25 / 25
Chapter14旅:身支度

 

「はい、一丁ぅ〜」

 

力なく垂れ下がった身体をそのまま投げ捨てる。

 

マリアンがカウンターズ所属になったその後、彼女は記憶が戻っている状態でもラプチャーに情けをかけるような様子が確認され、中央政府からの追手があらわれるようになってしまった。

 

「やれやれ。結局こうなるのか」

 

初めのほうは指揮官たちだけで対応していたが、エンターヘブンや中央政府の軍人、あらゆる人間がマリアンを狙い始め、そんな報告を指揮官から直接受け、こうして臨時の戦力として活動している。

 

勿論、素性が判明しないように、武装から服装、顔を新しく作成したバイザーを装着して戦闘を行っている。

 

「これで十三回目。そろそろか」

 

地べたに情けなく立ちすくむ人間共を適当に放り投げ、私は前哨基地へと向かう。

 

「指揮官さーん? 無事ですかー?」

「ああ。問題ない」

「なら良かったです。いい加減、奴らもしつこいですね」

 

人間相手のため、殺すことは許されない。手加減というのは何ともむず痒いものだ。

 

「……すまない」

「いいえ。あなたが気にすることじゃありません。所詮、向こうはその程度の組織なんですよ」

「まぁ、あんたが来てくれたおかげで随分と楽になったわ」

 

アニスが炭酸水を飲みながら呟く。

 

「それは何よりです」

「まあ、守られてばかりで何だか申し訳なくなってくるわね」

「では、もっと力をつけてください」

「分かってるわよ! それが簡単に出来れば苦労しないっての!」

「では! 私にあなたの火力を教えてください!」

「ああ……うん。また今度ですね。さて、そろそろご飯にしましょうか」

 

この時に備え、エデンからいくつかの資源を運んできた。正しく使えばおよそ一ヶ月程度は持つ量を。

 

「こんな資源、一体どこから持ってくるの?」

「企業秘密です」

 

ラピからの質問を流しながら、缶詰やら保存食を開けていく。

 

「ほら、マリアン。君も食べな」

「は、はい。あの、すみません。こんなにいっぱい……」

「気にしなくていいって言ったでしょう? これは人類のための先行投資だと思えばいいって」

「……はい」

 

一つ、ビスケットを口に入れ考える。本来より資源は潤沢にあるが、それでも限界はくる。そして、彼らの精神的・身体的疲疲労も加味すると、ここが限界か。

 

「指揮官さん、少しいいですか?」

 

私は指揮官だけに聞こえる声で話す。

 

「どうした?」

「あなたはきっと、マリアンをここにいさせたいと願うでしょう。しかし、状況は悪化の一途を辿っています。厳しいことを言いますと、ここが限界かもです」

「……そうか」

「? 指揮官、どうしました?」

 

マリアンが私たちの会話に気がついたようで近づいてくる。

 

「マリアン……」

「はい。何ですか?」

 

指揮官は言いづらそうに口ごもっていた。

 

「私から話してあげましょうか?」

「いや、大丈夫だ」

 

さすがにそこまでではなかったか。指揮官はマリアンに向き合うように座り直す。

 

「マリアン。君を、ピルグリムに任せたい」

「……え」

 

マリアンは少し顔を蒼白にした。

 

「君を守り続けるのは、ルミナスムーンの力を借りても現状不可能だ」

「……そう、なんですね」

 

「ああ。だが、必ず迎えに行く。次会う時は、君を守れる力をつけて」

 

先ほどの賑やかな食卓が一瞬にして冷え込んでいる。

 

「……すまない。分かってくれ」

「大丈夫です。指揮官たちと離れることは勿論嫌です。でも、指揮官は約束を守ってくれますよね?」

「ああ。約束する」

「なら、大丈夫です。信じています」

 

マリアンが頷き、ひとまず安心した。

 

「それじゃあ、そういう方向性のために連絡しておきますね」

 

席を立ち、私は出口へと向かう。

 

「あれ? あんたどこ行くの?」

「ちょっと野暮用です。詳しくは指揮官さんに聞いてください」

 

カウンターズの面々にそう言って、私は外に出た。

 

───

 

「あーあー。こちらルミナスムーン。誰かいたら、応答どうぞ」

 

通信を入れ、しばらく待っていると、賑やかな声が聞こえてきた。

 

『どうしたんだい? この無線を使うなんて珍しいじゃないか』

 

「やっほー、紅蓮。今そこに誰かいる?」

 

『ああ。今、ラプンツェルと共にいるよ』

 

耳を澄ますと、ラプンツェルの声らしきものが聞こえた。

 

『一体何事ですか。ルナがこの無線を使うなんて』

「あっ、ドロシー。今どこにいる?」

『ピナと一緒にエデンにいます。いきなりそんなことを聞いてどうしたんですか?』

「いや。ちょっと頼みたいことがあってね」

 

そう言うと、無線越しに驚くような声が聞こえた。え? そんなに驚くこと?

 

『今、起動しました。珍しいですね。ルナ、あなたが頼み事なんて』

「私が頼み事しちゃダメかな、ラプンツェル?」

『いいえ。約束を守ってくれてとても嬉しいですよ』

 

約束というのは、恐らく全員が集まったあの時のことだろう。

 

「そっ、か。まぁ、その。頼み事と言うのは……」

『すまない。少々電波が悪かったようだ。たった今回復した』

 

言葉を遮るようにスノーの声が入ってきた。

 

『スノー。そういえば最近あなたを見てませんけど、装備の点検は大丈夫なんですか?』

『装備のことなら、私が一番知っているつもりだ。そんな単純なミスは犯さない』

『どうだか。君はどこか抜けているからね。ルナを連れてきた時のあの時は──』

『今すぐその話をやめろ。そして二度と思い起こすな』

『ああ、すまない。久しぶりにこうして会話をできることに、少し気分が高揚してしまったらしい』

 

スノーの話は気になるが、ここで聞いてしまってはスノーが話を聞いてくれなくなってしまうため、ここは堪える。

 

「……後で聞いておくか」

『……? ルナ、どうしました?』

「へ!? あっ、いや。何でもない。それより本題なんだけど、例のヘレティックのことで少し……」

 

ようやく本題に入った。

 

『……確か、マリアンと言いましたっけ?』

「うん。それで、彼女が──」

 

そこから、私は今マリアンが置かれている現状と、その対策を説明した。

 

『なるほど。人類の楽園を謳っていた割には、思ったより状況は凄惨みたいだね』

『では、エデンにその方を?』

「いや。今エデンはまずい。例の火竜がいるでしょ? 同じヘレティックを合わせたら面倒だ。ヴァイスリッターに連れて行くのが安全だと思ってね」

 

それに、エデンに入れるとなると絶対試練があるから、とは口が裂けても言えなかった。

 

「あそこならある程度融通が利くから、ちょうどいい」

『……それは、エデンに自由がないとおっしゃいたいのですか?』

「……へ? いや、別にそういうわけじゃ……」

 

変にドロシーの地雷を踏んでしまったらしい。

 

『君が行っているその試練を、もう少し優しくすれば良いのではないのかい?』

『それは行けません。楽園に入る者はしっかりと見極めないといけませんから』

「と、とにかく! マリアンの護衛のために、いくつか人員が欲しいんだけど」

 

本来はスノー、紅蓮、ラプンツェルの三人がいた。けれど今回は私もいる。だからそんな大人数は必要ないと思うのだが……

 

『分かりました。ではそちらに向かいますね』

『そのお嬢ちゃんの顔も拝んでおきたいしな』

『了解した。一度紅蓮たちと合流してから向かう』

「うん。分かった」

 

これで目的は達成できたはずだった。

 

『では、久しぶりに遠征と行きましょうか、ピナ?』

「え? ちょっと待って。ドロシーにピナも来るの!?」

『? 当たり前でしょう? まさか、私たちを仲間外れにするつもりですか?』

「いや、でも……うーん」

 

正直誤算だった。でも今のゴッデスなら、多少人数が多くなったって支障は出ないか……

 

「分かった。後で座標を送る。えっと、気をつけてね?」

『勿論です。さあピナ、早速準備しましょうか』

『はい! ドロシー様!』

 

遠くからピナの声が聞こえ、何とも楽しそうな雰囲気で通信が切れた。

 

「……」

『では、私たちもこれで』

『次は現地でな』

 

ラプンツェルと紅蓮の通信も切れる。

 

『王国への連絡はどうする?』

「私がしておくよ」

『分かった。私も、トーカティブを逃してしまったことを謝罪しないとな』

 

そうしてスノーとの通信が切れ、あれだけ騒がしかった連絡機は静まり返った。

 

「さて、王国にも連絡しないとな……」

 

色々不安はあるが、ひとまず回線を繋げる。

 

「あーあー。こちらルミナスムーン。応答どうぞ」

『貴様ぁ〜! いきなり何なのだ! こんな忙しい時に連絡をするなんて、一体どういうつもりなのだ!』

 

通信機から聞こえるチャイムの大声に、思わず耳を離してしまう。

 

「え、えっと。新たな民をそちらに迎えたくって……」

『なに!? 何故そんな大事なことを早く言わないのだ!』

「いや、先に振ってきたのはそっちでしょ……」

 

駄目だ。あの王国のノリにはどうしてもついていけない。

 

『むっ。かしこまりましたお嬢様! 今から通信をお嬢様に代わるのだ! 絶対に無礼の無いようにするのだ!』

「あっ、はい。了解です……」

 

一方的に会話を進められげんなりしていると、王国の主人の声が聞こえてきた。

 

『お久しぶりですわね、ルナ。貴女という民が、更に新しく民を連れてきてくれることはとても嬉しく思いますわ』

「あ、はい。そうですか……」

 

すっかり私は「民」という扱いになってしまったらしい。

 

『いつ、こちらへ向かわれますの?』

「ゴッデスの全員が揃い次第、そちらに向かいます。多分、二週間ほどで辿り着くと思います」

『分かりましたわ。貴女方を心よりお待ちしておりますわ。チャイム?』

『代わったのだ! 王国に着くのは二週間後でいいのだな?』

「はい。大きなアクシデントがなければ」

『分かったのだ! では、我らは業務に戻るのだ!』

 

そう言って一方的に通信が切られた。

 

「……苦手だ」

 

立ち上がり、前哨基地に戻ろうとした瞬間、レーダーに反応が映った。

 

「……ほんと、タイミングってのに気を遣えないのかな?」

 

指揮官たちを呼ぶまでもない。武器を担ぎ、バイザーを閉じて暗闇を駆けていく。

 

音もなく建造物の間を抜けると、ちょうどこちらへ進行している部隊が見えた。

 

「……数は、十数人」

 

装備を見てエンターヘブンの分隊だと判明する。

 

「行っきまーす」

 

頂上から落下し、そのまま分隊の最後尾の兵士を殴りつける。

 

「何だ貴様ッ──ガッ!?」

 

向けられた銃口を蹴り飛ばし、そのままライフルを向ける。

 

「さて。大人しく去れば、互いに無駄な傷を負わずに済む。どうかな?」

「総員──撃て!」

 

何故連中はこうも争いが好きなのか。

 

銃弾を飛びながら避け、フラッシュバンのピンを抜く。

 

「よっと」

 

その手でそのままニケの一人を殴り飛ばし、一緒にフラッシュバンを投げ込む。

 

「グアッ!?」

 

光と轟音が辺りを包み、怯んだ一瞬の隙で一人、また一人と蹴り、殴り、確実に意識を失わせていく。

 

「テロリストだと言っても、そう簡単に殺しはしないよ」

 

ようやくこの場に静寂が訪れた。そのまま奴らはアウターリム周辺にでも転がしておいた。

 

「さ、帰ろう帰ろう」

 

一仕事を終えて、私はようやく前哨基地へと戻った。




Q.どうして最後、人間に攻撃できたの?
A.侵食を発動させるとNIMPHが一時的に機能停止になるため。

改変によるキャラクターの口調や本作の進行はどのような方向性にして欲しい?

  • 積極的に変えて
  • 原作っぽさを残しながらも変えてほしい
  • あまり変えないで欲しい
  • 原作そのままで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

D-WAVE!ーチルアウト☆ヘレティックー(作者:太刀黄泉)(原作:勝利の女神:NIKKE)

地上から配信してるヘレティックだけど、質問ある?▼エニックのプロキシアバターを受肉させて寝顔晒したら、本体がキレながらコメ欄に降臨した件www▼まぁ、アークの計算リソース食い潰してでも配信は続けるんだけどね☆▼最強のヘレティック(自称)が、ゆる~く世界をわからせる。▼「あなぐらのみんな~☆息してる~?☆」▼―――『煮卵ちゃんねる☆』、本日も絶賛配信中☆▼※A…


総合評価:634/評価:9/連載:12話/更新日時:2026年08月20日(木) 22:00 小説情報

ゴッデスの欠番ちゃん(作者:またろー)(原作:勝利の女神:NIKKE)

 勝利の女神:NIKKEの世界で、最強にして伝説の部隊「ゴッデス」。リリーバイスのコピーであり、フェリーテイルモデル01が生きていたらというお話です。主人公はある程度の原作知識を持っています。▼主人公参考画像(AI作成)▼【挿絵表示】▼ ▼【挿絵表示】▼


総合評価:3336/評価:8.88/連載:26話/更新日時:2026年05月11日(月) 00:00 小説情報

救済を願って(作者:バレンシアオレンジ)(原作:勝利の女神:NIKKE)

▼ ただ幸せであって欲しいと願った。▼ でも大切なものは手のひらから零れてしまった。▼ そう思っていたけれど。▼ 確かに遺せたモノはあって。▼ また時間を掛けて拾い集めて。▼ そして助けたかった人達にも助けられて。▼ やっと辿り着くことができたんだ。▼ その結末に。▼ 地獄の様な世界に生まれ変わり原作知識を使ってより良い未来を目指した主人公が、力及ばず志半ば…


総合評価:1686/評価:8.88/完結:40話/更新日時:2026年07月27日(月) 19:00 小説情報

フォービーストの指揮官の日常(作者:デュエルしろよ)(原作:勝利の女神:NIKKE)

フォービースト専用の指揮官が欲しくて書きました。▼原作も早くガチャ来ないかな。


総合評価:608/評価:8.5/連載:22話/更新日時:2026年08月24日(月) 07:18 小説情報

プロトタイプニケ幻の二人目(作者:山吹乙女)(原作:勝利の女神:NIKKE)

 過去編を知ってる人なら、「それ、絶対あかん奴…」を詰め込んだ存在になってしまったソシャゲプレイヤーが、RTAばりに悲劇を回避する話し。▼ (本話は、メガニケの最新話までのネタバレを含む場合があります)


総合評価:163/評価:9/短編:2話/更新日時:2026年08月13日(木) 05:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>