「3……2……1……点火」
ボタンを押した直後、私の体が一気に持ち上がる。前回とは違い暴発する現象も見られない。
「エンジンの出力は問題なし」
一度地面に降りると、今度は勢いよく走り出した状態で点火し、地面を高速でスライディングする。
「機動力も問題なし、コントロールも安定してる」
背中に装着したスラスターの熱が熱いが、そんなことニケの前では些細な事。
「流石に人間用に転用するのはリスクが高すぎるか……」
いや、冷静に考えれば、別に無理に人間用の兵器作成に着手する必要もない。流石に人間がラプチャーと戦うことは色々と問題が山積みだと再認識し、却下する。
「にしても、やっぱり研究はいいものだ」
カウンターズがここまで辿り着くまで、かなりの時間を持て余すことになる。通信を確認しても、他の場所にも異常は見られない。となると、私の兵器開発も大きく進められると思ったら、どうにか一つの物を開発するのに精一杯という非効率さ。
「このまま行ったら、私はどこまでいくんだろうなぁ……」
いずれ全身兵器まみれになるのではないかと恐れているが、そうなってくるといっそ自律的なアーマーを作成した方がいいのかもしれない。
「まぁ、そうならない事を祈ろうか」
妄想は妄想のまま終わらせるのが一番丁度いい。特に研究者にとっては尚更。
試験場としている部屋を出て研究室に向かうと、見知った二人がいた。
「やあ、お二人とも。随分と真剣な顔つきですね」
そこにいたのはヨハンとセシル。時期的にも何が行われているかは大体察した。
「あなたは本当にタイミングというものが読めませんよね」
「酷いですね。私だってエデンの一員ですよ? そのカプセル……まぁ、何となく予想はつきますよ」
セシルの手には一つのカプセルが握られていた。
「……分析完了。紛れもなくアンチェインドですね」
やはり、というか当たり前だがカプセルの中はアンチェインドだ。
「この容量なら、ニヒリスターを終わらせられるか?」
「それはすべてあなたにかかっています。あなたがたった1発の弾丸で彼女を殺せるなら、はい。十分な容量でしょう」
「ええ。まぁそれもこれも全て当たればの話ですが」
アンチェインドの話が出れば、もう一つ話題にすべきことがあるはずだ。
「そうか。そんな貴重な物をくれてやる訳にはいかないな」
「?どういう意味ですか?」
「研究所であったアークの指揮官に会った。お前が散々言っていた人物だろうな」
ヨハンが私に視線を移した。
「ええ、まず間違いなく彼でしょうね。貴方から見てどんな印象でした?」
「お前が言っていた通り、アンチェインドによるニケの解放を望んでいた青二才だった」
「それで、どうしたんですか?」
ヨハンが尋ねる。
「頭を冷やせと、ラプチャーの海に投げてやったさ」
「プッ……あなたらしいですね」
今頃指揮官は、ハランと共に行動しているだろうか。
「私があの指揮官をラプチャーの海に投げ込むことも予測済みか?」
「ええ、勿論。ああでも、特に問題はありません。これくらい自力で乗り越えてもらわないと」
こんな場所で助力してしまえば、彼らの成長機会を著しく減らしてしまう。
「事前通告する分、あなたはドロシーよりマシですね。この前もピナと共にまたお客さんを連れてきたんですよ」
「誰でも入れる訳じゃない。その管理においてはドロシー達も徹底してますよ」
さて、私は彼らが試練を乗り越えるまで少し装備の点検でもしておこう。
きっと必死だろうが、今は我慢してもらうしかない。
彼らの現状を想像しながら、私は研究室を出た。
───
ハランと別れた後、私は楽園と呼ばれる場所へと歩き続けた。
ラプチャーを避け、ただひたすら一人で歩き続けると、先程までの景色が嘘のように緑の園が広がっていた。
そこで見覚えのある顔がいた。ただその姿は、天使の様な見知らぬ姿だった。
「ようこそ。……ここは楽園。公の名称は、地上基地エデン。そして私は、この基地のガイドをしています。あなたの合格を喜ばしく思います」
マリアンをスノーホワイト達に預ける時に出会ったニケ、ドロシーだった。
そして、この場所に着く前に、ラプンツェルから既に彼女達の素性は知っていた。
「ラプンツェルから、私たちの事は聞いていますか?」
「ああ」
「ならゴッデス部隊を管轄している者として、改めて自己紹介を」
ドロシーは頭を下げた。
「何故私が合格できると分かっていた?」
「分かったというより、分かっていたの方が正しいかもしれませんね。それでいてあなたには必ず合格してもらわないと、こちらとしても都合が悪いのですよ」
「……私の合格というのはそこまで重要なのか?」
「ええ、あなたの重要性は既に理解しています。地上奪還、そしてあなたが重要視しているニケの解放。大層な夢を語っていると、よく彼女が話してくれましたよ」
彼女。私が思い浮かべられる人物は一人しかいない。
「ルミナスムーンか?」
「ええ、そうです。ですが、あまりプレッシャーに感じないでくださいね?」
ドロシーのボディが一瞬光ると、先ほどの天使の様な装備が消えていた。
「さあ、ひとまず楽園へと向かいましょう。今日は絶好の天気ですので。きっと良いものが見れると思います」
ドロシーの言葉に私は頷いた。
ドロシーの後に続き、現れた景色はどれも目を見張るものだった。
「……日差しが暖かいでしょう? ここでピナ──私の親友とよくお茶をしているんですよ」
ドロシーの案内で見る木々や花々は、どれもアークでは決して見ることのできない光景だった。
「召し上がってみます?」
ドロシーは木から黄金のリンゴを取り、私に差し出した。
差し出されたリンゴをかじってみる。
甘い蜜とフルーティな果汁が口の中いっぱいに広がる。
「どうでしょうか?」
「極上の味だ。これほどの物がこんなに……」
「そうでしょう? アークには存在しませんから。ルナ──いえ、ルミナスムーンと言った方がいいでしょう。彼女も遺伝技術には一役買ってくれました。後は私とピナの二人でこの場所を作り上げました」
ドロシーと共に庭園を歩くと、ふと白い花びらが顔に触れた。
「ここは……」
「美しいでしょう? ここは部隊全員が満場一致で作ろうと思った場所なんですよ」
一面に広がる白い花、そしてその間にはまばらに色とりどりな花がつぼみを広げていた。
「……いつの日か、またこの場所を全員で歩けたらどれだけ良いことでしょう」
「どうした?」
「何でもありません。さぁ、次の場所へと向かいましょうか」
庭園を抜け、施設へと入る。
「……ここはエデンの中央研究室です。ここに来る途中に3機のニケに会ったでしょう? ヨハンと一緒にいた子たちです」
「会った」
「お気づきかもしれませんが、みんな先端技術で制作されたピルグリムなんです。あの子たちはセシルの手によって誕生しました」
ピルグリムを製造する科学者すらこの場所には存在するらしい。
「そのセシルという人は、すごいな」
「ええ、ですけどエデンには他にも数多くのニケが存在します。共に生死を共にした仲間です。後は……双子は見かけましたか?」
「双子?」
「見てないのならいいんです。次に行きましょうか」
研究所を抜け、広い場所へと出た。
「最後にご覧頂くのはロビーです。基地全体を見渡すエデンの中心になります。あ、ちょうどノアとイサベルがインキュベーターで訓練中ですね」
「インキュベーター?」
「はい。アークのシミュレーションと似た概念の場所ですが、更に細かな調整と、より強力な仮想敵の作成が可能──」
突如、その場所から笑い声が響いた。
「……今のは?」
「……例の双子です。あの感じだとノア達とまた競い合っていますね」
ドロシーはそう言っているが、そんな風には見えない。
「随分と楽しそうだな」
「……そうですね。また難易度を見直す様に頼んでおきましょうか。さて、如何でしたか? 楽園は」
「理想郷と言っていい」
「それは何よりです。ひとまずあなたの仲間と合流しましょうか。話はそれからでも遅くありませんから」
───
「……指揮官様! 無事だったのね! 私たち、今度こそ指揮官様はもうダメだと……」
「ハニー!」
パピヨンが私に抱き着いてきた。
「グスン……ホントに心配したんだから」
「私は大丈夫だ」
「ケガはない? 私がふーってしてあげる」
「……ふーっ」
ネオンはパピヨンの耳に息を吹きかけた。
「きゃっ! 貴女今……私の耳に息を吹き掛けたの?」
「はい。どこからか女狐の鳴き声が聞こえたので。私の息で倒してあげようかなって思ったんです」
「……ホント呆れた」
彼女達がどうやってここまで来たのかは、ラピが説明してくれた。
「楽園の試練というものを受けました」
「うん、それも1人ずつね。あのドロシーっていうニケの側近っていう子はいいとして、盾を持ったおチビちゃんもいい、あの双子といい、からかってきて本当に大変だったんだから」
ドロシーも話していた双子の話題がここでも上がった。
「私の試練は空飛ぶ爆撃機だったの。グスン……すっごくつらかったぁ」
「私も楽園の試練を受けた」
そこからは私達は互いに楽園の試練について話し合った。
───
「はぁ、まさかあの子達もノア達と共にいたとは……」
試練としては申し分ないし、もし遭遇しても敵ではない事は言い聞かせていたが、普通に同行しているとは思わなかった。
「まぁでも、試練はクリア出来ているし結果オーライか」
指揮官さん達がいる場所へ向かおうとすると、ピナがいた。
「あっ、ピナ」
「ルナ様! お疲れ様です!」
私に気がついたピナはサッサッと近づいてきた。
「ありがとう。ドロシーは?」
「今はセシル様達と話しています。今後についてだそうですが……」
「そっか。どうだった? カウンターズは」
ピナも試練には参加していたので、感想を聞いてみることにした。
「そうですね……多少の不安はありますけど、あの人達もかなり経験を積んでいますね。ただ、あのパピヨンと呼ばれているニケは動きが怪しかったです」
「まぁ、彼女は一時的に合流しているだけだし、連携もまともに取れてないでしょうね」
「じゃあ、囮にでもしますか?」
「……やめとこう。彼女を傷物にして面倒事は御免だ」
随分と図太くなったピナに少し苦笑いをして、今後の事をピナにも伝えておいた。
───
「指揮官様。これからどうしよう」
アニス達はアンチェインドを渡してくれる条件について聞かせられていたようで、その事を私に話してくれた。
「これを逃したらアンチェインドは永久に手に入らなそうだし、かと言ってエデンと戦うのは得策じゃない」
「いずれヘレティックとは戦うことになる。その時にアンチェインドはどうしても必要よ」
私達が頭を悩ませていると、入り口の扉が開いた。
「ご無沙汰しています」
そこにはルミナスムーンを始め、セシルやヨハン、ドロシーにピナ、そしてインヘルトが揃っていた。
「……あんたも居たのね」
「いちゃ悪いですか? 兎も角、あなた方の全員の試練の合格をお祝いいたします」
ルミナスムーンは淡々と話を進めていく。
「さて、指揮官さんも既に聞いているかもしれませんが、貴方がたがアンチェインドを手に入れる為には一つ頼みを受けてもらいたいのです」
恐らくアニス達が話してくれた話題だろう。
「私が話しましょう」
ドロシーがルミナスムーンの前に出た。
「コードネーム・ニヒリスター。あなた達の知っての通り、クイーンの精鋭の一人です。彼女は執拗にエデンを襲撃し、過去五回ほど交戦し、そのどれもが膠着状態に終わりました。そこであなた方の力をお借りしたいのです。弾丸一発にエデンの命運を預けるわけにはいきませんので」
ヘレティックの討伐、その対価がアンチェインドというわけだ。
「お前を突き落として言うのもなんだが、ここまで都合の良い条件はないと思うがな」
ヨハンは呟く。
「……分かった」
ここで躊躇うわけにはいかない。私達はいつも通りやるだけだ。
「交渉成立ですね。それでは具体的な作戦についてお話ししましょう」
ドロシーの言葉でカウンターズとエデンの合同作戦が始まった。
───
「後輩はどうでしたか? ヨハン」
少し離れた場所で、私はヨハンと話していた。
「理想論しか話さない。虫唾が走るほどにな」
「そうでしょう。そうでしょう。あの人にはそうなってもらわないと困ります」
「あれが人類を救う鍵だとは思えないな」
「心配いりませんよ。一先ずは彼らの成長を見守るとしましょうか」
すると廊下の奥からドンドンと走る音が響いてくる。
「……この足音」
「そういえば、アイツらがお前を探していたぞ。遊び相手が欲しいと駄々を捏ねていた」
「はぁ……生まれた当初はまさかあんなに活発になるとは思ってませんでしたよ」
暴れられても面倒なので、私は向かうことにした。
「それじゃあ、貴方も後輩の面倒はちゃんと見ていてくださいね」
そう言い残し、私は音のする方へと急いで向かった。
「……後輩か」
ヨハンは誰もいない廊下で呟く。
「面倒事を押し付けられたな」
そんな言葉が、廊下に小さく反響した。
改変によるキャラクターの口調や本作の進行はどのような方向性にして欲しい?
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積極的に変えて
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原作っぽさを残しながらも変えてほしい
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あまり変えないで欲しい
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原作そのままで