満月を抱きしめて   作:岬すみれ

3 / 3
アナキオール

 

機体損傷74%

当機体に深刻なダメージ、欠損を確認。

損傷箇所を修復───エラー。修復不可。再実行、エラー。再実行、エラ謌代i縺ョ豈阪?轤コ縺ォ縲??繧峨?豈阪?轤コ縺ォ

機体の修復を確認。

 

機体名:ルミナスムーン、覚醒。

 

「…………あ」

「! 良かった……目が覚めたんですね!」

「ラプンツェル……」

「あっ、まだ動いたら駄目ですよ? 貴女が一番、損傷が激しいですから」

「そうか……私、どれくらい意識を?」

「おおよそ、3日です」

「……迷惑をおかけしました」

「謝らないでください。貴女がいなければ、私達は退却することが出来なかったかもしれません」

 

ラプンツェルの言葉に、私はそっと胸を撫で下ろした。

あぁ、良かった。私の行動は多少なりとも意味はあったんだ。

 

「みんなの役に立てて、良かったです」

「……はい。ですけど、これからはあんな無茶は絶対にやめてくださいね?」

「いや、でも……」

「やめてくださいね?」

「はい……善処します」

 

私を見つめるラプンツェルの目が怖い。絶対に信用されてないな、これ。

 

「それと、ルナ。レッドフードのことなのですが……」

 

史実通り、レッドフードの離脱を止めることは出来なかった。

スノーはレッドフードを撃てずに、抱え込んでしまったのも、そのままだ。

 

「レッドフードも、悩んでいたと思います。だから、その……」

「いいよ。別に私は、レッドフードのことに関してはとやかく言う筋合いはないですし。彼女がそうしたいと願ったなら、私もそれを見守るだけです」

 

未だに身体の自由が効かなくてむず痒いが、シンデレラや、あの未知のラプチャーのこともある。未来を知っている自分が動かなければ、本来の時

間軸より悪い結末になって元も子もない。

 

「あぁ……これからを思うと吐きそうだ」

 

ひとまず今はラプンツェルの目もあるので、大人しくしておこうと思った。

───

さて、それからの出来事を話そう。

人類の勝利が絶望的になり、いよいよアークに移住するという計画が決定したのは、およそ2ヶ月前。

 

「よっと。他愛もない、ってやつかな?」

 

秘密裏の準備もラプチャー達に見つかり、入り口への襲撃は止まる気配がない。

 

「あ、ありがとうございます! 流石、ゴッデス……!」

 

ラプチャー達にトドメを刺していると、背後から量産型のニケ達がわらわらと集まってきた。

 

「いいのいいの。コイツらは君達の戦績に入れればいい。じゃ、私はこれで」

 

囲まれるのも面倒だと思い、ラプチャーの残骸を投げ捨てて軽く量産型のニケ達に手を振る。私はそのまま飛び上がり、ビルの残骸のてっぺんに腰掛けて身体についた煤を払った。

 

「ふぅ……試しに作ってみたけど、意外と役に立つもんだなコレも」

 

私の顔に張り付いているフルフェイスマスクを取り、眺める。

 

私のシステムにどうしても付き纏う問題──それは「目の色の変化」だ。

一時期はシステムを使わずに戦うこともしたが、システムを使うことで救える命があるのならと思い、急遽、私の目を隠す物を作った。けれど、目だけ隠すと明らかに怪しすぎるということで、このフルフェイスのマスクを作った次第だ。

 

この世界の技術をもってすれば、本来視界を覆うはずのマスクでも安定した視界を獲得することができ、「何故もっと早く作らなかったのだ」と悔やんだ。

槍を飛ばしたりするような異能は人前では使えないが、身体能力の向上は大いに期待できるものになった。

 

「ま、お陰で『フルフェイスのマスクを被ったニケはルミナスムーンだ』って、バレやすくなったけど……」

 

目立ちすぎるのも考え物だが、システムを人の目を気にせずに使えるようになったと思えば、それには目を瞑った。

 

「こちらルミナスムーン。α部隊の犠牲はニケが二人です」

 

一仕事終えた私は、指揮官に無線を繋げる。

 

『了解した。帰還しろ』

「了解です。では……」

 

私はそう言って指揮官との通信を切る。

 

「さて、残業だ」

 

私は帰還するのとは反対の方角に飛んだ。

 

「いた。あぁ、囲まれてるな」

 

ビルの合間を走り抜け、状況を確認すると、ニケ6人、指揮官1人の小隊がラプチャーと戦闘していた。

 

「こちらルミナスムーン。援護します」

 

無線を繋げ、私はラプチャーに突撃した。

手始めに、目の前のラプチャー共へショットガンを浴びせる。

 

目の前の雑魚は粉砕したが、おそらくロード級と思わしき大型ラプチャーがこちらを覗いていた。

 

「ゴッデス部隊です。私が先行しますから、皆さんはあのデカブツの周りにいる雑魚の処理をお願いします」

 

「ルミナスムーン……! は、はい! 了解しました!」

「では、お願いしますよ?」

 

私はリロードを済ませ、大型のラプチャーに突撃する。

ラプチャーは、無謀に見える特攻を仕掛けた私へ容赦なくミサイルを放った。

 

「相変わらず容赦ないよね、お前らは」

 

人間味がなくて、ラプチャーが完全に別な存在だと改めて認識する。

 

「ま、お前らの技術は私が有効活用してやる。だから、何も心配せずに逝くといいよ」

 

ラプチャーの目の前で私は思いっきり飛び上がり、上空でライフルに持ち替える。

 

「消え失せろ」

 

ラプチャーはミサイルの再装填を始めているが、間に合うはずがない。

一発目の弾丸が装甲を貫き、敵の動きを封じる。

そして二発目で、露出したコアを確実に貫いた。ラプチャーは完全に沈黙した。

 

「ふん。隙がデカすぎるな」

 

こちとら、シンデレラとタイマン──という名の蹂躙を受けたけれど、それでも生き残った実績がある。

 

「はい、皆さんお疲れ様でした。私が様子を見ておきますので、皆さんは帰還してください」

 

手を振り、颯爽と立ち去ろうとしたが、見事に量産型の子達に囲まれた。

 

「あ、あの! 本当にありがとうございました!!」

「ルミナスムーンですよね!? 私、貴女に憧れているんです!」

「へ? あっ、ちょ……押さないで!?」

 

量産型の子達の輪からなんとか抜け出すと、そこには彼女達の指揮官が立っていた。彼女達とは違い、私を見る目は「厄介者」を見る目のそれだ。

 

「お前が例の『怪物』か?」

「……そうですけど? 何か?」

「何故、私達を助けた? 私がお前の立場なら、自らを追放した人間達など救う価値はないと思うが?」

「随分と凝り固まった思考だね。それは貴方の考えでしょ? たとえクズでも、そいつに利用価値があるなら生かした方がいい。それが私の考えだ」

「ほう、ならお前にとって、私はどんな利用価値があるのだ?」

「貴方は指揮官だ。まだニケを完全に使いこなせる人材は少ない。貴方がいなければ、あの子達は更なる被害を被ることになる」

「それが、私を助けた理由か?」

「そ。まぁ、本当に他人に迷惑をかけるような人間のクズには、私がいつか直接、制裁を下してあげるから、貴方が私を気にする必要は皆無だよ」

 

そう言って、私は再び量産型の子達の方を振り向き、笑顔を作る。

 

「それじゃ、これで。またいつか再会しようね?」

 

愛嬌を振り撒きながら、私は今度こそ帰還した。

───

「ルミナスムーン。只今帰還しました」

 

マスクを取り外し、その素顔を指揮官に見せて軽く敬礼する。

 

「遅かったじゃないか。どこで道草を食っていたんだ?」

「嫌だなー、帰還する途中でラプチャーに襲撃されたんですよ?」

 

深掘りされても面倒なので適当に返事を返し、自室の研究室に戻ろうとした。

 

「待って」

 

だが、それを許さない手が私を掴んで離さない。

 

「リリス……? なんでしょうか?」

 

私の肩を掴む手が、ギシギシと音を立てそうだった。

 

「さっき、とある小隊から連絡が入ったわ。フルフェイスのマスクを被ったニケが助けてくれたって」

 

あの指揮官、チクリやがったな!?!?

 

「あ、あはは……これはその、色々とワケが……」

「じゃあ、完全に修復が完了していないのに、一人で無理に出撃した理由もちゃんと説明してね?」

「し、指揮官〜?」

「諦めろ。こうなっては私でも手がつけられん。まぁ、ひとときの休息だと思えばいいさ」

 

ダメ元で指揮官に助けを求めたが、無駄な足掻きだった。

 

「こんなんじゃ休息になんて……ひっ」

「それじゃあ、ルナ? あっちの部屋、行こっか?」

「お、お手柔らかに……」

手を引っ張られて、別室に移動しようとした時、リリスの足が止まる。

「それと、指揮官?ルナの出撃を許可した貴方にもお話しを聞かせてもらいますからね?」

「……」

 

この後の出来事は、おおかた察しがつくだろう。

───

 

「あぁ……酷い目に遭った」

 

結局、次の作戦まで私はこってり絞られ、オマケに次の作戦は「今までが激務すぎた」という名目で、私抜きで行われることになった。

 

「まぁ、怪我人が出撃したのは悪かったけど、あんなに怒ることかな?」

 

今は人類にとって大きな山場になる時だ。ゴッデス部隊の面々がまだ揃っているとしても、戦力は無理にでも増強する必要があるのではないか?

 

「あぁ……駄目だ、落ち着かん」

 

思えばこうして、自室のベッドで横になり、考え事をするなんて初めてな気がする。

 

「やっぱり、私には休むなんて似合わないね」

 

ブラック企業もひっくり返るような激務の数々だというのに、私の身体が悲鳴をあげたことはなかった。

 

「流石、ニケの肉体って所かな」

 

私はベッドから飛び起き、机に座ってノートを開く。

 

「現在、ラプチャーの襲撃は184回。おそらくもうすぐ、シンデレラと戦うことになる」

 

そうなれば、いよいよ『RED ASH』は終盤。次のシナリオである『ARK GUARDIAN』が始まる。

 

「となると、レッドフードの計画はまだだな。じゃあ……リリスの問題だ」

 

レッドフードはスリープモードによる時間が生まれ、史実通りならしばらく猶予ができるはずだ。

そして、今悩むべきもう一つの問題。

正直、リリスには単純に「寿命」という問題が付き纏う。死に抗うようになったらいよいよ何でも出来そうだが、はっきり言って寿命に関しては、私はどうしようもできない。

 

「それに、例のクイーンは必ずリリスの頭部を狙ってくる」

 

避けては通れない問題であり、そして阻止してしまうと、今後の計画に大幅なズレが生じてしまうというもどかしさ。

 

「リリスのボディの再現は不可能……かと言って、他のボディが彼女の出力に耐えられるわけがないし、サブのボディの制作も不可能……」

 

どうする? 打つ手なしか?

 

「いや、駄目だ! 絶対に諦めるものか……」

 

あぁ、くそ。記録ノートがまた一杯になってしまった。

些細なことでもすぐ記録してしまうせいで、ノートの消費が激しすぎる。

でも、しょうがない。考えたことは全て記録しておかないと落ち着かないのだ。

 

「……記録」

 

ふと、ペンを握る手が止まった。

 

そうだ。私の装置を応用すれば──

 

「これなら……いけるかもしれない!」

 

天啓が降りた私は、ノートを新調し、早速計画を練り始めた。

全ては彼女達の為に。

───

「状況終了。ラプチャーは全滅しました」

「ご苦労だった。すぐに戻ろう」

 

ラプチャーの残骸達を前に、私達は状況報告をしていた。

 

「ヤツは出てこなかったか」

「シンデレラのことですか?」

「あぁ。早く雪辱を果たしたくて体がウズウズしているよ」

「勝つ自信があるのですか? 彼女の力は既にルナが証明していますけど?」

 

あの日の蹂躙を思い出し、思わず肩が震えた。

 

「思い出しちゃったじゃないですか、ドロシー。まぁ、生半可な気持ちで挑んだら、八つ裂きにされるのは間違いないですけど」

「では、全力でぶつかればどうにかなるだろう」

「シンデレラって言葉はもう禁止。正式なコードネームがついたの。『アナキオール』だって」

「……アナキオール」

「今はどこかに消えたのかい?」

「まさか。防衛戦を中心に作戦を実行してるから会えないだけで、アナキオールの『活躍』は大きな話題ね」

 

アナキオールに対して人類側もかなりの兵力を割いたが、結果は……まぁ、言うまでもない。

 

「出現した場所は全部焦土化。まともに抵抗もできないらしいの。それから、必ず1人……人間だろうとニケだろうと、生かしておくんだって。まるで、自分の実績をみんなに知らせろとでも言わんばかりに」

 

「……シンデレラはどうしてこんなことに? フェアリーテイルモデルの第2世代として、人類の味方になって戦うはずだったのに」

「前にエリシオンの研究所で見たでしょ? ラプチャーとニケが融合してたあれ。あれが成功してたってこと。あり得ないほど身体を改造して、侵食で人類と敵対させるの」

「ですが、フェアリーテイルの第二世代は実戦記録がない。となると、侵食を受けたのは私達と合流する前になる」

「だが、そういった類の報告はされてないぞ」

「はい。ということは、人類側で何者かがアナキオールの侵食に一役買ったという、一つの見解が思いつきます」

 

そうだ。あぁ……実に忌々しい。

 

「ルナ? 顔が怖いですけど……」

「ん? あぁ、いや。大丈夫だよ、スノー」

 

スノーの頭を撫でようとしたら、すんなり断られた。

 

「だからと言って、このまま放っておくのかい?」

「当然ノーよ。アナキオールは象徴になってるもの」

 

現状、アナキオールはラプチャー側の強力な戦力となり、ラプチャー側にとっては勝利の象徴とまで言われるようになり、逆に人類には恐怖の象徴となっている。

 

「本当なら今すぐにでも倒しに行きたいけど、私たちは忙しいでしょ? それに、そのうち戦うことになる」

 

リリスの言う通り、もう人類には逃げ道がない。アークの入り口をアナキオールが襲撃するのも時間の問題だ。

 

「対抗策は?」

「……」

 

言い出せないリリスの代わりに、指揮官が口を開く。

 

「リリスとアナキオールが1対1の状況を作る。今の所、それが一番確実な方法だ」

 

やはりと言うべきか、リリスを直接ぶつけるのが、人類の数少ない勝ち筋のようだ。

 

「やっぱり、リリスお姉ちゃんしか相手できないってことですね」

 

アナキオールは一人で多数相手の戦いに特化している。だが、私の前例もあるため、決して一人が苦手というわけでもない。だからこそ、リリスの凄さが際立つ。

 

「……それは、つまり。以前に相まみえた時は、私たちがいたから奴を倒せなかったということかい?」

「うん。みんなを守らなきゃいけなかったから」

「……正直だね」

 

やがて帰還することとなり、全員が歩き出した。リリーバイスと指揮官を除いて。

 

「指揮官」

「ああ」

 

指揮官はリリーバイスの肩を支えた。

 

「ごめんなさい。1分だけこうさせてください。すごく重いでしょう?」

「羽根のようだ」

「あら、本当ですか?」

「鋼鉄製の羽根だがな」

 

ぎゅっとリリーバイスに掴まれ、指揮官は「うっ……」という声を出す。

 

「……そろそろ限界みたいです」

 

リリーバイスはそうポツリと呟いた。

 

「いや、大丈夫だ」

「私もそう願っていますが。最近、やけに多いので」

 

指揮官は、その言葉に対する返答が出来ずにいた。

 

「そんな顔しないでください」

 

軽く微笑みながら、リリーバイスは口を開く。

 

「ねぇ、指揮官?あの子のこと、どう思いますか?」

「……あの子とは、どの子だ?」

「もう、分かってるくせに。ルナのことですよ」

「やはりか」

「はい。最近、あの子が研究室にずっと篭りっぱなしなのはご存知ですよね?」

「ああ、彼女が来た時から言っていた研究に没頭しているんだろう」

「ですが、ここ最近の彼女の激務は群を抜いています。研究でも、戦闘でもです」

「元々彼女については色々謎が多かった。そのせいでたらい回しされ、私たちの部隊に配属されたからな」

「ねぇ、指揮官? 単純な疑問ですけど、彼女は何者だと思います?」

「さあな。だが、彼女は間違いなくゴッデス部隊の一員だ。今はそれだけで十分じゃないか?」

「それも、そうですね。なら、私はあの子達が戦えるようになるまで見届けないとですね。大切な仲間達を置いてはいけませんよ」

「……」

「もうっ、そんな顔しないでくださいよ。さ、話し込んじゃいましたね。行きましょう? あの子達に心配されちゃいます」

───

「上層部から緊急の呼び出し、ですか?」

 

やはり来てしまった。指揮権のあるリリスと指揮官のみがいなくなり、防衛戦で忙しい私達にとって、最悪と言っていいタイミングでの呼び出しだった。

 

「今が唯一のチャンスなの。スキャンの結果からして、3日程度はラプチャーの襲撃がなくなるはず」

 

リリスはそう言っているが、この結果は全く当てにならない。クソが……

 

「すぐ戻ってくるから、あんまり心配しないで」

 

リリスはドロシーの方に首を動かす。

 

「えっと……ドロシー」

「はい?」

「私と指揮官がいない間は、あなたがリーダーになって」

やはりと言うべきか、リリスの代役はドロシーが務めることになった。

「……私がですか?」

「できるでしょ?」

「私はできますが、他のみなさんが私の言うことを聞くかどうかは分かりません。例えば、剣使いのどなたとか」

 

そう言うドロシーの先には、もちろん紅蓮が立っている。

 

「私より弱い者の言うことには聞けないね」

 

ドロシーと紅蓮の相性ははっきり言って良くない。だからと言って、この二人を分断するわけにもいかない。

 

「まぁまぁ、紅蓮。ここは大人しく従いましょう? 現時点で単独行動は非常に危険なんですから。私みたいにズタボロにされますよ?」

「私なら、もっと上手く帰還できた」

「まぁ、どうだか……とにかく! 今は集団行動が最善です。なんなら、あのお願いの権利を使ってもいいんですよ?」

「……こんな場面で?」

「むしろ、こんな場面だからですよ。どうです、紅蓮?」

 

しばし紅蓮は黙り込んでいたが、溜息を吐いて一言。

 

「今回は、従ってやる。恩を仇で返す真似はできん」

「あら、随分と素真面目ですね? 一体ルナとどんな約束をしたのでしょうか?」

「……」

 

ドロシーの問いに、紅蓮が口を開くことはなかった。

紆余曲折あったが、このままドロシーが代理のリーダーになることが決定し、ブリーフィングは終了した。

私も再び、鉢巻を締め直さなければ。

───

古い民家の中で、アタシは寝そべっていた。

少し休むつもりが、侵食のせいか、丸一日が経ってしまっていた。

 

混濁する意識の中で、アタシは過去を振り返っていた。

初めて、ゴッデス部隊の面々と顔を合わせた日。

部隊の面々と過ごした日常の中で最後に浮かんで来たのは、アイツ……ルミナスムーンだった。

 

最初来た時、アイツは妙によそよそしかった。

だから、いつも自室に篭りがちなアイツを、アタシが連れ出してやった。

ルナというあだ名をつけて、仲間達に合わせてやったら、最初こそ縮こまっていたが、今となってはアイツはすっかり部隊に馴染んでいた。

 

『ねぇ、レッドフード。君は生きたい?』

 

何故だろう。あの日言われた言葉が、頭を駆け巡る。

 

『生きたいと願うなら、必ず迎えに来る。みんなを連れて、必ず』

 

後輩だと思っていたアイツが、実はあんなに強い奴だったなんて、あの時初めて知った。

ボロボロになりながらも決して希望を失わず、アタシにすら手を差し伸べてくれた。

でも、あの日のアタシは、その手を取ることはなかった。

 

「ううっ……! かはっ……!」

 

あぁ……スノーにも、ルナにも、アタシは何一つ残せなかったな。

拳銃を取り出し、額に当てる。

 

「スノー……ルナ……ごめんな」

 

すべて終わりにしようと思っていたのに。

 

『……期待せずに待ってて』

 

「ううっ……あ、あぁ……」

 

最後の最後まで、アイツらとの思い出がアタシの手を掴んで離さない。

 

「このバカ! マヌケ! どうして! どうして…っ! あんなカッコ悪い別れ方しやがって! もっとカッコよく別れろよ!」

 

自分の頭を地面に打ち付け、アタシは悔やんだ。

 

「なんであんなカッコつかない……! いい思い出にするどころか……あいつらの……! あいつらの顔に……泥を塗っちまったじゃねえか……!!」

 

何度頭を打ち付けても、後悔の念は止まらない。

 

「ふぅ……! ふぅ……!」

 

そうだ。

 

「……帰ろう……帰るんだ……! あたしは……! まだ……! あいつらに……!」

 

まだ終われない。

 

「ちゃんとアイサツも……! できてねえんだ……!」

 

やるべきことがあるんだ。

 

「それに……あたしは!」

 

立ち上がり、思いを吐き出した。

 

「あいつらにとって、仲間でありたい! バカみたいにダサく別れた仲間じゃなくて! 最高に素敵な仲間でありたいんだ!」

───

「……みなさん。よく聞いてください」

 

まるでこの日を待っていたかのように、ラプチャー達は四つの大部隊に分かれ、人類に奇襲を仕掛けてきた。

防衛線も殆ど成果を上げることが出来ず、まさに万事休す。

そして、何より──

 

「コードネーム・アナキオールが、ラプチャー部隊に同行しているそうです」

 

やはり現れたアナキオールの存在に、警戒は一層高まる。

作戦は、直接ラプチャーの部隊に攻撃を仕掛け、その他の戦力は駐屯中の量産型部隊と合流する。まさに人類は総力戦と言わんばかりだ。

 

「ではみなさん、準備を……」

「ドロシー、提案」

 

私の挙手に、全員の注目が集まる。

 

「はい? どうしましたか?」

「アナキオールは私が引きつけます」

 

私の発言に、ドロシー達は目を見開いた。

 

「……何を言っているのですか?」

「簡単な話です。このままいけば他の部隊に多大な損害を与え、無駄な補給も消費してしまうかもしれません」

「それはそうかもしれませんが……第一、自殺行為です。貴女だって単独行動の危険性を……」

「確かにそうです……ですが今は緊急を要します!それに私はアナキオールとは一度戦っています。彼女の攻撃パターンはおおむね把握していますし、仮に勝てずとも、他のラプチャー達に目を向ける余裕は生まれるはずです」

「……特攻するつもりですか?」

「さぁ? でも、アナキオールを足止めすることによって被害が抑えられるのは確かです。ドロシー、貴女なら今の状況が分かるでしょう?」

「……ですが」

「こんなことを言っても安心材料になる訳はないですが、死にに行くわけではないんです。必ず帰還できるように尽力します」

「……」

「だ、駄目です! ルナもレッドフードみたいに居なくなるつもりですか!?」

「……スノー」

「私は反対です! これ以上、誰かが居なくなるなんて──」

 

苦言を呈するように、ドロシーは口を開いた。

 

「分かりました……」

「ドロシーッ!」

「分かっています! けど、犠牲を抑える為には、誰かが請け負うべきことなのかもしれません」

 

そう言って、ドロシーは私を見つめる。

 

「必ず。生きて帰ってきてください」

「勿論です。そうだ、貴女に渡しておくものがあるんです」

 

首を傾げるドロシーに、私は一つの無線を手渡す。

 

「私に繋がる無線です。これで、アナキオールの進行状況を伝えます」

「まさか貴女、最初から……」

「どうだか。ほらスノー、絶対に生きて帰ってくるから自分のすべきことに集中して?」

「嘘は嫌いです……」

「嘘じゃないさ。必ず帰ってくるから、ね?」

「……絶対ですからね!」

「勿論。それじゃあ──ルミナスムーン、出撃します!」

 

マスクを被り、私は最前線へと向かった。




やはり、多くを救う為には、単独で暴れ回ってもらう方法しか思いつきませんでした。
次回で、RED ASHは終了です、
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