満月を抱きしめて   作:岬すみれ

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中々難産でした。


Chapter24追放:終結

 

中央政府13ブリーフィングルームにて、バーニンガムは突如起こった対応に追われていた。

 

「テ、テトララインが電波ジャックされたと情報が入ったが、ほ、本当なのか!?」

「現在、情報収集中だ」

「だ、誰が、な、何の為にそんな事を……」

「……放送された元の音声を解析した結果、誰かが嘘の情報をシェルターに流したようDESU。ラプチャーがシェルター内に侵入したという音声履歴が残っていましTA」

「う、嘘の情報? だ、誰がそんな真似を……! い、いや待て、で、ではその電波ジャックのお陰で、シェ、シェルター内にその放送が流れる事は、な、なかったんだな!?」

「ああ。そこが一番の謎だ。市民が混乱しシェルターを開け、外に出るという最悪の事態は避けられたが、ピンポイントでその放送のみをジャックし、市街地にラプチャーが増加したという情報を流している。もし共犯ならこんな事をする意味はない。しかし、声も変声し完全にこの為に行動していたとしか思えない迅速な行動だ。これが一部始終だ」

 

映像が送られ、確認するとそこには一切の素性を明かさない様に武装が施された人物が、カメラに向かって、シェルターから出るなと呼びかけ続け、やがてテトラのマークが映り映像が停止した。

 

「こ、これがテトララインをジャックした……は、犯人なのか? で、ではシェルター内に嘘の情報を、な、流したのは、だ、誰なんだ!」

「調査中よ。元々の音声を解析すればすぐに捕まるわ」

「それ以外にも、アークに穴を開けたのはニケだという通報もある。ミシリスのエキゾチック部隊が疑われているそうだ」

「ちょっと、確かな情報だけを話して。推測で話さないでよ」

 

イングリッドの発言に、シュエンは異を唱えた。

 

「エ、エニックからデータはもらった。エ、エキゾチックって……ア、アウターリムの監視部隊じゃないか。つ、捕まえて調査してくれ。脳スキャンを、し、してみれば簡単じゃないか」

 

バーニンガムの発言に、イングリッドは眉間にシワを寄せた。

 

「……そう簡単な話ではない」

「??」

「エキゾチック部隊の行方が分からないんだ」

「エ、エニックは何をしてるんだ?」

「エニックは現在アークに散らばったラプチャーの動きを注視している。一部ではラプチャーの動きが変則的に変わったらしい、そのせいで数名の犠牲が出た。そちらの状況が安定するまでは、エニックに余裕はない」

 

やはりエニックはインクと合体するべきではなかった。そんな後悔をするが時既に遅し。

 

「な、何か手はないのか!?」

「……現在、特殊別働隊がエキゾチックを追跡している。もうすぐいい知らせがあるはずだ」

「あ、あの指揮官か。も、問題を起こしたこともあるが、ゆ、優秀な人材だな。か、彼が追跡しているなら、あ、安心だ。……ア、アンダーソンが元気だったら、ここまで大問題には……い、いや。今そんな話をしても意味がないな。ちゅ、中央政府は引き続き、し、市民たちを安心させることに注力しよう。み、みんなも頑張ってくれ。ら、ラプチャー殲滅を最優先にして」

 

時計を見ると、約束していた時間が迫っていた。

 

「ピ、ピルグリムがもうすぐこちらに来る。き、切るぞ」

 

───

 

ユニは息を荒げて走っていた。

 

理由は一つ。クロウとの約束を破ってしまったからだ。

 

ラプチャーがシェルターに入り込んだという嘘を流して、市民を外に出す。大勢が死ぬことが確定している最悪の取引。

 

それでもユニはミハラを選んだ。自分の身もアークだって、全て捨ててミハラを助ける事を選んだ。

 

我が身を捨てる覚悟は十分にできていたはずなのだ。それなのに。

 

「……どうしよう」

 

自分の覚悟はたった数秒で簡単に壊された。

 

「失敗した失敗した失敗した失敗した」 

 

ユニはブツブツと呟き、錯乱していた。

 

そんな時、ポケットから一つ音が鳴った。

 

───

 

パトラは確信していた。今のユニが大量虐殺の助力を素直に行う事はできないと。

 

今もそうだ。カメラを向け、マイクを持つがどこか震えて、躊躇いの様子が見て取れた。

 

だが、やらなければならない。そんな逃げ場のない状況でユニがマイクに口を近づけた瞬間、私はコマンドを実行した。瞬時にテトララインの包装をジャックし、ユニの声が一時的に解読不能な言葉へと変貌する。

 

後に履歴を確認すれば、実際の放送の声が確認できるかもしれないが、今現在、市民のパニックを抑えることが出来るなら、今はそれで十分だ。

 

「そこで何をしている」

 

突然の電波ジャックに混乱しているユニに、私はあくまで偶然を装い、接近する。

 

「だ、誰!?」

「それはこちらのセリフだ。何故ニケであるお前がカメラを持っている? それはテトララインのものではないのか?」

 

私がそのマイクとカメラに手を伸ばした瞬間、ユニは血相を変えて、機材を私から離した。

 

「や、やめて! ユ、ユニがやらないと、ミハラが……!」

「ミハラ? それが誰なのかよく知らないが、大人しくそれを渡せ、それはニケが持つものでは──うおッ!?」

 

どこで拾ったのか分からないハンドガンを、ユニは私に向けて発砲してきた。

 

「近寄らないでッ!!」

 

シュエンがニケ用のリミットを解除している為か、ユニは容赦なく私に攻撃してくる。

 

「おい、落ち着けッ!! 別に私はお前と敵対する気は──」

「うるさい!! うるさい!! 邪魔しないで!!」

 

私の声が届く事はなく、ユニは銃を乱射してくる。

 

だが、正確に狙いを定めているわけでなく、ただの拳銃ではすぐに弾切れを起こす。

 

その瞬間を狙い、私も自前のハンドガンをユニに向け、一発、弾丸を放った。

 

「……あっ!」

 

弾丸はユニの手元へと向かい、そのままユニのハンドガンを吹き飛ばした。

 

「動くな」

 

怯んだ所にすかさず詰め寄り、銃口を向けた。

 

俯いているため顔はよく見えないが、ユニは大人しく従っている。

 

「質問する。お前はあのカメラで何をしようとしていた?」

「……」

「ダンマリか。ではミハラとは誰だ?」

 

実際に会ったことはないが、ユニにはミハラという存在がいることは知っている。この質問はとある予想を確信に変えるためだ。

 

「答えろ。場合によっては対処できる──」

「うるさい」

 

そう一言、ユニが呟いた瞬間、両足の力が抜けた。

 

(くそ、感覚遮断か……)

 

オマケに両腕も使えない。

 

「答えて、それで何があるの? 助けを求めた所で、どうせ誰も相手にしてくれないのに」

 

ユニは立ち上がり、私を見下ろした。

 

「だったら、自分でやるしかない。言葉だけの励ましなんて必要ない」

 

ユニは私のハンドガンを手に取ると、私の額に押し付けた。

 

「ねえ、あの妨害。あなたがやってるんだよね?」

「……そうだ」

「なら、今すぐ解除して。やらなきゃ、分かってるよね?」

 

額にグリグリと銃口が押しつけられる。

 

「ニケを脅すか。では、お前は一連のテロに助力していたと認めたな?」

「……」

 

次の瞬間、ユニが引き金を引き、弾丸は左腕を貫通した。

 

「わざわざ、頭を一発外してくれるなんて、随分と優しい奴だな」

 

やはり、復讐心に燃えていないユニにはそこまでの決断力はないと改めて実感した。

 

「そう怖い顔をしないでくれ。別に私はお前を中央政府に突き出すわけでもない。一度言葉を交わしてみれば案外分かり合えるかもしれないぞ?」

「……」

 

ここから交渉……いや、脅しの時間かもしれない。

 

「ミハラを助けたいんだろう? そもそも奴らが五体満足で人質を解放すると思うか?」

「……え?」

「自分の信念の為なら平気で仲間を裏切る。無差別に人を殺す。そんな奴が、五体満足で人質を解放? 笑わせるな。そんな甘い言葉は単にユニ、お前を扱いやすくする為の言葉に過ぎない」

「な、なんで……どうして……」

 

ユニは銃を下ろし、動揺している。まあ、無理もない。自分の作戦が筒抜けのような状態になっているのだから。

 

「ユニ。私を殺して再び放送を始めるか? だが、既に電波ジャックを始めてかなりの時間が経っている。既にテトラやエニックが勘付いてもおかしくない。そんな状況で放送した場合、自らの首を絞めるのはお前だぞ」

 

チラッと腕時計を見ると長針は12時を指している。

 

「恐らく、この異常事態を犯人は予想していない。そしてコマであるお前には次の指示すら与えられないのではないか?」

 

わずかに手足を動かしてみると、問題なく稼働した。

 

そろそろ潮時だろう。 

 

ゆっくりとポケットに手を入れた。

 

「ユニは……失敗したの?」

「ああ、そうだ。だがユニ、お前だってこの虐殺に乗り気ではなかっただろう?」

「……ユニが、ミハラを助けなきゃいけないのに」

「お前が背負うには少々荷が重過ぎたまでだ」

「ねえ、あなたはなんなの……? どうしてユニを邪魔するの?」

「それが君の為だから。そして、悪いが……これは貰っていくぞ」

 

私はポケットからあらかじめピンを抜いた手榴弾をユニに投げつけ、同時に一発ユニに撃ち込むと、一気に飛び上がりカメラとマイクを手に取る。

 

「……煙幕ッ!? ま、待って! 返して!!」

 

煙に気を取られたユニは撃たれたことに気が付かない。そして、もう遅い。既に煙は充満している。一瞬でも放送感覚を狂わせることが出来たのなら、それで十分だ。

 

「……目標は達成したが、後は奴が次の指令を出すだけか」

 

自分もお母様も、奴が都合の良いコマを簡単に捨てることはしないだろうと確信していた。

 

一度通信を入れ、その状況を報告する。

 

「お母様。パトラです。目標は概ね達成しました」

『ご苦労様です。後は放送で市民に対して外の危険性を煽ってください。発信機は?』

「既にユニにつけてあります。今そちらに情報を送ります」

『了解。私はこれからミシリスに向かいます。動きはこれまで伝えた流れで。インフィニティレールには例の音声データを渡しておきます』

 

通信を切り、腕時計を見るとそろそろ電波ジャックが解消される時間帯だった。

 

私はカメラを自分に向け、放送を開始した。

 

───

 

AZX。その客室内で、中央政府の放送が流れていた。

 

「アークにラプチャーが入り込むという前代未聞の事件が発生しました。しかし、中央政府の迅速な対応によって死亡者は0人という素晴らしい成果を収めました。アークは安全です。中央政府は、この事件は二日以内に解決すると予想しており、状況は非常に良好です。また、テトララインの通信障害についても現在、中央政府は回線の回復を──」

 

放送を聞き終え、クロウは車内の様子を眺めた。

 

数多くの負傷者が運ばれて、医療チームはその対応に追われていた。そして人々は様々な反応を示していた。

 

初めて見たラプチャーへの恐怖。

 

アーク崩壊の危機。

 

ニケが自分を救ってくれた。

 

そんな中で、一番話題に上がっていたのは、謎のニケ達。

 

突如現れたと思ったら、ラプチャーの軍勢をいとも簡単に倒して去っていた。

 

仮面を被ったニケが逃げ道を作ってくれた。

 

まるで天使のような二人組に出会った。

 

絶望の中で、民衆は確かな希望を抱いていた。

 

「……やってくれたな」

 

苛立ちを覚える。全てお見通しのような奴らの動きが憎たらしい。

 

「だが、これはどうだろうな」

 

目立たないように立ち上がり、客室の間のトイレに入ると、ポケットにしまっていた爆弾を設置した。

 

そのままその客室から離れた通路でスイッチを取り出す。

 

「……地獄行きだな」

 

スイッチを押そうとした瞬間、立っていた前後に防火壁が降ろされる。そして非常口から、ディーゼルとソリンが銃で狙いを定めたまま入ってきた。

 

「……随分対応が早いな」

「はい。とある報告を受けました。AZXに爆弾魔が乗り込んでくると」

「……チッ。また奴らの仕業か」

 

クロウは小さく舌打ちをした。

 

「実際に起爆信号を逆探知させてもらった。列車が爆発するなんて、二度とあっちゃいけないことだから」

 

そして、AZXにそんな機能が備わっているのは想定外だった。

 

「あなた。エキゾチック部隊のクロウでしょう? どうしてこんな真似を?」

「銃を向けながら質問されたら、何でも答えなきゃいけないのか?」

「答えてください」

「断る」

 

生殺与奪の権利を握られているというのに、クロウは余裕の態度を見せる。

 

「……じゃあ質問を変えるよ。AFXって列車を知ってる?」

「知ってる」

「それだけ……!?」

「何が聞きたいんだ?」

「AFXを爆破させたのはあなた?」

「ああ」

 

クロウは躊躇いなく答えた。

 

ディーゼルが持っていた銃の銃口から煙が出た。クロウの足元には弾痕が残っている。

 

「ディーゼル!!」

「あなたですか……あなたが!! 私たちを……!! 私の弟を……!!」 

 

ディーゼルはクロウに極限の憎悪を向ける。

 

「……そうか、お前たちが。悪趣味だな、エリシオンも」

「……何ですって?」

「列車テロで死んだ人間を、列車を管理するニケにするなんて。悪趣味以外の何物でもないだろう? お前らは呪縛に囚われているんだ。人間だった時の、強烈な感情を利用した呪縛に。過去の記憶を担保としてお前らをとらえ、抜け出せないようにしたんだ」

「……最後に言いたいことはそれだけですか?」

「あたしを殺すのか?」

 

クロウがその言葉を口にした瞬間、ディーゼルは目を細めた。

 

「……」

 

そして、ディーゼルは銃口を下に下げた。

 

「どうした? あたしが憎いんじゃないのか?」

 

「ええ、憎いです。殺したいほどに」

「なら、リミットのせいか?」

「いいえ。爆弾を教えてくれた方にとある提案をされたんです」

 

ディーゼルは淡々とそう口にした。

 

「……提案?」

「はい。あなたを捕まえて、そこで永遠とも呼べる苦痛を味わってもらいます。あなたを殺して、たった一回の苦痛……いや、苦痛とも呼べないことにして終わりなんて、絶対に許しません」

「それも、提案されたことか?」

「はい」

 

またそうだ。何もかもが筒抜け状態。嘲笑うかのように、こちらの動きを読んでくる。

 

やがて、AZXが駅に停車した。

 

「どうする? このままあたしを捕まえるか?」

「ええ、勿論です」

「もしあたしが、爆弾をまだ隠し持っていたらどうする?」

 

クロウの言葉に、ディーゼルとソリンは一歩を踏み出せずにいた。

 

「あたしがもしここで爆弾を落としたら大変だな。この車両は勿論、他の車両につけた爆弾にだって引火するかもしれない。そんなリスクをお前達は背負いたくないよな?」

「……」

「どうする?」

 

しばらく両者の睨み合いが続くが、動いたのはソリンだった。

 

「……分かった。行って。その代わりスイッチは置いて行って、そして、AZXには二度と乗らないで」

「……ああ、そうするとしよう」

 

クロウはスイッチを床に置くと、そのまま駅に降りた。

 

「……」

 

実際、爆弾なんてものはブラフだ。ただ生き残りたいが為の、都合の良い脅しに過ぎない。

 

「邪魔が入ったみたいね?」

 

駅にはバイパーが待っていた。

 

「ああ」

「あらら、暗い顔して……何かあったの?」

「別に何も」

「ジャッカル、無事かな?」

「さあな、あいつの動き次第だろ」

 

クロウは淡白に答える。

 

「あはっ、ホントひどいね。ジャッカルに死ぬ気で戦えって命令したくせにあいつの動き次第って?」

「あたしの言葉に忠実に従ってれば死んだはずだし、そうでなければ生きてるはずだ」

「ジャッカルが命令を破ったと思う?」

「いや」

「じゃあ、死んでるね」

「そうかもしれないな」

「……お別れの挨拶をしておけばよかった。残念。次、どうするの?」

「ユニを使う。放送の失敗を脅しにでも使えば、まだあいつは利用できる」

 

そのままクロウとバイパーはAZXから降りた人々の中へと消えていった。

 

───

 

「……」

 

ミシリス医療センター、院長室。ユニはそこで一人、ある人物を待っていた。

 

『ユニ。シュエンにあたし達を捕まえたと報告して、院長室におびき寄せろ。あたし達もそこに向かう。決して失敗するな。そして、もう一つ──』

 

一度失敗した身、二度はない。そして、クロウはシュエンを呼び寄せた後……

 

「ちょっと、ふざけてんの? いないじゃない。あいつらはどこなのよ!!」

 

ああ、来てしまったと、ユニの気持ちは沈む一方。

 

「……」

「ちょっと、なに黙ってるの!というかあんた、ミハラはどうしたのよ?」

「早かったね、シュエン」

 

ユニは笑顔でシュエンに顔を向けた。

 

「そ、そりゃね。アクセル全開よ。それで、あいつらはどこにいるの?」

 

シュエンはユニの違和感を感じたが、今そんなことを気にしている余裕は

なかった。

 

「まだ来てないよ」

「この近くにいるのは確かなの?」

「……うん」

「そう? ならいいわ」

 

シュエンが携帯電話を取り出した瞬間、ユニはシュエンの感覚を遮断した。

 

「……え?」

 

シュエンの手から携帯電話が滑り落ちた。

 

「……何よこれ。手が……」

「手の感覚を遮断したよ」

「……?」

「それを押したら、クロウやバイパーが死ぬんでしょ?」

「そう、だけど……?」

 

異変を察知したシュエンを逃さない為に、視覚を遮断した。

 

「!!め、目が……!! 目が見えない……!!」

 

慌てふためき、狼狽するシュエン。更に足の感覚をなくし、自立できなくする。

 

「た、立てない……!! お、お前、なにして……」

「ごめんね、シュエン」

 

ユニはシュエンの目の前にしゃがみ込み、そう口にした。

 

「ミハラを救うには、こうするしかないの」

 

何かするわけでもなく、ユニはシュエンが暴れる様子をただじっと眺めていた。

 

「鉄くずの分際で……!! 私を誰だと思って──」

「ねえ、シュエン」

 

ユニは立ち上がり、シュエンを見下ろした。

 

「シュエンはどうしてユニたちを叩いて、壊して、雑に扱うの? どうして鉄くずって呼ぶの? どうして酷いこと言うの? ねえ? ユニたちのこと、どうして?」

「くそっ……この鉄くずが……! お前……絶対に廃棄処分に……!!」

 

暴れ、喚き散らす。こんな奴が今まで自分達を散々酷使してきたという事実。今の脅しにだって、一切の力を感じない。

 

でも、不思議と殺意は感じられない。いや、感じられないというより、あまりの情けなさにそう言った類の気持ちが冷めてしまっただけなのかもしれない。

 

「……はぁ」

 

喚き散らすシュエンを遠目に、ユニは膝を丸めて俯き、ただその時を待っていた。

 

「これで……ミハラを助けられるなら、ユニは……それで……」

「ユニー!!」

 

その時、扉が開く。しかし、そこに現れたのは予想もしていない人物達だった。

 

「ユニ!! もうやめて!!」

「……指揮、官? ミハ……ラ?」

 

現れたのは指揮官とカウンターズ、そしてミハラだった。

 

何故指揮官がここにいる? いや、それよりどうしてミハラがここにいる? ミハラはクロウに捕まっているんじゃないのか?

 

ユニの頭に様々な疑問が浮かび上がる。

 

「ユニ、もうやめるんだ」

 

指揮官はユニにそう一言かけた。

 

「……でも、ユニがやらないとミハラが」

「ミハラは無事だ。だから、もうやめろ」

「……なんで今更」

 

ミハラを救う為の行動は? 覚悟は? もう何もかも遅いのに、今更やめろと?

 

こんな事は八つ当たりだ。そんなことは分かっている。だけど、どんな罰だって受け入れるつもりだったのに、その必要すらなかったという事実。それはあまりに理不尽に感じた。

 

「もう遅いよ、指揮官。ユニはね、もう指揮官達と同じじゃないの」

 

ユニは銃を向ける。それに対してカウンターズは反応するが、指揮官とミハラがそれを制止した。

 

「ユニ。君がこうなってしまった理由を聞き、必ず君を助ける。勿論、ミハラともまた一緒にいられる様にする。それで──」

「そこまでにして貰おうか」

 

扉が開いたその先にはクロウとバイパーがいた。

 

「ッ!? 指揮官! 射撃許可を──」

「大人しくしろ。たとえリミッターが掛かっていたとしても、殺す手段は山程あると忘れた訳ではないだろ?」

 

クロウは指揮官の頭にサイレンサー付きの拳銃を向けた。

 

「さて、例の物を出して貰おうか」

 

そう言うとクロウは徐に指揮官のポケットを漁り、一つの弾丸を取り出した。

 

「……!」

「ふん。やはり持っていたか。ユニ、方法は覚えているな?」

「……」

 

弾丸を一つ込められた拳銃がユニの足元に投げられた。

 

それを取り、ユニは自分の腕に向かって銃口を向けた。

 

指揮官が何か言っている。ミハラが何かを叫んでいる。

 

ユニは自らの腕にその弾丸を撃ち込み、クロウとバイパー以外の者の手足の感覚を遮断すると、全員が倒れた。

 

「ユニ……」

 

ミハラの顔が歪んでいる。決してそんな顔をさせるつもりなんてなかったのに、どこで間違えてしまったのだろう。

 

「良くやった、ユニ」

 

クロウがユニの肩に手を当てる。

 

「だが、最後の仕上げをしないとな。バイパー」

 

クロウが合図すると、バイパーはミハラに向かって銃を向けた。

 

「……え?」

「シュエンを殺せ、ユニ。そうしなければ、バイパーが引き金を引いてしまう」

 

計画はここまでだった。アンチェインドを撃ち込み、全員の感覚を遮断する。そこまでのはずだった。

 

「ああ、あああ……」

 

ようやく気がついた。あまりに遅すぎた。クロウは初めから自分との約束なんて、守る気がなかったことに。

 

そして、クロウは指揮官に近づくと、目の前でしゃがんだ。

 

───

 

「ここまでよく来たな。それは褒めてやろう。だが、お前には何もできなかった。だが、お前は甘過ぎたな。説得なんて、余計な考えをするからこんな結果を招くんだ」

「君が……! 君のせいで……! ユニだって……!」

 

指揮官は声を荒げた。

 

「……無様だな。どうしてお前がこんな目に遭ったのか気になるだろ?」

「……何が言いたい?」

「あたしには、見たいものが2つあったんだ。1つ目はアークの選択。2つ目はお前の破滅。シュエンはただのおまけさ。まあ、あれくらいで十分だろ」

 

クロウは続ける。

 

「気になるか? どうしてあたしがお前を破滅させたいか」

「……聞かせろ」

「そんな状況で、まだ言葉を聞く余裕があるんだな」

 

クロウは鼻で笑い、やがて話し始めた。

 

「お前はあまりにも『ヒーロー』すぎる。何でも解決してしまうんだ。どうってことないように。それが不満だってわけじゃない。あたしはお前のことが好きだ。尊敬しているといってもいいくらいにな。でも、アークの為にもお前を破滅させる必要があった。ニケとお前は、同じだ。アークのために、バカみたいに犠牲になるだけ。アークに捨てられたピルグリムですら、アークの為に戦っていた」

 

クロウは語り続ける。

 

「お陰で、今回のラプチャー襲撃によって、ニケと人間の互いを見つめる視線は変わっていくだろう。面白い絵ができそうだが、お前が邪魔なんだ。お前はまた人間とニケのために、仲裁に入るだろう。そうすると、ジャーン。お前が解決して、また今まで通りのアークに元通りだ。お前は高貴で唯一の存在だ。おそらく今後、二度と現れないヒーローだろう。だからこそ、お前がアークに及ぼす影響はお前が想像する以上に大きいだけでなく、絶対的なんだ」

 

クロウは一つ間を置いた。

 

「それなら、どうすればいい? お前をアークのクズどもと同じようにしなければ。だから、お前を破滅させるんだ。では、どうすればお前を破滅させられる? 腹に穴を開けるか? 信じていたニケに裏切られるよう仕向けるか? あたしが今まで見てきたお前は、そんなことじゃ破滅しないように見えた。だから、あたしが下した結論はこれだ」

 

三発の銃声が響いた。

 

「お前の手でニケを殺させること。お前が憎悪にまみれて。お前が、お前の判断で、お前の感情によって、ニケを殺すことになったら。お前は真の意味で破滅するんじゃないか?」

 

クロウはユニに銃を握らせた。

 

「やれ、ユニ。指揮官に見せつけてやれ」

 

排薬の匂いが立ち込める中、そのままシュエンに向かって銃口を向ける。

 

「シュエン。お前は前座として死ね。あたしのヒーローの絶望のためにな」

「ふっ、ふっざっけんじゃないわよ!! 私はミシリスのCEOなのよ!!」

「哀れだな。こんな状況でまだそんな看板にしがみつくなんて。だが、今はその看板が丁度いい。ユニ、やれ」

「やめろッ!!ユニ!!」

 

指揮官は叫び、それをクロウは笑った。

 

「……あ、あ」

 

ユニは震えていた。もはや正常な判断は出来ないと誰が見ても明らかな程に。

 

「ユニ!!」

 

ミハラの声にユニは少しだけ反応した。

 

「落ち着いてユニ。ここでクロウの煽りを真に受けたら本当に元に戻れなくなる。あなたは本当に──」

「バイパー、黙らせろ」

「は〜い」

 

ミハラが何か言う前に、バイパーによって気絶させられた。

 

「ミハラ!!」

「とんだ邪魔が入ったな」

 

クロウは再びユニに銃を構えさせた。

 

「くそッ! くそッ! 誰でもいい!! 私を助けろ!!」

シュエンは喚き、指揮官も必死に身体を起こそうとするが、ただ魚のように跳ねることしかできない。

 

「撃て」

 

クロウのその一言で、一発の銃声が鳴り響いた。

 

「ひっ……ひいいい……!!」

 

しかし、銃弾はシュエンの頬を掠めて地面に傷をつけていた。

 

「……何をしている」

 

歓喜に包まれたはずのクロウが顔を歪ませた。

 

一方、ユニの方を見ると拳銃を持つ手はあり得ない程震えていた。

 

「もう一度、チャンスをやる。次こそ確実に撃ち抜け。さもなくばお前の相方がどうなるか、分かるよな?」

 

クロウはユニを脅し、再びユニに銃を構えさせようとした瞬間、先程までの震えがピタリと止まった。

 

「ねえ、クロウはユニにどうしてこんな事をさせるの?」

「……何?」

「簡単に約束を破って、ねえ、どうしてこんな酷い事をするの?」

「今、自分の状況を理解しているのか? お前の選択次第で、ミハラが──」

 

次の瞬間、ユニはいきなり背後を振り返ると、バイパーに向かって拳銃を発射した。

 

「あっ!?」

 

銃弾はバイパーの手に当たり、そのまま銃を吹き飛ばした。そしてその勢いでクロウに銃口を向けた。

 

「……交渉決裂だな」

 

そう言うとクロウはユニを殴りつけると、何度も銃弾を撃ち込んだ。

 

「ユニッ!!」

「……使い物にならないな。やれ、バイパー」

 

バイパーが意識を失ったミハラに銃口を向けた瞬間、突如天井が爆発した。

 

「やあ、テロリストさん」

 

その中から現れたルミナスムーンがユニとシュエンを抱えて、仮面を被ったニケがクロウとバイパーに向けてガトリングを向けた。

 

「……仮面。そうか、電波ジャックはお前の仕業か」

「その通り。お気に召したか?」

 

ガトリングのモーター音が響き渡り、人質の指揮官達とクロウ達を強制的に引き剥がした。

 

「颯爽と現れてヒーロー気取りのつもりか? お前達は邪魔者以外の何者でもない」

 

そう言って、クロウはポケットから何かを取り出すと、指揮官達に向かって投げた。

 

「伏せろッ!!」

 

ルミナスムーンの言葉と同時に、衝撃と熱が身体に伝わった。

 

「指揮官さん、大丈夫ですか!?」

「……私は大丈夫だ。クロウ達は?」

「既に逃げました。後を追います。あなたは……」

「私も行く」

 

指揮官は真っ直ぐとそう言った。

 

「……分かりました。申し訳ありませんが、歩いている暇はありませんからね?」

「分かってる」

 

指揮官はよろよろと立ち上がり、クロウ達が逃げていった方向に足を向けた。

 

「後は任せましたよ、パトラ。シュエンは急いで病院に、ユニは予定通りに」

「分かりました。お気をつけて」

 

そう言って、ルミナスムーンと指揮官と共に院長室を出た。

 

───

 

「ハァ……ハァ………」

 

クロウ達の元へ向かう途中、指揮官の息遣いは不安定だった。

 

「まだ行けますか?」

「……当たり前だ。これも予測していたのか?」

「いや全く。そもそも私の予測との前提が違う。だから私も多少助けに来るのに手間取ってしまいました」

 

実際、ユニの動きは本来とかなりかけ離れていた。結果的に本来と同じ流れになることができたが、発信機をつけてなければ動きがかなり制限されていたはずだ。

 

「クロウの挑発には乗らないようにしてくださいね。アレのお得意芸なんですから」

 

そして指揮官がクロウに対して抱く殺意も、本来とはかなり違う。

 

「……」

「気持ちは分かりますが、それじゃあ奴の思う壺ですよ? もし、あなたが下手な行動を取ったらその時は、ある程度の対応はさせてもらいますから」

 

指揮官にその事を伝えながら走ると、やがて三人の人影が見えた。

 

「じゃあ、私は投降する準備を……あら、ダーリン。それに、あなたも来たんだ」

 

バイパーは私達に近づいてくる。

 

「近づくな」

 

しかし、指揮官はそれを制止した。

 

「……ねえ、ダーリン。そんなこと言わずに、私の話を聞いてくれない?」

 

バイパーはゆっくりと話し始めた。

 

「私、自首するつもりなの♡ 事実を全部話すよ。アークのテロが誰の主導で、どんな過程で行われたのか。クロウが見えるでしょ? 私が捕まえたようなものよ」

「……何を企んでいる」

「え? 企む……?」

 

指揮官がそう思うのも無理はない。実際、散々利用されてきたのだから。

 

「彼女は嘘は言っていませんよ。今回は本当に自ら自首するつもりです」

だから、その誤解も正すことにする。

「何だと?」

 

私の言葉に指揮官はあり得ないという顔をした。

 

「どこの誰か知らないけど、ありがとうね。ねえ、ダーリン。今まで嘘をついて、もてあそんでごめんね。心から謝るから……困ったな。どうやって謝ればいいのか、分かんないや」

 

次の瞬間、バイパーのチョーカーが光り出した。

 

「これは……!」

「!!」

 

ああ、くそ。結局こうなるのか。

 

「ああ……ここでこうなるんだ」

 

バイパーのチョーカーから溢れ出る光が強くなる。指揮官がチョーカーを慌てて掴む。

 

「動くな!外せば……!」

「ダーリンは本当にいい人だね。最後までこれだもん。もう少し……早く知れたら良かったのにな♡ ダーリンという人を。私の気持ちを」

 

バイパーが指揮官を突き飛ばした瞬間、光が更に強くなる。

 

「ジャッカルをお願い、ダーリン。あいつ、お人好しのバカだから」

「離れろ!指揮官!」

 

その言葉を最後にバイパーのチョーカーが爆発し、力なく倒れた。そして、表情を読み取る部分には何もなかった。

 

「……バイパー」

「お……い……クロウを、頼む……」

 

E.Hが力なく倒れると、クロウはゆっくりと立ち上がり、私達を一瞥すると、エレベーターの方へと向かい始めた。

 

「指揮官さん。クロウを任せられますか? 私はこの人の手当てをします」

「……」

「恨んでいることは重々承知の上です。ですが、あなたをクロウと同じにするわけにはいかない。あなたにはあなたを尊敬する数多くの人達がいるはずです。今まで積み上げてきたものに泥を塗るような行為は絶対にやめてください」

「……分かった」

 

指揮官はそれだけを言うと、クロウの跡を追っていった。

 

E.Hの応急処置を施していると、来た道から足音が聞こえた。

 

「ルミナスムーン、どうして……」

「細かい説明は後です、ラピ。今指揮官さんがクロウを追っていきました。貴女も合流してあげてください」

 

「……分かったわ」

 

そう言って、ラピは指揮官の後を追うと、やがて一発の銃声が聞こえた。

 

「終わったか」

 

軽く息を吐き、アークテロが終わった事を改めて確認した。

 

───

 

そこからクロウは投獄され、アウターリムの一件もマスタングがテトラのメイン放送チャンネルを中央政府に譲ったことで解決した。

 

ミハラは一度更生館に収容された。今回は頭を撃たれることなかった。ミハラに関しては特に処罰されることないだろう。ただ、ユニに関しては、ミハラの脳スキャンにおいて、シェルター内にラプチャーを入れようとした犯人として明るみに出てしまう。

 

「今の所、特に精神面に問題ない……か」

 

今はパトラの元で一時的に保護している。これがどんな影響を及ぼすのかは未知数だが、自分の思い通りに事が進む事を願うしかない。

 

「……行くか」

 

次の目的地はもう決まっている。装備を担ぎ、M.M.Rへと向かった。

 

そのままM.M.Rに直行すると、まだドロシー達はいなかった。

 

「エブラ粒子が濃いな……」

 

分かっていた事だが、嫌なことに変わりはない。

 

私は迷わず閉ざされていた扉をこじ開けると、そこには多くのニケが倒れていた。

 

「んん? おぉ、ウジ虫じゃねえか」

 

その中心にはニヒリスターが立っていた。

 

「大人しく寝ていれば良かったものを」

「いいや、お前の仲間には感謝するよ。おかげでいい箇所に攻撃が当たったからな。そこからバカなアークの奴らは俺を解剖する為に連れてくるんだからな」

 

ニケ達の亡骸を蹴飛ばし、ニヒリスターはゆっくりと接近し、私がそれに合わせて刃を引き抜こうとした瞬間、突如暗闇から刃が襲いかかってきた。

 

「ッ!?」

 

咄嗟に身体を倒し回避するが、私の脳裏には嫌でも最悪な光景が浮かん

だ。

 

「あら、外れてしまいました」

 

そして、想像していた光景はすぐにやってきた。

 

「……インディビリア」

 

ヘレティックの一人、インディビリアが復活していた。

 

「おいおい、外してんじゃねぇよ。お前が来るのは正直予想外だったが、丁度いい。食後の運動と行こうじゃねえか」

 

ニヒリスターとインディビリアが並び、私の前に立った。ヘレティックを二体同時に相手する。当然そんな経験はない。

 

「ニヒリスター、お前装備はどうした? まさか捨てたのか? 中々良いデザインだったのに、勿体無いな」

 

「ん? ああ、食わせてやったのさ。すくすく成長しろってな」

 

前座はここまでとして、互いに武器を構えた瞬間、突如地面が揺れた。

 

「何ッ!?」

 

突然、こんな状況は想定外だ。そして天井を突き破り、現れた巨体が私に向かって拳を振るった。

 

「クソッ!! 何でお前もいるんだ!?」

「ハッハッハッ!! 会えて嬉しいぞ、ルミナスムーン!!」

 

トーカティブは笑いながら連続して私に拳を振るう。

 

「グッ……!」

 

一つ拳を避けると、トーカティブの身体にナノマシンが纏わりつく。

 

「グワッ!?」

「……これは」

「……やるなら外だ。全員皆殺しにしてやる」

 

瞳を赤く染め上げ、バイザーを下ろした。

 

「ハッハッ! いいぜ! やっとその気になったか!」

 

トーカティブが開けた天井にそのまま奴を放り投げ、そのまま外に出ると、ニヒリスターとインディビリアも後についてきた。

 

「まずはお前だ、デカブツ」

 

バランスを崩しているトーカティブにそのまま突っ込んでいく。

「ヌゥッ!!」

 

当然向こうも反撃として拳を振るってきたが、そのタイミングでショットガンを構え、その腕に向かって連射した。

 

「ガア!? この、忌み子がァ!!」

「落ちろッ! トーカティブ!!」

 

そのまま接近し、トーカティブを地面に向かって蹴り落とし、もう一撃喰らわせようとした瞬間、突如脇腹に激痛が走った。

 

「ガハッ!?」

「あら、すみません。あまりに無防備だったので」

 

脇腹にはインディビリアの尾が突き刺さっていた。

 

「そして、今は全身がガラ空きですね」

 

私がよろけた瞬間に、更に尻尾は私を切り裂いた。

 

「……随分と硬いですね。それもあなたの能力ですか?」

「サソリ女がァ、よっぽど死にたいらしいな!!」

 

トーカティブのトドメを諦め、素早くインディビリアに接近する。しかし当然、尻尾が私に向かって飛んでくる。

 

「ならばッ!!」

 

ナノマシンを細かく、柔軟に変形させ、まるで触手のように振るい、インディビリアとの攻撃と防御を両立させる。

 

「羨ましいですね、その万能性。ですが……」

 

インディビリアの薙ぎ払いを防いだと同時に、目の前にニヒリスターが現れる。

 

「ッ!?」

「おい! まさか俺のこと忘れてねぇよな!!」

 

ニヒリスターの蹴りをギリギリで躱し、弾丸と触手を合わせながら一度距離を取る。

 

「もう終わりか?」

「まさか、これから──」

 

その時、私の背後から一筋の光がニヒリスター達に向かって放たれた。

 

「おいおい。援軍なんて聞いてないぞ?」

「当然です。あなたと二度も会うなんて予想もしてませんでしたよ」

 

そこにはドロシーとピナ、そしてポリとミランダがいた。

 

「あ、あれって!?」

「ヘレティック……すぐに援護を!」

「待て!! クソッ!」

 

ポリとミランダが動き出した瞬間、インディビリアの尻尾が動いたのを見逃さなかった。

 

「……ッ!」

 

素早くナノマシンで壁を作り出すと、インディビリアの刃が真っ二つに切り裂いた。

 

「……やはり面倒ですね、その力」

 

攻撃を防いだのは良かったが、次なる問題が生まれた。

 

「あ……あれ……? きゅ、急に眠気が……」

「こ……これは……どう、して……」

 

インディビリアのエブラ粒子によって、ポリとミランダが倒れた。

 

「それじゃあ、続きをやろうぜ」

「ピナ! ポリとミランダを守れ! ドロシーはニヒリスターを!」

「は、はい!」

「ルナ、あなたは?」

「インディビリアとトーカティブの相手だ」

 

そう言って、そのままインディビリアに飛び掛かる。

 

「自ら餌になりにきてくれるとは、ありがたいですね」

「……」

 

刃を抜刀するのと同時に、触手をインディビリアに放った。

 

「確かに手数は多いですが、動きはどれも単調ですね」

 

再び薙ぎ払いで触手をほとんど切断されると、そのまま接近戦に突入する。

 

「その能力を使いながらの戦闘は長くは続かないでしょうね」

「黙れ」

 

刀でインディビリアの刃を防ぎながら、次の一太刀を何とか見つけようとするが、そんな余裕もない。

 

「ガアアアア!!」

 

復活したトーカティブの攻撃で更に防戦一方になっていく。

 

「ハァ……ハァ……」

 

再び距離を取り、次の一手を考えようとしたその時、よく知った声が聞こえた。

 

「ルミナスムーン!」

 

指揮官とカウンターズも合流した。

 

「ニヒリスターにトーカティブもいるし!?」

「あれは……」

 

しかし、状況は芳しいとは言えない。

 

「ネオンッ! アニスッ! 避け──」

 

そして、一度距離を置いてしまったことで、すぐに二人の前に立つ事が困難になっていた。

 

すぐさま風を切るような音が二度聞こえ、アニスとネオンは真っ二つに切断された。

 

「あら? もしかして、選択を誤りましたか?」

 

続け様にインディビリアは私に向かって尾を薙ぎ払った。

 

「……ッ」

 

そして私はそれをモロに腹部に受けた。

 

「ルミナスムーンッ!」

 

指揮官の声で一瞬意識が遠のくが、すんでのところで踏みとどまる。

 

「呆気なかったですね。所詮この程度ですか」

「いや……これでいい」 

 

私は腹部に刺さった尾を更に深く刺し、抜けづらくする。

 

「……ッ!? まさか」

 

気がついたか。だが、もう遅い。

 

インディビリアが私から尾を引き抜こうとすると同時に、私の触手が一斉にインディビリアを突き刺した。

 

「がはっ……!?」

インディビリアの顔が歪んだ所で、腹部から尾を引き抜き、思い切り蹴飛ばし、そのまま崩壊したビル群を貫通した。

 

「ハァ……ハァ……オ゛ェ」

 

作戦は成功したが、私も決して無事とは言えない。やはり、彼女に頼むしかない。

 

「ルナ様!!」

 

ピナが駆け寄り、私に応急処置を施しようとするが、正直そんな時間すら惜しい。

 

「ピナ……ドロシーにニヒリスターをこちらへおびき寄せろと伝えろ」

「は、はい!? 一体何を……」

 

チラッと指揮官とラピの方を見ると、エニックと通信をしているのが見えた。

 

「早く! インディビリアが復活したら面倒なんだ!!」

「わ、分かりました!」

 

ピナが通信機を付けて数秒経つと、上空にいるドロシーとニヒリスターの動きが変わった。

 

「ラピ! 奴らをエレベーターに押し込む! 出来るだろう!?」

「!!……ええ、丁度考えてた所よ」

 

そして再び、ヘレティックとトーカティブが集結し始めていた。

 

「ラピ……!」

 

指揮官の声にラピが振り向いた。

 

「指揮官。必ず、私を見つけてください」

 

ラピは大きく息を吐く。

 

「コード解放。サブジェネレーターを限界まで稼働。シークレットボディ。フルアクティブ!」

 

ラピの髪が赤く燃え始め、首元に赤いマフラーが現れた。

 

「……行くわよ」

「もちろん」

 

赤い閃光に続いて、私はヘレティック達の元へと飛び出した。

 

「こ、これはいったい……!!」

「大人しくしてろ、デカブツが」

 

ラピがトーカティブをニヒリスターの元へ空を切り裂く勢いで放り投げ、私はその周辺を包囲する。

 

「クソッ! 何なんだよいきなり!」

 

突然の出来事にヘレティック達は混乱していた。

 

「何ですかあなたは……」

 

インディビリアが刃を振るうが、ラピはそれを軽々と掴むと、そのままへし折り腹部へと突き立てた。

 

「ここから出ていきなさい」

 

ラピと共に、三体をエレベーターに押し込むとドロシー達の姿が一瞬見えた。

 

「ごめん! ドロシー!! ピナ!! 後は任せた!!」

 

向こうが何を言っているか分からないが、自分が今出せる最大限の音量でそう叫ぶと、エレベーターは地上へと射出された。

 

───

 

視界が霞む。手足の震えが止まらない。流石に出力を上げすぎたらしい。

目元からは血が流れている。

 

「……死にそう」

 

不思議と懐かしい感覚になった。昔もボロボロになった所を抱き抱えられたことを思い出す。

 

視点を少し上に向けるとラピが倒れていた。そして鈍い音を立てて、何かに変わっていく。

 

そして再び立ち上がり、しばらく無言で辺りを見渡していると倒れている私に気が付き、目を見開いた。

 

「……は? ルナ?」

「やあ、せっかくの再会で申し訳ないけど……少し寝る……から」

 

懐かしい顔に笑みが溢れたと同時に、私はガクンと倒れた。




おまけ
ルミナスムーンがインフィニティレールに送った音声データ。

『初めまして。いつもAZXを運行してくださり、ありがとうございます。私の娘も利用しています。少し信じられない話をしますが、まもなくAZXに爆弾を持ったニケが乗車してきます。恐らく起爆信号で探知できると思いますが、すぐに対応をお願いしたいです。そして、爆弾魔の思惑には乗せられないでください。貴女方の手で殺してしまうことは奴の思う壺です。そして、奴を捕らえて苦しみを与えてください。死ぬことすら出来ずに、自分の計画が失敗に終わる事が奴にとって最も屈辱的だと考えています。それに、この電車にテロリストの血が付くことを私は望みません。ここまでの話を嘘くさいと思うことでしょう。今はそう思ってもらって結構です。ただ、もし爆弾を感知した時はこの話を思い出して、立ち止まることを考えてみてください』

改変によるキャラクターの口調や本作の進行はどのような方向性にして欲しい?

  • 積極的に変えて
  • 原作っぽさを残しながらも変えてほしい
  • あまり変えないで欲しい
  • 原作そのままで
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