今回は指揮官視点ですので、少し短いです。
「……変わってねえ。そのまんまだ」
レッドフードは辺りを見渡し、そう呟いた。
「気分はどうだ?」
「さあ?でも涙が出るとか、そういうのはないな」
レッドフードは私にそう返しながらも、足取りは早い。その後ろをドロシーとピナが付いていく。
「……喉から手が出る程欲しい物をいざ手に取ったら冷めちゃうのと同じです。案外そんなもんですよ」
ヨロヨロとルミナスムーンが私の隣に立ちながらそう呟くが、どこかキツそうに顔を歪ませている。
「はぁ……くそ」
「……大丈夫か?」
再会した時からそうだが、ルミナスムーンの破損は誰が見ても深刻なものだった。そして、一度グラッとルミナスムーンの体が傾いた。
「アンタ……相当無理してるでしょ」
「顔が崩れかかってますよ?」
「応急処置の目安はレッドフードの故郷に着くまでだった。計算通りです」
彼女の体が動くたびに、顔半分のナノマシンが不規則に揺れ動いていた。
「さ、行きましょう。無駄にドロシー達を心配させる訳にはいけませんからね」
そう言うと、ルミナスムーンは体の不調を誤魔化すかのように、足取りを速くする。
「……どう見ても空元気ね」
「流石に心配になります」
「とにかく、ついて行くしかない」
彼女の体は心配だが、私達にはついて行くという選択肢しかなかった。
急いで後を追うと、レッドフードは一つの民家に入っていった。
「えーっと、確か……」
埃が蓄積した部屋を進むと、窓際にあるカセットプレーヤーを手に取った。
「おっ、あったあった」
レッドフードは嬉しそうにそれを取った。
「どれどれ、まだ動くかな?」
「百年以上経っているんですよ? 壊れているに決まってます」
「そうか? やってみなきゃ分かんないぞ?」
レッドフードは再生のボタンを押すと、ノイズのような音が部屋に響き渡った。
「……鳴りませんね」
「やっぱ駄目か。折角帰ってきたんだから、一曲聴きたかっ──」
その瞬間、レッドフードの声に反応するように歌声が聞こえた。
「ほらな! やってみなきゃ分かんないだろ!」
カセットテープから流れる音楽は聴いたことのないものだった。それでも、どこか懐かしさを感じられる、そんな曲だった。
「……ネオン」
「はい」
「私の顔見て? シワが増えてない?」
「すみません。私も目がショボショボして……」
私が少しだけ浸っている中で、後ろの二人にはお気に召さなかったらしい。
「なんだぁ、お前ら。昔の名曲だぞ、知らないのか?」
「知らないわよ。こんなの聴いて老け込んじゃったら、どうしてくれるの?」
「ロマン分かってね〜な〜。なあ、そう思うだろ? ルナ……あれ?」
部屋の中にはいつの間にか、ルミナスムーンが消えていた。
「あれ? アイツどこ行ったの?」
「誰か、知る者は?」
ドロシーの質問に誰も手をあげない。
「外でしょうか?」
「それ以外ありえませんね、確認してきます」
「待ってください。私も行きます」
ピナが確認に向かうと、ドロシーもその後をついて行った。
「あっ、ちょっと! いつも勝手なんだから!」
「師匠! 私達も行きましょう!」
ネオン、アニスもその後を急いで追いかける。
「もうちょっとゆっくりもしていきたいが……まあ、それは全てが終わってからだな」
カセットテープを止め、レッドフードは装備を担ぐ。
「行こうぜ、男前」
「ああ」
私はレッドフードと共に外へと向かった。
───
「……ん? ああ、思い出に浸る時間は終わった?」
外に出ると、ルミナスムーンは壁に寄りかかりジッと目を瞑っていた。
「おいおい、勝手な行動はするなって釘を刺されたばっかりじゃないのか?」
「みんな揃いましたか、じゃあ行きましょう」
レッドフードの言葉を無視し、ルミナスムーンは歩き始めた。
「おい、何無視して──」
「もう、あまり時間が残ってない」
その一言だけを呟いて、ルミナスムーンは歩く事をやめない。
「……お前、何言って」
レッドフードは全員を見渡すと、皆疑問に思う様子だった。
「先程からあの様な様子です。応急手当てを施そうとしても、大丈夫の一点張りで」
ドロシーはため息をつき、そう呟く。
「アイツがいなくなっちゃうと、ラピとアンタが分離出来ないんでしょ? なら、サッサと行った方が良くない?」
「珍しく素直ですね」
「こっちはラピの命が掛かっているの。両方救える手立てがあるなら、それに越した事はないわよ」
アイツが嘘をついてなきゃね、とアニスは続けた。
「……行こう」
私は皆にそう言って、ルミナスムーンの後に続いた。
───
ルミナスムーンの後を追う事数分、レッドフードの故郷から少し離れた小さな古屋の前で、彼女の足は止まった。
「……なによここ、ボロ小屋じゃない」
「こうでもしなきゃ、研究所なんて簡単に荒らされちゃうじゃないですか」
そう言うと、建て付けの悪い扉をこじ開け、ルミナスムーンは奥に入っていき、私たちはその後に続くしかなかった。
「えーっと、ここに……うわっ!?」
何かにつまづいたのか、レッドフードは盛大に転けた。
「おいルナ、大丈夫か……っ!?」
レッドフードが引き上げると、彼女の顔の一部がドロッと崩壊し、片目がこぼれ落ちた。
「ん……ああ、もう限界か」
ルミナスムーンは特に驚くことなく、淡々とそう呟いた。
「すみません指揮官さん。その本棚にある赤色の本を押し込んで、緑色の本を引き抜いてもらえますか?」
全員が驚いている中、ルミナスムーンは私にそう頼んできた。
「……分かった。これでいいのか?」
指示通り本棚の本を動かすと、奥から何かが外れるような音が聞こえた。
「次に、上段の一番両端の本を取ってください」
言われるがまま取ると、上段の本が全て奥に収納され、レバーが現れた。
「後はそれを引いてください」
レバーを引くと、本棚が動き出し、地下へと繋がる階段が現れた。
「とんだギミックね」
「からくり屋敷ってやつでしょうか?」
「ここにいる者の趣味です。さあ、行きましょうか」
階段を降りていくと、そこには先程の古ぼけた古屋とは思えない程の機械の類が所狭しと並んでいた。
「お待ちしていました」
そこに紅白が混じった髪を持つニケが現れた。
「あーあー、随分とボロボロになりましたね、お母さま」
「こうなる事は想定していたでしょう?」
「……しょうがないですね。まあ、久しぶりの客人です。歓迎致しますよ。さあ此方に」
彼女の後をついていくと、奥には巨大な球体のような装置が現れた。
「大きいです……」
「すげえな。何だこれ」
「あなたとあなたの中に入っている彼女を生かす装置です。お母さまはこっちに」
「はいはい。では、また後で」
彼女はルミナスムーンを奥の扉へと向かわせた。
「改めて自己紹介を。この場所の運営と管理をしています。カソと申します」
紅白のニケはそう名乗り、私達にお辞儀した。
「この場所に来る意味は、既に聞かされていると思います」
「レッドフードとラピを分離する為だ」
「はいその通りです。そしてその分離を行うことができる装置がこれです」
指を指したのは奥に聳え立つ、球体型の装置。
「これを、あなたが一人で?」
「はい。私が殆ど作りました。さて、レッドフード様。今からあなたにはこの中に入ってもらいます」
「……ここに入って何をするんだ?」
「この場で貴女がする事は特にありません。しばらくは昏睡状態になるでしょうけど」
「そりゃ楽でいいな、ならさっさと始めようぜ。ラピが消えちまうよ」
レッドフードは装置に手を当てた。
「元からそのつもりです。皆さんもそれでよろしいですね?」
「……レッドフード」
「ったく、そんな顔すんなよドロシー。ちょっと眠ってくるだけだって」
「私だってそう信じています。ですが……」
「あーもう! 元々死ぬだけだったあたしが、生きてもいいチャンスを貰えたんだぞ? それだけでもいいじゃねえか」
レッドフードはドロシーの肩を叩く。
「ピナ。お前はドロシーの右腕なんだろ? なら、あたし達が帰ってくるまで励ましておいてくれよ?」
「はい! 任せてくださいレッドフード様!」
ピナの言葉にレッドフードは頷き、今度は私達の方を見た。
「……ラピを救うためにここまで来たのに、結局、あのルミナスムーンを頼る結果になるなんてね」
「むず痒いですね。ここまで来て、何もやることがないなんて」
「お前らがしんみりしてたら、ラピも気分良く帰って来れねえだろ? ほら、シャキッとしろ!」
「レッドフード」
「ん? どうした?」
「ラピと共に帰って来てくれ」
私にはこの言葉を託す以外ない。
「ああ、必ず」
レッドフードは歯を見せて笑い、私にそう言った。
「済みましたか? では、行きましょうか」
レッドフードはカソと共に奥の扉へと入っていく。私達はその様子をジッと眺めていた。
───
数時間後、扉が開き中からはカソが一人だけ出て来た。
「……どうなりましたか?」
真っ先にドロシーがカソに詰め寄った。
「まだ分かりません。現在進行形で分離作業中です」
「ちょっと待ってよ。アンタがいなきゃダメなんじゃないの?」
「こっちの世界でやれる事は限られています。私に出来ることはせいぜい、ラピのボディに制御装置を取り付ける程度です」
カソは椅子に座り、ふっと息を吐いた。
「後はお母さまの仕事です。私達も貴方達と同じく見守る事しか出来ません」
「……ルミナスムーンが?」
あの損傷で、まだ動くのかと不安視する。
「向こうの部屋では、仮想現実を起動しています。ほら、アークにも似たような技術があるでしょう? アレを応用しています」
「どれくらい掛かるんだ?」
「さあ? こればっかりは何とも。レッドフード……いや、ラピの適応力次第ですかね?」
カソはティーカップを持ちながらそう呟く。
「まあ、信じて待ちましょう? これは私達の問題ではありません。レッドフードとラピの問題なのですから、たとえお母さまでも最後に結論を出すのはあの二人です。さあ、お茶でも飲みながらお話でもしましょう? 何年も人と話さないと喋り方も忘れてしまうんですよ」
カソは淡々とティーポットにお湯を入れているが、私達は奥の扉から目を逸らすことが出来なかった。
次回、このエピソードの本題になります。
改変によるキャラクターの口調や本作の進行はどのような方向性にして欲しい?
-
積極的に変えて
-
原作っぽさを残しながらも変えてほしい
-
あまり変えないで欲しい
-
原作そのままで