満月を抱きしめて   作:岬すみれ

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いつもご愛読いただきありがとうございます。


責任を果たせ

 

嫌な静寂に包まれた指揮官室で、私は指揮官と対面していた。

 

「それで?私に伝えたい頼みとはなんだ?」

「単刀直入に言います。とある部隊の再編成をお願いしたいです」

「ほう。お前が珍しく要望を伝えに来たと思っていたが、やはりそういう頼みか」

「これだけを聞いて、了承は?」

「当然駄目だ。詳しく聞かせてもらおう」

「分かりました」

 

指揮官室に備え付けられている椅子へと座り、本格的に交渉に入る。

 

「指揮官が仰ったように、アークガーディアンと呼ばれる作戦は、あくまで選ばれた人類の為の作戦です。しかし、そこにニケ達の枠があると思いますか?」

「……」

「おそらく、無いでしょう?つまり、ニケ達は無謀な特攻を仕掛けたとしても、人類の為だと言えば何もお咎めなしの状態にあります」

 

指揮官は始め私の話を腕を組みながら静聴していたが、やがて口を開いた。

 

「それが、部隊の再編成とどう関係がある?」

「再編成した部隊には、臨時の衛生部隊として、負傷したニケの救護を担当してもらうようにします。ラプンツェルがいますが、彼女一人じゃ限界があります。その場で治療が可能ならリペアセンターへ連れて行くより、遥かに生存率も上がります。全ては救えませんが、それでも犠牲者の数の減少が望めるはずです」

「その部隊の指揮はどうするんだ?」

「既にその部隊の隊長には了承が取れています。仮に問題が起これば、私が臨時の指揮を取ります。保険が多いことに越したことはないですから」

 

私の発言に指揮官は眉をひそめる。

 

「お前はゴッデス部隊の隊員だろう。勝手な真似は、」

「当然、ゴッデス部隊としても出撃します。指揮官としてはあくまで臨時としてです」

 

指揮官は怪訝な顔をして私を見つめていた。当然だろう。だって、あまりに無謀な頼みだからだ。

 

「では、もし臨時の指揮を任されたら?お前はゴッデス部隊を抜ける気か?」

「まさか。その時は両立する覚悟です」

「……正気か?」

 

指揮官の私を見る目がどんどん不信なものに変わっていくのを感じる。

 

「理想論を語る時間ではないんだぞ」

「こんな時に理想を語るほど、私は愚かに見えますか?」

 

ピリピリと室内の空気が張り詰めてくる。

 

「指揮官。私達の現状は非常に苦しい状況です。こんな時に常識に囚われては、救える命も救えません」

 

私は立ち上がり、深々と頭を下げる。

 

「お願いします。皆を救う為なんです」

 

指揮官は口を開かない。

 

「どんな負け戦だって、負け方があるはずです」

 

頭を下げて、数秒、数分とたったような感覚に陥る。

 

「顔を上げろ」

 

指揮官の一言で、私の目線は床から指揮官に移る。

 

「初めて出会った時、お前は何を考えているのかよくわからない奴だったが、だが今日。ようやくお前の本音が聞けた気がした」

「……」

 

指揮官はサングラスを外し、青い瞳がこちらを覗く。

 

「お前はあくまでゴッデス部隊だ。他の部隊に入れ込みすぎて、こちらの作戦を疎かにはするなよ」

 

指揮官のこの返答の意味は。

 

「……では」

「さっさと行け。お前は多忙だろ?」

「……っ!ありがとうございます指揮官……!」

 

指揮官に退室を促されると、私は再び頭を下げ、指揮官室を後にした。

 

「……すまないな」

 

指揮官室に一声が虚しく響いた。

 

───

 

「……ふふ、うんざりだわ」

「何がそんなにイヤなの?」

 

ドロシーに対して、背後から声を掛けてみたが、いまいち反応を示してくれない。

 

「驚いたなら、ちゃんと驚いてくれない?」

「誰もいないと思っていました」

 

私はノックした筈だが、それもドロシーには聞こえていなかったらしい。

 

「紅蓮と決闘したんだって? それも引き分けだったって」

 

私はドロシーの対面に座り、話題を振る。

 

「ええ、そうなりました」

「すごい。いよいよ次期リーダーって感じ?」

「貴女を見て覚えました。それに臨時リーダーです。次期ではありません」

「……ふふ……」

 

思わず笑みが溢れてしまいドロシーは始め疑問に思っているようだったが、そこは次期リーダーの器。

 

「リリス。あなた、まさか……」

 

どうやら、私の次に言う言葉を大方察したらしい。

 

「長くて半年。無理すればもっと短くなるって」

 

私の言葉にドロシーは大した反応も見せず、ただ言葉を失っているようだった。

 

「もう、驚いたならちゃんと驚いてってば」

「……方法はないのですか?」

「まあ、何もしないでじっとしていれば長くはなるみたいだけど。こんな時に、そんな事してられないし」

 

そこに私の決定権はない。やる以外の方法はない。

 

「今すぐ退役して、休んでください」

 

そんなこと、私に認められるわけがない。

 

「分かってるでしょ? それは無理」

「……その話、私以外の皆には?」

「ううん。あなたにだけ話しておこうと思って」

「残酷ですね」

「悪いけど次期リーダーの宿命だと思って」

 

宿命?本当にそうなのだろうか?

 

「スノーホワイトには話しておくべきです」

「うーん……自信がないの。話していいかどうか」

「同じ苦しみを2度も味わわせるつもりですか?」

「……確信が持てないから、乗り越えられるかどうか」

 

違う。もしかしたら本当は──

 

「スノーホワイトはもう子どもではありません。あの日から見違えるほど成長しています」

「ふふ、私から見たら、まだみんな子ども」

「私も含めて?」

「そうは思ってないから、あなたにだけ話したの」

「……私にだって子ども扱いされたい時はあります」

「分かる。私もあるから。とにかく、そういうこと。何かあった時は──」

「では、ルナはどうでしょう」

 

私の発言に、ドロシーは被せて発言した。

 

「彼女は、科学者です。相談すれば、何か対策を講じてくれるかもしれません」

「対策……」

「誰彼構わず言いふらすような真似はしないでしょうし。一度相談してみてはどうでしょう?」

「ふふ、分かった。検討してみるね」

 

一連の会話の中でも、やはりドロシーはどこか余裕がない様子だった。けど、その原因は当然理解している。

 

「急にプレッシャーをかけてごめんね」

「いつものことです」

 

それから、ドロシーの自己嫌悪についての相談を受けた。全てが終わった後、全てを救えるわけがないのに、その英雄視を、自分が誇りに思ってしまうこと。それが、不快だということを。

 

「望むものって人それぞれねぇ」

 

共に長い時間を過ごしてきた筈なのに、まだドロシーの知らない姿が見えてくる。

 

「だから、適当にやり過ごす?」

「いいえ」

 

真っ直ぐと、ドロシーはそう呟いた。これなら、大丈夫だろう。

 

「こんな話ができる人は、あなたしかいません」

 

こんな相談事も、今日が最後になってしまった。

 

「死なないでください。リリス」

 

それが出来たら、どれほど良いか。

 

「私だってそうしたいの」

 

───

 

ドロシーと話を終えて、私は自室に戻ろうとしていた。

 

「……あっ」

 

けれども、扉の前にいたスノーホワイトと目が合った。

 

「スノーホワイト」

「あ、お姉ちゃん」

 

私が名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。

 

「どうしたの? 作戦内容で分からないことがあった?」

「い、いいえ。そういうわけじゃないです」

 

スノーホワイトは何処か口ごもっている様子だったが、やがてその口を開く。

 

「リリスお姉ちゃん。大丈夫ですか?」

「……うん。もちろん、どうかしたの?」

「ええと……その。なんだかいつものお姉ちゃんとちょっと違う気がして……」

「どこが? いつもと同じでしょ?」

「ううん……雰囲気っていうか……」

 

やっぱり、あなたは鋭いね。

 

「ね、私を見て」

「え、はい」

「何ともないでしょ?」

「えへへ。はい、いつものリリスお姉ちゃんです」

「ね?」

 

そうだ。私は変わらない。スノーホワイトにとって、頼りにしてるお姉ちゃんなんだ。

 

なんとなしに、私はスノーホワイトを抱きしめる。

 

「え? えぇ!?」

 

スノーホワイトは可愛らしく驚いている。

 

「お姉ちゃんの心配なんて、スノーホワイトもすっかり大きくなったね〜?」

 

その可愛らしい頭を撫でる。

 

「よしよし、いい子いい子〜!」

「や、やめてください。子供じゃないんですから」

「子供じゃない? こんなに小さくてかわいいのに?」

「や、やめてくださいってば〜!」

「ふふふ、あはははっ……!」

 

こんな時間がいつまでも続いていいなら、どれ程幸せなんだろう。

 

ねぇ、スノーホワイト。

私、死んじゃ──

 

「…………」

「お姉ちゃん?」

「ううん。何でもない。あ〜! おかげでストレスが吹き飛んだって感じ」

 

嘘。

 

「心配してくれるのはいいけど、そろそろ寝る時間でしょ?」

「……はい」

「うん。おやすみ」

「おやすみなさい」

 

やがて、スノーホワイトは遠ざかっていき、

 

「あ、お姉ちゃん」

「……え? どうしたの?」

「あの、もし何かあったなら絶対言ってくださいね?お姉ちゃん、いつも無理するから……」

「うん。そうする」

 

スノーホワイトは今度こそ、廊下の向こうに歩き去っていった。

 

「あ、ああ……」

 

私は、本当にここで終わり。

どれだけ自分自身に問い詰めても、その事実は変わらない。

情けない。何度も覚悟を決めてきたのに、恐怖は増すばかり。

 

「死にたくないなぁ……」

 

スノーホワイトが去った今、廊下には私の声だけが虚しく響く──

 

「やっほ、リリス」

 

……ことはなかった。

 

───

 

「……」

 

リリスは、私を見つめてしばらく動くことはなかった。

 

「ねぇ、驚いたなら、もっと驚いた反応してくれない?」

「……いつ、から」

「スノーと会話を始めたぐらいから」

「は、はは。盗み聞きなんて、ルナは趣味が悪いね」

「ええ、私は趣味が悪いので」

 

未だ、恐怖から抜け出せていない様に見えるリリスの手を取る。

 

「ここじゃ、場所が悪い。私の研究室に行こう」

「え、ルナの研究室って立ち入り禁止じゃなかったの?」

「部屋の主である私が許可するんだから、なんの問題もない。ほら、行こ?」

 

リリスの手を無理矢理引き、私達は来た道を引き返した。

そこから、すっかり慣れてしまった部屋のロックを解除すると、リリスを椅子に座らせ、自分も向き合う様に座った。

 

「……すごいね。本当に」

「何が?」

「いつも、外のルナしか見て来なかったから、こうやって改めて科学者なんだって」

 

リリスは部屋を見渡しながら、笑った。

 

「何処かの誰かさんみたいなこと言うね」

「もしかして、レッドフード?」

「正解」

「やっぱり。その喋り方もレッドフードから提案されたってね?」

「……似合わない?」

「ううん。いいと思う」

 

リリスの様子を眺めて、少しは気持ちを落ち着かせることが出来たようだった。

 

「……」

「……」

 

互いに相手の顔を見つめるだけの時間が続く。

 

「ねぇ、ルナは指揮官に何を相談してたの?」

「今後の作戦で、ニケの犠牲を減らす為の対策。救護部隊を編成して、臨時の指揮は私が務める方向性になった」

「……そっか。もう私がいなくても、みんな立派にやっていけてるね」

「だからって、誰もリリスを不必要なんて言わないでしょ?」

 

机に並ぶ紙の山から、目的の紙を抜き取り、モニターのデータと参照する。

 

「ねぇ、リリス。私は貴女ともっと長く一緒に居たくて、あらゆる方法を検討した」

「……うん」

「でも、どれも駄目だった。短期決戦で設計された貴女を、生き永らせる方法は見つからなかった」

「そっか……あれ? 何でルナは、私が死んじゃうって初めから知ってたの?」

「…………」

 

やはり、その指摘は免れないか。いや、どのみち避けられなかった。

 

「もしかして、また盗み聞き?」

「違う」

 

私ははっきりと否定した。

 

「リリスって、オカルトは信じる?」

「どうしたの急に?」

「今から話すことがオカルト紛いの物だから」

 

私は意を決して、秘密を暴露した。

 

「へぇ〜未来予知か……」

「馬鹿馬鹿しいと思う?」

「ううん。こんな時、あなたは冗談を言う人じゃないでしょ?」

 

大まかに、私の素性を明かしたが、リリスは思いの外あっさりと受け入れてくれた。

 

「未来だと、みんな立派に成長してるのかな……」

「ゴッデス部隊は事実上崩壊に陥る」

「……え?」

「理由は様々だけど。ゴッデス部隊は結局、希望の光を失う。でも、ごめん。詳しくは言えない」

 

これから起こる惨劇をリリスは見ることがない。でも、無闇に伝えてしまっては、リリスに大きな心残りが生まれてしまう。

 

「私は今後も、みんなを救う為にあらゆる手を尽くす。勿論リリスだって」

「ふふ、ありがと。でも、私は無理なんだ。どう頑張っても」

 

確かにそうだ。スペアのボディは作成不可、どう頑張っても、リリスの死に抗うことが出来ない。そもそも、リリスの死がなければ、物語は大きく変わってしまう。だけど……

 

「いや、そんなことさせない」

 

だから、思いついた。死を受け入れてもいいじゃないかと。

 

「リリス。どうか受け入れてほしい」

 

私は瞳を閉じてゆっくりと息を吐く。

 

「……」

 

再び、瞳を開くとその色は別物の様に赤く染まっていた。

 

「それって……」

「うん。ご存知の通り」

 

リリスは立ち上がり、私の方へと駆け寄ってくる。

 

「いつからなの?」

「多分、ニケとして生まれた時から」

「……なにそれ。だって、そんなの」

「でも、これが事実。……幻滅した?」

 

恐る恐る、リリスに問う。

 

「……もっと、早く伝えて欲しかったな」

「ごめんなさい」

「でも、とっても勇気のいる行動。ありがとう。私に話してくれて」

 

そう言って、リリスは私の頭を撫でた。

 

「ルナもすっかり大きくなったね」

「大して成長してないでしょ」

「ううん。こうやって1人で抱え込むことをしなくなったじゃない。とっても立派よ」

 

私の秘密を大方伝え終え、いよいよ本題に入る。

 

「私の中に組み込まれているシステムは、簡単に言うと、大型のクラウドストレージの様な物。ここに侵食のコードを取り込んで、ただ操作しているだけ」

「すごいね。自作したの?」

「いや、詳しくは覚えてないけど、私がニケに改造された時には既に組み込まれていたのは確かだね」

 

瞳を再び閉じて、元の黄金色に戻す。

 

「リリス。唐突だけど、君は生きたい?」

「……え」

「生きたいと願うなら、私も最善を尽くす。私も貴女達に救われたから、その恩返しも兼ねてね」

 

リリスは俯き、何処か迷っている様だった。

 

「ルナも分かってるでしょ?私のボディは……」

「うん。ボディの作成は不可能となると、一度肉体を失うことは避けられない」

「だったら……」

「だから、私のシステムを使う」

 

そう言って、一つの用紙をリリスに渡す。

 

「私のシステムの中に新たな機能を追加した。私の中にある侵食を利用して、無理矢理私の中にリリスの記憶を保存する方法。保存した後は、未来の技術に託すことになっちゃうけど、生き返る可能性は十分ある」

「……どうして」

 

リリスはポツリと呟く。

 

「どうしてそこまで……」

「貴女が好きだから。それ以上でも、それ以下もない」

「でも、無理矢理記憶を保存するなんて、ルナ自身が……」

 

そうだ。リスクは当然付き纏う。何せ、全く実証されていない未知の方法だ。でも、それがどうしたと言うのだ。

 

「リスクは承知の上。それでも、可能性があるなら、私はやる」

「…………すごいなぁ。たった一人の為に普通そこまする?」

「ゴッデス部隊を助けることが、私の使命だから」

 

私は立ち上がり、リリスに手を伸ばす。

 

「……生きたいって願ってもいいのかな」

「それをリリスが望むなら」

「……なら、お願いしようかな」

 

リリスが私の手を握ると、私はリリスの身体を引っ張り上げる。

 

「実践は、できれば多くの記憶を持っていた方がいい。一度保存したら次目覚めた時はそこからの記憶だから」

「……無茶はしない様にね」

「善処する」

 

こうして、リリスの救済への計画も無事に始動することになった。

 

「そうだ。ねぇ、ルナ」

 

部屋を後にする前に、リリスが振り向いた。

 

「どうかした?」

「ルナはさ。未来を知ってるんだよね?」

「一応ね」

「なら、ドロシー達も助けてあげて欲しいの。私が居なくなったら、きっとみんな負担も大きくなる筈だし。特にドロシーは、いきなりリーダーを務めることになって、あの子も抱え込んじゃうと思うから」

「了解。任せて」

「うん。ありがとう」

 

憑き物が落ちたように、リリスの顔には笑みが溢れた。

ここまで、彼女に希望を持たせたのだ。私はその責任を全て背負い、必ず、この作戦を成し遂げなければならない。

 

アークガーディアン作戦は、もう間近に迫っていた。

 

原作キャラの口調は合ってる?

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