満月を抱きしめて   作:岬すみれ

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破滅に向かう戦い

 

遠くから地響きのような音が聞こえる。

 

「始まったね」

「すさまじい音です」

「扉を閉めるだけのことで、おおげさな音だ」

 

何重にも重なった扉が動く様は、音だけでも圧巻の一言に尽きる。

 

「こちらが作戦の説明をしている時に、堂々と別の話を始めるのはやめていただけますか?」

 

横から、ドロシーのため息が聞こえた。

 

「物資用のトンネルってすごく大きいの。それを何重にも塞ぐ作業だから、これくらいは当然」

 

リリーバイスの言葉が終わりもしないうちに、遠くで砂埃が立ち始めた。

 

「現れたか」

「……来ますね。すごい量です」

「クソッタレのラプチャーどもめ。しつこい奴らだ。タイラント級も多数確認されている。ザコの群れではないぞ」

 

静かだった筈のこの地があっという間に戦場に変わる、その瞬間を見た。

 

「ラプンツェル。状況は?」

「量産型も含め、全員準備万端です」

 

リリーバイスが確認している最中、私の通信機器に連絡が入る。

 

「はい。こちら、ルミナスムーン」

『こちら、ヴィセラ部隊。全員、準備は完了した』

 

どうやら、救護部隊の準備も完了したらしい。

 

「ええ。こちらでも、たった今確認しました」

『そうか。特別な任務を与えられたと、アイツらも張り切っていたぞ』

「それはなによりです。でも、慢心はしないでくださいね?」

『それは勿論だが……何なんだこの部隊名は?』

「そりゃ、特殊任務なんですから。固有の部隊名は必要でしょう?」

 

意外と、部隊を名付けることは難航した。

 

『そ、そうなのか? ……まあいい。我らは我らの仕事を全うする』

「ええ。お願いします」

『ああ。健闘を祈る』

「……そちらこそ」

 

そう言って、私は通信を切った。

 

「みんな、よく聞いてくれ。私達は神ならざる身だ。全てを救うことはできない。だが、目の前にいる人々を救うことはできる」

 

指揮官は振り返り、アークの搬入口の周囲に密集する建築物を指差した。

 

「見えるか? 臨時シェルターだ。その名の通り、避難してきた人々が一時しのぎで集まる場所だ。だが壁に撃たれれば簡単に穴が開くほどの粗末なものにすぎん。中にどれだけいるかは知らないが、多くの人が身を寄せ合っているということは確かだ」

 

酷く、空が疎に黒ずんでくる。

 

「守れ。何があっても守り抜くんだ。余計な考えは捨てろ。考えれば不安が生まれ、不安は迷いになる。君たちが迷うたびに、あそこにいる人々を死なせるかもしれないということを、肝に銘じておけ」

 

指揮官は向き直り、立ちのぼる彼方の砂ぼこりを差し示した。

 

「あれのことだけ考えろ。目的も正体も分からない奴らだが、ひとつだけ確かなことがある。奴らは私達を憎んでいる。奴らの思い通りにはさせるな。忌まわしい鉄くずどもに、私たちの大切なものを奪わせるな」

 

進軍を続けるラプチャー達が、より鮮明に見えてくる。

 

「私たちがやるしかない。奴らを食い止められるのは、私たちだけだ。勝つ以外に道はない」

 

手元の武器、全ての設備に異常なし。壊れたマスクの代わりに、新調したバイザーを取り付ける。

 

「思い知らせてやれ。私たちが大切にしているものに手を出せばどうなるか」

 

目つきの変わった兵士たちが、砂ぼこりに潜むラプチャー達を睨みつけた。武器を握りしめ、今すぐ飛び出しそうに力を滲ませながら。

 

「ゴッデス部隊、レディ……」

 

武器を構え、脚に力を込める。

 

「行け、殲滅しろ!」

 

その言葉を合図に、私達は戦場へと飛び出した。

 

───

 

「本当、何処からでも湧いてくる……!」

 

四方八方から私に向けて飛んでくる弾幕をかわし、ラプチャーを撃破。かわして撃破、またかわして撃破。その繰り返し。

 

「お前ら如きじゃ、扉を見ることも叶わない」

 

目を瞑り、U.N.I.S.O.Nを発動させる。

 

迫り来る弾幕に対し、黒い液体が流動的に動き、私の腕に盾を形成する。弾薬の雨が降り注ぐ中で、全力で疾走していた身体の勢いを落とすことなく、そのまま飛び上がる。

 

「せえーのっ!」

 

目の前で接敵したラプチャーを思いきり蹴りつけると、バランスを崩して仰向けになる。その状態となったラプチャーの上に乗り、剥き出しのコアに手を当てた。

 

「さよなら」

 

手のひらから溢れ出す液体はタールの様にラプチャーのコアにまとわり付いたかと思ったら、突如として無数の黒い槍となり、コアを貫いた。

 

「全員、逃げられると思うな」

 

既に鉄屑と化したラプチャーの残骸に更に液体をまとわせ、地面を飲み込むほどの量を生成する。周りはラプチャーに囲まれているが、今はそれが好都合だ。

 

「おしまい」

 

その一言を皮切りに、ラプチャーの残骸や地面の液体が一斉に凝固し、周囲のラプチャー達を次々と貫いていく。

 

「よしっと。こちら、ルミナスムーン。ラプチャーを殲滅しましたので、今のうちに負傷者の退却を」

『了解した。たった今、負傷者が運び込まれた所だ。思考転換の恐れがあると』

 

成程、恐らくピナが運んできたニケだろう。

 

「了解。では、その方はリペアセンターに運び込むように指示を出してください。念のため、数人の援護を連れて行った方がよろしいかと」

『分かった。引き続き、任務を続行する』

 

通信を切ると、ちょうど第二陣が現れたところだった。

 

「援軍のつもりか? いいよ、いくらでも来い」

 

弾倉を付け替え、いざ引き金を引くかと言った瞬間、追い風のように何かが私を横切った。

 

「あ」

 

目の前に居たはずの大量のラプチャーが、一撃で木っ端微塵になる。

 

「調子は?」

 

ケロッとした様子でラプチャーを皆殺しにしたリリーバイスが、笑顔で振り向く。

 

「私に援護は要らないって伝えたはずだけど?」

 

弾丸とミサイルが降り注ぐ中で、私達はまるで日常会話のように言葉を交わす。

 

「気を使われすぎるのも、なんだかやり辛いなぁって」

「瀕死の主力を使わないといけない、この状況でよく言うよ」

 

もし、ラプチャーの進軍がもう少し遅ければ、彼女はもう少し長く生きられたのかもしれないのに。

 

「しょうがないでしょ。やるしかないんだから」

「そうだけど……あぁもう! 後は私がやるから、せめてこの時間は休んでおいて」

「もう。気を使わなくていいって……」

「いいから! ……行ってくる」

 

リリーバイスの返答も待たずに、私はラプチャーの群れへと駆ける。

既にロード級以上のラプチャーは粗方、撃破している。残りは雑魚の処理だ。このくらいは私にやらせて欲しい。

 

「ほら、さっさとかかって来い」

 

小型のラプチャー達は、最後の足掻きとも言える全軍突撃を仕掛けてきた。

 

「まぁ、お前達が束になった所で、勝ち目があるわけないけどね」

 

しかし、雑魚が集まった所で巨魚になるわけではない。この時ばかりは、リリス並みに蹂躙できた気がした。

 

こうして、初戦は人類の圧勝で終わった。

 

───

 

「かんぱ〜い!」

 

グラスを合わせる音が響く。

 

「なんだいこれは、酒ではないのか」

 

紅蓮が不満を漏らす。

 

「いつ襲撃があるかも分からないのに、酔っぱらっていいワケないでしょ。とびっきりいいものを用意してもらったんだから、文句言わないの」

「ふん……祝いの席に酒がないとは……」

「祝うような戦いではなかったと思いますが」

「死者無しでアークの封鎖が20%も進んだのですから、大きな戦果だと思います」

 

実際、圧倒的不利な状況でここまで成果を出しているのだ。上出来以外の何物でもないだろう。

 

「そのとおりね。皆、よくがんばりました。残りの4回も今日みたいにやれば大丈夫」

「この調子なら、あと40回はやれそうだ」

 

本当に、この程度で済ますことが出来ればどれほど良いものか。

 

「久しぶりの大勝利だからな。中央政府もハデに宣伝している。全体的な士気もかなり向上した。皆、ご苦労だった」

 

指揮官の言葉で、改めて皆は勝利を各々噛み締めているようだった。

 

「うん。みんな、本当にお疲れ様」

「一番の激務はリリスでしょ?」

 

無理に支援に来なくていいと伝えていたはずなのに、結局私の所にも来た。どれだけ過保護なのやら。

 

「本当です! お姉ちゃん、ずっと走り回ってましたよね?」

「そう言ってもね、私はそれが役目だから」

 

相変わらずのリリスの隣でスノーがポツリと呟く。

 

「……あの、ところで。こんな時に聞くべきことじゃないかもしれないですけど」

「……何か問題でも?」

「いえ、そういうわけじゃないんです。ただその……リリスお姉ちゃんが心配で」

「……心配? どうして?」

「なんとなく、今日は動きがいつもと少し違うような気がしたんです」

 

スノーの発言に、一瞬リリスと目が合うが、何事もなかったかのように逸らす。

 

「気のせいだよ。きっとスノーが成長して、リリスの動きを細かく観察出来る様になったからじゃない?」

「そ、そうなんですか? それならいいんですけど……」

 

適宜リリスとアイコンタクトを取り、場を濁すことができたらしい。

 

「私、戻ります。次回の作戦の整理をしないと」

「え、もう戻るんですか?」

「うん。ごめんね、スノー」

「……あの!あ、いや……ごめんなさい」

 

この時、スノーホワイトが何を言おうとしたのかは分からず仕舞いだった。

 

「なんだ。もう戻るのか」

「はい、お先に失礼します」

「真面目すぎるのも、考え物だな」

「指揮官は、もう少し見習ってくださいね? それじゃあ、おやすみ。ルナ」

「うん。みんなおやすみ」

 

部屋を出るが、自室には帰らず、少し中の声を聞く。リリスの戦績から始まり、また言い争う紅蓮とドロシーの声が聞こえ、スノーがおかわりを頼んでいる。

 

「いつまでも、こんな時が続けば良かったのに」

 

けれども、時間は待ってくれない。

 

未来を知り尽くしているというのも、複雑な気分だ。

 

───

 

さて、第二次封鎖が始まった。

 

『前回と同じだ。大勝利を目指す』

「よーし。準備はいい?」

「はい!」

 

スノーホワイトが張り切った声を出す。

 

「……すさまじい数です」

「あっちもここで何かしてるって、勘づいたんでしょうね」

 

ここから恐らく、ラプチャーの進軍がより激しいものに変わると予測されている。

 

『なに、タイラント級が少し増えたぐらいだ。心配は必要ない』

「思うに、大物は100体分として撃破数を数えるべきではないかい?」

「それでもよいぐらいかもしれません。実際にはそれ以上だと思いますが」

「よし。面白くなってきたぞ」

「別に、競い合いではないからね、紅蓮?」

 

バイザーを装着して、前方の景色に目をやる。

 

『タイラント級の中にウルトラが確認された。侵食には、くれぐれも気をつけてくれ』

「了解。侵食を誘発する個体は先に始末します」

 

弾倉を装填し、いよいよ始まる。

 

「さっ、みんな。張り切っていきましょう?」

 

リリーバイスの言葉で、戦いの火蓋が切られた。

 

───

 

「状況終了」

 

結果的に言えば、ゴッデス部隊に大きな被害を被ることはなかった。

 

「ラプンツェル、被害は?」

 

「……死者19名、負傷者51名です」

 

本当なら死者は出したくなかったが、それでも救護部隊の影響か、犠牲を減らすことに成功していた。

 

「……そう、分かった」

「ひとまず、遺体の回収を──」

『待て、何か来る』

 

指揮官の発言の直後、私はラプンツェルを突き飛ばした。

 

瞬間、ラプンツェルがいた地点に閃光が走った。

 

「!!」

『狙撃か!? 全員ハイド!』

 

立て続けに、空から光が雨のように降り注いだ。

 

『チッ! 爆撃か!』

「ビーム兵器……!?」

「ラプンツェル! 無事!?」

「は、はい! 私は無事です!」

 

爆撃が止み、上を見上げると、そこには黒い装甲を身にまとったニケらしき影が宙に浮かび、こちらを見下ろしている。それはゆったりと地上に降り立ち、ゴッデスを見すえた。

 

「……単独でのビーム兵器による爆撃と、浮遊能力。ニケの外見に、補助・治療要員を優先して狙撃する戦術理解力……ヘレティック」

 

リリスの分析で、全員の警戒が高まる。

 

「うわあああッ──!!」

 

スノーホワイトが手当たり次第の攻撃を叩き込んだ。爆風に飲まれ、ヘレティックのボディが踊る。骨格が剥がれ、外装が焼け剥がれたはずだった。しかし、そう思った次の瞬間、ボディは元通りになっていた。

 

「……え?」

「おまけに、自己修復能力……インチキされてる気分ね」

「それがどうした! 八つ裂きにすればいいだけだ!」

 

紅蓮が距離を詰め、剣を振るったが、ヘレティックはその剣を受け止め、刃は腕を落とせずに止まった。

 

「斬れぬだと!?」

 

ヘレティックは斬れかけの腕の修復を始め、紅蓮の剣をくわえ込んだ。

 

「しまった!」

 

素早く剣を引き抜いた瞬間、ヘレティックのボディが光を放った。しかし、飛び込んできたドロシーが紅蓮の足をかけ、体勢を崩した直後、放たれた光が虚空を切り裂いた。

 

「下がってください! 邪魔です!」

 

ヘレティックは標的をドロシーに変え、光を放ったが、ドロシーはそれをかわし、ヘレティックのボディに無数の穴を開けた。だが、それもたちまち修復されてしまった。

 

「こんなことが……!」

「うん。分かった」

 

ドカン!と鋼鉄を打ち付けるような音とともに、ヘレティックの脇腹が消し飛んだ。

 

状況を把握できないヘレティックの顔面に対し、更にもう一発、拳が突き刺さった。

 

「お約束でしょ? 相手がどんどん再生するなら、それより早く壊せばいいって」

 

リリーバイスの拳はヘレティックの体にめり込んでいく。幾度となく繰り返される猛攻に、ヘレティックのボディが崩壊していく。

 

「うわ、痛そ」

 

リリーバイスがようやく手を止めた時、あたりにはヘレティックだったものの断片が散乱していた。

 

「ふぅ……おしまい」

 

リリーバイスはやがて手を止め、こちらを振り返る。

 

ここで終わりなら良かった。しかし、スノーホワイトがもう一体のヘレティックを確認した。しかも、キャンプの方に向かっている。

 

「私が行きます!」

「待て! リリス!!」

 

私の呼び止めに応じず、リリーバイスが飛び立とうとした瞬間。目鼻、口、そして耳から血が流れ落ちた。足元が赤く染まって行く。流れ出る血は止まる気配はない。

 

「よりによって、こんな時に……」

 

リリーバイスは地面に倒れた。赤い染みが拡がって行く。

 

「お、お姉ちゃん! リリスお姉ちゃん!?」

「ッ……! 今、治療します!!」

 

ラプンツェルがリリーバイスに駆け寄る。

 

「やっぱりか……ドロシー!! 紅蓮を連れて、キャンプに向かえ! スノー達は私が担う!!」

 

「分かりました。紅蓮、行きます──」

 

ドロシーが言いかけた瞬間、目の前で巨大な土埃が上がる。

 

「何だ!?」

 

土埃が晴れた後、人型の巨体がこちらを見下ろしていた。

 

「コイツは……!?」

 

私は目を見開いた。なぜなら、目の前に居るのは、いつの日か現れたあの人型ラプチャーだったからだ。

 

『ジ──ガ──ガ』

 

目の前にいるソイツは、謎の奇声を上げた瞬間、腕を振るった。

 

「え」

 

誰かが声を上げた。

 

刹那、リリーバイスに駆け寄ったラプンツェルの首が撥ねられた。

 

「嘘だ……」

 

私の改変を、正しい方向に修正するかのように。

 

「……ッ紅蓮!! ラプンツェルの確保を!」

「既にやってる!」

 

ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!

 

「ドロシー! 紅蓮! 二人はキャンプに向かえ! この場は、改めて私が担う!」

「紅蓮、行きますよ!!」

「!! クソ……!」

 

ドロシーと紅蓮がキャンプへと駆けていった。

 

「スノー! リリスの意識を失わせるな!」

 

「わ、分かりました! お姉ちゃん! 起きてください! ダメです! まだダメ……!」

 

スノーの呼び掛けにも、リリーバイスは身動き一つしない。

 

「貴様……! 後悔するなよ!!」

 

私は飛び出し、スノー達の被害を抑えるため、ラプチャーを引き付けた後、そのボディをライフルで蜂の巣にする。

 

『グ──グ──』

 

このまま一気にトドメを刺そうとした。しかし、ラプチャーは体勢を整え、右腕の兵器から光線を放った。

 

「ぐ……あぁ!」

 

私は間一髪で直撃を避けたが、左半身を損傷する。

 

「コイツ、この前より強くなって……!」

 

私が疑問に思う時間も無く、次の光線が準備されている。

 

「ぐ……が……ゆに、ぞん……」

 

再度、U.N.I.S.O.Nコードを発動させると、脳に激痛が走った。頭が割れそうで、ただ目の前の敵を殺すことだけを考えていないと、狂ってしまいそうになる。

 

「……決める!」

 

再び放たれた光線を掻い潜り、私は生成した槍をラプチャーに突き刺す。

しかし、その一本では深手にはならず、ラプチャーが私に反撃を放とうとした瞬間──突き刺さった槍が爆ぜ、飛び散った破片がまた新たな槍となって、ラプチャーに突き刺さっていく。

 

「死ねッ! 早ク死ねよ!!」

 

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、完全にラプチャーが動かなくなるまで刺し続けた。

 

「ハッ……ハッ……」

 

息が出来ない。上手く身体を動かせない。

 

「まだ……だ……」

 

しかし、倒れている訳にはいかない。本来現れるヘレティックは、既にスノー達に向かっていた。

 

「スノー!! リリス!!」

 

二人の名前を叫び、私は立ち上がって二人のもとへ急行する。

 

するとそこには、真っ赤に染まって、それでもリリーバイスが立っていた。

 

「リリス……」

「スノーホワイト、心配しないで。私が守るから」

 

血にまみれた純白の花が風に吹かれて舞うように、あちらへ、そしてこちらへ、目まぐるしく飛び散る。漆黒の花の形が歪む。花弁は散り、剝ぎ取られ、その茎が手折られる。

 

「二人ともッ!!」

 

私は駆け寄り、リリーバイスの身体を支える。

 

「あ、ああ……なんで……」

 

スノーホワイトが何か呟いていたが、今の私には聞こえない。

 

「ルナ。避難キャンプの方へ向かってくれない? 指揮官もそこにいるの……」

「…………任せていいんだね?」

「うん。お願い、ルミナスムーン」

「了、解」

 

身体に鞭を打ち続け、私はキャンプ方面へ向かった。

 

───

 

「ドロシー! 紅蓮! 指揮官! 無事で──」

 

しかし、名前を呼んだ人物の中で、立ち上がっている者は誰一人としていなかった。そして、ヘレティックの視線は、既にキャンプを捉えている。

 

「させるか!!」

 

私はヘレティックに突撃をかまし、至近距離で腹部に弾丸を撃ち込む。しかし、放たれた光線により、右半身が使い物にならなくなった。

 

「あ゛あ゛あ゛!!!」

 

執念だけで、私はヘレティックの顔面を掴み、力を込める。金属が潰されているような音が響き、ヘレティックのボディが震える。

 

「はぁ……はぁ……」

 

気がついた時には、手には大量の血が付着しており、ヘレティックは頭部をなくして倒れていた。

 

「は、はは。私、保つのかな……?」

 

全身の力が一気に抜け、立ち上がることができない。

 

『ルミナスムーン! ルミナスムーン! 応答しろ!! ルミナス──』

 

倒れる直前、一つの通信が入ったが、私は応じることは出来ずに意識を失った。

 




難産でした。戦闘描写が難しすぎる。
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