意識が、深く、深く、このままどこまでも沈み込んでしまいそうだ。
何年も付き合ってきた自分の肉体の筈なのに、何故別人のように感じるのだろう?
いや、待て。今、私の言葉は私か?
脳に焼きつく喜怒哀楽は、間違いなく私の筈。それなのにどうして?
ああ、駄目だ。支離滅裂な思考で、頭が痛い。
よし、少し休もう。
そうだ。
全ては偉大な母のために。全ては偉大な母のために。全ては偉大な母のために。全ては偉大な母のために。全ては偉大な母のために。
───
「ッチ……最悪」
酷い悪夢だ。あんな激戦を強いられ、ようやく休めると思ったら、こんな支離滅裂な悪夢を見せられるとは、嫌がらせか何かだろうか。
「……」
身体を見ると、損傷は概ね修復されている。全身ズタボロにされたのに、よくもまあこんな短期間で回復するものだ。
「行くか」
なら、私がここにいる必要は無い。
私は立ち上がり、病室を出る。
向かう先は一つだ。
───
「……っ……!?」
スノーホワイトは病室で目を覚ました。
「私……どうして……」
突如、頭に激痛が走り、頭を抱える。
「あ、ああ……あああ……」
そして、全てを思い出してしまった。
あの戦いで自分には何が出来た?
否、何も出来なかった。
リロードすらままならず、ただ恐怖を感じ、怯えるだけ。結果、誰かの助けを待つ以外のことが出来ない。
しかし、弱い自分を守ってくれた、赤い狼はもういない。弱い自分を守ってくれた、白い花は枯れつつある。
では、黄色い月はどうだろう? また、弱い自分を守ってくれるのではないか?
いや、違う。駄目だ。そんな考えは許されない。
強くならないと。
歯を食いしばって気合いを入れ直そうとした。けれどその瞬間、あのヘレティックの顔が脳裏に浮かんだ。
あの、感情を失った顔が。
スノーホワイトには、痛いほど分かる。もし、また同じ状況に陥れば、きっと自分は同じ過ちを繰り返すということを。
自分の頭を掻きむしる。無意味なうめき声を上げる。
静かな病室に、うめき声と引きちぎられる髪の音だけが響いた。
コンコン───
病室のドアのノックに、私は顔を上げる。
「………あ」
ドアが開かれると、そこには見慣れた一人が立っていた。
「調子は……まぁ、良くないよね」
「ル……ナ」
「髪もこんなに千切っちゃって」
私の隣に腰掛け、彼女は私の髪を撫でる。
「……」
何を伝えればいい? 感謝? 謝罪? いや、そのどちらでもないのだろう。
「ルナは……」
「うん」
「ルナは、私を足手纏いに感じますか?」
「……」
私の言葉に、ルナは何も言わない。
「私があの時しっかりしていれば、お姉ちゃんだって助けられたんです。あんな思いをしなくて済んだんです。ゴッデスのくせに、あの時ただ怖がることしか出来なかったですッ!!」
ただ一方的に、自分自身への憎しみを吐き出した。
「ねえ、ルナ。ルナはどうしてそんなに強いんですか? 本当は私が教える立場の筈なのに、ルナはあっという間に私を追い抜いて、いつの間にかみんなを導く立場になって……」
不満だった気持ちが、溢れるように出てくる。
「教えてください。ルナはどうして強いんですか? 教えてください。私は、強くならないいけないんです」
いつの間にか彼女の腕を掴み、力を込めていた。
「……好きだから」
「え?」
「ゴッデス部隊のみんなが好きだから」
何だ。何なんだそれは。そんなことで……
「だからさ、私は何処かおかしいんだよ」
「……おかしい?」
「うん。だってさ、いくら好きでも所詮は他人。自分の命を優先しなきゃみんなを守れないし、死への恐怖だって感じる。それでも私は他人を優先してしまう。スノーが私を強いと思えるのは、無謀なことに平気で突っ込んでしまうからじゃない?」
そうだ。彼女は私達が危機の時にいつも最前線に立っていた。アナキオールとの戦いでも、ラプンツェルがヘレティックに撃たれかけた時も、彼女は真っ先に動いていた。
「なら、私にはその力が必要なんです!」
だが、ここは戦場。無謀なことが出来なければ、助けられる人も助けられない。
「スノーは、たとえそれが自分を壊すことになったとしても構わない?」
「どういう……」
「私は一度、大部分の記憶を消去されて、その代価として今の人格を得た。スノーは、例えば一番大切だと思ったことを忘れてでも、私のようになりたい?」
「……」
「レッドフードやリリス、最悪、ゴッデス部隊としての最低限の記憶しか残らない可能性がある。その代価が、恐怖心の改善。こんなの、見合ってる訳がない」
レッドフードやお姉ちゃん達との記憶が、全て消える……?
「……あ」
「ごめん。怖がらせるつもりはないんだ。ただ、スノーの恐怖心は、決して悪いものじゃない」
「……どうしてですか? そのせいで、私は足手纏いに──」
「だって、やりたくもない未知の怪物と日夜戦わされて、毎日戦果を求められる。そんな日々なのに、更に恐怖を感じるな、なんて理不尽にも程がある」
ルナは私の頭に手を置き、撫で始めた。
「こういう時は、臆病でちょうどいいの」
私は俯き、ただ彼女の手に身を任せていた。
「スノーだって、役に立ってるじゃん。ほら、私に作ってくれたショットガンだって、今の今までずっと重宝してきたんだから」
やがて、私の頭から手が離れる。
「だから、あまり自分を責めすぎるな。絶体絶命の時に、自分の力で乗り越えられるなら、誰だってそうしたい」
そう言って、ルナは私に手を差し伸べた。
「ルナは……」
「ん?」
「ルナは、いなくなったりしないですか?」
「前にも言ったけど、絶対とは言えない。けど、わざと死にに行くようなことは絶対しない」
「本当ですか?」
「本当だって。また指切りする?」
そう言って私に小指を差し出してきて、私はそれに無言で応じる。
「また、約束ですからね?」
「うん。もちろん」
指を放して、私は立ち上がった。
「行けそう?」
「はい。もう、大丈夫です」
「なら、行こっか」
そうしてルナの手を掴み、二人でロビーへと向かった。
───
ロビーに着くと、既にドロシー、紅蓮、ラプンツェルの三人が待っていた。
「二人とも来ましたね」
「ごめんね、心配かけて。ほら、スノー? 手、まだ握ってた方がいい?」
「……え? ッ!!?」
スノーは慌てて私の手を離して、顔を赤くする。
「その様子じゃ、具合も良好そうですね」
「は、はい。大丈夫です。ごめんなさい」
「この程度で済んだのは、幸いだった。化け物どもめ、どこからともなく湧いて出る」
紅蓮が悪態をつく。
「ラプンツェルは大丈夫でしたか?」
「はい。問題ありません。それと、ルナ」
「私?」
「はい。ヘレティックからの狙撃で私を庇ってくださり、ありがとうございました」
ラプンツェルから呼ばれ、何事かと思ったが、ヘレティックとの戦いでラプンツェルを突き飛ばした時のお礼だった。
「結局、あのラプチャーにやられちゃったんだから、お礼をいわれる筋合いは私にはない」
「それでもです。貴女は、自らの危険を顧みずに一度、私を救ってくれました。だから貴女に感謝を」
「……そっか。ありがとう」
結局救えなかったのにお礼を言われてしまった。何とも言えない気分だ。
「よかった……」
「スノーもご心配ありがとうございます」
安堵の声を漏らすスノーホワイトにも、ラプンツェルはもう一度お礼をした。
「ドロシーと紅蓮も?」
スノーホワイトは二人に目をやる。
「見ての通りです」
「まともに食らってしまった。骨……要はフレームが砕けていたそうだが、今は元通りだ。ニケは楽でいい。部品さえあればすぐに戦場へ戻れる」
「つい先ほどまで生死の境を彷徨っていた人たちの前で言うべきことではありませんね」
「過程がどうあれ、生き延びたではないか」
「まあ、それはそうです」
事実その通りで、私もこの戦いでは、ゴッデス部隊に大きな被害が生まれることはないと知っていた。しかし、あのラプチャーというイレギュラーも発生した。それでも、史実通りの状況に持ち込めたというのは、幸運なのだろう。
「……指揮官は?」
「……指揮官は重傷を負われ、V.T.C.直轄の医療施設へ搬送されました。内臓の傷がひどいとのことで……」
「大丈夫……ですよね?」
「人一倍丈夫な方というのでしょうか、命に別状はないそうです。V.T.C.の専門家が治療に当たっていますので、心配することはありません」
「脇腹を貫かれて生きているとは、常人離れしているな」
指揮官についても、概ね史実通りに事が進んでいる。まあ、指揮官には一つ苦労してもらうことには変わりないが。
「治療が終わり次第、すぐに復帰するそうです。少し待てば、きっと戻られます」
「一安心ですね……リリスお姉ちゃんは?」
スノーホワイトの疑問に答える者は誰もいない。場が凍る中で、扉が開いた。
「あら……皆もう元気? やっぱり若さがモノをいうのね~」
リリーバイスは何事もなかったかのように入ってきた。
「お姉ちゃん」
「……うん、どうしたの?」
「助けてくれて、ありがとうございました」
「気にしないで、できることをしただけよ。……とにかく、今はしっかり休んで。第二次封鎖は無事に成功したから、しばらくは落ち着くはず。整備するものがあればしておくこと。いい?」
「例のヘレティックどものことは、何か分かったのか?」
紅蓮がリリーバイスに問う。
「ううん。あちこちで一生懸命調べているところ。近いうちに答えは出ると思うけど。不幸中の幸いは、アナキオールほどの力がないこと。たぶん、ボディの性能の差じゃないかな」
「それはなんとも、よい知らせだ。あのラプチャーはどうだ?」
「アレについても、まだ結論は出てない。ただ、支援要員を優先的に狙う知能があるから、厄介な相手なのは間違いないよ」
今回戦ったラプチャーは、一度目よりも明らかに武装が増えていた。しかも、ヘレティックの狙撃を外したことを狙っていたかのように出現した。正体は不明だが、面倒なことに変わりはない。
「とにかく、今は待つ以外にできることもないから。みんなはゆっくり休んで。難しい注文だと思うけど、分かった?」
その言葉に頷く者はいない。
「また後でね」
そう呟き、リリーバイスは部屋を去ろうとする。
「リリス」
けれど私は、話し終え、背を向けるリリーバイスを呼び止めた。
「どうしたの?」
「話すなら、今かもしれない」
「…………」
リリーバイスの笑顔が消えた。
「それが、あなたの意見なんだね」
「事実を話すことは、何よりも恐ろしいことなのかもしれない。それでも……」
「……分かった。ドロシーもそれでいい?」
「構いません」
リリーバイスは息を吐き、語り始めた。
「私には、もう寿命が殆ど残ってない」
「……なんだと」
「そんな……」
「……」
全員が驚き、様々な反応を示す。
「持って半年……いや、それ以上に短いかもしれない」
「ずいぶん具合が悪そうだったが、まさか……」
「うん。無理して出撃した」
「何故黙っていた! もっと早く対応していれば、まだ……」
「ごめんね、紅蓮。でも、ここで私が出ない訳にはいかなかったの」
「……ッ」
紅蓮は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
「ニケは基本的に病気になりません。ですから、あの時に吐血したということは、ボディに異常が起きたということは理解していましたが、まさかこんな……」
「心配してくれて、ありがとうラプンツェル。ごめんねあの時、何もしてあげられなくて」
「ど、どうして貴女が謝るのですか!? 誰よりも辛いのは、貴女じゃ……」
ラプンツェルは珍しく声を荒げた。
「スノーも黙っててごめんね」
「……」
「お姉ちゃんは、いつから知っていたんですか?」
ポツリとスノーホワイトは呟いた。
「軌道エレベーターの攻略の時くらいからかな。あの時から、身体に異常が起こり始めてた」
「……そんな」
「でも、私は怖くて言い出せなかったの。こんな状況で、私の死が積み重なったら……私のせいで、みんなを壊したくなかった」
「お姉ちゃん……」
重い空気が漂っている。
「ドロシーを次期リーダーにしたのも、そのためかい?」
「うん。だからドロシーには、予め伝えておいたの」
「ええ、なんとも重い大役を任されてしまいましたよ」
「ならば、私が代わってやろうか?」
「これは私に与えられた責任です。逃げ出すような真似はしません」
ドロシーははっきりとそう言った。
「ルナも知っていたんですか?」
「科学者である彼女なら、何か対策ができるのではないかと考えた結果です」
「うん。でもリリスの状態から見て、もう延命は期待できないかな」
システムの事は隠して、事実を述べた。
「さっきも言ったけど、私のせいで無駄なプレッシャーをみんなに与えたくなかった。そしてこれからも、私のことで深く落ち込まないでね」
「……お姉ちゃん」
「もう、この話は終わりにしましょう?」
リリスはそう言って立ち去ろうとしていたが、スノーホワイトが駆け出した。
「お姉ちゃん!!」
「……?」
「その……勇気を出して伝えてくれて、ありがとうございました!」
「……」
「私、頑張りますから!! だからお姉ちゃんも、最後まで諦めないでください!!」
ロビーにスノーホワイトの声が響き渡った。
「本当に、大きくなったんだね。ありがとう、スノー」
「は、はい!」
「みんな、じゃあね」
そして本当にリリーバイスは去っていき、部屋には静寂が立ち込めている。
「追わなくていいんですか?」
ドロシーがスノーホワイトに問いかける。
「一番不安に感じているのはお姉ちゃんです。私が出しゃばってお姉ちゃんを困らせたくないですから。だからもう、大丈夫です」
「……まぁ」
「本当に、成長したのだな」
スノーの目に迷いはなかった。これなら大丈夫だろう。
「それじゃあ、私はお暇させてもらおうかな。次回の作戦の計画も見直さないと」
「今からですか?」
「勿論。リリスの為にもこれからは私も粉骨砕身しないとね」
「あの、無理はしないでくださいね?」
「了解、じゃ」
そう言って、私はロビーから退出した。
───
研究室に帰ったら、私は一息をついた。
「あのラプチャーのこともあるし、私も武装の追加を検討しようかな」
通信の電源を入れる。
『全く。お前の通信が途切れた時は、冷や汗をかいたぞ?』
通信機器から、聴き慣れた声が流れた。
「すみません。ちょっとイレギュラーが連発しまして、その対応に追われていました」
『まあ、互いに無事でよかった。お前がいなかったから、今頃キャンプは火の海になっていた可能性があったからな』
「意識が途切れる瀬戸際だったので、最後まで戦えたのは幸運でした」
『それで、これからどうする? 上はヘレティックの解析で大忙しだ』
さて、ここからはリリスがいなくなる。ということは、近々ストーリーは『OVER ZONE』へと移行する。ということはつまり、量産型の大量犠牲や、致命的な食糧・資材問題に直面することになる。
「アークガーディアン作戦は長期化します。おそらく、救護部隊の任務も激化していくことでしょう」
『それについては問題ない。元々、覚悟していたことだ』
「作戦の長期化が予想されるということは、当然、その為の資源が必要です。私の方でも対策は行いますが、そちらでも資源の備蓄をお願いできますか?」
『了解。例のヘレティックはどうする?』
「私が対処します。こちらでも解析を行い、被害を最小で済むように努めます」
そこから細かい計画を練り、やがて通信を切った。
「本当、安心できる局面が一つもない」
紅蓮やスノーホワイトの思考転換のこともある。リリスやレッドフードのこともある。一人の人間が悩むキャパシティを大いに越えている。
「それでも発狂もしないこの身体はなんなんだろうな」
───
帰還した指揮官の発言は皆を驚かせた。
「第3次で封鎖計画が打ち切り、だと……」
「……5回でも足りないと思ったくらいでしたが、さらに減らされるなんて……それでは……第5次まであると期待している方々は……」
やはり、上層部は5回も封鎖計画をするなんてはなから考えていなかったらしい。大方、主要の人物はアークへ移住できた為、あとのどうでもいい人間なぞ救う意味もないということだろう。
「公式な発表は行われるのですか?」
「しないだろうな」
「……」
「では、私達の撤収は?」
「第3次の予定だ。君達が望めばだが」
「他に選択肢があるかのような言い方ですね」
「選択肢はいつだってある。私達は今までそういうやり方を貫いてきただろう。やりたいようにやって、最高の結果を出す」
けれど、私達はゴッデス部隊。私達が人類に希望を与えなければ、もはやこの時代で人類に希望を与えるような人材は現れないのではないか?
「ほう……」
「選択肢とは、つまり」
「でしたら……」
「あの、ええっと」
スノーホワイトが全員の様子をうかがった。1人ずつ、目を覗き込んでいく。スノーホワイトは確信した。ああ、みんなも私と同じことを考えていると。
「何か言いたいことがあるんじゃない?」
「そうそう。もう、ただ後ろについてくるだけじゃないんでしょ?」
スノーホワイトの目は相変わらず迷いはなかった。
「私達はこのまま、地上に残りましょう」
その言葉に、リリーバイスと指揮官が微笑んだ。
「第3次封鎖が終わった後も、助けを求めて来る人達のために。私達はここに残り、その人達を守って……アークへ送るんです」
「いつまで?」
「2週間。1人も来なくなった時としましょう」
ドロシーがそう付け加えた。
「なんだそれは。13日ごとに1人ずつ来たらどうする?」
「続けるだけです」
「アークは第3次の作戦後に完全封鎖されるの。どうやって送るつもり?」
「私たちが保護し、私たちとともにアークへ向かいます」
ラプンツェルがそう言い切る。
「何千人と集まってきたら、どうする」
「全員を守ります。そして全員でアークへ向かいます」
「私達でも通してもらえなかったら?」
「あるわけなかろう。私達はゴッデスだ。おのれで言うのもはばかられるが……神話にも肩を並べる名がある。一度くらい、道が開かれぬ道理はあるまい」
紅蓮も意思は決まっている。
「そのことは、お二人が責任を持って保証されるようにしてください」
「お前はどうだ? ルミナスムーン」
「元々、第5次封鎖……延長される可能性も考慮して計画してきました。断る理由もありません」
「分かった。……では、話をまとめよう。私たちは第3次封鎖の時点で撤収しない。この場に防衛線を展開し、取り残された者やニケの保護を続ける。保護した者たちを連れてアークへ向かう。その時に限りアークへの道が開放されるよう、私とリリスが話をつけておく。これでいいか?」
全員異論はない。
「はい」
「問題ありません」
「きれいにまとめてくださいました」
「それぐらいは当然であろう」
「無謀な作戦になるぞ。物資の心配以外にも、問題は山ほどある。精神も身体も、限界が試されるだろう。……だが、だからこそ、私達にしかできないことだ」
誰もが頭を縦に振った。
「決まったな。私たちはここに残る。最後まで、守り抜くぞ」
「ひとつ、約束していただけますか?」
「何だ?」
「私たちがアークへたどり着いた時……すべての苦難が報われたと思えるようにしてください。どのような形でも構いません」
「ああ、最善を尽くそう。いや! 約束する!」
指揮官は声を上げた。
「宮殿のような豪邸に住み! 使っても使いきれない金を持ち! 私たちの伝記を出版して、映画とゲームも作らせよう! 君の名前の宗教を始めよう!」
「あらあら」
「政治の世界で華々しいデビューを果たそう!」
「……ふ……」
「エリシオン、ミシリス、テトラに肩を並べるスノー社も立ち上げよう!」
「へへ」
「剣の道場も立てよう!」
「……何だいそれは」
「世界一の研究所も建てようではないか!」
「え、それ必要ですか?」
夢を語る指揮官を眺めていると、リリーバイスが視界に入った。
「指揮官」
そうだ。忘れていた。
「ん? どうした?」
「私からも一つ、約束をしていただけませんか?」
「……聞こう」
「あっ、でもこれ、あまり人前で言うことじゃないと思うので、耳打ちでいいですか?」
「そこまで重要な事なのか?」
「はい。もちろんです」
全員の視線が私と指揮官に集まる中で、私は指揮官に囁いた。
「どうか。最愛の人と幸せになってください」
「…………」
「貴方の最愛の人なんて、言わなくても分かるでしょう?」
そう言って、私は指揮官の耳から離れた。
「そんなに重要な約束事?」
「うん。伏せるけど、隠し事はしないで欲しいって約束を」
「へぇ〜」
笑いながらリリーバイスは、指揮官の横腹を突いた。
「リリス」
「はい? 何ですか?」
「私と……最後まで、共に居て欲しい」
「……」
「……嫌か?」
「まさか。ええ、ずっと一緒よ。アンダーソン」
よかった。もう大丈夫だ。
「そうだ。もう一つ。我らが勝利の女神として、讃えられようではないか」
さてと、後は、私の仕事だ。
「私たちの地上最後の戦いだ。最もつらく、最も長い作戦になるだろう。全員、しっかりと休んでおいてくれ」
「あの……指揮官、お姉ちゃん。部隊のみんなで行きたい所があるんですけど……みなさん、お時間はありますか?」
最期の時は、着々と迫っている。
次回でARK GUARDIANは終了する予定です。