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純白の花──
見渡す限り、白い花が咲いている。
一面に広がる花は太陽に照らされ、まぶしいほどに輝いていた。
花びらが風に舞った。
リリーバイスは頬をかすめた花びらにも気づかないほど、真っ白な花畑に見惚れていた。
「……わぁ……」
「……絶景だな。近くにこんな場所があったのか」
「ずっと前に見つけました。まだ残ってるか心配してたんですけど、あってよかったです」
風に吹かれた花びらが、ドロシーの手のひらに落ちた。
「……リリーバイス」
「うん。私の名前、この花から取ったんだって」
「花言葉は、純粋な愛と……献身」
ドロシーが呟いた。
「えへへ、お姉ちゃんにピッタリですよね?」
「見事なものだ。一人で見るにはもったいない」
「その通りですね。こんな景色は……本当に久しぶりです」
「……」
どこまでも……本当にどこまでも、この花畑は続いているように感じる。
「……スノーホワイト」
「考えたら、みんなで一緒にこういう景色を見に来たことってなかったなって思ったんです」
どこまでも、どこまでも。
「最近は特に、ずっと……だから、みんなで見たかったんです」
今より、世界が巨大で未知数だった時のように。
「……?」
あれ? 今、何を……
突如、魂が抜かれたように力が抜けた。
「大丈夫ですか?」
背後にいたドロシーに声をかけられる。
「あ、あぁ……うん。ごめん」
よろよろと立ち上がり、笑顔を作る。
「……涙が」
「え?」
顔を拭っても、瞳から溢れるものを抑えられない。
「あれ、なんで……」
おかしいな。本当におかしいよ。これは何の涙だ? 今はリリス達の時間だ。私が感慨に浸る時間ではない。いや、そもそも何に浸るというのだ? 私は……
おいで、繝?く──
「……あ」
「──ますか? 聞いていますか?」
徐々に周りの音が聞こえてくる。もう瞳から涙は溢れない。
「……ドロシー」
「先ほどから、ずっと声を掛けていましたよ?体調が悪いなら、あまり無理は……」
「大丈夫。ただ、昔を思い出して、ちょっとね」
「昔、ですか」
「うん。でも、もう大丈夫だから」
目線を上げると、リリーバイスが遠ざかっていた。それを眺めるスノーは涙を堪えていた。
「スノー」
「……何ですか?」
「行ってきな」
「……」
強い風が吹き、花びらが更に舞う。
リリーバイスの姿勢が崩れ、そのまま倒れた。
「……ッ!」
スノーホワイトは慌てて彼女の元に駆け寄り、手を差し伸べた。
白い花びらがリリーバイスの全身を包み、純白のベールのように見えた。
また風が吹き、花びらが踊る。
その中で、子供のように笑っている二人が見えた。
「しまったな……カメラの一つでも持ってくればよかった」
ただ脳に刻み込むだけでは、あまりにも惜しい光景。
「お姉ちゃん!」
スノーホワイトが大きく口を開けた。
「大好きです!」
花畑の中心で、スノーホワイトは笑っていた。そして、泣いていた。嗚咽を堪えて、ただ思いを叫んでいた。
「うん!私も!」
この美しい光景を、皆ただ眺めていた。
終わらせない。終わらせてなるものか。
枯れてしまう、世界で一番美しい白い花に。
溶けてしまう、美しい白い雪に。
この願いを捧げよう。
だから、私のことは──
───
第三次封鎖作戦が始まった。既に量産型部隊も一人残らず集結している。この作戦において、量産型の参加は本人の希望制だ。つまり、この作戦に参加している者は、自らの意思でこの場に立つことを選んだということになる。
「……よし、第3次封鎖が始まった。さっそくだが、いい知らせと悪い知らせがある。どちらから聞きたい?」
「悪い知らせからお願いします」
「軌道エレベーターに集結していた精鋭ラプチャーの大多数が、こちらへ向かっているらしい。これで最後だと勘づかれたのかどうかは知らないが、とどめを刺そうという気だろう」
史実通り、ラプチャーはこの場に集結を始めている。激戦は避けられないだろう。
「それは……最悪の知らせですね。それで、いい知らせの方は?」
「今朝は快便だった」
「はい。そうですか。よかったですね」
相変わらずの指揮官に、リリスの冷めた目が突き刺さった。
「朗報ならあるぞ。私とラプンツェルの新しい装備だ」
「はい。戦力の向上になりますね」
新調された二人の装備は、私にとって馴染み深いものに変わっていた。
「うん。よく似合ってる」
「性能を大幅に上げられました。防御力には特に重点を置いています」
「そうなのか? それにしては軽い気がするが……具体的には?」
「ええと……細かい数値は出ませんけど、2倍以上になったはずです」
それにしては肌の露出が多い気がするが、紅蓮は気にならないのだろうか? まあ、2倍撃たれてもいいとか言っているし、戦えればある程度は許容できるのだろう。
「ドロシーとお姉ちゃんの装備は、もう少し時間が掛かりそうです。ごめんなさい」
「気にしないでください。今のままでも不足はありませんので」
「それは私も」
「私の分は当然ないんだろうな」
「指揮をするから指揮官なんです。貴方が戦ってどうするんですか?大人しくしててください」
この人は、相変わらず自分が人間だということを度々忘れているような言動をする。
「厳しいな、全く。確かルナ、お前も何か作ったと聞いたが?」
「あ、はい。刀を一振り。接近戦を想定した対策です」
鞘に納められた刀を抜き、軽く振ってみせた。
「紅蓮と特訓した成果です」
「……」
紅蓮とアイコンタクトを取り、各自の準備に取り掛かる。
「それじゃ、行きますか」
装備品は全て問題なし。U.N.I.S.O.Nコードも問題なく稼働を確認。バイザーを顔に取り付け、準備は万全だ。
「ゴッデス部隊、レディ……エンカウンター」
その言葉で、第3次封鎖作戦が開始した。
───
凄まじい轟音が戦場に響く。タイラント級ラプチャーであるウルトラが無残な姿で宙に浮かび、その巨体が切断された。
その中心には、二人のニケがいた。
『無理しすぎじゃないか?』
「見せつけないといけませんから。ゴッデスのリリーバイスはここだって」
「それは構わないけど、過度には呼び寄せないでよ?」
『そもそも、ラプチャーどもに士気を持つなんて知能もないからな?』
「味方に見せるためですよ」
リリスは迫り来るラプチャーを倒し、私はその手伝いと、リリスの変化を注視していた。
「……あ」
そう呟いたリリスの方を見つめると、顔から赤い液体を流していた。
「……もう少し耐えてほしかったのに」
『無理はするなと言っているだろう。ルミナスムーン、頼めるか?』
「了解しました。リリスは少し休んでて。多分、出番はすぐに来ると思うから」
腰にある刀を抜刀してラプチャーを斬り、上空に点在している飛行型のラプチャーを何体かライフルで撃ち落としたりもしたが、焼石に水程度だ。
『そちらにウルトラがもう一体接近している。対処できそうか?』
「了解。やってみます」
指揮官の通信通り、再び現れた巨体に私は刃を向け、前面の装甲を切断する。飛び上がった私に向かってミサイルが射出されるが、身体を捻って掻い潜り、ショットガンに持ち替えた手で連射し、切断した装甲内部に撃ち込んでいく。
「はい。終了」
完全沈黙を確認して、すぐさまリリスに駆け寄る。
「流石ね」
「褒めても何も出ないから。にしてもまずいな……」
上空からの攻撃が、想像以上に激しい。しかもヘレティックの危険性もある。リリスの状態も芳しくない。
「リリス。私は上空にいるラプチャーを出来るだけ撃ち落とす。大物が来るまで、力を温存しておいて」
「でも、私はまだ……」
「みんなに見せたいって思うなら、その大物を相手にした時にすればいい。雑魚の処理は私の役目」
瓦礫が積もった丘上に立ち、ライフルのスコープを覗き、一体ずつ確実に仕留める。だが、所詮は雑魚。ストームブリンガーほどのラプチャーは撃ち損じており、また新たな課題が増える一方だ。
しかし、上空から巨大なエンジン音が聞こえ、撃ちそびれたラプチャー達が次々と撃墜されていく。
『スノーホワイト、および勝利の翼号! 合流します!』
スノーホワイトの掛け声と共に、空には巨大な光線が横切った。その通り道には、一切の痕跡がない。
『いいぞ。素晴らしい性能だ。やはり空飛ぶ船ほどのロマンはない』
指揮官の絶賛する声が聞こえる。
「ルナ……私は大丈夫だから。みんなの援護に向かってくれない?」
「身体の方は?」
「少しは動けるかな……だから、大丈夫」
肩で息を吐いているリリスを置いていくのは不安だが、そうも言ってられない事態が予測されている。
「……深追いはしないで」
その一言を掛けて、私は再び戦場を疾走し、高台に登る。
「うわ、気持ち悪いほどいるな」
ライフルを構え、悪態をつきながら飛行型の翼部分を狙撃し、数体の撃墜に成功する。
「U.N.I.S.O.Nコード、発動」
瞳を赤く染め上げ、手から溢れ出す液体がライフルを黒く染め上げる。
「……ストームブリンガー」
標的を定め、息を吸い、引き金を引いた。
真っ直ぐと弾丸はストームブリンガーの翼に向かい、着弾を確認した。
「ばん」
掛け声と共に着弾した黒い弾丸が弾け、内部から溢れ出た棘がストームブリンガーの装甲を貫いた。バランスを制御出来なくなったストームブリンガーは、周りにいる小型のラプチャーを巻き込み、そのまま墜落していった。
「……?」
背後から、見知らぬ轟音が聞こえた。
『スノーホワイト……ストームブリンガ……群れ……退』
僅かに聞こえた通信で、その音の正体が判明した。
「……チッ、早すぎる!!」
ライフルを担いで再び戦場を走っていると、見慣れた船が多数のストームブリンガーに攻撃されているのが見えた。
「まずい……」
地平線の彼方に消えた、勝利の翼号の結末を私は知っている。
『ルミナスムーン! 聞こえるか!?』
「はい何ですか!? 今、緊急事態なんですよ!!」
次々と降りかかる問題で、つい言葉が強くなってしまう。
『分かってる! たった今、こちら側でも墜落を確認した! これから救助に向かおうと思っているのだが、援護を頼めないか?』
願ってもない救いの手が舞い降りた。
「すぐそっちに向かいます!! 隊長さんの現在位置は?」
『待て、今座標を──』
送られてきた情報を元に、私は全速力でその場へと向かった。
「耐えろよ、スノー……」
───
銃声が聞こえる。身体が重い。
「……う」
身体を起こそうとすると、私の背後で何かが転がった。正体はニケの残骸だった。
「ひっ……!」
このニケは、私を庇って死んだのだ。
慌てて周りを見渡すと、ゴッデス部隊の足であった勝利の翼号が墜落していた。
「あ……あぁ……!」
希望が、私達の希望が、こうも簡単に崩れていく。
「はっ……はっ……」
震える手で愛用の銃を構える。まだ、正面では量産型のニケが戦っている。ならば、私は立ち上がらなければいけない。
「うわあああああ!!」
目の前のニケを助けるため、無我夢中で銃を乱射した。
すると、数発の弾丸が命中し、ラプチャーの体勢が崩れた。
「や、やった!」
今度こそ、私の力で……!
遮蔽物へと誘導しようと、そのニケに手を伸ばした瞬間──量産型の下半身が、ラプチャーのビーム砲によって消失した。
「……え」
上半身のみとなったニケは、スノーホワイトに何か呟いていたが、その声が聞こえることはなかった。
「な、んで……」
どうすればいい? もう私以外に立っている者はいない。また私は逃げるのか? でも、こんな数の敵を私一人でどうしろと? あの決意は嘘だったのか? 嫌だ。戦え。怖い。逃げるな。助けて。怖い怖い怖い怖い怖い──
「あ、あぁ……頭が……」
激しい頭痛が襲いかかるが、ラプチャー達が止まることはない。目の前まで来たラプチャーが、私に対してその銃口を向けた。
「させるかっ!!」
突如、目の前のラプチャーが真っ二つに切断された。
「──ノー!! スノー!! 聞こえる!?」
あれ? この声って……
「君にとって、大切な記憶をもう一度考えてみろ!!」
記憶? あれ? 記憶って何?
ラプチャーの倒し方。
現在の状況で最重要。保持。更に極限まで強化。
戦闘技術に関する情報。
「生存者は確保した! 撤退するぞ、ルミナスムーン!!」
「先に行っててください! スノーホワイトは私が連れ帰ります!!」
現在の状況で最重要。保持、更に極限まで強化。
武器製造、改造の知識。
状況次第だが今後の戦闘にも有用。保持。
恐怖心、躊躇。
現在の状況で完全に無用。消去。
ドロシー、ラプンツェル、紅蓮、量産型ニケの情報。
現在の状況では無用だが、今後の戦闘に有用。保持。ただし、個人的な関係の記憶は戦闘に無用。
「駄目だ」
消──菫晄戟縺励m。保持。
指揮官の情報。
現在は自発的な判断を最優先、命令は無用。
「……ごめん」
消──菫晄戟縺励m。保持。
レッドフードの情報。
既に死亡。現在の状況で完全に無用。
「……ごめん、スノー」
消──蠢倥れ縺ヲ縺ッ縺?¢縺ェ縺?。保持。
リリーバイスの情報。
死亡間近。現在の状況で完全に無用。
「ごめんなさい」
消──蠑キ蛻カ菫晄戟。保持。
「……ッ!? クソ、ラプチャー共めッ!! スノーはここにいて! 聞こえてるか分からないけど!」
赤い瞳が、戦場へと駆けて行った。
生きる理由。みんなとの幸せな未来。
現在の状況で完全に無用。
「……違う」
生きる理由を再設定。
人類を守り、アークを守る。
そして私が──仲間を守る。
その為に、ラプチャーを破壊する。
「……エンカウンター」
敵性存在を確認。
───
「…………」
気を失っているスノーホワイトに巻き付いていた黒い触手が、私の手を這って戻ってくる。
スノーホワイトの記憶を守る為にはこうするしかなかった、と言ってしまえばそこまでだ。しかし、NIMPHに直接関与し、思考転換を無理やり修正する。リリスの場合と異なり圧倒的にリスクを孕んでいるが、記憶を守る為にはこうするしか方法が見当たらなかった。
「うわっ!? くそ、ここも限界か……!」
近くにミサイルが落下し、未だ目覚めないスノーホワイトを抱き抱え、遮蔽へと移動させる。
「……ッ!? クソ、ラプチャー共めッ!! スノーはここにいて! 聞こえてるか分からないけど!」
もう隠れるだけではあっという間にジリ貧になる。スノーがどうなるかは、もう神にでも祈るしかない。
「さてと……空気の読めないカス共がッ!!」
遮蔽から飛び出した私に、ラプチャー達は集中砲火を浴びせてくる。
「ほら、どうした! 当たってないぞマヌケ!!」
カウンターのショットガンが、目の前のラプチャーを貫く。そして、背後に迫るラプチャーに対して抜刀し、脚部を切断した。
「はぁっ!」
そのままコアを刺し、確実にとどめを刺す。けれど、その間完全に身を曝け出していたせいで、至近距離でラプチャーのビーム砲が装填され始めていた。
完全に悪手だった。どれだけ今から素早く持ち替えた所で、間に合わない。
「しまっ──」
バン──!
ビーム砲が発射される瞬間、背後から何かが掠めた。掠めたそれは、ビーム砲ごとラプチャーを粉砕した。
「相変わらず、お前は無茶をする」
背後から聞こえた声は、聞き馴染みがありながらも、初めて聞いた声だった。
「……やぁ、スノー。生まれ変わった気分はどう?」
「今話している暇はない。さっさと片付けるぞ」
手厳しいスノーと背を向けて立ち、ライフルに持ち替え、ラプチャー共を一匹ずつ確実に仕留めていく。
ポジションを入れ替え、狙撃。その繰り返しだけで、周囲を囲っていたラプチャーは粗方倒した。
「スノー。私は接近戦に切り替えるから、援護を頼める?」
「流れ弾に当たっても知らないからな」
すぐさま手持ちを刀に変えて、目の前の敵を斬り倒していく。
「……」
しかし、ラプチャーの銃弾の一発がスノーホワイトの左腕を貫いた。
「スノー!」
「問題ない」
スノーはすぐさまリロードを挟むと、お返しと言わんばかりにそのラプチャーのコアを正確に破壊した。
「やる〜」
「真面目にやれ」
私が斬り、スノーホワイトが撃つ。しばらくはそれだけの時間が続いた。
「状況終了」
スノーホワイトの声の通り、既にラプチャー達の反応は私の方でも確認できない。
「よし。終わりかな。それじゃ、私はリリス達の方に行くけど──」
「待て」
スノーホワイトに肩を掴まれ、無理やり目線を合わせられる。
「お前に聞きたいことがある」
「ん? 何かな、スノー?」
「私が意識を失いかけた時、一体何をした?」
「さぁ、質問の意味が──」
「ほう。この期に及んでとぼける気か?」
気持ちはさながら圧迫面接のようで、ラプチャーとはまた違った怖さをしている。
「おまけに、あの赤い目だ。あれは一体何だ」
「…………」
最悪だ。完全に気を失っていたと思ったのに、まさか見られていたとは。
「侵食を受けているのか?」
「……そうだとしたら?」
「お前の状態によって、対処を決める」
「……」
完全に想定外だ。しかしこうなってしまった以上、下手な嘘は最悪の事態を招くと予想した。不本意だが、私は手短に私自身について告白した。
「ほう。侵食のコードを改造したと……」
「信じられないなら、それでもいい。スノーは侵食を最も危険視しているし」
ショットガンを構える。
「撃ちたければ、撃てばいい。スノーにはその権利はある。だけど、私も抵抗させてもらう。まだ、死ぬわけにはいかない」
「理由は?」
「みんなを救うため。みんなが笑って、最高の結末にするため。こんなこと、おかしいかな?」
両者の間に、緊張が張り詰めている。先に動いたのはスノーホワイトだった。
「……お前はこんな所で裏切るような奴ではないのは理解している。今は一時保留にしておこう」
スノーは武器を収めた。問答無用で発砲してくると構えていたため、この判断に私は驚いた。
「ただし、戦いが終わったら、洗いざらい喋ってもらうぞ」
「……分かった。改めてリリス達の方面に向かうけど、スノーはどうする?」
「私は後で合流する。先に行け」
「了解」
予想外の出来事もあったが、予定通り事は進んでいる。私は全速力でリリス達の方へと向かった。今は1秒すら惜しい。
───
リリーバイスを背負ったドロシーが立ち止まった。
「指揮官! リリスが……!」
指揮官が立っていたはずの場所には誰もいなかった。少し視線を下げると、そこには倒れている指揮官がいた。
「指揮官……」
リリーバイスを下ろし、指揮官に駆け寄ると、辛うじて生きていることが確認できた。しかし、いつ死んでもおかしくなかった。
「ああ……なんだ、どうかしたか……?」
「……リリスの状態が良くありません。見ていただけますか?」
「ああ……そうか、分かった。任せておけ。誰にも……見られていないな?」
「ええ、誰も見ていません……」
直後、背後からこちらへ走ってくる音が聞こえた。
「指揮官! リリス!」
切羽詰まった様子のルミナスムーンが現れた。
「見られたな……」
「そのようですね。けれど、好都合です」
「ならば、早く戻れ。勝利は目の前だ」
「……ルナ。後はお願いできますか?」
「了解」
「頼みます」
そう言い残し、ドロシーは前線に戻っていった。
「指揮官。スノーホワイトが思考転換を起こしました」
「……何だと」
指揮官は驚き、リリスも目を開いていた。
「ですが、記憶などは維持できてるはずですので、安心してください」
「そうか……」
「今はリリスのことです。もう、限界のはずですから」
「……」
指揮官は黙り込み、リリスを見つめていたが、その重い口を開いた。
「リリス」
「……はい」
「もう……いいだろう」
「私には……まだ、やるべきことが……ありますから」
上空から2体の量産型ヘレティックが現れ、瀕死のリリスを見つめていた。
「私が相手をします。リリス、指揮官を連れて退却を」
「駄目……私が……」
リリスがふらふらと立ち上がった。
「戦う時間があるなら、1秒でも長く指揮官との時間を作って」
「……でも」
「心配しないで、必ず勝つから」
そう言って、リリスに指揮官を預ける。
「……約束だからね」
「了解」
リリスは指揮官の身体を支えて退却を始めた。ヘレティックは追撃しようとするが、その行く手を阻む一人のニケ。
「お前達に時間を取る訳にはいかない」
銃口をヘレティック達へ向ける。
「エンカウンター!!」
襲いかかる敵に、引き金を引いた。
───
「ゲホ、ゴホッ……」
指揮官の身体を下ろすと、リリスは咳き込み跪いた。
「リリス……もういいんだ。もう、私たちは充分やってきただろう?」
「……まだです。まだ、やり残したことがあるんです」
「これ以上、君に背負わせたくない……」
「なに弱気になってるんですか。最後はいつもの調子で見送ってくださいよ」
リリスは指揮官に肩を貸して、目的地に着いた。
「ここは……」
「ええ、ご存知。アークへ繋がるエレベーターです」
「ダメだ……君を置いてなんて」
「分かってください。あの子達の為にも、指揮官は生きてください」
リリスの足は止まらない。
「……リリス」
「それに、私も未来に希望を託してみようと思います」
「希望だと?」
「ええ、彼女……ルナと約束しました。あの子が色々と頑張ってくれてたみたいです」
息が上がり、指揮官を支える手が震える。
「そうか……そうだったんだな。思えばアイツには、色々助けられたな」
「ええ、そうですよ。だから指揮官は生きて、しっかりお礼を言ってあげてください」
指揮官をエレベーターの中に下ろした。
「君がいない生活は、大層つまらなそうだ」
「当たり前です。だからって浮気しないでくださいね?」
「向こうからの熱烈なアタックを断るのは、骨が折れそうだ」
「根負けしたら、化けて出ますからね。」
「ああ……勿論だ」
やがて、エレベーターの扉が動き始める。
「リリス!」
歩みを止めて、振り返る。
「また会おう。愛してる」
その言葉にリリスは笑った。
「はい。私も愛してます、アンダーソン」
扉は閉ざされ、エレベーターが降りていった。
リリスは涙を拭き、元来た道を戻っていく。
───
「はぁ、はぁ……」
積み重なった残骸を前に、力が抜ける。
「お疲れ様、ルナ」
「指揮官に想いは伝えられた?」
「うん。バッチリ。浮気しないように、ちゃんと釘も刺しておいたし」
「そりゃ良かった。多分、相当な抑止力になるよ」
壁を支えにして、何とか立ち上がる。
「私がいない間、何かあった?」
「紅蓮が思考転換した。でも、記憶はあるし、前より穏やかになってると思うよ」
「そっかぁ。また一つ楽しみが増えちゃった」
「じゃあ、始めようか」
瞼を閉じて、瞳を赤く染める。両手から生えてきた触手がリリスの周りで蠢いている。
「これから、リリスの記憶を複製して、私に保存する。楽にしてて」
「うん。お願い」
リリスの破損部分から、直接侵食する。頭がバチバチと弾けるように痛い。
「ねぇ、ルナ」
「う……ん? 何、か?」
「あなたの秘密も、できればみんなに伝えてほしいな」
「……」
「大丈夫。あなたの今までを知っていれば、きっとみんな受け入れてくれるよ」
「考えて、おく……」
私が経験したことのない思い出が、次々と脳内に溢れてくる。けれど、詳しく見てはいけない。
素早く保存し、リリスの記憶を思い出すことが出来ないことを確認して、リリスから触手を引き抜いた。
「……はい完了。これで、ここまでの記憶を完全に複製した。私自身も覗くことは出来なくしたから、安心して」
「ありがとう。みんな立派になって、もう言うことなしね」
リリーバイスの目が閉じる。
「次、目覚めた時は。全員で迎えにくるよ」
「うん……楽しみに、してる」
そうして、声も聞こえなくなった後、私はリリスの身体を持ち上げ、ゆっくりと寝かせた。
「おやすみ。そして、お疲れ様でした」
横たわるリリスを見つめながら、通信を入れる。
「ドロシー、そっちは? うん。良かった。全員揃ったみたいだね。場所を送るから、みんなで来て」
───
「ルナ! リリスは……」
駆け寄ってきたラプンツェルは、リリスの姿を見ると、その足を止めた。
「リリ……ス……! ああ……! ああああっ……!!」
膝をつき、ラプンツェルは涙を流した。
「ルナ……リリスは何か言っていましたか?」
「『もう、みんな立派になって、もう言うことなし!』だってさ。指揮官もエレベーターに連れて行ったみたいだし、本当に全てをやり遂げたみたいだった」
「そう……ですか」
「結局、私達はどこまで行っても、偉大な姉には勝てなかったか……」
ドロシーや紅蓮も、静かに涙を流した。
「……」
「スノー」
「何だ……」
「変なことを聞くけど、目の前のこの人は、誰?」
隣に立つスノーホワイトは、私を見つめる。
「何を言って──」
「答えてみて」
「……私達の、大切な姉。リリーバイス。これで満足か?」
「あ、ああ……」
ああ……良かった。本当に……良かった。
「お前が……泣くなんて、珍しいな」
「スノーだって、そうでしょ」
互いに泣いた。でも、これが今生の別れにはさせない。
「棺を作ろう。みんなそれでいい?」
「ああ、何より白くてきれいな石を使おうじゃないか」
「全員で、弔いましょう。勝利の女神、まさにその人を」
ARK GUARDIAN : END
以上でARK GUARDIANを終了します。次回から、OVERZONEに入ります。
原作キャラの口調は合ってる?
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問題なし
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少し違う
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全然違う