バ先のカフェの店長が多分異世界帰り 作:日常系ファンタジー
「こんにちは店長」
「いつもありがとう。
高校に上がってすぐ、俺はアルバイトを始めた。
動機は近々発売される新しいゲーム機が欲しかったから。
バイト先は家から徒歩十分のカフェ『アイスナイト』。
働いているのは俺と店長だけだけど、席は十人分くらいしかないし、お客さんも一日に二十人くらいしか来ないから俺と店長だけでも十分回る。
店長は薄い茶髪の天パ眼鏡の優しそうなお姉さん。
店長はちょっと抜けているところがある。
「店長、ケチャップってもしかして切らしてます?」
「え、あ、そうかも」
「おっけーです。俺買ってきますね」
「ごめんね桂馬くん」
「いえ、仕事なんで」
店長からお金を貰ってスーパーに向かうためエプロンを脱ごうとバックヤードに行ったら、オープン前の店先から店長の声が聞こえてくる。
「シルヴィ、勝手にケチャップ飲んじゃダメって言ってるでしょ」
「我は呪剣ぞ……人間の生き血を我慢してやっておるのだ。これくらいは許せ千和」
……我は受験ぞ?
ていうか誰……?
いや、実はこういうことは始めてじゃない。
店長が野菜を切った後にまな板が六つに分解してたり。
電話口に三駅隣の駅内放送が流れていた数分後に店に戻って来てたり。
「テストでめっちゃ疲れました」って言ってたら、店長が俺のオデコを指で突いた瞬間に全身の疲労が消滅したり。
この前なんてたまたま店に来た指名手配犯を警察に通報してた。その指名手配犯整形してまったく別人の顔になってたのに。
絶対一般人じゃないと思うけど、何者なんだろう。
まぁいっか。俺は再来月発売のゲーム機が買えればいいし。
店長にバレないようにこっそり店を出てケチャップを買いにいく。
なんか勝手に食われるらしいから二つ買っておいた。
「桂馬くん、まかないってぇ……」
「それ普通は店の人が出すんですよ」
「でも桂馬くんの方が料理上手いし、こういうのは適材適所じゃないかな?」
余談だが、俺には弟と妹が計三人いる。
両親共働きってこともあって俺は家事が全般得意だ。
「なにがいいですか?」
「炒飯の気分」
全然店に似合ってないな。
まぁいいけど。
「了解でーす」
炒飯を炒めながら子供みたいな顔で料理を持ってる店長と雑談をする。
「そろそろ夏っすねー」
「そうだねー」
「そういえば明日って土曜じゃないですかー」
「そうだね」
「明日のバイト終わりにクラスの奴ら何人かと近くの墓地で肝試しするんですよ」
「悪い子だね。未成年は十時までに帰宅しなきゃいけないんだよ?」
「わかってますって、だから八時くらいに集まって十時には解散しますよ」
「そうなんだ。えらいえらい」
「まぁ、そんだけなんですけど話」
「ふーん。ちなみに近くの墓地ってどこ?」
えーと、たしか……
「
「あぁ、そうなんだ……」
店長は少しだけ目を細めた。
「できましたよ」
「うわ、美味しそう。いただきます!」
元気そうに微笑んだ店長は炒飯をすぐに平らげてしまった。
「ごちそうさま」
「お粗末様です」
「桂馬くんは本当になんでもできるよね。料理も掃除も……こんないい人材がバイトに応募してくれてよかったよ。もう君は絶対に手放せない」
なんというか、妖艶という言葉が合っているだろうか。
そんな瞳を向けてくる店長を見ていると、まるで吸い込まれそうな錯覚に陥る。
この人、多分十歳以上上だけど……たまにメロいんだよな……
「肝試し、楽しみだね。桂馬くん?」
◆
翌日、墓地に来たけどかなり早く到着してしまった。
午後七時。集合は八時だったから、他の皆はまだ来てないみたいだ。
けど、空はもう真っ暗。
この時間に一人で墓地か、結構雰囲気あるなぁー
ちょっと先に覗いてみようかな。
「神剣解放【ソルドラ】。呪剣解放【シルヴィ】。身体強化第五段階まで解放」
え、店長の……声……?
「知覚強化。耐性強化。第一から第七までの精霊を解放。術式の代行演算を開始」
声の方に行くと店長がいた。白と黒の剣を両手に持ってる。
後、なんか魔法陣みたいなのが店長の身体の周りに十個くらい浮かんでる。
なにあれ……
「恨みはないけどごめんね。ゴーストなんかにあの子は渡さないよ。ていうか私のものに手を出そうとしたんだ、消滅くらい覚悟してるよね?」
あのですね、まず俺が来たんです。
多分、ゴースト側からに手を出す予定は少なくとも今はまだないと思います。
後、俺いつから店長のものになったんですか?
なんて、口を挟めるわけもなく店長は両手の剣を振り下ろした。
その瞬間、白と黒の光が墓場全体に落ちて来た。
何が起こったのかまったくわからないが、光が収まった時にはなんかちょっとだけ気温が上がってるような気がした。
店長の周りにあった魔法陣と剣が次々に姿を消していく。
数秒で店長はいつもの店長の姿に戻った。
そろそろ出て行ってもいいかな。
「あれ、店長ー? なにしてるんですかー?」
俺にできる最大級のとぼけ顔でそう声をかけると、店長ははっとした表情で振り返る。
「桂馬くん!? い、いつからそこに……」
「え? 今来たところですよ? 店長はお墓参りとかですか?」
「い、いや……あー、そうだそうだ、君に遅くならないように帰るんだよって言いに来たのさ」
「そうだったんですか、気を付けますね」
「でも、多分もう心配はないと思うから楽しんでね。青春は一回しかないんだから」
「ありがとうございます」
「うん、いいってことさ。こういうのはほら、適材適所だから」
そう言って店長は俺の肩を一回叩いて駐車場の方まで歩いて行く。
うん、多分あの人異世界帰りだ。