バ先のカフェの店長が多分異世界帰り 作:日常系ファンタジー
そこが俺、
品行方正。文武両道。才色兼備。
父親はどっかの財閥の総帥。
しかも漫画やアニメに出てくるような性格の悪いタイプでもなく、裏表のない普通に良い人だ。
「おはようございます。桂馬さん」
「おはようございます。大鳳さん」
「そんな距離の感じる呼び方はやめてくださいまし。私、クラスの方々に敬称無しの名前で呼ばれるのが夢なんです」
「まぁまぁ、まだ高校始まって二ヵ月くらいしか経ってないわけだしさ、おいおいってことで許してよ」
「そうですの? まぁ強要するものでもないですよね。わかりました」
クラスでも特に目立つことはない俺なんかにも、こうして気さくに話しかけてくれる時点でその優しさは滲み出ている。
少なくとも俺の知る限りこのクラスにはいじめとかはまったくないけど、この人がいる限りそういう問題は起こらないし、仮に起こったとしてもすぐに収束するんだろうなという安心感がある。
それくらいクラスのみんなに信頼されている。学級委員長でもあるし。
放課後、バイトの時間には余裕で間に合うな、なんて考えながら荷物を纏めているとクラスメイトたちの雑談が聞こえてくる。
「委員長もカラオケ行かない?」
「ですが私は迎えが来ていますし……」
「そうなんだ。まぁ無理強いはできないけどさ、委員長と行ってみたかったなぁ」
「……いえ、わかりました! 今日は少し遅れると連絡しておきますわ」
「え、いいの!?」
「はい。私も普通の学生のように遊んでみたいと思ってたんですの」
「やったー! それじゃあみんなで行こ行こ!」
なんて会話をしながら、六・七人くらいのグループが教室から出て行く。
俺もバイト行くか。
カフェの閉店は八時半で、その後掃除をしてバイトはいつも通りの九時には終わった。
本日の店長は、人間の顔くらい大きな紫色の卵を持って「毒炎龍の孵化も近そうだね……」なんて意味のわからないことを言っていたが見ても聞こえてもないフリをした。
「お疲れさまでしたー」
「うん、また明日もよろしくね」
カフェから出て家まで歩くこと五分。
そう言えば、俺が住んでる場所はそこそこ田舎だから近くのカラオケってこの通りの一軒くらいしかないんだよな。
なんて思っているとカラオケからクラスの奴らが出てくるところだった。大鳳さんもいる。
わざわざ声をかける必要もないし、反対車線で向こうは気が付いてないみたいだから俺はそのまま家の方向へ進む。
なんとなく横目に見ていると大鳳さん以外は解散していった。
大鳳さんは多分そこに迎えが来るんだろう。
いつも登下校の時に見る黒塗りの高級車みたいなヤツ。あれいくらくらいするんだろうな?
なんて考えていたけれど、大鳳さんの前に停まったのは一台のバンだった。
「キャ――」
短い悲鳴のような声が響いたような気がしたが、その声は不自然に切れる。
まるで、口をなにかで塞がれたように……
停まったバンがエンジンをかけ、急発進する。
そこには大鳳さんの姿はなくなっていた。
俺は鞄からスマホを取り出して、メッセージアプリから店長に通話をかける。
「もしもし店長?」
「どうしたんだい? なにか忘れ物?」
「なんかクラスメイトが誘拐されたみたいで、どうしたらいいと思いますか?」
「誘拐……どこで?」
俺は自分の現在地を伝える。
それと目の前で起こったことも詳細に話した。
「なるほどね。わかった。通報は私がしておくから、君はそのままなにもせずに帰っていいよ。大丈夫、明日にはなんの問題もなくその子は登校してくると思うから」
いつものおちゃらけた雰囲気とは百八十度違う。
少し低くてかっこいい声で、店長はそう言った。
マジでたまにメロいわ~
俺ってもしかして年上好きなのかな?
まぁ誘拐事件なんて俺にできることはなんにもないし、店長ならなんとかしてくれるだろうなって漠然とした自信がある。任せよう。
店長に「わかりました」と返事をすると、「じゃあまた明日」と店長の声がして、すぐにガサゴソと音が聞こえた。
あ、通話切るの忘れて鞄かなんかにスマホ突っ込んだなこの人。
◆
「飛行術式と知覚強化で上から法定速度無視の車を探せばすぐ追い付けたよ。桂馬くんが車種とナンバーを憶えていてくれて助かったね。だからこうしてすぐに見つけられた」
風を切るような音が十分くらい続いた後、反響の良い場所に来た店長はそんな風に喋っていた。
「なんだテメェ、どこのモンだ!?」
「別にー、ただの店長だよー。それにしても古典的だよね。使われてない倉庫に監禁するなんて。目的は身代金ってところ?」
「ッチ、殺されたくなかったらさっさと消えろ!」
「うわ、銃とか持ってるんだ。本格的だね」
「お前ら、殺しちまえ。幸いなことに海は近いから問題はねぇよ」
バン、バン、と火薬が破裂する音が何度も響く。
「なっ……銃弾を素手で掴んだ……だとぉぉぉ……!?」
おじさんの悲鳴混じりの叫び声が聞こえてくる。
「この剣はさ、呪いを帯びているんだよ。たしか、向こうの賢者くんは『因果の操作』とかって言ってたかな? 斬った相手は物理的には傷付かないけれど、その運命はマイナスの方向に転化していくんだって。つまり、超運が悪くなるわけ」
「ヤ、ヤメッ……」
何人もの男たちの悲鳴が断続的に響く。
「あのさ、あの子に変なストレスがかかってさ、もしご飯がマズくなったらどうしてくれるの? それどころかバイトを辞めるとか言われちゃったりしちゃったらさ、文字通り末代まで呪いたくなっちゃうよ」
今度は「ガシャン、ガシャン」となにかが倒れたり壊れたりする音が連続する。
「さっそく不運が来たね。滑ってコケて、物が落ちてきて、当たりどころも最悪。でも今日だけじゃないからね。君たちはこれからずっと不運なままだよ。ギャンブルは絶対に外れるし、人からの評価も低くなる。運命的に君たちは嫌悪される」
阿鼻叫喚。おじさんとおっさんの悲鳴と絶叫のハーモニーが数分間繰り返され、音は止む。
「よし、君が誘拐されちゃった子だね」
「あ、ありがとうございます。あなたは……」
「私のことは忘れていいよ。おやすみ――【
「うっ……」
「よし、後は【
なんか解決したっぽい。
よし、これで安心して寝られるな。
なんて思いながら俺は通話を切った。
一時間ほどして店長から『通話時間すごいことになってるんだけどもしかして聞いてないよね!?』というメッセージが来た。
だから次の日の朝に『帰ってすぐ寝ちゃったので気が付きませんでした。すみません』と送ったら五秒で『そ、それならいいんだけどね。こっちこそ気が付かなくてごめんね』と返信が来た。
まさかこの人、夜ずっとスマホに張り付いてたのかな? だとしたら未読無視したのは悪かったかな。
いやでも俺が知ってるってバレる方が気まずいし、まぁいっか。
学校に行くと大鳳さんは普通に登校してきていた。