バ先のカフェの店長が多分異世界帰り   作:日常系ファンタジー

3 / 5
「店長、スナイパーが狙ってます」「漫画の見過ぎだよ。そんなのもういないじゃん」

 

 大鳳さんが誘拐された日の二日後。土曜日は朝十時の開店から働いている。

 開店前に通りの道路の掃除をしていると母親譲りらしい金髪を揺らしながら、見知った女性が一人、小走りでこっちに駆け寄ってきた。

 

「あら桂馬さん! こんなところで会うなんて奇遇ですわね」

 

 いや、電柱の裏に隠れてずっとこっち見てたのは知ってるんだけどね……

 

「奇遇ですね大鳳さん」

「む、またそうやって苗字で。私はお名前で呼んでいるというのですから、どうぞ気さくに『妃花(ひめか)』とお呼びください。それに敬語も不要ですわよ?」

「敬語はお互い様じゃないですか。それに俺はクラスメイトも半分以上は苗字で呼んでますよ」

「ああ言えばこうおっしゃって、もう堕ちていただいてかまわないのですよ?」

 

 クラスメイトに名前で呼ばせることを『堕ちる』って表現するのはどうかと思うけど……いや、それもお嬢様クオリティか。

 

「それで、大鳳さんはこんなところでなにを?」

「そうでした、このカフェに入りたいのですけど……もしかして桂馬さんは……」

「はい。俺はここでアルバイトしてるんです」

「やっぱりそうなのですね! 実は先日この近くで眠ってしまったことがあって、店主の方に介抱していただいたのです。そのお礼がしたくて……」

 

 なるほど、この前の事件のことはそういう風に処理されてるのか。

 覚えてないってことは、やっぱり店長が記憶消したんだろうな。

 怖いから俺が店長のことを知ってることは絶対に秘密にしよう。

 

「なるほど。じゃあまだ開店前ですけどどうぞ」

「よろしいのですか?」

「多分店長もいいって言ってくれると思いますよ」

「では、お邪魔いたします」

 

 大鳳さんを店に入れると、店長はオープンキッチンで作業していてすぐに気が付いた。

 

「おや、君はこの前の……」

「大鳳妃花と申します。あらためまして先日は助けていただいてありがとうございました」

 

 そう言って大鳳さんは綺麗に一礼した。

 

「丁寧にどうも、でも気にしなくて大丈夫だよ。そう言えば桂馬くんと同じ学校だよね?」

「同じクラスですわ」

「そうなんだ。桂馬くんと仲良くしてあげてね」

 

 オカンか。

 

「開店前だけどなにか飲んでいくかい? 桂馬くんにはいつもお世話になってるからお代は取らないよ」

「いいんですか店長?」

「もちろん」

「ありがとうございます。あ、それとこれつまらないものですが……」

 

 そう言って大鳳さんが差し出していた紙袋は、俺でも知ってるような高級なチョコレート菓子のブランドのものだった。

 さすがお金持ち。

 

「ご丁寧にありがとう。桂馬くんも掃除は終わったんなら座っていいよ。開店までまだあるし、みんなで食べよう」

「わかりました。大鳳さん、俺もいただいてもいいかな?」

「もちろんですわ!」

 

 カウンター席に大鳳さんと並んで座ると、店長はすぐにコーヒーを出してくれた。

 

「私チョコレート大好きだよ。なにから食べ――」

 

 店長が言葉に詰まる。

 まるで得物を見つけた猟師のように、その目が鋭くなった。

 あれ、この雰囲気って……

 

「ごめん桂馬くん」

「どうかしたんですか?」

「ちょっと、小麦粉切らしてたの思い出したから買ってくるね」

 

 そう言って店長は店から出て行ってしまった。

 

 小麦粉……? ちょっと前に半年分買い置きしたばっかじゃなかったっけ?

 

「小麦粉……は大事ですわよね?」

「まぁそうだね」

「あ、桂馬さん敬語じゃなくなってますわ。そのままでよろしいですわよ」

「あ……俺もちょっと外に箒忘れたから取ってくるよ。俺はすぐ戻ってくるから安心して」

「ふふん、気分がよいので許します」

 

 店の外に出てみたが、すでに店長の姿はどこにもなかった。

 左右どっちも百メートル以上ある道路のはずなんだけどな……

 裏路地にでも入ったのか……それか飛行でもしてんのか……

 

 店先を見渡してみると、さっき掃いたばかりなのに店の窓ガラスの前に石が転がっていた。

 いや石じゃなくて金属だなこれ……鉛?

 

 なんか潰れてるけど……元々は多分先がとがってて円錐っぽい感じだろうか?

 

「あれ、これ銃の弾じゃね?」

 

 さっきまでなかったってことは今撃ち込まれたってことか? スナイパーじゃね?

 

 でも銃なら窓ガラスなんて貫通するんじゃないのか?

 店長が店自体になんかしてる?

 

 狙いは大鳳さん? この前の誘拐が失敗したから殺しに来た? ってことは身代金目的じゃなくて……

 

「あれ、桂馬くん? どうして店先にいるの?」

「店長、いつの間に……」

「今帰って来たんだよ」

「小麦粉はどこにあるんですか?」

「え!? あっ、忘れちゃった……」

 

 抜けすぎだろ……とぼけるって言ったって限度あるんだぞ……

 

「でもまだあると思いますよ、小麦粉」

「そ、そうだよね! うん、それを思い出して帰って来たんだよ!」

「そうですか。じゃあチョコレート食べましょ」

「うん!」

 

 銃弾をポケットに隠しながら、俺は店長を店内へ誘導する。

 

「ねぇ店長、殺し屋って実在するんですかね? スナイパーとか」

「なに言ってるのさ、漫画の読み過ぎだよ桂馬くん。そんなのもういないよ」

 

 うわ、絶対「もう」とか言わない方がいいでしょ。

 でも、切れ長の目といつもより低い声でそう言われると、ちょっとさすがにメロい……

 

 

 

 ◆

 

 

 

 一週間ほど経ってテレビを見ていると大鳳財閥の重役の一人が逮捕されたというニュースがされていた。

 罪状は『殺人教唆』。

 

 世の中怖いものである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。