バ先のカフェの店長が多分異世界帰り   作:日常系ファンタジー

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「店長、友達が悪魔召喚しました」「悪魔なんかいるわけないじゃん。きっと悪い夢だよ」

 

「桂馬殿、桂馬殿、本日なのでござるが拙者の家に招待してあげるでござる」

 

 丸眼鏡で小太りな彼は放課後にすぐさま俺の席に駆け寄って来て、そう声をかけてきた。

 

 このオタク感丸出しな風貌と喋り方の彼は、俺の前の席の『飯田明道(いいだあけみち)』。

 自他共に認めるオタクで、特技はアニメやゲームのキャラの声を聴くだけで声優を当てられること。なんと正答率は脅威の99.2%であると本人が言っていた。

 

 ちなみにこの喋り方は敢えてで、オタクであることに誇りを持っているかららしい。

 前に見たけどコンビニとかで会計する時は普通だった。

 

 俺もゲームが趣味ということもあってそれなりに彼とは仲良くしている。

 けど、家には行ったことないな。

 

「飯田くん、急にどうしたの?」

「実は悪魔召喚の儀式を行う手引書を入手したのでござる」

「……うん?」

「いや、拙者だって信じているわけではござらんよ? でもこういうのも青春イベントの一つでござる。拙者の学園生活はラノベで起こりそうなことをできるだけ体験することが目標でござるゆえ」

「そっか……嫌ってわけじゃないんだけどさ、それって俺を誘う必要あるの?」

「一人で悪魔召喚の儀式をするのは怖いでござる」

 

 そう言って飯田くんは上目遣いの純粋な瞳をしながら俺を見てくる。

 あぁ、もっと可愛い女の子にされたい表情だな……

 

「今、美少女だったらなーって思ったでござろう!?」

「思ったよ。よくわかったね」

「拙者でも同じことを思うでござるからな」

 

 そう言って飯田くんは笑う。

 

「わかった。今日はバイトも休みだし行くよ」

「おぉ、よかった! ちなみにバイトが休みなのは実は調査済みでござる」

 

 それはちょっとキモイね。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あらいらっしゃい。あなたが桂馬くんね。明道の母の明美(あけみ)です」

 

 飯田くんの家に着くと綺麗なお母さんが出迎えてくれた。

 美魔女って雰囲気だし、容姿もかなり整っている。

 前々から飯田くんは痩せて眼鏡をコンタクトにすればかなりイケメンの部類なんじゃないかと思っていたが、なるほど遺伝子の力は偉大だ。

 

「あ、今宮桂馬です。お邪魔します」

 

 飯田くんの家は結構な豪邸だった。

 部屋が十個くらいありそうだ。

 バイトもしていないのにやけにアニメグッズの自慢が多かったのはそういう理由か。

 

 イケメンでお金持ちなのに……どうしてこうなってしまったのか……

 

「どうぞくつろいで行ってね」

「ありがとうございます」

「か、母さんあんまり構わないでいいから……桂馬くん、俺の部屋に案内するよ」

 

 おぉ、家族の前では普通の話し方なのか。

 

 飯田くんの部屋に行くと、お母さんがショートケーキと紅茶を出してくれた。

 なんか悪い気がするし、今度来るときはバイト先の持ち帰りのスイーツでも持ってこよう。

 

「それで、悪魔召喚って?」

「桂馬殿、良ければその前にこれをやりませぬか?」

 

 そう言って飯田くんが取り出したのは、『ファイティングフォックス8』。

 格ゲーの中でもかなり有名なタイトルで、キャラが全部キツネの擬人化という特徴を持っている。

 8は発売してまだ三カ月程度しか経っておらず、格ゲーの中では今もっとも盛んなタイトルだろう。

 

 かく言う俺もこのゲームはかなりやり込んでいる。

 けど、オンライン対戦以外をするのは初めてだ。

 

「いいのかい飯田くん? 俺このゲームダイヤランクだけど?」

「それは是非ともご教授いただきたいでござるな」

 

 それから二時間くらい対戦をした。

 俺の全勝だったけど、3ラウンドくらい取られた。

 

「上手いね飯田くん。もしかして結構格ゲーやってるの?」

「いえ、格ゲーはこれが初めてです。実は桂馬殿を誘う前にコソ練していたのでござるが、まだまだ敵わないでござるな」

 

 ……おぉ。

 

「あ、今また美少女だったらなって思ったでござるな!?」

「うん、正解。けど俺も楽しかったよ。顔合わせて格ゲーやってくれる友達はいなくてさ」

「普段はネット対戦ばかりでござるか?」

「そうだね。ネッ友は何人かいるけどリアルでやってくれる知り合いは飯田くんだけだよ」

「おぉ、ではまた練習してくるので教えて欲しいでござる」

「もちろんだよ。またやろ」

 

 って……悪魔はどうした悪魔は。

 というかもしかして、悪魔なんちゃらっていうのは言い訳で普通に遊ぶ口実だったんだろうか?

 

 そんなことしなくても別に遊びくらい付き合うのに。

 

「では、悪魔召喚をやってみるでござるか……」

「あぁ、それはホントにあるんだ」

「え? もちろんでござる。まさか拙者が遊ぶ口実に悪魔召喚どうたらと言い出したとでも思っていたでござるか?」

「思ってたけど、違うの?」

「実はあんまり違わないでござる……そのために悪魔召喚の儀式書を通販で買ったでござる……」

 

 あぁ、飯田くんが美少女だったらきっと『萌え』を感じられただろうに残念この上ない。

 

「でもせっかく用意したでござるから、試しにやってみるでござる」

「そうだね」

 

 

 ――なんて、軽い返事をしてしまったことがすべての失敗の原因だったのだろう。

 

 

 飯田くんが取り出して来た古文書の指示通り俺たちは儀式の準備を始めた。

 道具は全部飯田くんが用意しておいてくれたらしく、それに書かれた手順通りに進めていくだけだ。

 

 魔法陣を描き、その中央に祭壇を作り、無欠損の生き物の死体を三体(今回は秋刀魚)捧げて呪文を唱える。

 

「ざへな、ごろな、あーれべるなる⋯⋯かもるてぃあ、あっさろーらむ?」

「なんか変な呪文だね」

「そうでござるな。まあ悪魔召喚なんて現実に存在するわけないでござるし、適当なのは仕方ないでござる」

 

 オタクとはいえ飯田くんは結構現実主義だ。そういうところは嫌いじゃない。というか嫌いなところなんて別にないんだけど。

 

「悪魔召喚の儀式ってこれで終わり?」

「そうでござる。やっぱりなんにも起こらないで──」

 

 言い終える前に飯田くんがその場に寝そべった。

 なにしてるの、と問いかけようと思ったのも束の間、魔法陣の中央から紫色の霧のようなものが噴出し、それは人間のような形状にまとまっていく。

 

 ドッキリ……ってことはなさそうだ。飯田くんのケツを引っぱたいてみたけど起きる気配がない。でも息はあるから寝てるだけっぽい。

 

 霧が集まって現れたのは、全身を真っ黒な毛で覆い山羊のような角と蝙蝠のような羽を持った人型のナニカだった。

 

「我は悪魔ボロス・バーラッハ、今ここに復──」

「あ、その前にちょっと一本電話していいですか?」

「で、でんわとはなんだ?」

 

 どうやらこの悪魔、随分と文明レベルが低いらしい。

 でも、触れもせず飯田くんを気絶させるくらいだし俺がなんとかしようとするのは無謀だな。

 

「あー、あれです悪魔さんを称えるヤツっす」

「なるほど、ならばよかろう。存分にでんわするがよい!」

「あざーっす」

 

 店長は三コールで電話に出てくれた。

 

「休日にかけてくるなんてどうしたんだい? 桂馬くん」

「それが悪魔に出会ちゃって、店長に相談するのもどうかと思ったんですけどどうすればいいと思いますか?」

「悪魔……ねぇ……そこどこ?」

「鳴橋市天根の十の五の七です」

「ちょっと遠いな……でもなんとかなるかな。うん、ちょっと待ってて」

 

 でも、ここに店長が来て助けてくれたとしても、店長の秘密を知っちゃったら記憶消(ラボルラ)されちゃうよな。

 どうしようかと周りを見ると、倒れている飯田くんが目に入った。

 

 そういえば、なんで飯田くんは気絶したのに俺は普通に意識あるんだろ。

 まぁいいや、これを利用させてもらおう。

 

「すみません店長、なんか睡魔がヤバくて……」

 

 って言いながら電話を切る。

 

「よし」

「貴様、今誰と話して……」

「あの、ちなみになんですけど復活してなにするんですか?」

「そんなもの人間すべてを我の配下とし、この世界を統べるに決まっておるだろう」

「あぁそうなんですね。じゃあ俺今から気絶するんで、悪魔さん後は頑張ってください」

「なに?」

 

 そのまま俺は飯田くんと同じように床に倒れ込む。

 

 その瞬間、俺の手の甲が光を放つ。

 そこには、いつか見た店長が体の周りに浮かび上がらせていた魔法陣に似た模様が浮かび上がっていた。

 

「な、なんなのだこの光は……!?」

 

 そして次の瞬間、その魔法陣から人間が姿を現す。店長だ。

 

「貴様は一体……誰だ……?」

「万が一の時のために転移用のマーカーを付けておいてよかったよ」

 

 えぇ、人の体に勝手になにしてくれてるんですか?

 

「って、なんで桂馬くんも気絶してるの? 国宝級の結界を重ね掛けしてたはずなのに」

 

 だから人の体に……以下同文……

 

「君ってそんなに強い悪魔なのかい? とてもそうは見えないんだけどな……」

「貴様! 我こそは大悪魔ボロス・バーラッ……は……?」

 

 薄目で様子を見ていると、店長の姿が消えた。

 と、思ったら白い剣を持った店長が悪魔の後ろに立っている。

 

 それと同時に、悪魔の右腕の二の腕から先がなくなっていた。

 

「は……ぁ? 我の腕……」

「間抜け面。君みたいな矮小な存在がさ、私の桂馬くんを怖がらせたんだ。もうその時点で罪は成立しているよね」

「返せ、返せえぇぇぇぇぇえええええええ!!」

「神剣解放【ソルドラ】」

 

 悪魔の首に首輪のような白い線が刻まれる。

 ズルリと滑るように、首と胴が別たれる。

 

「何故、何故だ……我には物理的な攻撃など無意味なはずだ。我は物質に囚われない、生物を超越した存在……悪魔なるぞ……」

「そうなんだ。じゃあこっちもソルドラの能力を教えてあげるよ。【なんでも斬る】だ。結界でも精神でも概念でもダイヤモンドでも関係なく、神剣(ソルドラ)は私の斬りたいものを斬る。それこそ、神様が相手でもね?」

「神……だと? 自分がそれと同格だとでも言うつもりか?」

「そんなわけないでしょ。神様なんて何回も殺してるんだから」

「貴様、何も――」

 

 言い終える暇もなく、悪魔の顔が白い光の線だらけになる。

 次の瞬間、それはバラバラの肉片となって飛び散った。

 

 そして、そのまま身体が霧のように変化して消えていく。

 店長がそれをぼーっと眺めているあたり、逃げているわけじゃないみたいだ。

 多分、死んだってことなんだろう。

 飛び散った血も消えてるから、飯田くんや飯田くんのお母さんに迷惑をかけることはなさそうでよかった。

 

「間に合ってよかったよ桂馬くん。でも記憶、どうしよっかな」

 

 まずい。記憶消される……

 

「んー、むにゃむにゃ。悪魔はおれがやっつけるぞー」

 

 我ながら酷い芝居だが、店長なら……

 

「あ、そっか。夢ってことにすれば誤魔化せるよね!」

 

 俺、店長のそういうところ本当に好きです。

 

 そのまま店長は俺のスマホのロックを寝ている(振りの)俺の指で解除して、通話履歴を消して部屋の窓から飛び出して行った。

 

 それから少しして俺と飯田くんは目を覚ました。

 飯田くんは遊び疲れて寝ちゃったってことで納得していた。

 

 その後、飯田くんのお母さんが焼いてくれた苺タルトを食べてから俺は家に帰った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「こんにちは店長」

「いつもありがとう、桂馬くん」

「そう言えば昨日見た夢の話聞いてくださいよ。友達が悪魔を召喚しちゃって~~」

「ふふ、悪魔なんているわけないじゃないか。きっと悪い夢だよ」

 

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