バ先のカフェの店長が多分異世界帰り 作:日常系ファンタジー
ダンジョンを発見した。
いや、意味がわからないが、俺の部屋の押し入れを開けたらそこには黒い穴のようなものができていた。開けた拍子に頭を突っ込んでしまった時に中の様子を少し見たが、石造りの回廊のような景色が見えた。
後、なんか緑色の肌の悪そうな顔の子供が鉈みたいなものを持って徘徊していた。
あれ絶対『ゴブリン』だ。ゲームで見たことある。
そこには俺がいつも寝ている布団が収納されているわけだが、こんなものがあったらそれを取り出せないわけで、つまり俺は今日布団無しで寝なければいけない。
今日のバイトで聞いた限り、俺は店長のせいで究極の巻き込まれ体質になっているらしいし、これくらいのことは起こって当然なのかもしれない。
いや、結構困ってるんだけどね。
もしかしたらダンジョン固有のお宝とか、ゲームみたいなレベルアップとか、そういうものがこの中にあるのかもしれないけれど、俺はそういうものにまったく興味が湧かない。
俺はただバイトしてゲーム機買って、放課後に適当に遊べればそれでいい。
普通に進学し、普通に大学行って、ちょっと年上でちょっとだらしなくてたまにカッコイイタイプの彼女と結婚して、甘やかしながら生きていきたい。
「はぁ、電話するか……」
◆
「なるほどね、これは間違いなく……いや、あぁ、なんだろうね……」
「すいません、夜分遅くに呼び出してしまって」
「ううん、問題ないよ。起きてたから。それに君が寝付けないのは一大事だ」
店長はその穴を少し見分した後、「よし」と呟き俺の手を取った。
「悪いけど、一緒に来てくれるかい? これがどうにかできるまで、君には私の傍にいて欲しい。じゃないと因果が……あぁ、少し手伝って欲しいんだ」
「わかりました。どれくらいかかります?」
「そうだね、規模がわからないから確実なことは言えないけど三時間もあればいけるかな」
「じゃあ、軽食におにぎりでも作って来ますね」
「いいのかい? ありがとう、君は本当にいい子だね」
そう言って店長は優しい笑みを浮かべながら俺の頭を撫でた。
「セクハラですよ。店長」
ちょっとカッコよく見えてしまった自分が悔しくて反論すると、店長は慌てたように謝罪した。
「あ、ごめっ、そんなつもりはないんだよ!」
おにぎり二つずつと、卵焼き、ウインナー、ミニ焼き鳥、ミニトマト。
全体的に量は少なめにして弁当箱に詰める。残りは明日の朝食にしよう。
「じゃあ行きますか」
「うん」
俺と店長はその穴の中へ入る。
薄暗いがまったく見えないことはないのは、回廊の至る所に光を発するコケが生えているからだ。道は幅も高さも四メートルくらい。
「
店長がそう呟く。
「よし、大体わかった。規模は中くらいだけど、世界異変の前兆だね。放置してたら来年にはこの世界にはダンジョンが溢れることになっていたよ」
なんかすごいことを言ってる気がする。
「ねぇ桂馬くん……」
どこか残念そうに店長は呟く。
「なんですか?」
「もうわかってると思うけど、ここは普通の空間じゃない。私も普通の人じゃない。だから、ここをクリアしたら今日の出来事は全部忘れてもらう」
正直、記憶を消されるのがいいわけはないが、それよりこんなものが俺の部屋にある方が問題としてデカい。
「いいですよ。しょうがないです」
「ごめんね……でも、約束するよ。この空間内で君に危険は一つも訪れない」
そう言って店長はまた俺の頭に手を置いた。
うわ、メロ……
「神剣解放【ソルドラ】。呪剣解放【シルヴィ】。身体強化第六段階まで解放。第一から第七までの精霊を解放。術式の代行演算を開始」
店長の両手に剣が現れ、その身体の周囲に七つの魔法陣が展開される。
それに、淡く店長の身体が黄金に光っているように見える。
「それじゃあ、桂馬くんをあまり歩かせるわけにもいかないし、直進で行こうか」
店長は右手に握った白い剣を振り上げる。
「私が命ずる。ゆえに万物よ、私に従え。開け――【次元斬】」
そう言って店長が剣を振り下ろしたその瞬間、回廊の壁に巨大な斬撃の痕のような穴が空く。
しかもそれは、そのさらに奥の壁も、さらにさらに奥の壁も、見えなくなるほどずっと先の壁すら貫通していた。
「さぁ、行こうか桂馬くん」
そう言って先導する店長が歩いて行くと、通路から何匹ものモンスターが現れる。
ゴブリン。ミノタウロス。ガーゴイル。巨大トカゲ。他にもいろんな種類がいたが、松は全員同じ。
店長が剣を振り下ろすだけで、その身体が一粒すら残さず完全に消失する。
グロもゴアもリョナもない。
まるでどこかに転送されてるみたいに抹消される。
「なにしてるんですかこれ」
「ダンジョンのモンスターって魔力で創られたいわば人形なんだよ。だから魔力を分解して吹き飛ばしてるの。ダンジョンモンスターには特攻なんだよ、神剣は」
まるで意味がわからないが、説明は以上らしい。
まぁ、どうせ記憶を消されるんだから知っても意味ないか。
歩くこと一時間ほどで、おそらく最奥であろう空間に到達した。
そこは今までの通路とは違ってかなり巨大な一室だった。
学校の体育館くらいはありそうなその空間の中央に巨大な地球儀が浮かんでいる。
そしてその真下に立つのは、白衣を纏った白髪の老人だった。
「君がこのダンジョンの魔王ってことで合っているよね?」
「何者だ貴様……どうやってこのダンジョンを見つけ出した? いや、そもそもどうやってこの速度でこの場所まで到達できた? 最短距離を進んでも五十時間は掛かるはずだ。だが、このダンジョンは発生して十時間も経っていないはず……」
「それって君に説明する意味ある? ここで消滅する君にさ」
「なにを言っておる。ここで遭遇する最難の魔獣だ。消滅、死ぬのは貴様らの方。実力があるというのであればさぞ品質のいい肥しになってくれるであろう」
部屋全体に風が起こる。
その出所は頭上。気が付かなかったけれど、なにかが天井に張り付いていた。
それは十数メートル巨大な身体を漆黒の翼で浮かせながら、ゆっくりと地面に着地する。
前進に黒い鱗を纏い、赤い眼光でこちらを見つめる――ドラゴンと形容するしかない生物が目の前にいた。
「グルルルルルルルゥゥゥゥゥゥァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
着陸した黒龍は強烈な咆哮を響かせる。
が――
「うるさい」
と、店長がその言葉を文字通り斬って捨てる。
顔面、腹、尾、すべてが真っ二つに分かれる。
なにも見えなかったけれど、その現象を起こしたのが店長であることは間違いないだろう。
「守護者が一撃……だと……? くっ、だがまだだ!」
老人がそう叫んだ瞬間、黒い龍の身体の中央が赤く光る。
その光は徐々に膨張して言っているように見える。
「火炎属性の爆炎術式はこの部屋全体に及ぶぞ」
「桂馬くん、ごめんね。ちょっとセクハラするね」
店長が俺の身体に正面から抱き付いてくる。
「でも、心配はしなくていい。言ったでしょ? 君は私が必ず守るよ」
えぇ、なにこの状況。もしかして俺と結婚したいんですか? ちょっとまだ高校生なんでごめんなさい。
「第十位階結界術式【
周囲に立ち上る煙が晴れていく。店長と俺の身体には煤の一つもついていなかった。
「さて、これで終わりだね」
店長が俺から離れ、老人の方へ歩いて行く。
その距離が十メートル程度まで近づいたその瞬間、店長の姿が掻き消え、次の瞬間には老人の後ろにあった。
こと切れたように、老人がその場に倒れ、その身体が光に包まれ消失していく。
「よし、お弁当でも食べる?」
「……そうですね」
弁当を食べながら、俺はいくつか店長に質問をした。
「魔王ってなんだったんですか?」
「知的生物、この世界では人間だけだけれどその憎悪が集合して意識のようなものを持った存在かな。魔王はみんな【迷宮創造】という固有魔法を使える。ダンジョンはその魔法で創られたもので、生物を呼び込んでそこで殺した存在の魔力を奪って魔王の力にするんだ。そしてさらに新たなダンジョンを造り出す。ダンジョンが増殖したら、魔王を見つけるのは一苦労になるから早めに仕留められたのは幸いだったよ」
「なるほど」
なんかそんな設定のゲームをしたことある気がする。
結構面白いんだよな、ダンジョン経営系のゲーム。
まぁ、現実でやるのも挑むのも御免だけど。
「それで桂馬くん、悪いんだけれど……」
「はい。ここで見聞きしたことを忘れさせるんですよね。いいですよ、やってください」
「受け入れてくれて助かるよ。無理矢理するのは気が引けるから」
「いえ、しょうがないですよ。それに店長が俺のためにそう言ってくれてるっていうのはわかります。あと、店長にはいつもお世話になってますから」
実際、俺の雑なお願いを店長は笑顔で熟してくれた。
その対価が記憶の消去なら、まぁ仕方ない。
嫌ではあるけれど、明日からも店長と普通に接するためにはそうした方がいいだろう。
「じゃあちゃんと、部屋に運んで寝かせておくから」
「はい、お願いします」
店長が俺の額に触れ、なにかを唱える。
「
あれ……なんとなく倒れてみたけど、普通に意識も記憶もあるくね……?
「よし、後は運ぶだけだね」
そう言って店長は、俺を部屋まで連れて行き、丁寧に敷いた布団の上に寝かせ掛布団をかけてくれた。
そのまま店長は俺の部屋の窓から外に出て行く。
誰もいなくなった部屋で目を開け、俺は呟く。
「そういや、俺に『運命を含めたあらゆる異能を弾く結界』を張ってるとか、言ってたような気がするな……」
それに記憶操作と睡眠の魔法? が弾かれた?
え、バカなの?