碇シンジはもう一人の自分(♀)に恋をする   作:崖の上のジェントルメン

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第拾話 周りの心

 

「………………」

 

頭に包帯を巻いているリツコは、数枚の資料を片手で持って見ながら、タバコをふかしている。

 

「あら、もう検査終わったみたいね」

 

扉が開いてミサトが入り、彼女へ骨折してない方の手を振って笑いかける。

 

それを一瞥したリツコは、手を振り返しはしなかったが、口元をほんの少し緩ませた。

 

「どうだった?レイちゃんの検査結果」

 

「そうね、さしたる問題はなし。使徒による精神汚染も無さそうだわ。ただ、腕の神経を痛めているようね。二週間ほどは病院で安静にしておく必要があるわ」

 

「そう。その程度で済んだのなら、本当に良かったわ」

 

ミサトは事務椅子に腰かけて、少し座席の高さを低くした。

 

「それからミサト、彼女が退院した後、再度参号機の起動実験を行うわ。もちろんあなたにも同行してもらうわよ」

 

「ええ?また参号機動かすわけ?私、ちょっち怖いんだけど」

 

「何言ってるのよ、参号機は修復可能な段階で使徒を殲滅できたのだし、第一これはパイロット本人からの申し立てなのよ?」

 

「レイちゃんが?」

 

「『もし参号機に乗せてもらえるなら、乗せてほしい』とね」

 

「……怖くないのかしら?」

 

「当然、怖いでしょうね。でも、本人にやる気があるなら、それを断る理由はないわ」

 

「……そうね」

 

椅子をくるくると回しながら、ミサトは思い出したかのように呟いた。

 

「それにしても、がっつりイバラの道進んでるらしいわね、あの二人」

 

「そうね。ネルフ本部内でも、ちょっとした話題になってるわ。参号機を止める時の叫びが」

 

「『君を絶対失いたくないんだー!』って言ったらしいわね?こりゃあ、告白したのも同然な勢いよねー」

 

「ホント、前までのシンジくんでは考えられない出来事ね」

 

「その現場、見てみたかったな~」

 

「何言ってるのよ」

 

ミサトはケラケラと笑っていたが、次第にそれを止め、優しげな微笑みと変わる。

 

「……ねえリツコ、私……あの二人のこと、応援してあげたいわ。例えイバラの道だったとしても」

 

「………………」

 

「ずっと他人に距離を取っていた二人が、ようやく歩み寄れる相手を見つけたのよ?今まで本気で、誰かを好きになったことがなかった子達がやっとこさ見つけた相手を……『遺伝子情報が近いから』って理由で反古にしてあげたくないのよ」

 

「………………」

 

「今だけでも、後先なんて考えず、真っ直ぐで純情な恋愛をさせてあげましょうよ。大人になったら、そんな気持ちって無くなっちゃうものだし」

 

「……純情な恋愛、ね」

 

ふと、リツコの頭にゲンドウの顔が浮かんだ。

 

「……そうね。少なくとも今の私には無理だわ」

 

「え?」

 

「何でもない」

 

リツコは素知らぬ態度を取って、タバコを火を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

……シンジがレイのお見舞いを毎日欠かさず行っているのは、ネルフ本部の中では有名な話だった。

 

パラレルワールドの同一人物でありながら、性別が異なっていて、それ故に惹かれ合う二人。そんな彼らの仲に特別な視線が注がれることは、仕方のないことであった。

 

だが、ネルフ職員がシンジたちの仲を話題にする理由は、何もその特殊な状況だけではなかった。

 

ある日のこと、シンジがいつも通りレイの病室へ行こうとしていると、声をかけてきた人たちがいた。

 

オペレーターを勤める、青葉、日向、そして伊吹の三人だった。

 

「シンジくん、今からレイちゃんのところへ行くのかい?」

 

青葉に言われ「ええ、そうです」と答えながらうなずくシンジ。すると、伊吹が彼へ紙袋を手渡していた。

 

「これ、私たち三人から。レイちゃんと仲良く食べてね?」

 

「え?」

 

シンジは中を確認すると、チョコレートの詰め合わせが入っていた。

 

それは、中学生のシンジでも知っているほどの、1個で数百円はする高級なブランドチョコだった。

 

「あの……どうして僕たちに?」

 

もっともな質問を投げ掛けるシンジに、日向が回答した。

 

「碇司令から参号機の殲滅命令が下っても、シンジくんは決してレイちゃんを助けることを諦めなかった。最後はレイちゃんが痛い思いをするのを分かっていながらも、腕を折り、切り落として、結果助けることができた。僕らはね、君のしたことに……感動、って言うと大袈裟に聴こえるかも知れないが、でも、とても嬉しかったし、誇らしかったんだよ」

 

「……は、はあ」

 

少し話が理解できないといった顔をするシンジに、伊吹が話を補足した。

 

「私たちにとって、上からの命令は絶対なの。こういう特殊な組織にとっては仕方ないことなんだけどね……。だから、時々私も『こんなことしたくないな』って思うような仕事を、自分の意見を殺して処理することも多々あるわ」

 

「……はい」

 

「そういうことを続けていくとね、次第に自分の感覚がおかしくなってくるのよ。良いことと悪いことの判別よりも、仕事を早く処理しなきゃっていう方面へ考えが変わっちゃうからね」

 

「………………」

 

「でもそんな時、シンジくんが参号機と戦っている姿を見て、『ああやっぱり、人はこうあるべきだ』って思ったの。目的のためなら手段を選ばず、他人を見殺しにしてでも目標を殲滅する……。もちろん、状況によってはそういう選択をしなければならない時も、あるかも知れない。だけど……それでも『人を助けたい』って思う気持ちは忘れないでおきたいなって、本当に心からそう思ったわ」

 

三人は、シンジに優しげな微笑みを向けて、それぞれ声をかけてくれた。

 

「シンジくん。レイちゃんのこと、大事にしてあげてね?」

 

「君たちの仲がいつまでも続くことを、僕らは願っているよ」

 

「今の気持ちを忘れることなく、そのまま真っ直ぐに生きてくれ。スれた大人が忘れちまった、純粋な気持ちをな」

 

……シンジには、大人の気持ちは半分も分からない。

 

だけど、その時彼ら三人が見せてくれた微笑みは、絶対に忘れないでおこうと、心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

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