碇シンジはもう一人の自分(♀)に恋をする 作:崖の上のジェントルメン
……とある日の、午前10時25分。ネルフ本部内は、シンクロテストの最中であった。
テストの対象者は碇レイのみで、 彼女が乗っている機体は、当然初号機であった。
本来、シンジ以外は起動できないはずの初号機が、当然のように起動している様子を、リツコは興味深く見つめていた。
「どう?マヤ」
リツコが白衣のポケットに手を入れて、伊吹マヤの操作する画面を覗き込む。
「シンクロ率は平均で51.4%、瞬間最高値は53.9%です」
「シンジくんは平均54.6%、最高値で57.3%、碇レイの方がやや低い数字ね」
「男性か女性かでシンクロ率に変化を及ぼすんでしょうか?」
「いえ、単に彼女の精神状態に左右されているだけよ。パラレルワールドという特殊な環境に来たんだから、深層心理に影響して、シンクロ率を変化させてもおかしくないわ」
「じゃあ、もっとリラックスした状態だったら、もう少し数値が上がっているかも知れませんね」
「そうなれば、シンジくんのシンクロ率と同等になるでしょうね」
そんな結論をつけたところで、ミサトが執務室へと入ってきた。
「どう?あの子の調子は?」
「ええ、シンジくんよりは劣るけど、シンクロ自体は問題ないわ」
「取り扱いはどうなるのかしら?正式にフォースチルドレンとして登録されることになるの?」
「おそらくそうでしょうね」
「妙な感じね。住民票すらない人間を、エヴァのパイロットに登録するなんて」
「あら、パイロットは多いに越したことはないわ」
「まあ、そうね」
腕を組ながら、ミサトは画面に映る碇レイの顔を見つめていた。
午前11時30分。 ところ変わって、第壱中学校の2年A組。
碇レイは、転校生として自己紹介を行っていた。
「こんにちは、“
ぺこりと頭を下げる彼女を見たクラスメイトたちは、どよめきの渦中にいた。
「あの子、碇くんにそっくりじゃない?」
「ね!激似だよ!まるで碇くんを女の子にしたみたい!」
「てゆーか、あの人もエヴァのパイロットなのかな?」
「ねね、尋ねてみようよ!」
ざわざわざわ……
クラスメイトがざわめく中、彼女についてシンジへ質問を飛ばしてくる者もいた。
親友であり、ある種の悪友である二人……ケンスケとトウジだった。
「凄いな、本当に碇を女の子にしたような感じだぞ」
「うん。僕もレ……高谷さんの顔を見た時、凄く驚いたよ」
「なあ、あん人もエヴァのパイロットなんか?」
「そうだよ。フォースチルドレンになるかな」
「あー!良いなあ!オレもエヴァに乗って、迫りくる使徒殲滅に貢献したいなぁ~!」
ケンスケは机に突っ伏して、深いため息をつく。
碇レイの方はシンジよりさらに質問攻めを受けていたが、全て『高谷 典子』として答えた。シンジと顔が似ていることはあくまで偶然であり、碇レイという素性は完全に隠した。
……お昼休み。
「ノリコ!早くこっちに来て!」
「あ、ごめんアスカ。今行く」
手招きするアスカの元へ、レイがお弁当箱を持って走っていく。アスカの対面には、洞木ヒカリが座っていた。
「ヒカリ、ノリコも一緒に入るけど、良いわよね?」
「うん!もちろんじゃない!」
「あ、こんにちは……」
「こんにちは!私は洞木ヒカリって言うの。よろしくね!」
「……うん、よろしくね」
レイはぎこちない笑顔で、彼女へそう答えた。
レイにとってヒカリは、かつてアスカと並ぶ親友だった。
だが、それは前の世界でのこと。こちらの世界では初対面の転校生と委員長でしかない。
ヒカリと培った絆が、まるでゲームのデータ初期化のように全て消えてしまったことに、一抹の寂しさを感じていた。
「どうかしたの?高谷さん」
「あ、ううん。なんでもない」
「ほらノリコ、さっさと座んなさいよ」
「うん」
しかし、それでもレイはヒカリに笑いかけた。きっとこっちの世界でも仲良くやっていけるはず……。そう前向きに考えるようにしたからだ。
「高谷さん、アスカと知り合いってことは、同じエヴァのパイロットなの?」
「うん。と言っても、専属の機体はないけどね」
「専属の機体?」
「私が弐号機、バカシンジが初号機っていう風に、それぞれ乗るのが決められたエヴァがあるのよ。でもノリコにはそーゆーのがないって訳」
「へえ、そうなんだ」
「ん?このお弁当、なんだかいつもと違うわね」
「アスカよく気がついたね。今日は私がみんなの分作ったの」
「あー、どうりで」
「え?アスカと高谷さん、一緒に住んでるの?」
「まーね、同じパイロットだし」
「でも、綾波さんは違うよね?」
「いーのよファーストはっ!お一人様がお好きなようですから!」
アスカは刺のある言葉を吐いて、ご飯を頬張っていた。
(な、なんかこっちのアスカって、ちょっと綾波さんに当たりが強いんだよね。私の世界ではもうちょっと仲良かったんだけど……なんでなのかな……?)
レイは首を傾げながら、タコさんウィンナーの頭をかじっていた。
「……う~む」
そんなレイの姿を、遠くの席からケンスケはじっと観察していた。
「どうしたのケンスケ?」
「いや、見れば見るほど、碇にそっくりだなと思えてさ」
「ま、世の中には自分によー似た人が三人はおるっちゅー話やからなー」
「でもさトウジ、似てることももちろん凄いんだけど……なんていうか」
ケンスケはメガネをくいと持ち上げる。レンズがキラリと反射して、白く光った。
「可愛いんだよな、すっごく」
「……なんやて?」
「いやホントにさ、正直ちょっとびっくりするくらいに可愛いんだよ。碇を女装させたらこんなに可愛くなるものなのかと思うくらいにさ……」
「……そーか、ケンスケお前もか」
「え?まさかトウジ……」
「ワシもな、そないなこと考えたらアカンアカン思てな、考えんようにしとったんや。なんせ友人の女装を可愛い言うのと同じやからな。せやけど……な?」
「そう!そうなんだよトウジ!まさに僕もそれが言いたかったんだよ!」
「あの、ちょっと素朴なんがええよな~」
「な~」
二人してデレデレした顔をするのを、シンジは苦々しく眺める他なかった。