碇シンジはもう一人の自分(♀)に恋をする   作:崖の上のジェントルメン

4 / 5
第四話 何でもない日

 

 

“高谷 典子”という可愛い転校生がやって来た情報は、瞬く間に学校全域へ広がった。

 

無論、その発端はケンスケが売る写真である。 帰国子女のアスカとはまた違う、一見するとあまり目立たない雰囲気だけど、よくよく見るとすごく可愛い子という位置付けが、男子生徒の心をくすぐった。

 

性格も内向的で控えめなため、『アスカみたいに話しかけても邪険にはされなそう』という理由で、彼女に声をかけにくる者は多かった。

 

「高谷さん、マジ可愛いね!今度俺たちと遊びに行かない!?」

 

「え、えっと、私は……」

 

「ちょっとあんたたち!気安くノリコに声かけてんじゃないわよ!」

 

そんなレイの番犬になっていたのは、アスカだった。

 

レイに近づこうとする男子たちに臆することなく吠えて、容易く寄り付かせないようにしていた。

 

「やっべ!惣流だ!蹴られるぞ!」

 

「逃げろ逃げろ!」

 

「ふんっ、意気地のない奴らね」

 

「あ、ありがとアスカ、助かったよ」

「たくっ、あんたがボケッとしてんのが悪いのよ!ここにいるのはみんな性欲お化けの猿どもなんだから、ちったあ気を付けなさいよね!」

 

そう悪態を突きながらも、アスカは何かとレイを気遣う素振りを見せた。お昼はヒカリを含めた三人でお弁当を食べるよう誘っていたし、授業で二人組を作れと言われたら、率先してレイとペアを組んでいた。

 

「転校生のあんたには、どうせペアを組む友だちもいないんでしょ?仕方ないから、このアスカ様が組んであげるわ!」

 

「ふふふ、うん、ありがとう」

 

それは、パラレルワールドという特殊な環境に身を置いているレイへの、アスカなりの気遣いだったのかも知れない。

 

シンジもそれを察してか、「アスカって、レイには優しいね」と告げた。

 

「あんたバカぁ?私がいつ優しくない時があったって言うのよ!ほんと、朴念仁ね」

 

アスカの容赦ない一言を、シンジは苦笑いを浮かべながら受け入れていた。

 

そんなアスカの奮闘が功を奏してか、一週間もすると、レイへ絡む男子はほとんどいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ある日のこと。シンジとレイは、学校帰りに日用品の買い物に出かけていた。

 

「えーと、台所用洗剤と、スポンジと……。ねえシンジくん、それから何かあったかな?」

 

「使い捨ての三角コーナーも、確かストックが切れてたよ」

 

「そうだ、危ない危ない」

 

二人はドラッグストアで諸々を買い揃えてから、そこを後にした。

 

 

ミーンミーン、ミンミンミンミン……

 

 

相も変わらず、蝉時雨が鳴っている。

 

結構な暑さだが、彼らは産まれた時からこの常夏の中を生きているので、それなりに慣れている。しかし、それでもやはり、暑いものは暑い。

 

「いやあ、暑いねレイ」

 

「だね、ほんとに暑い」

 

「しまったな、僕アイスを買えばよかったよ」

 

「あ、そう言えばミサトさんが昨日買ってきてくれたのがあるよ」

 

「やった、じゃあ早く帰ろうか」

 

湿度の高い空気感の中、二人は額の汗を拭いながら、ミサト宅へと帰りついた。

 

「「ただいまー」」

 

二人が揃ってリビングへ行くと、そこにはアスカとヒカリ、そしてトウジとケンスケが床に座って、棒タイプのアイスを食べていた。

 

「お帰りー」

 

「お!センセのお帰りや!」

 

「碇、アイスお先してるぞー」

 

「碇くん、高谷さん。お邪魔してます」

 

「ああ、みんないらっしゃい」

 

「あれ?高谷さんも碇たちと一緒に住んでるのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「なんやとー!?センセェ、お前ミサトさんという人がありながらなあ!」

 

「ホントホント。それに惣流も合わせて、男1の女3。ハーレムな生活で、いや~んな感じ!」

 

「し、仕方ないじゃないか。僕らはエヴァのパイロットで、命令で一緒に住むよう言われてるから、そうしてるだけで……」

 

「なによ?それじゃこの私と住むのが嫌だとでも言いたいわけぇ?」

 

「あ、いやアスカ、僕は別にそんなつもりじゃ……」

 

「ま、私も命令じゃなかったら、あんたみたいな冴えない朴念仁と一緒になんて住みたくないわ!」

 

「な、なんだよ、酷いよアスカ……」

 

「事実をただ口にしただけよ。文句ある?」

 

アスカに睨まれたせいで、シンジはそこから先の言葉は出せなかった。レイはそんな二人のやり取りを苦笑して見つつ、冷凍庫からアイスを取り出した。

 

「はい、シンジくん」

 

「あっ、ありがとうレ……えーと、高谷さん」

 

家の中にいたためか、うっかり彼は彼女の本名を口にしそうになったが、友人たちがいることを思い出し、なんとか喉の奥に押さえた。

 

レイとシンジは固い笑いを浮かべて、彼らと同じように床へ座った。

 

「エヴァのパイロットと言えば、綾波も碇とならよく喋るよな」

 

「え?そうかな?」

 

「確かに、綾波さんって碇くんと話しているところ以外は、あんまり見かけたことないかも」

 

「おいおい、センセのハーレムはどないなっとんねん」

 

「ハ、ハーレムとか、そんなことないよ。僕はただ……綾波が一人でいることが多いから、ただなんとなく気になるってだけで……」

 

「へ~~~~、バカシンジ様はお優しいことでぇ~~~~」

 

アスカが嫌味ったらしく話すのを、ヒカリは微笑ましく見ていた。

 

「ちぇ、アイスは中々当たらんもんやな」

 

トウジはアイスの棒にかかれた『外れ』の文字を悔しい顔で一瞥し、ゴミ箱へと捨てた。

 

「私、こういうの当たった経験ないかも」

 

「ま、こういうのは当たりがあるかもって期待するのを、楽しむだけでいいんじゃない?」

 

ヒカリとケンスケも、同じように外れだった。

 

「ふん、企業が購買意欲をそそらせるために作ったものなんて、楽しむのもシャクに障るわ」

 

と言いつつも、外れだった棒を見てアスカはちょっとしょげていた。

 

「あ、私、当たった」

 

そう呟いたのは、レイだった。

 

「え?ホント?見せて見せて」

 

「うん」

 

ヒカリがレイから棒を受け取り、『当たり』と書かれた文字をマジマジと見つめる。

 

「わあ~、初めて見た。すごいね高谷さん!」

 

ヒカリの持つレイの当たり棒を見るために、シンジも顔を覗き込ませた。シンジもアイスを食べ終わり、棒を確認すると、やはり彼も外れであった。

 

「僕も外れちゃった。高谷さんだけ当たりだったね」

 

「な、なんか、自分だけ当たっちゃうの恥ずかしいな……」

 

「むむむむ~!シンジ!もうアイス無いの!?」

 

「あ、うん。これっきりだよ」

 

「今すぐ買ってきて!絶対当たりを引いてやるわ!」

 

「え~……さっき購買意欲がどうのって言ってたのは、アスカじゃないか」

 

「アンタがつまんない口答えしてる間に、他の人に当たりのアイス買われたらどうするの!?早く!駆け足!」

 

「も~、人使い荒いな~」

 

シンジの弱々しい愚痴に、みんなが朗らかに笑った。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。