碇シンジはもう一人の自分(♀)に恋をする   作:崖の上のジェントルメン

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第七話 似て非なるモノ

 

 

……参号機の、起動実験当日。

 

シンジは家の中を、意味もなくうろうろと忙しなく歩いている。

 

腰に手を当てて、ずっと難しそうな顔をしている。その額には、冷や汗も滲んでいた。

 

「はあ……」

 

大きなため息をついたのは、アスカである。彼女は椅子に座ってテーブルに膝をつけ、頬杖をしながら顔をしかめていた。

 

「ちょっとシンジ、いい加減うろちょろすんの止めてくれない?」

 

「あ、ごめん……アスカ」

 

そう言われた彼は、リビングにある座布団の上に腰を下ろした。

 

「………………」

 

だが、それでも相変わらず、表情は固いままだ。

 

「あ~~~~~もう!アンタがいくら辛気臭い顔しても、実験の成否には微塵も関係ないわよ!」

 

とうとう痺れを切らしたアスカが、歯に衣着せぬ言い方でシンジに向かって叫んだ。

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「ちったあ落ち着きなさいよ。アンタお得意の料理かチェロでもやって、気分転換でもしたらどーなの?考え込むから余計に気になんのよ」

 

「……でも、参号機って起動するだけで危険なエヴァなんでしょ?もしアメリカ支部みたいに……」

 

「もーーーーっ!!ちょっとは私の話を聴いたらどーなの!?ウダウダしても仕方がないって何べんも言ってんじゃないの!!」

 

「……ごめん」

 

「ふんっ!」

 

アスカは眉間にしわを寄せて、虚空を睨んでいた。

 

(なんで私、こんなにイライラしてるんだろ?)

 

脳裏に浮かぶのは、碇レイの顔。

 

シンジにそっくりな、少し弱々しい笑顔を見せる女の子。

 

「……ねえ、シンジ」

 

「な、なに?」

 

「アンタ、なんでそんなにレイが心配なのよ?」

 

「なんでって、当たり前じゃないか。四号機のことを教えられたら、誰だって……」

 

アスカはシンジへ眼を向ける。ふと、彼と眼が合った。

 

「じゃあ、参号機に乗るのが私でも心配した訳?」

 

「も、もちろんだよ」

 

「ふーん、あっそ」

 

自分から話しかけたのに、素っ気ない態度でアスカは返事をした。

 

「………………」

 

 

『も~、アスカってこっちでもアスカなんだね』

 

 

(……全く、あんたもシンジと似て鈍臭いんだから、しっかり無事に帰って来ないと……承知しないわよ)

 

アスカは机の上に頬杖をつきながら、細くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

……実験が終わる予定の時刻を過ぎても、ミサトやレイから何の連絡も来なかった。

 

『終わったら連絡するから』と、彼女たちはそう言って家を出たはずなのに。 十分、二十分と時間が経つにつれ、シンジとアスカの不安は強まっていった。

 

「……ダメだ、繋がらない」

 

シンジはケータイでレイとミサトに電話を何回かかけてみるが、未だ繋がることも、折り返し電話が来ることもない。

 

「二人ともダメなの?」

 

「うん……。大丈夫かな?やっぱり何かあったのかな?」

 

「……実験が長引くことなんて、良くある話よ」

 

「そうかな?そうだと良いけど……」

 

「………………」

 

「……やっぱり、もう一回かけようかな?」

 

「もう!あんまりやると向こうに迷惑でしょ!男ならドッシリ構えてなさいよ!」

 

アスカにもシンジにも、ピリピリと嫌な緊張感が生まれ始めていたその時。

 

 

ピリリリリリリ!

 

 

「「!」」

 

シンジのケータイに、着信が入った。

 

「レイ!?実験終わった!?」

 

出るや否や、シンジの開口一番は彼女の名前だった。

 

「あ、日向さん……。ごめんなさい」

 

(なんだ、レイじゃなかったのね)

 

「はい……はい……」

 

「………………」

 

「え!?松代で爆発事故!?」

 

「!?」

 

「レ、レイやミサトさんは!?無事なんですか!?」

 

「………………」

 

「安否不明……連絡つかず……ですか」

 

「………………」

 

「はい……わ、分かりました……」

 

電話を切ったシンジは、アスカと眼を合わせる。

 

「非常招集ね?」

 

「……うん」

 

「ほら!何を泣きそうになってるのよ!?急いで本部に行くわよ!」

 

「うん……」

 

シンジとアスカは急いで家を飛び出した。

 

心臓が、張り裂けそうなほどに動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……事故現場に謎の移動物体を確認!」

 

発令所に声が響き渡る。

 

「何!?使徒か!?」

 

冬月副司令がオペレーターへと確認するも、「パターンオレンジのため、特定不可」と返答される。

 

しかし、その謎の移動物体はこのNERV本部へと向かってきているため、碇司令は決断を下した。

 

「総員、第一種戦闘配置。葛城三佐に代わり、私が直接指揮を取る」

 

「了解!」

 

「ただちに、零号機、初号機、及び弐号機の発進準備に取りかかれ。準備ができ次第、発進を完了させろ。アンノウンの迎撃体制に臨め」

 

その指示に従い、シンジ、アスカ、綾波の三名は、速やかに各々のエヴァに搭乗し、地上へと射出される。

 

「移動物体の映像を捉えました!主モニターに回します!」

 

巨大なスクリーンに映されたのは、夕日をバックにゆらりゆらりと歩く、エヴァ参号機の姿だった。

 

「そ、そんな……」

 

「まさか、エヴァが……」

 

発令所内は、困惑と混沌の渦巻いた小さな囁きで満ちていた。

 

「強制停止信号を送信しろ」

 

碇司令の命を受け、それを実行に移す。だが……。

 

「ダメです!反応ありません!」

 

「エントリープラグの強制排出を」

 

「……排出不可!実行できません!」

 

事実、エヴァ参号機のエントリープラグは、何やら白い粘膜のようなものがべったりとコーティングされており、物理的に排出ができない状態になっている。

 

「使徒か……それも寄生タイプのようだな」

 

冬月が苦虫を潰したような顔で、主モニターを睨んでいる。

 

「パイロットの容態はどうだ?」

 

「体温、脈拍共に確認はできます!」

 

「だが……必ずしも無事とは限らない、か」

 

「………………」

 

しばし沈黙した後、碇司令はついに決断した。

 

「現時刻をもって、エヴァンゲリオン参号機は破棄。第13使徒と認識し、殲滅対象とする」

 

「し、しかし、まだパイロットの生存は確認されており……」

 

「伊吹二尉、私は既に命令を通達したはずだ」

 

「……はい」

 

マヤは、口の中で歯を食い縛った。

 

「碇、いささか早計ではないのかね?」

 

「使徒殲滅が最優先だ。パイロットを気にしている暇はない」

 

「……フォースチルドレンの顔を見たことがあるか?あれは、本当にユイくんそっくりだ。シンジくんもよく似ているとは思っていたが、女性になったために、より彼女へ近付いていた」

 

「………………」

 

「それに別の世界では、お前は実の父に当たるのだぞ。ユイくんに似た娘でも、お前は見殺しにすると言うのか?」

 

「冬月」

 

ゲンドウは手を顔の前で組み、少しも動揺した素振りを見せずに、こう告げた。

 

「私には娘などいないし、似て非なるモノにも興味はない」

 

 

 

 

 

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