ドール一家と一緒に一時的にハンター協会に保護される立場となった俺だったが、その期間は思っていたよりも短かった
日数としては約1週間
その間にドール一家を狙った黒幕はハンター協会から派遣された者たちに捕縛されたとのこと
普通はこんなに早くハンター協会の者でも依頼を完遂することは稀らしいが、今回は犯人がわかっていた上に大手の銀行を経営しているダンさんを狙ったということで、多くのハンターが動いたとのこと
黒幕も事前に計画が失敗したことを掴んでいたらしいので、私兵や金銭を使って対抗してきたらしいがあえなく捕まったらしい
そして、捕縛されてきた者と対面したダンさんの顔は寂しそうなものだった
後から聞いたのだが、黒幕の正体はダンさんの兄だったらしい
何でも、銀行の跡取り競争でダンさんに負けた兄が、逆恨みで今回の計画をたてたと聞いた
経営者として優れていたダンさんに比べて、兄のほうは凡庸の域を出ない人物で、跡取り競争は最初からダンさんに決まっていたとのこと
それでも、一応経営者一族ということで幹部の立場にいたらしいが、最近、前経営者の父親が急逝したことで今回の計画を実行したと供述した
ダンさんの家族旅行も新しい経営者としての顔見せも含まれていたらしい
だが、脇が甘かったようだ
経営者としては凡庸でも裏社会に対する行動力は優れていたようで、ヘルガーを雇うことが出来たのも、裏社会に脈を広げていたからこそとも言える
確かに計画は完璧だった
そこにヴェルグラムさえいなければ、ダンさんに変わって新しい銀行の頭取になっていたであろう
ただ、間が悪かった
それだけのことである
これ以降の対応は家族を殺そうとした事件として扱われるようで、ダンさんの兄は一生監獄生活になるとのことだ
しかし、今回の騒動はあらゆる界隈に知られてしまっている
これを機にダンさんの発言力は下がることは間違いないだろう
それの話になったときにダンさんは
「そんなもの、どうとでもなるさ」
と言って、本当に問題とも思っていないようであった
大手の銀行の経営者になるだけあって、ダンさんの手腕は余程優れているらしい
それから、ハンター協会の保護も終わって、ダンさんの邸宅に行くことになった
ーーー
「でっか…」
俺たちがダンさんの自宅に行くと、そこには城と言っても過言ではない邸宅があった
ボンボヤージュ一家の邸宅もかなり大きかったが、ダンさんの自宅はその数倍はありそうな敷地であった
しかも、ここは国の首都である
ボンボヤージュ一家があった地方とは違って一坪あたりの単価は桁違いなのである
日本で例えると、東京の銀座と北海道の地方くらいの金額の差があるのだ
どれだけお金をかければここまで大きい邸宅が建つのか、想像も出来ない俺であった
「じゃあ行こうか」
そういうダンさんに続いて、奥さんやベッキー、そして護衛たちが当然のように続いていく
俺も慌ててついていくと、門のところにメイド服姿の女性たちがズラッと並んでいた
『おかえりなさいませ!』
メイド服姿の女性たちが一斉に言って頭を下げる
その所作は揃っていて、訓練されているのがよくわかった
その後ろから執事服の初老の男性が出てきた
「おかえりなさいませ旦那様」
落ち着いた声で言ってくる執事服の男性にダンさんはただいまと言って返す
「何か変わったことはなかったかい?」
「いえ、ダルイ様の私兵が少し悪さをしましたが、それ以外は特にありませんでした」
執事服の男性のことを余程信頼しているのか、ダンさんはそうかいと言ってそのまま邸宅へ入っていく
俺たちも後に続いていく
それと同時に気づいたことがある
「(何人か念を使える奴がいるな)」
そう、執事服の男性を含めて、メイド服姿の女性たちの中にも数人使える者がいたのだ
流石は権力者だ。良い人材を多く抱えているのであろう
しかも、全員がダンさんに忠誠を誓っているようにも感じる
人身掌握も出来るとは、やはりかなりの大物だったらしいなと考える
邸宅に入ってからは護衛たちは離れて行った
何でも、もうここは安全になっているからということらしい
まぁ、これだけ念能力者がいれば暗殺者が来ても即返り討ちであろう
奥さんとベッキーはメイドさんに連れられていった
ダンさんと俺は執事さんと一緒にある部屋に入っていく
「じゃあ、ウリュウくん。そこのソファで適当に座っていてね」
どうやらここはダンさんの執務室のようで、旅装束を着替えるために執事さんと隣の部屋に繋がっている扉に入っていく
「ふむ…」
俺は言われたようにソファに座って待っているが、気取られないように目線を少し上げた
「(何人かいるな)」
絶で気配は絶っているが、写輪眼を発動させた俺にとっては丸見えも同然である
まぁ、当然であろう
自分たちの主が連れて来たとはいえ、ここで警戒しなければ従者失格と言っていいだろう
指示を出したのはあの執事だろう
いつの間にと思うが、流石はダンさんの執事だ。それくらいの技能はありそうだ
そう考えていると着替えが終わったのか、ダンさんが戻ってきた
「お待たせしたね」
そう言ってダンさんは執務机の椅子に座る
その後ろに執事は立つようだ
「改めて、ようこそ我が家へ」
手を広げながら言うダンさんは、確かにここの主といった感じだった
「さて、ウリュウくんにはこれから部屋を用意するから、いつまでもいていいからね」
「はぁ、俺は何かやったほうがいいこととかありますか?」
食客と言われていたが、タダメシを貰うだけじゃ悪いので聞く
「いや、特に何かをしなくていいよ」
「へ?」
ダンさんの言葉に思わず間抜けな声が出る
そうするとダンさんは苦笑しながら
「君は我々の命の恩人だ。ならば、ウリュウくんが快適に暮らして行けるよういつまでもここにいてくれていいからね」
ダンさんのプレゼントは少々、いや、だいぶ過保護なものであった
「い、いや、でも…」
「まぁそうだよね。いきなりこんなこと言われても困るか…うん、よし。じゃあ暇なときでいいからベッキーの相手をしてやってくれないかな」
「え゙」
その要求は俺にとって大変労力がいりそうな内容だった
そんな俺の様子にぎゃん泣きしていたベッキーを思い出したのか、ダンさんも気まずそうな顔をする
「…最初からここに持っていく手筈だったんですね?」
フイっとダンさんは顔を逸らす
図星だったのだろう
ヴェルグラムの良心に付け込んで、自信が要求したい内容を承諾させる
父親としても経営者としてもどちらの顔を持つダンさんだからこそ出来る交渉テクニックの一つだ
一応騙される直前ではあったのだが、ベッキーの相手をするというおままごとみたいな内容で衣食住全ての面倒を見てくれるのだ
こんな好条件でいいのかと言いたくなるのは、むしろヴェルグラムのほうだろう
それだけダンさんは俺に感謝をしているということだ
これはダンさんなりの恩返しなのだろう
それを感じ取った俺は、その条件で了承するのであった
ーーー
それからは、すでに部屋を用意したというので、呼びに来たメイドさんに連れられて執務室をあとにした
出る前にダンさんが、すでに邸宅の者たちにはヴェルグラムが住むことを伝えているとのこと
いつ連絡したかわからないが、まぁ天井裏に隠れていた護衛が伝えたのだろうと俺は当たりをつけていた
そうして一階に用意された客室を部屋と与えられて、休むことにした
「いや、広すぎだろう。何畳あるんだよ」
そう呟く俺であったが、それもしょうがないだろう
本当に広いんだから
憑依する前の俺の部屋は1DKの六畳だった
しかし、この部屋は20畳はあるんじゃないかと思うくらい広い
さらに家具類も豪華で、下手な貴族よりも質の良いもので出来ているのだ
今座っているソファなんて、体が沈むくらいフィットしている
もうこのソファですらぐっすり寝れるんじゃないかと思ってしまう
そうひとりごとを呟いていると、聞いていたのか専属だというメイドさんがくすくす笑いながら話しかけてくる
「ふふ。ウリュウ様が驚かれるのも無理はないですね。旦那様はこの国でも有数の資産家でもあられますから、このくらいは当然なんですよ」
まぁ、それでもドール家の方々は質素な方なんですがね
最後に付け加えた言葉にドール家がどれだけ資産家なのかが籠められていた
専属のメイドさんは中年の方です