部屋を用意されてから、今日はもう遅いからと言われて部屋に備え付けられているお風呂に入ってこれまたふかふかなベッドで寝るのであった
翌日、高級ベッドのおかげでぐっすり眠れたヴェルグラムは専属のメイドさん、ドロシーさんに身支度を世話されて朝食に向かう
朝食を食べる場所は一階の部屋で、ドール一家はなるべくみんなで食べられるときには一緒にテーブルにつくとのことで、今回はヴェルグラムもお呼ばれされていた
コンコン
ドロシーさんが部屋に入る前にノックをする
すると中からメイドさんが扉を開けてくれて入っていく
部屋の中にはすでにドール一家が揃っていて、どうやら自分を待っていたようだと悟った
「すみません。お待たせしました」
「いやいや、時間まではまだ少しあるからね。気にしないで」
ヴェルグラムの謝罪にダンは朗らかに答える
「それよりもウリュウくんおはよう。昨日はよく眠れたかな?」
「ふふ。おはようございますウリュウくん」
「お兄さんおはよう!」
ドール一家からの朝の挨拶に俺も挨拶を返す
「はい。おはようございます。素晴らしいベッドのおかげでぐっすり眠れました」
俺の言葉にドール夫妻は笑顔でそれはよかったと言ってくれる
「お兄さん!今日は私が家の中案内してあげるね!」
ベッキーも満面の笑顔で予定を決めてくる
ベッキーの提案に了承の言葉を伝えていると、コック帽の者たちが料理を運んできた
「さて、久しぶりの我が家の食事だ。楽しみだね」
ダンさんがそう言った後、全員でいただきますと言ってから各々食事を開始する
「っ!?」
俺はまず初めに玉子焼きから食べると、口の中に食べたことのないくらいのまろやかさと優しい味が広がった
あまりの美味しさに驚いていると、イタズラが成功したような顔でダンさんがこちらを見ていた
「ふっふっふ。驚いたかいウリュウくん。今日はクモワシの卵を使った料理を中心に出してもらったんだ」
これは僕の大好物だからねと言って、ダンさんはウインクをしてくる
「あの、これって結構高いものなんじゃ…」
絶対高いものだと俺は恐縮になってしまって、思わず聞いてしまう
「うん。まぁそうだね」
ダンさんは簡単に言うが、庶民暮らしが染み付いている身としては、食べるだけで緊張してしまう
「はっはっは。そんなの気にせず食べてよ。何ならおかわりもしていいからね」
金持ちは無駄なことにお金は使わないが、自身に価値があることにはいくらでも浪費する生き物である
流石は金持ちの中の金持ち、お金の使い方がしっかりしているのだろう
ベッキーもこの食事が当たり前のようで、パクパクと美味しそうに食べている
「(そりゃあこんなに美味いもん食べてたら、地方のパーティーで出された食事なんて微妙に感じてしまうだろう)」
だいぶ舌が肥えてしまっているベッキーの将来を気にしながら、俺は食事を再開するのであった
ーーー
食事後、早速邸宅の中を案内すると言ったベッキーに手を引かれてダイニングを出ていく
その様子を朗らかな笑顔で見ながら食後のお茶を飲むドール夫妻であった
「あなたよかったのですか?」
「…何がだい?」
フラン・ドールは夫の決定に対して聞く
「わかっているでしょう?ウリュウくんのことです」
フランは助けられたことに感謝はしているが、だからといってまさか夫が家に住むのを許可するなど考えていなかった
確かに命を助けられたことに恩返しはしようと考えてはいた
しかし、それは物品や金銭などを想定していたのだ
「彼がいい子なのはわかっています。ですが、どこかの密偵じゃないという証拠はありません」
そう、最初の馬車で会ったときから計算された計画だったのかもしれない
「いや、それはないよ。そういうのを調べるのが得意な人をハンター協会のブルドさんに紹介してもらって、白なのはわかっているから」
「でも、ウリュウくんの意思に関係なく利用されているかもしれません!」
「フランはウリュウくんを住まわせることには反対かい?」
「そういうことではありません!もし、ウリュウくんを通して何か不都合なことがあったらどうするんですか!?せめて、期間をおいてからにすべきことだと思います!」
フランはドール家を狙って、ヴェルグラムを使った策略が計画されていたらヴェルグラムにもドール家にも大きな損害が出てしまう可能性のことを訴えているのである
ヴェルグラムが嫌いなわけではない
むしろ、好意的に思っている
しかし、それとこれとは話が違う
「君がウリュウくんのことを思って言っているのはわかっているよ。でも彼は強い。能力的にも精神的にも、だ」
だから、もう少し様子を見てくれないかとダンは妻に言う
「…」
頑なな夫に根負けしたフランは、ため息をつきながら了承するのであった
ーーー
「お兄さん!こっちよ!」
ベッキーは新しく自分の家に来た少年に早く案内しようと張り切っていた
「そんなに急がなくても部屋は逃げないよ」
苦笑をする少年だったが、その足はしっかりとベッキーの後ろをついていく
そんな少年がベッキーは好きだった
初めて会ったときはなんて綺麗な人なんだろうと思った
それからはいっぱい話したり、危ないところを助けてくれたりまるで王子様みたいだと思っていた
そんな王子様が自分の家に住むらしい
ベッキーは嬉しくて、私がいっぱいお世話しようと考えている
自分の家にはお世話してくれる人はたくさんいるけど、手伝わせてくれる人はいなかった
ベッキーは生まれてから5年、何も苦労したことがない
家はお金持ちだし、家族にも恵まれている
勉強も家庭教師が来てやっているが、まったく出来ないというわけでもない
つまらない
毎日毎日、刺激がない日常が続いていた
その中で外から来た刺激がこのウリュウという少年なのだ
だからこそ、何かをウリュウしてあげたかったのだ
何でもいい。とにかくウリュウと一緒にいれば、刺激のある出来事がやってくる気がしたのだ
まずは、家の案内をする
きっと刺激があるはずだ
今回も、次回も、それ以降も
ーーー
ベッキーに邸宅を案内されて3時間
邸宅の全てを見終わった…わけではない
ベッキーについてきたメイドさんに聞くと、まだ半分も終わっていないらしい
今は休憩中で、庭にいるが、その庭もグラウンド並みに広かった
ぼーっと庭を見ていると、遠くから人がやって来た
「おお、昨日ぶりだなウリュウくん」
話しかけてきたのは、ドール一家の護衛であったリーダーだった
後ろにはカレンとぺぺがついてきている
「こんにちはロイドさん」
俺は護衛リーダー、ロイドさんに挨拶をしてから今日は何をしにきたのか聞いてみた
「ああ、本当は大きな仕事の後は休みをもらえるんだが、今回の仕事で一人欠員が出ちまったからな、そのことも含めてダン様に相談しにきたんだ」
そう、今回の任務で彼らの中の一人が殉職されたので、昨日は弔いと休みをもらっていたのだ
「じゃあ、これからのことは未定なのですか?」
「ああ、俺たちは基本4人で護衛を組んでいたんだが、3人になっちまったからな。フォーメーションのこともある。ダン様の護衛は別の者に任せて、準備期間になるだろうな」
そういうロイドさんの顔はどこか悲しげだった
俺はかける言葉が見つからず、黙ってしまう
しかし、ロイドさんはすぐにいつもの真面目な顔に戻って、また今度と言って去っていった
カレンとぺぺもペコリと頭を下げて去っていく
「ベッキーどうしたんだ?」
ロイドさんたちが去るのを見送った俺たちだが、ふと横を見ると、ベッキーが難しい顔をしていた
「…私浮かれてた」
ぽつりと呟いたベッキーに目線を向ける
「護衛の方たちがいつも守ってくれていたのは知っていました。でも初めて誰かがいなくなるのを見たの」
泣きそうな顔で言うベッキーに口は挟まない
今彼女は一つの人生の岐路にたっている
それを黙って聞く
メイドさんも喋らない
「私、もう誰かがいなくなるのは嫌です。でも私はドール家の娘、守られるのも仕事の一つとお父様も言っていました」
ならば
その後の言葉がベッキーの人生を決めるだろう
俺とメイドさんは静かに聞く
彼女の言う言葉をちゃんと聞くために
「護衛が私を守っていなくなるなら、護衛の人たちが戦闘に専念出来るくらい私も強くなります!」
「…」
どうしてそうなった
俺もメイドさんも想定していなかった言葉だったので、思わずポカンと口を開けていた
俺としては、護衛たちが傷つかないよう、立派な主になるとかそんな感じだと思っていたのだ
いまだにポカンとしているメイドさんもそうだと思ったのだろう。意識が戻ってきていない
あれは、主として精進しますと言ったベッキーに向かって、流石でございますお嬢様とか言おうとしていたに違いない
「ベッキー、なんで強くなろうと思ったのかな?」
ベッキーの決意に対して否定的にならないよう俺は聞いてみる
「簡単です。私が強くなれば逃げるのは自分で出来るし、護衛の人たちも私が逃げた後で動きやすくなるでしょう?なら、一番の解決策は強くなることだと思ったのです!」
あぁ、考えすぎて変な方向に行っちゃったか
「そういうわけですので、早速今からお父様に教師を呼んでもらいます!」
そう言ってベッキーはダダダッとスカートをたくし上げながら駆けていく
その後ろから、お嬢様お待ちください〜と正気に戻ったメイドさんが追いかけていく
一人になってしまった俺は苦笑しながら続くのであった
幼女強い