「はっ?」
その一言につきた
なんかいつもと違うなーと考えていたら、まさかの身体自体が別人になっていた
普通、慣れ親しんだ身体から明らかに別の身体に変わっていることに気づいたら思考が止まると思う
俺は止まった
鏡の中の人物は人ってこんなに驚くことが出来るんだと思うくらい素っ頓狂な表情をしていた
なんとなしに、右手を挙げると鏡の人物も右手を挙げる
舌を出してみると鏡の人物も舌を出す
志村◯んのアイーンとしてみると、鏡の人物もアイーンをしていた
なんか滑稽だった
しばらく鏡で確認作業をしていたら、少し遠くから声が聞こえてきた
「…おい、何をしているんだ?」
その声にびくりとしながら振り向くと、鉄格子ごしに坊主頭の男が変なものを見るように問いかけてきていた
そんな坊主頭の態度に、今までの自身の行動を振り返ってみると、鏡に向かって変な行動をしているショタというところだろう
それを理解した瞬間に顔が赤くなるくらい恥ずかしくなるのを感じた
まぁ、実際赤くなっていたが
「な、なんでもない!」
怒鳴るように坊主頭に言って、顔を隠しながらベッドに潜りこむ
そんな態度に、坊主頭が呆れながら言う
「…ったく、クルタ族ってのはこんな奴ばっかなのか?」
ボソッとなんとなしに坊主頭は呟いただけだった
しかし、確かにベッドの中で悶えていた自分の耳にも聞こえていた
「(…クルタ族!?)」
そう、自分はその単語を知っている
それは某よく連載を休む作者で有名な漫画に出てくる一族の名前のはずだ
「(確かに坊主頭はクルタ族と言っていた。ということは、この身体はクルタ族の少年ということだろうか?)」
あり得ない
それは漫画の話だ
よく転生や転移、憑依といったサブカルチャーがあることを自分も知っている
嗜んだこともある
だが、特に車に轢かれたとか世界を救ってくださいとか言われたわけじゃない
この身体になる前の自分は仕事から帰って飯食って、風呂入って、あー明日も仕事かーと思いながら就寝したのだ
そして眼が覚めたら監禁されて右眼がなくなっていた
知らない少年の身体になって
まさか自分が漫画の世界に来るなんて思いもしないだろう
「(夢か?いや、それならこんなに現実感はあり得ない。それとも何かの実験でもされているのだろうか?)」
前日と同じように色々な考えがグルグル頭の中で回っている
ついには、政府が秘密裏に行っている研究かというところまでいっていた
そこまで考えて、最終的に自分はHUNTER×HUNTERの世界のクルタ族の少年になっていて、人物収集家のボスとやらのお眼鏡にかなって右眼を取られたという前提で動くことに決めた
そもそもクルタ族とはなにかというと
クルタ族とは少数民族で、一族の誰もが美形である
そしてなにより有名なのがその眼だ
クルタ族の眼は緋の眼といって、感情が高まったりすると、通常は別の色であった眼の色が紅く染まるのだ
その眼は世界七大美色と言われており、収集家にとっては喉から手が出るほどのものだ
なぜこの身体の少年が誘拐されたのかわかって納得したが、それよりも現在進行系で危機が迫っていることを思いついてしまった
「(待てよ?俺は今右眼が奪われている状態だ。なぜだ?)」
そう。なぜだ、だ
普通、眼を取るのなら両方取ってしまうのが当たり前なのではないだろうか
それも、人体収集家にとっては垂涎の緋の眼をだ
なぜ片眼だけなのだろうか
考えるがわからない
わからないから坊主頭に聞いてみた
「もう片方の眼は取らないのか?」
話しかけられるとは思っていなかったのか、坊主頭は少し驚いた顔をしている
ちなみに茶髪は休憩中なのか、ここには坊主頭だけである
明らかに商品である自分に教えてくれる義理はないと思うが、坊主頭は外見のわりに親切なのか答えてくれた
誘拐しといて親切もクソもないが
「…ずいぶん気楽だな。…まぁいい、何でもお前の右眼を手術で取ったはいいが、担当したのは闇医者だったからな。ホルマリン漬けにする前におしゃかにしちまったんだとよ」
坊主頭はひと息ついてさらに言う
「…本当は左眼も取る予定だったがな。その失敗にボスは大層おかんむりで、次の闇医者を調達するまで手術は停止中ってわけだ」
よかったな。もう少し左眼は無事だと言いながら、坊主頭は携帯のようなものをいじっていた
ーーー
坊主頭の優しいようで、全然優しくない言葉に心の中で悪態をつきながら考える
「(どうやら俺の左眼はもう少し無事らしい。だけど闇医者の段取りが出来次第、俺の左眼も取られてしまう)」
右眼をおしゃかにした闇医者は可哀想なことになったんだろうなとも考えながら、さらに思考を巡らせる
「(問題は簡単だ。ここから脱出さえ出来ればいい)」
言葉で言うのは簡単だが、それが一番難しい
監禁されている場所の鉄格子を出て、監視している者たちを欺くか倒して外に出る
部屋の外にいるであろう別の組織員たちもなんとかすればいい
「(…無理だな)」
普通に考えて無理だ
そう普通なら
ここは間違えでなければ漫画の世界だ
そしてその漫画の名前はHUNTER×HUNTER
「(HUNTER×HUNTERの世界には念がある。勝ったな)」
自分がこんなにも楽観的なのにも理由があった
実はすでに念が使えるようになっていたのだ
ご都合主義とも言えるかもしれないが、こんなにも早く念を覚えれたのには理由がある
一つ
この体がクルタ族だったこと
二つ
自身が念の存在を知っていたこと
三つ
危機的状況でクルタ族の才能が発揮されたこと
一つ目と二つ目はわかるだろう
しかし、三つ目の危機的状況とはなにか
それは麻酔が切れたことによる右眼の激痛だった
あれはヤバかった
超ヤバかった
昔、骨を折ったこともあったがあれの数十倍は痛みが凄すぎたのだ
そのときは監視していた坊主頭がすぐに麻酔をさしてくれたが、そのときの痛みで精孔が開かれたのだ
どうやって念を覚えようかと考えていたが、機をせず問題は解決した
念を覚えるには二つ方法がある
一つ目は修行による開眼(正攻法)だ
長い時間をかけて瞑想を行い、精神を研ぎ澄ますことで、自分の意志で全身の「精孔」と呼ばれる穴からオーラを出す方法だ
作品内では、心身に負担をかけずに安全に習得できる方法として説明されている
二つ目は荒療治(強制開眼)だ
既に念を使える者から、直接オーラを浴びせられることで強制的に精孔をこじ開ける方法である
短期間で習得できるが、受ける側の体が耐えられない場合、命に関わる大きなリスクを伴う危険な方法として描かれている
自身は痛みのおかげか正攻法で精孔を開けれた
とんでもなく痛すぎて、防衛本能なのかクルタ族の才能なのか念を習得してしてしまったのだった
ーーー
「(四大行とか応用技とかやっている時間は今はないだろう。となれば、発にかけるしかない)」
そこまで一気に結論つけて、でもなぁと思う
「(やっちゃったなー。まさか痛すぎて゛無意識に発を作っちゃう゛なんて)」
そうなのだ
坊主頭に麻酔を刺される前のわずかな時間で発を作ってしまったのだ
だが非難はしないでほしい
なにも考えられなくなるくらい痛かったのだ
それを消そうと発を作るくらい許してほしい
「(まぁ、メモリもあまり取られなかったし、能力もそこまで悪いものじゃないだろう)」
無意識とはいえ、よくこんな能力作ったなというくらいには汎用性が高そうな能力ではあったのだ
そんな能力の内容はこちら
ーーー
変化系
「デメリット削除(痛いの痛いの飛んでけー!)」
能力
自身がデメリットだと思うものの効果を削除する
制約
自分の認識が曖昧だと発動しない
誓約
この発を作るには人生で初めて感じるくらいの痛みを体験しなければならない
ーーー
改めて能力の詳細を見てよかったと安堵していた
自分があると困るものという大雑把だが、あらゆるもののデメリットに対応出来るという汎用性がありすぎる能力だということに
だが、この能力にも欠点はある
「(この能力は便利だが、制約にあるように認識が曖昧だと発動しない。ということは、自身が知らないことに対しては発動しないということだろう)」
今回は右眼の痛みだったが、これは簡単だった
痛みとは、脳が痛みを認識することで起こる警告信号のことだ
だからこそ現在、麻酔がなくても痛みというデメリットを削除出来ている
しかし、例えば毒のような知識がなければ対処出来ないものなどは効果がないということだ
汎用性があって便利だが、その分大器晩成型と言える能力となっているのだ
そこまで考えてさぁどんな発を作って脱出しようか考えるのだった
逃げるが勝ちですよね