街の門を出て行き先は国の中心
いわゆる首都に向かって馬車は進んでいく
約束した通りにベッキーとの会話をしていく
ベッキーは話したいことがたくさんあったのか、話しても話しても話題は止まらない
学校の話や食事の話、何が楽しかったとか何が嫌だったとか、それはもう止まらない
聞いているほうは疲れるが、それでもこの世界のことを知らない身としては断片的に得られる情報は助かってもいる
この国に住んでいる者としての常識やちょっとした専門的な話など、お金の使い方も知らない者としては子どもの何気ない話題はすごく為になっていた
しかし、あからさまに娘の相手をしてもらって助かったと態度に表している大人たちにイラッともきていたが
ーーー
そんな日々が2日続いたある日、馬車が街道から少し逸れた森の中へ入っていく
父親から明日には首都に到着するという話を聞いていたので少し疑問に感じていたがその勘は正しかったようだ
護衛の男性が立ち上がって馬車主にどうして道を外れるのかと聞きに行ったのだ
ドール一家も雲行きが怪しくなった馬車旅に顔を困惑させている
そして護衛が聞きにいってから数分、少し言い争いが起きたと思ったら銃声が響いた
突然の発砲音にその場にいる全員の空気が引き締まり、護衛たちはドール一家を守るために配置に着く
「…何があった」
父親の呟きに一人の護衛が確認してきますと言って、警戒しながら見に行く
俺たちは、緊張しながら彼の帰りを待つ
護衛が幌馬車から布をめくって確認した瞬間にまたしても発砲音が響いた
護衛は警戒していたおかげで無事のようだが、焦った様子でこちらに振り向いて言う
「待ち伏せです!敵は約30人!馬車主も敵のようです!」
その発言が響いた途端に幌馬車に向かって発砲音が轟く
一発ではない。数百発は打ち込まれたであろう音がした
その音にドール一家は身を竦ませているが、銃弾が一発も当たっている様子はない
この言い方は間違いであろう
銃弾は一発も届かなかったのだ
俺を含めて馬車内の全員を包むように、反透明の板が守っていたからだ
銃弾はその反透明の板に遮られるように落ちている
この現象は念能力だ
しかし、俺のものではない
どうやらドール一家の護衛が念能力者だったようで、数人いる中の一人が発を出したようであった
「このまま俺が攻撃を抑えておく!カレンはダン様たちを先導して退避!ぺぺはウリュウくんを頼む!」
リーダーらしい大柄の男が若い男女にそれぞれ指示を出していく
俺はぺぺと言われた20代くらいの男に担がれて幌馬車を出る
カレンと呼ばれた若い20代くらいの女にドール一家も脱出していた
最後にバリアを張っていた大柄の男が脱出する
そして、全員出た瞬間に馬車が爆発した
いまだにバリアを出していた大柄の男のおかげで怪我はないが、馬車に繋がれていた馬は殺されてしまっただろう
それを視線の片隅に捉えながら周りを警戒する俺たち
辺りには銃やバズーカなど、普通だったら手に入らないような武器を持った荒くれ者たちがいた
荒くれ者たちのそばには馬車主もいて、明らかに最初から狙われていた様子である
一瞬、俺を追ってきた者たちかと思ったが、荒くれ者たちの視線はドール一家、主にダン氏に向かっている
証拠も残さないで来たので、可能性は少なかったが絶対ではなかったのでよかったと胸を撫で下ろす
そこでダン氏から声が響く
「君たちは何者かね!?なぜ我々を襲うんだ!」
その絶叫にも似た質問に元馬車主は下品に笑いながら答える
「けけ。それはお前さんが一番わかっているんじゃねーのか?」
「なんだとっ」
そう言いつつもダン氏には心あたりがありそうであった
「わかっているようだなぁ」
ニヤニヤしながら元馬車主は言う
「お前がいると困る方たちはたくさんいるってわけだ。ってころで、そのために消えてくれると助かるってわけよ」
その言い方ではダン氏が悪の親玉みたいな感じだが、荒くれ者たちを見ると明らかにダン氏が善だろう
どうやらダン氏は良い経営をしているらしい
様々な武器を向けられているが、こちらには念能力者がいる
しかも大柄の男と若い男の2人もである
若い女と様子を見に行ってから戻ってこなかった10代らしい男は念能力者ではないようだが
生半可な武器では念能力者に勝てる道理はない
しかし、荒くれ者たちの余裕の表情は消えない
護衛たちもわかっているはずだ
敵にも念能力者がいるということを
そうなのだ
先ほどからビンビンと荒々しいオーラが敵側から立ち込めているのだ
そうして荒くれ者たちの中から一人、巨漢が前に出てくる
「カレン、お前はそのままダン様たちを護衛していろ。ぺぺは俺と一緒にあいつをやる」
リーダーは額から汗を流しながらそれぞれに指示を出す
俺もわかっていたが、リーダーも理解していたようであった
「(こいつ強いな。おそらくリーダーよりもだいぶ…)」
巨漢の男はオーラを荒々しく立ち込めさせながらこちらを見てニヤニヤする
「おいおい、見たところそっちの使える奴はデカいのとヒョロいのしかいねーじゃねーか。俺は強い奴と戦れるっていうからこの仕事引き受けたんだぜ?全然そそられねーじゃねーかよ」
「へへ、ヘルガーさんそこを何とか頼みますよ!依頼料弾んでいるんですから」
元馬車主の男が揉み手をしながら巨漢の男に頼む
その態度に嫌そうな顔をしているが、結局金を貰っているからか大人しく前に出てくる巨漢の男
それに反応してリーダーとぺぺが構える
だが、その瞬間にはもうぺぺは数十メートル先まで吹っ飛んでいた
「なっ!?」
目で追いきれなかったのだろう
リーダーは慌ててぺぺがいた場所を見る
そこには拳を振り抜いた状態の巨漢の男がいるのであった
「あ~あ。やっぱり弱ぇーじゃねーか」
巨漢の男、ヘルガーは何ともつまらなさそうにふっ飛ばされたぺぺを見ている
「貴様ぁ!」
リーダーが激昂しながらヘルガーに突っ込んでいく
素早く練を行って流れるようにオーラを操作する
流石はリーダーといったところだろう。そのままオーラを硬にしてその拳をヘルガーに叩き込む
ドォンとおよそ人を殴った音とは思えない衝撃が辺りに響き、土煙が立ち込めていく
周りを囲んでいた荒くれ者たちやドール一家たちもこれには決着がついたかと思ったが、俺は苦々しい顔をして戦いが終わっていないことに気づいていた
そうして土煙が止んだ光景は敵側を歓喜させ、こちらに絶望を与えるものだった
そこには、リーダーの拳を受けても無傷なヘルガーの姿があったからだ
「うおおおおお!流石ヘルガーさん!」
「やっぱりヘルガーさんは最強だぜ!」
「人でヘルガーさんに勝てる奴なんていねーよ!ぎゃははは!」
荒くれ者たちのヘルガーを讃える声が止まらない
当の本人はまたしてもつまらなさそうにリーダーを見ているだけであったが
「はぁ、少しは出来ると思っていたが、これじゃあウォーミングアップにもならねーよ」
ヘルガーの落胆にリーダーは悔しそうにするが、そこは戦闘のプロなのだろう、すぐさま気持ちを変えてバックステップして距離をとる
ヘルガーはコキコキと骨を鳴らしながらリーダーに向き直る
「じゃあ次はこっちの番だな?」
そう言ってヘルガーは肩を回しながら歩く
そして、リーダーまでの距離が10メートルになったときに消えた
いや、消えたとは語弊があるだろう。消えたと認識するくらい速く動いたのだ
ガイーン
音がしたときにはリーダーが先ほどのぺぺと同じように遠くに吹き飛ばされていた
またしても圧倒的な攻撃をしたヘルガーに荒くれ者たちが湧き上がるが、ヘルガーは逆に静かだった
「…」
何か異常があったわけではない
しかし、徐々にヘルガーの表情は喜色にあふれてくる
「はは。はぁーはっはっはっは!ようやくだ!ようやく少しは骨のある奴がきたぜーっ!」
この場の誰よりも大きい声に、森の中の鳥たちも慌てて飛び立っていく
なぜヘルガーが喜んでいるのか。ほとんどの者が疑問に思っていたが、理由はすぐにわかった
ヘルガーの視線の先を辿るとそこには土や泥で汚れているが、特に大きな傷を負っていないリーダーの姿があった
「…嘘だろ」
「マジかよ!?」
「俺、ヘルガーさんの拳を受けて立っていたやつなんて見たことねーよ」
荒くれ者たちの驚愕の声がそこかしこで挙がる中、ヘルガーはリーダーに問う
「良く防いだな。いい能力持ってるじゃねーか」
「…」
ヘルガーの圧倒的な攻撃をどうやって防いだのか?
それは見ただけで俺もわかった
リーダーの体の正面には反透明の板が浮かんでおり、それが銃弾の時と同じようにヘルガーの攻撃を防いだのであろう
「だんまりかよ。まぁいいぜ、自分の発を教えるなんてするわけねーよなー!」
「当たり前だ。まぁ貴様の場合、馬鹿正直な攻撃の仕方でわかりやすいがな」
リーダーの皮肉げな言い方にヘルガーはニヤニヤしながら言う
「おうさ!俺の系統は強化系だぜ」
なんとヘルガーは念能力者同士の戦いで自身の系統を教えるという愚行を犯したのだ
「…貴様、俺を舐めているのか?」
当然リーダーは自分が軽んじられていると怒る
「いいや、これくらいハンデがないと対等じゃあねーだろ?それにお前、放出系だろ?系統は性格に比例するなんて聞いたことがあるけどよ、お前さんわかりやすいぜ」
「…」
リーダーは答えないが、表情が当たりと言っていた
「それに俺はまだ発を使ってもいないぜ?」
「なっ!?」
ヘルガーの言葉にリーダーは驚くが、それもそうだろう。圧倒的な攻撃でこちらを圧倒していたのに、それがただの基本の念能力だというのだから
その事実に焦るリーダーだが、ヘルガーは待ってくれない
「じゃあ行くぜ?」
ドォン!
またしても、音を置き去りにして拳を叩き込んでいくヘルガーに何とか発の反透明の板で防いでいくリーダーだが、だんだんと対応出来なくなってきていた
「はぁ、はぁ」
肩で息をするリーダーに対して、ヘルガーは汗すらかいていない
「はは。お前、いい線いってたぜ?でもまぁ、もう飽きたわ」
「…まだ、勝負はついていないぞ?」
ヘルガーのそのもう戦いは終わったとでも言いたげな言葉にリーダーは眉を顰める
「お前の発は確かに強力だ。けどな、こんだけ見せられちゃあ攻略法なんてすぐに見つかる」
ヘルガーは続ける
「その発で一見俺の攻撃を防いでるように見えるが、本質はそこじゃねえ。お前のその反透明の板は基点を作ってそこに膜を作る能力だ。そして、膜を張った瞬間に起きる反発力で俺の拳が弾かれていた、そうだろ?」
ヘルガーの分析にリーダーは答えない
リーダーの発の本質は、指定した場所に基点を作って膜を張る能力だ
しかし、副産物として基点と基点が膜を張る瞬間に生じる膜同士のぶつかりがある
そのときに一瞬反発力が生まれる。それがヘルガーの拳を弾いていたのだ
ヘルガーは何度も攻撃する中でそれに気づいたのだ
防がれるのであれば基点を作る隙も見せずに攻撃すればいい
だからヘルガーは今日初めて自身の発を出す
気づいたときにはリーダーの後ろにヘルガーはいた
そしてそのまま誰にも気づかれる前にその拳をーーー
ーーー当てる瞬間にヘルガーは飛び退く
そ何があったのか?
ヘルガーがいた場所、その後ろに刀を振り抜いたヴェルグラムがいたのだった
強化系は描写しやすい