床を後方へ蹴り飛ばすかのように、前へ、前へと駆け抜ける。研ぐことすらも疎かになっていた爪が、底冷えした床をがりがりと傷つける。俺は咄嗟にドラム缶の奥へと飛び込み、身を隠した。
肺に空気が戻ると同時に、ぜえっという音が出る。上がった息を抑え込もうとしていると、俺の手脚の骨が、内側から皮膚を押し返し、ぐりんと伸び上がった。人型に戻ってしまった俺は、床に落ちていたタガーナイフを拾い上げ、奴の気配を探る。
すると、ゆっくりと、甲高い音を立てながら、鉄の扉が開いた。
奴の冷酷な足音が、こぉん、こぉん、と、背後を通っていく。
喉の奥から、ぐるぐると鈍い音が鳴る。奥歯が軋み、片方の犬歯が下唇を突き刺す。怒りと生存本能が、俺の闘志を煮え湯のように滾らせていた。
俺は再び獣の姿となり、地に爪を立てる。そして、嗅覚を研ぎ澄ませ、奴との距離を感覚で特定する。
見つけた。殺意の成分すらも僅かだが、奴特有の、氷の城のようなにおい。
俺は自らを奮い立たせるように雄叫びを上げ、ドラム缶をなぎ倒し、奴に向かって突進した。
額に命中したガラスの銃弾が、霧散してきらきらと光を放つ。
「ぐあああっ!! なんだこれ、くっせえ!」
鼻腔を刺すような柑橘の香りで、俺は悶え苦しみ、再び人型に戻ってしまった。
「解説:ペットの鼻にはハーブが効果的」
「だから、俺は猫じゃねえっつってんだろ!」
メルガは親指でシリンダーを回すと、もう一度銃身を構え、俺に狙いを定める。
「捕捉:次は青トウガラシだ。歯を食いしばれ」
まともに喰らえばひとたまりもない魔弾が、俺の顔面を狙う。メルガが引き金に指をかけ、瞳を蒼く光らせた、その時だった。
「やめないか、お前ら!」
息も絶え絶えな怒声が、地下室に響き渡る。レオはぜえぜえと肩を上下させながら、俺とメルガのもとに駆け寄ってきた。
その騒ぎをあとから追いかけるように、ミゾレも姿を現す。
「はいはーい。今ならお説教で済ませてあげるからねえ」
仲裁するミゾレを押しのけようとしたメルガだったが、すぐさま俺たちはレオにフードを掴まれ、ずるずると部屋の隅に引きずられていった。
「さて、どうしてこんなことになったか、教えてもらおうか」
レオの鋭い眼光が、俺たちを睨みつける。しかし、それでも怒りは収まらず、俺はメルガに掴みかかる。
「この偏屈ロボットが先に口出ししてきたんだ! くどくどくどくど、いつもよくわかんねえこと言いやがって!」
「再生:先に商店のリンゴをくすねようとしたのはこいつだ。私はそれを注意したに過ぎない」
俺たちの罵声を鎮めるように、レオの重たい声が、耳に届く。
「よし、ヒューナンにはこれが必要なようだな」
俺の顔全体を覆うように、レオは手のひらをかざす。
「え?」
次の瞬間、凄まじい閃光が目の前を包み込み、俺は両手で目を押さえて悶えた。