冬日之温   作:でぃんと

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眼の奥に宿る(ひかり)

 ケガをした二人を椅子にかけさせ、戸棚から救急箱を取り出す。ボクはその中から、いちばん肌に染みる湿布を選び、ヒューナンに見せつけるように、フィルムをはがす。

「ふっふーん、打撲にはこれがいっちばん効くんだよー?」

 ヒューナンは上裸のまま、いかにも不服そうに口を尖らせて、ふてくされていた。こうしてメルガと並んでみると、座高を比べるだけでも、いくばくかの身長差を感じる。

 

「おい、お前なら魔法でどうにかできんだろ。めんどくせぇことしやがって」

「うるさいなあ。お説教の代わりに、これで済ませてあげてるんだから。はい、腕出してー」

 ヒューナンはボクの目を見ると、びくっと肩を震わせ、しぶしぶと二の腕を差し出した。肩のつけ根から力こぶにかけて、内部からわずかに腫れ上がっており、浅黒く変色している。ボクは手のひらに湿布を広げ、ヒューナンの二の腕にめがけて、思いっきり手を振り下ろす。

 

「いってえっ!」

 ただでさえ音が響きやすい地下室に、絶叫が弾け飛んだ。苦悶の表情を浮かべ、腕を押さえるヒューナン。

 そして、その様子をよそに、メルガは顔色ひとつ変えず、ボクの治療を待っている。

 

 ボクはメルガの細い腕を手に取り、損傷した箇所を診る。相変わらず、そこに人間らしい体温はなく、血液の流れも感じ取れない。その代わりにあるのは、皮膚の奥から伝わる基盤の冷たさと、シャルムの脈動のみ。

「まったくもう、メルガもお利口さんにしないとだめだよ? すぐヒューナンにきついこと言うんだから」

 

 手首のひび割れた個所が、オーロラのような光に包まれ、徐々に形を取り戻していく。

「謝罪:無意義なことをしてすまない。ミゾレを困らせてしまった」

 メルガはぽつりとそう零すと、どこか物憂げな表情で、わずかに目を伏せた。

 

 治療が終わり、ボクはすっと立ち上がる。

「まあ、今回はシャルムを使わなかったから、それに免じてよしとするよ。えらいね」

 メルガの頭をわしわしと撫でると、頂点に立ったあほ毛が、猫じゃらしのように左右に揺れる。頭を触れば威嚇してくるヒューナンと違い、メルガはボクの目を見つめたまま、お行儀よく撫でられていた。

 

 

「すまないな、ミゾレ。いつも治療させてしまって」

 彼の言葉を聞いて、少し返答を詰まらせる。そして、一拍半間を置いたあと、ボクはぐぐっと顔を近づけ、メルガの口元に人差し指を添える。

「メルガ。そういうときは、『ありがとう』って言うんだよ?」

 ボクが間近に迫っても、メルガの体は動じなかった。その直後、すかさず瞳孔の奥が青白く光り、ミリミリという機械音が回り始める。

 

 瞳の明滅が終わり、メルガは顔を上げた。

「学習した。次からはそのようにする」

 メルガなりの学び方を見て、ボクはただ、にこっと彼に微笑んでみせた。メルガがメルガとして成長できる方法を、誰にも否定させないために。

 

 再び戸棚を開け、空いている隙間に救急箱を戻す。

「みんながケガしたら、ボクはいつでも治してあげるよ。その代わり、自分を大事にしなかった場合は、ごめんなさいって言うまで、治してあげないからね?」

 表情は変わっていなかった。しかしメルガは、確かにボクのほうを見据えて、耳を傾けていた、と思う。

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