冬日之温   作:でぃんと

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氷雪は霙となる

 初めてメルガに出会ったとき、寒いと感じたのはなぜだろうか。

 日差しが空気を涸らすような、あたたかい日のことだった。燦々と太陽が見下ろす大地で、たったひとり、溶けることのない氷の彫刻が、そこには立っていた。その異質さは、もはや、触れて動かすことすら叶わないように思えた。

 

 初めてメルガに触ったとき、温いと感じたのはなぜだろうか。

 シラカバのような細い腕と、水槽のような肌の感触は、戦闘兵器のそれとはとても思えなかった。しかしそこには、己のよすがを失っているかのような、脆い儚さがあった。それと同時に、ボクは、メルガから、人間として扱われている温度を感じたのだ。

 

 初めてメルガが怪我をしたとき、放っておけなかったのはなぜだろうか。

 衣服の袖が破け、負傷した二の腕の中から、銀色のロボットアームが顔を出している異様な光景。それを見たとき、焦燥が畏怖を追い越す感覚を識った。ボクに課された使命は治癒であって、修繕ではない。しかし、戦いの中でメルガが負傷するたび、ボクは他の二人のときと同じく、反射的に一歩目を踏み出していた。

 

 

 

 

 

 大豆と色の薄い野菜が流し込まれた、ミネストローネの缶詰。レオの手を掴んだあの日から、飽き飽きするほど食べている。スープが絡んだ温かくもない具を、丸い木製の匙で口の中に押し込む。こうして食べると、野菜それぞれの味はわからなくなり、ただただ生きるための食事をすることができる。新たなシャノワールの拠点で、ボクは黙々と昼食を摂っていた。

 

「再生:昨日、最後のジャーキーをヒューナンが食べてしまった。昨日と同じものになってすまない」

 

 缶の底に溜まったキャベツをかき集めながら、メルガに目配せをした。

「メルガが謝ることじゃないってば。……いや、再生って言ってたね。よくできてる」

 スープの絡んだ野菜を残さず食べきると、すっかり軽くなった缶を指先で揺らす。

 

 

「ミゾレ」

 風に靡いた白い髪が、ボクの指先をくすぐる。

「うん? どうしたの」

 

「慈愛とはなんだ」

 

 

 人差し指の爪で、缶のでこぼこをなぞる。フィルムの上を指が移動するたびに、ぺぽぺぽという音が鳴る。

「うーん、辞書で調べないの?」

 メルガの目線が、一度水平に戻った。

「解析:帝国お墨付きの国語辞典ならインプットされている。だが、レオが以前『辞書を引くだけでは情報が足りない』と言っていたのでな」

 

 ボクは頬杖をつきながら、首元のチョーカーに親指を入れてみる。革製の細い帯は少し劣化し始めており、こぼれおちた表面のかけらが指についた。

「慈しみというのは、ミゾレが私に向けているものと同じか?」

 地下室の壁に取り付けた、窓の景色を模したモニターに、一頭のラクダが見えた。ボクはそれを眺めながら、あの日見た砂漠の景色を思い出す。

 

「たぶん、違うと思うよ」

 

 メルガは表情を変えないまま、ボクの目を見るようにして、首を傾げる。

「レオが教えてくれた、『やさしさ』ではないということか?」

 モニターから差す日差しを背に浴びて、おかしそうに口角を横に広げながら、ボクはメルガに笑いかけた。

「もういっかい、よく調べてみたら?」

 

 

 メルガの瞳が、再び青白い光を帯び始める。歯車のような模様が中で回り、脳内のファンがかすかに音を放ち始める。すると、聴覚センサーの奥から、なにやら聞き覚えのある声が、笑っていた気がした。

 

 

 

「なるほど、正しく理解した」

 ボクはメルガの髪を指で梳き、意味もないのに、治癒魔法をかけてみる。

「ふふん、よくできました」

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