「やべぇぇぇぇぇ!?コンテナが吹っ飛んだ!!」
ここはとある宇宙。宙を駆ける赤い龍の頭部で一人の男が赤い警告灯が光る中、珍しく叫んでいた。
この男は宇宙の運び屋で、ある場所からとある重要物品を厳重保管施設へと移送する為に雇われた。慎重を喫して、複数の運び屋が雇われ、囮として似たようなコンテナをが其々の船に運ばれた。
そして、船体のカーゴで突然の爆発。遊星などの外的要因ではない。宇宙を航行する船は保護フィールドを船外に張り巡らせる。船と乗員、積み荷を守るために。
なら今回の爆発の原因は何なのか。それは依頼者側にあった。裏切者がおり、本物の積み荷を知る立場にいる程の者が、今回の計画の協力者となったのだ。
「外からじゃねぇ………内通者かよ」
しかし、不運は続く。爆発で固定が緩んだ積み荷が宇宙空間に飛ばされる。本来の計画なら、この時点で回収班が積み荷を回収する筈が赤い龍【ナースRED】の航行速度を見誤っていたのだ。
回収地点はとうに過ぎ去り、ここは誰もいない場所な上、空間に裂け目が生まれた。ワームホールだ。
《重要貨物…船外流出》
「分かってんだよ、船を停めろ!急いで回収するぞ!」
《非推奨 現在速度:亜光速》《船体破損確率:大》
《高次元歪曲反応》《重要貨物・誘引開始》
「嘘だろ!こんな時にワームホールかよ!」
モニター前方。虚空に一本の亀裂がはしり、裂け目へと広がる。まるで宇宙そのものが破れたような異常現象。
ワームホール。しかも自然発生型…ゲートで人工発生されたモノと違い、内部は大荒れ、嵐の海に身一つで投げ出されるような事態だ。
「ナース、保護フィールド全開!ワームホールに突っ込め!」
《非推奨:船体負荷限界超過・大》
「壊れたら治してやる!あの荷物無くしたら、依頼失敗の始末書じゃ済まないぞ!」
《…了解:保護フィールド全開》《ワームホール・突入開始》
紅い龍が咆哮するように加速する。船体各部が赤熱。重力制御リングが眩く発光し、宇宙に紅い尾を引く。
だが、間に合わない。
コンテナは、裂け目へ飲み込まれていく。
そして最後にワームホールの奥に、青い星が見えた。
……………………
《船体破損度・中》《恒星間航行・不能》《修復作業:推奨》
「次元の荒波を辛うじて越えた第一声がそれかよ……まぁ今回は流石に死を覚悟したが」
白く弾ける視界、軋む船体、鳴り響く警報音。ほんの少し前に体験した。しかしその嵐の先で何とも懐かしさを感じさせる深く、蒼く、美しい星。白い雲に覆われた、どこか懐かしい惑星を見る羽目になろうとは。
《高密度生命圏確認》《大気組成・人類生存可能》
《文明反応多数》
「まさか、生まれ故郷に帰ってくるとはな。帰るつもりなんてこれぽっちも無かったのに」
拐われて体感で十数年。故郷を探す気にはならなかった。
もしかした、自身の親兄弟が既に故人になっている可能性があったからだ。そうなれば故郷に自分の居場所は無いだろうと。
宇宙を流れ、怪獣を積み、ジャンクを運び、危険宙域を飛ぶ。
それが今の“グレイ・ストーク”だった。
《…時空座標、照合不能》
「照合不能?この間、調整したばっかだろ…あぁ、ワームホールで狂ったか」
モニターを見つつ、コンソールを操作。
【現在宙域】【銀河座標】【基準時空位相】
全てがエラーで、存在しない数値を指す。あり得ないズレ。
軽く言ったが、だが内心は笑えない。
空間転移事故は珍しくない。問題は、“時空”という単語だった。
座標だけではない、時間軸そのものがズレている可能性がある。
グレイの表情から、軽薄さが少し消える。
「……面倒臭ぇ」
《重要貨物・ビーコン確認》《正面惑星・地表付近》
《コンテナ破損確率・大》
「………マジ?」
《肯定》
モニターの表示を変える。ほんの少し、自分達より先にワームホールに飲まれたコンテナが既に眼前の惑星、しかも地表に落下している。それはモニターに映し出された一つの点滅…重要貨物に搭載された特殊識別ビーコンから発信された位置情報から確認された。更にいくら重要貨物といっても爆発に、ナースの船体すら若干破損させた自然発生型のワームホールの荒波、それに大気圏突入に地表への落下とくれば、無事で済む筈がない。
あのコンテナは、外装は数千層にも及ぶナノラミネートアーマー、内部には特殊粒子を充填させた超高圧封印仕様。更に物理的なロックに加え、内部次元をズラした多重位相ロック。
そこまでして、外部に出してはならない代物なのだ。
「あれの中身って、何だったんだよ」
依頼主は最後まで内容を明かさなかった。グレイも深入りはしない。宇宙の運び屋にとって大事なのは、“何を運ぶか”ではなく、 “どこへ運ぶか”。……の筈だった。
《依頼情報・最重要機密》《閲覧権限:不足》
「……そうだったな。でも緊急時プロトコルなら限定閲覧できるだろ。それならどうだ?」
《……肯定》《緊急時プロトコル発動》《限定閲覧・開始》
《重要貨物・積載物………人形化怪獣群(スパークドールズ)》
「……………は?ちょっと待て!スパークドールズ!?なんて物、運ばせてんだ!」
スパークドールズ
かつて宇宙規模の災厄により、人形化された怪獣や宇宙人。封印状態にあるとはいえ、その内部には本来の存在情報が圧縮保存されている。
つまり。あのコンテナに積まれていたのは――
「危険物詰め合わせセットじゃねぇか!!誰だ!?ご禁制の品持ち出したのは!?」
《追加情報・積載内容【ゴルザ】【メルバ】【スーパーコッヴ】【レイキュバス】【ガンQ】》
「思ったよりマシだな」
《訂正:危険度・高》
「分かってるよ、宇宙基準の話だよ………それでも惑星レベルなら、充分災害級だ」
ゴルザ
超古代怪獣。怪力と高い防御力を誇り、額から放つ超音波光線であらゆる物体を破壊する。
「パワー系担当」
《都市破壊適性・極大》
「知ってる」
メルバ
高速飛行能力を持つ超古代竜。空中戦能力に特化し、鋭い嘴と光線攻撃を持つ。
「スピード系」
《航空戦力壊滅可能》
「だろうなぁ……」
スーパーコッヴ
宇宙戦闘獣。本来はおとなしいコッヴ種だが、膨大なエネルギーを受けて暴走。火力支援型であり、継戦能力が高い。
「地味に厄介枠」
《市街地制圧能力・高》
「絶対ビル街で暴れるタイプだこれ」
レイキュバス
極低温ガスを操る宇宙怪獣。周辺環境を凍結させながら行動する。
「うわ、これ一番面倒かもしれん」
《都市機能停止危険度・高》
「インフラ死ぬ」
ガンQ
巨大な単眼を持つ異形怪獣。エネルギー吸収、幻覚、光線反射能力を持つ。
そして何より。
「コイツ性格悪ぃんだよなぁ……」
《精神干渉能力確認》
「最悪)
グレイが深く溜息を吐き、指を折りながら確認。
「つまり何だ…怪力ゴリラ、空飛ぶ高速アタッカー、砲撃型、冷凍怪獣、精神攻撃持ち……バランスよく終わってんな……………ちょっと待て、こいつ等って一体一体もヤバいが、ファイブキングの素材じゃねぇか!」
超合体怪獣ファイブキング
先の5体が合体した怪獣。別名【平成のタイラント】
単なる合体怪獣ではない。それぞれの能力が融合増幅されることで、単体時を遥かに超える戦闘力を発揮する。
地中移動能力、高速飛行、超低温・超高温攻撃、火力支援、エネルギー吸収。そして、極めて高い殲滅能力を持つ。
《肯定・合成怪獣ファイブキング構成素材:一致》
「単体でもヤバい奴らを……だからあの封印仕様のコンテナと囮こみの移送作戦か………依頼主め、厳重保管施設行きなら軍の管轄だろうに……その軍も信用できなかったか?」
グレイは額を押さえながら椅子に深く座り込む。
宇宙運送業界では、“知らない方が長生きできる荷物”というものは確かに存在する。だがこれは、そういうレベルではない。
下手すれば、星どころか星系一つが滅ぶのだ。
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