金の亡者、泥舟の世界で大儲けする   作:鳥ささみ

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第九話:プランEFの不渡り(バッド・デット)

 

「――なるほど。本隊の転移に先んじて、保険の『隠し口座(バックアップ)』を作っていましたか、ヴィンデルCEO」

シャドーミラーの移動司令要塞、特別顧問室。ゼニ・ゴールドミラーは、高級ホログラフィック・ディスプレイに投影された、おびただしい数のデータと空間観測図を冷徹に眺めていた。

画面に映し出されているのは、シャドーミラーの悲願である「こちら側(正史の世界)」への本隊転移計画とは別に、極秘裏に進行していたもう一つの次元転移計画。

その名も――『プロジェクトEF(プラン・エンドレス・フロンティア)』。

「向こう側」の世界において、シャドーミラーの命運は尽きかけていた。アインストの細胞に寄生され、怪物と化したキョウスケ・ナンブが率いる連邦軍の特殊部隊『ベーオウルブズ』。彼らの狂気的な猛攻の前に、シャドーミラーは敗退を重ね、完全に防衛線を押し込まれていたのだ。

その起死回生の策として、最高司令官ヴィンデル・マウザーが発動したのが、未知なる平行世界への実験的転移計画『プランEF』だった。

先発艦として選ばれたトライロバイト級『ネバーランド』には、起動前の初期型Wシリーズ(人型アンドロイド兵器)や、対人用の最高峰特機『アークゲイン』が多数搭載され、すでに次元の彼方へと射出されたという。

「……フフ、だがその隠し口座は、すでに『凍結(破産)』していますよ」

ゼニは手元のブランデーグラスを傾け、冷酷に微笑んだ。

神から授かった原作知識が、ゼニの脳内で明確なファクトを弾き出す。

先発艦ネバーランドは、転送中の次元の歪みに巻き込まれ、ヴィンデルたちの想定した世界ではない、全く別の異世界群――『エンドレス・フロンティア』へと墜落している。しかも艦体は空中分解し、真っ二つに割れて艦首部はフォルミッドヘイムへ、艦尾部はロストエレンシアへと墜落。主を失ったWシリーズやアークゲインの資産価値は、完全に市場から「紛失(ロスト)」したのだ。

「ゼニ。ヴィンデルがお呼びだ。ベーオウルブズの防衛網を突破し、本隊の次元転移を強行するぞ。お前の『黄金の資産』の出番だ」

部屋の扉が開き、無骨な軍服姿のアクセル・アルマーが入ってきた。その表情には、ゼニの「戦闘能力」だけでなく、この極限状態でも全く動じない底知れなさへの確かな敬意が混ざり始めている。

「フフ、すぐに行きましょう、アクセル隊長。我が社の最重要課題である『次なる市場(新天地)への進出』のカウントダウンですからね」

ゼニは優雅に立ち上がり、高級スーツのボタンを留めた。

プランEFという不良債権(焦げ付き)を出した以上、ヴィンデルに残された道は、シャドーミラーが元の世界から鹵獲・コピーした究極の次元転移装置――【システムXN(エックスエヌ)】による、本隊の「こちら側」への強行突破のみ。

それこそが、ゼニが別次元へロストしたラウルやフィオナ、そして未公開株である「時流エンジン」を回収するための、最大の商機(ビジネスチャンス)となる。

司令室。巨大な球形モニターの前に立つヴィンデル・マウザーは、ゼニの姿を認めると、満足げに口元を歪めた。

「よく来た、ゼニ最高財務顧問。お前が提示した、トロニウムの余剰出力をシステムXNの制御回路へ融資(バイパス)するプラン……実に見事だ。これにより、ベーオウルブズの妨害を無視した大規模転移の成功率は、従来の120%にまで跳ね上がった」

「当然の処置ですよ、ヴィンデルCEO。どれほど優れた計画(ビジネス)であっても、実行に必要なインフラ(転移装置)が貧弱では、リターンを得る前に破産してしまいますからね。我が社の『DGG-X1:ゴールドミラー・プライム』に投資したトロニウムは、それ単体で戦場を支配するだけでなく、システムXNの出力を安定させるための『最高級の担保』でもあるのです」

ゼニの傲然たる態度に、周囲のシャドーミラー幹部たちも気圧される。彼らはすでに、この男が単なる「金貸し」でも「ジャンク屋」でもなく、世界そのものを盤面として転がす怪物であることを理解していた。

ウゥゥゥゥゥン――!!

要塞の最深部から、システムXNが放つ、空間そのものを融解させるような凄まじい波動が響き渡る。

これこそが、かつてギリアム・イェーガーという男が開発し、世界の因縁を狂わせた禁断のシステム。その莫大な次元エネルギーに、ゼニが持ち込んだトロニウムの黄金の波動が完全に同調していく。

『――閣下! 後方よりベーオウルブズ接近! 狂える狼どもめ、この転移の光の中にまで突っ込んでくる気か!?』

オペレーターの悲鳴のような報告と同時に、要塞の防衛アラートが激しく赤に染まった。

メインモニターに映し出されたのは、異形のアインスト細胞を纏い、狂気に狂ったキョウスケ・ナンブの『アルトアイゼン・ナハト』を筆頭とする、最悪の追撃部隊の姿だった。

「ふむ、しつこい取り立て人(ベーオウルブズ)ですね。ですが、こちらの口座はまもなく閉鎖(クローズ)されます」

ゼニはニヤリと妖しく笑い、ヴィンデルの方を振り返った。

「ヴィンデルCEO、市場の潮目が変わりました。先発したネバーランド(プランEF)の資産価値は、すでに別の異世界へ流出し、我々の管理下にはありません。これ以上の不毛な泥仕合は無意味だ。今すぐシステムXNを最大出力で解放(レバレッジを勝負)し、全財産(全軍)を投じて次元の壁を突破しましょう。あちらの世界(正史)には、すべての『富』が眠っている!」

ヴィンデルはゼニの圧倒的な熱量と、その裏にある冷徹な計算を見抜き、豪快に笑い声を上げた。

「素晴らしい! いいだろう、シャドーミラー全軍に告ぐ! システムXN、最大出力! 針路をぬるま湯に浸かった向こう側の世界へ、永久の闘争をデリバリーするぞ!」

『了解!!』

司令要塞全体が、システムXNとトロニウムの結合エネルギーを受けて激しく鳴動を始める。空間がガラスのようにひび割れ、その裂け目の向こう側に、広大な「新たなる市場(戦場)」が姿を現しつつあった。

ゼニは要塞のハッチへと向かいながら、自らの愛機『ゴールドミラー・プライム』を見上げ、冷酷に呟いた。

「ラウル、フィオナ、ミズホ君……。首を長くして待っていなさい。我がゴールドミラー社が、たった今から、莫大な利息(トロニウムの暴力)を回収しに向かいますよ」

プランEFという損失すら一瞬で切り捨て、システムXNという巨大なリソースを完全に掌握して世界を跨ぐ大移動を開始した守銭奴ゼニ・ゴールドミラー。

正史の世界を揺るがす「最強のパトロン」の再臨は、すぐ目の前まで迫っていた。

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