「――システムXN、臨界点を突破! 次元ゲート、開きます!」
「目標座標、正史の世界(こちら側)・極東管区テスラ・ライヒ研究所上空!」
シャドーミラーの移動司令要塞の最深部で、鹵獲・コピーされた究極の次元転移装置『システムXN(エックスエヌ)』が、空間を溶解させるような凄まじい波動を放っていた。ゼニ・ゴールドミラーが持ち込んだトロニウム・エンジンの余剰出力を融資(バイパス)されたことで、ゲートはかつてない安定度で、彼らが目指す「こちら側の世界」へと繋がりかけていた。
だが、新たなる市場への扉が開いたまさにその瞬間、要塞の防衛アラートが血のような赤に染まった。
『――閣下! 後方より高エネルギー接近! ベーオウルブズです! 狂える狼ども、ゲートの開放を狙って突入してきます!』
「やはり来たか、最悪の『不良債権』め……!」
司令室のヴィンデル・マウザーが苦々しく毒突く。
次元の裂け目を強引に押し広げて乱入してきたのは、異形のアインスト細胞を纏い、もはや化け物と化したキョウスケ・ナンブの『アルトアイゼン・ナハト』、および彼が率いるベーオウルブズの軍勢だった。
「キョウスケ……! ゲートを抜ける前に、お前との因縁、今度こそここで清算してやる!」
要塞のハッチから真っ先に飛び出したアクセル・アルマーの『ソウルゲイン』が、野生の咆哮を上げてナハトへと肉薄する。青き特機と黒き鉄塊が、転移の光の中で激しく激突した。
戦場は「こちら側」へ転移する直前の大混乱へと変貌する。
その最中、全身からキンキラな黄金の出力を放つ**『DGG-X1:ゴールドミラー・プライム』**のコックピットにいるゼニのもとへ、ヴィンデルからの通信が入った。
『――ゼニ最高財務顧問よ、聞こえるか。アクセル一人ではベーオウルブズの物量を捌ききれん。お前もそのゴールドミラー・プライムで出撃し、アクセルを手伝って防衛線を死守しろ。本隊の転移に必要な時間はあと数分だ』
ヴィンデルの声は、いかにも最高司令官らしい、合理的かつ冷静なものだった。
だが、ゼニはコンソールに映るヴィンデルの表情の僅かな歪みを、そして彼が要塞の「第14隔壁」をゼニの出撃と同時に完全閉鎖しようとしているデータを見逃さなかった。
(フフ……なるほど。表向きは協力要請(アライアンス)のフリをして、私をあの怪物(キョウスケ)にぶつけ、そのままゲートの向こうへ置き去りにする腹づもりですか、ヴィンデルCEO)
ゼニの頭脳は、瞬時にヴィンデルの裏の「損切り(計画倒産)」を計算していた。
我がゴールドミラー社が莫大な開発資金を投資した直後、時流エンジンの暴走によって「こちら側の世界」へとロストしてしまったラウルたちのグレーデン開発チーム。ゼニにとっては絶対に追いかけて回収せねばならない最重要資産だが、ヴィンデルにしてみれば、すでにこの世界から消え去った行方不明の不良債権に過ぎない。
そして、新天地へのインフラ(システムXN)が安定した今、これ以上シャドーミラーに用は無いと判断されたゼニ自身の資金力。ここでゼニがベーオウルブズと相打ちになり、口座(命)ごとデフォルトしてくれれば、シャドーミラーはゼニへの莫大な借金を合法的に踏み倒せる――。
だが、ゼニはその事実を口にすることはなかった。そんな親切な忠告など、商人のすることではない。この「インサイダー情報」は、自分一人だけの武器(カード)にすればいい。
「ええ、了解しましたよ、ヴィンデルCEO。アクセル隊長の援護ですね。我が社の戦闘アセット、今すぐ市場に投入いたします」
ゼニは優雅に高級スーツの襟元を整えながら、冷徹な笑みを浮かべて操縦桿を握り直した。
ゴールドミラー・プライムが動く。
トロニウム・エンジン100%の絶対出力を誇示するように、キンキラな黄金のオーラを爆発させ、ゼニはソウルゲインとナハトが火花を散らす戦場へと割って入った。
機体の背面にマウントされた、巨大な**『金塊を模した大剣(ゴールド・インゴット)』**が、轟々たる黄金のエネルギーを纏って引き抜かれる。
『おい! 邪魔をするな、ゼニ!』
ソウルゲインのアクセルから、苛立ちの混じった鋭い通信が入る。彼の視線には、目の前のキョウスケしか映っていない。
『俺はこいつと決着をつける! 金貸しは引っ込んでろ!』
「おやおや、手厳しい。ですがアクセル隊長、私は仕事(防衛)をしに来ただけですよ。そこの黒い狼(キョウスケ)はあなたに差し上げます。その代わり――周りの雑魚(アインスト)はすべて、我が社が『買い叩かせて』いただきましょう」
ゼニの強欲の塊たる『ゴールド・インゴット』の一振りが、ソウルゲインの背後に迫っていたアインストの群れを、空間ごと黄金の衝撃波で消し飛ばした。ただ一機のためだけに独占(モノポリー)されたトロニウムの絶対暴力が、転移の光を遮るベーオウルブズの先遣隊を文字通り粉砕していく。
アクセルの背中を盾にしながら、迫るアインストの物量を冷徹に、効率的に間引きしていくゼニ。その金色の瞳は、ヴィンデルのいる移動司令要塞――その最深部に鎮座する『システムXN』をじっと見据えていた。
(あちらの世界へ持ち逃げされたラウル君たちの時流エンジンを完璧に回収するためには、パトロンとしてここでの破産は絶対に認められない。ヴィンデルCEO……私から借金を踏み倒せると思わないことです。あなたのその『システムXN』、我がゴールドミラー社が力ずくで敵対的買収(強奪)して差し上げますよ)
正史の世界へのゲートの渦中で、それぞれの執念が激突する。
守銭奴ゼニ・ゴールドミラーの、二つの組織を同時に買い叩く命がけの再交渉(リ・ネゴシエーション)の幕が上がった。