「なんだ、あの特機は……!? 悪趣味な純金コーティングだと? ふざけるな、戦場を何だと思っている!」
強襲揚陸艦「ハガネ」のブリッジ。副長のテツヤ・オノデラ大尉は、メインモニターを睨みつけながら激しい不快感を露わにしていた。規律と実用性を何よりも重んじる彼にとって、その機体は兵器としての尊厳を真っ向から愚弄しているようにしか見えなかった。しかし、同時にコンソールに表示される尋常ならざる出力波形が、それが単なるハリボテではないという最悪の現実を突きつけている。
「……だが、あのエネルギー出力は冗談では済まんぞ。ふざけた見た目とは裏腹に、怪物級の性能だ。各機、お調子者の挑発に乗るな! 警戒して当たれ!」
地球連邦政府に対する軍事結社「ディバイン・クルセイダーズ(DC)」の宣戦布告によって幕を開けた大戦は、泥沼の中盤戦へと突入していた。各地でDC軍の量産型アーマードモジュール(AM)リオン・シリーズと激突を繰り返していたハガネ隊であったが、この日の戦場に突如として乱入してきた『それ』は、これまでのDCの兵器体系のどれとも似ていない、完全なる規格外の異形であった。
戦場の中央、立ち込める硝煙を割って堂々と着地する一機の巨神。
その骨格は恐ろしく堅牢で、特機としての完成度を極めていながら、外殻装甲の上からはこれでもかと成金趣味な純金コーティングが施されている。全身の排熱機構から溢れ出るエネルギーの幾何学的な光背(オーラ)は、周囲の空間を陽炎のように歪めていた。
『お初にお目に掛かります、ハガネの皆さん。私はDCの特別顧問にして、我がゴールドミラー社の最高経営責任者(CEO)、ゼニ・ゴールドミラーです』
広域通信回線から響くのは、激しい戦場には絶望的に不釣り合いな、仕立ての良い高級スーツの擦れる音と、冷徹で尊大な男の声。
『ビアンCEOへの現物出資責任(義理)がありましてね。あなた方の進軍を少しばかり「差し押さえ(足止め)」させていただきに参りました。ああ、ご安心を。我が社としては、あなた方の身包みを剥いで最新の戦闘データを買い叩ければそれで満足ですのでね、命までは要求しませんよ。……今のところは』
「な、なんだあのロボット……!? 金ピカでめちゃくちゃ強そうだけど、絶望的に趣味が悪い! ヒーローっていうか、悪代官が乗りそうなロボットじゃねえか!」
R-1のコックピットで、特機マニアであるリュウセイ・ダテは、その圧倒的な質量と駆動系の美しさに目を奪われつつも、それを台無しにする純金カラーと、戦場を金儲けの場としか見ていないパイロットの姿勢に激しい反発を覚えて叫んだ。連邦の「SRX計画」のデータにも、このような未知の機体は存在しない。
「……馬鹿げた出力だ。あの金の装甲の隙間から見えるジェネレーターの波形……間違いない、我がR-2と同じ『トロニウム・エンジン』だ」
R-2パワードのライディース・F・ブランシュタインは、冷や汗を流しながら通信を入れた。連邦がメテオ3から回収し、未だ制御に苦しんでいるはずの超高密度エネルギーが、あのような正体不明の機体に完全なデバッグ状態で組み込まれている。その歪んだ事実に、ライは底知れぬ戦慄を覚えていた。
そのハガネ隊の混乱を、R-GUNのコックピットから静かに見つめる男がいた。
「……ほう」
指揮官のイングラム・プリスケン少佐は、バイザーの奥で冷酷な笑みを浮かべていた。彼には分かっていた。自分が連邦を騙して横領し、ゼニがロンダリングした資金とレアメタルの一部が、確かにあの黄金の機体の調整にも回されているのだ。イングラムにとって、あの金の巨神は、自分が最高の裏機体『R-GUNリヴァーレ』を作り上げるための、都合のいい最高額の財布に過ぎなかった。
一方、アルトアイゼンを駆るキョウスケ・ナンブは、ステークを構えながら、メインモニターに映る黄金の特機を冷徹に睨みつけていた。
「悪趣味な色だ。……だが、あの威圧感は何だ? 背筋が凍るような、奇妙な嫌悪感を覚える……」
ギャンブラーとしての直感が告げていた。あの成金男は、自分たちを「見下している」のではない。むしろ、爆発寸前のダイナマイトを扱うかのような、異常なまでの『拒絶』と『警戒』の視線を、まっすぐにこの赤い旧式機に向けている、と。
「さて、市場の査定(戦闘)を始めましょうか!」
ゼニが操縦桿を引き絞ると、ゴールドミラー・プライムがテスラ・ドライブの理論値を無視した超高速で突進した。巨大な金塊の大剣『ゴールド・インゴット』が、空間を引き裂くような轟音と共にハガネ隊へ振り下ろされる。
「くっ、速い……! くるぞ、全機散開しろ!」
リュウセイのR-1が間一髪で回避するが、すれ違いざまの風圧だけで装甲が軋んだ。
ゼニは圧倒的なトロニウムの暴力でハガネ隊を翻弄しながらも、決して無理な深追いはしない。未来の知識を失った今のゼニにとって、ハガネ隊は「将来的にラウル達が現れた際の、大切な市場のインフラ(競合他社)」だ。今ここで完全にデフォルト(全滅)させるのは、投資対効果が悪すぎる。
特に、キョウスケのアルトアイゼンが仕掛けてくる、分の悪い賭けを孕んだ突撃に対しては、ゼニはあからさまに距離を取った。
「チッ、やはりあの男の間合いには入りたくありませんね。不健全極まりない。今日のところは、このあたりの戦闘データ(利息)を回収して撤退(損切り)としましょう!」
黄金の巨神は、ハガネ隊に強烈な爪痕と「得体の知れない成金への恐怖」だけを残し、眩い光の尾を引いて戦場から急速離脱していった。
表ではDCの尖兵としてハガネを脅かし、裏ではイングラムの『R-GUNリヴァーレ』にノリノリで裏金を融資し続ける守銭奴ゼニ。
この歪んだマッチポンプが、近いうちにイングラムという「最悪の詐欺師」によって完璧に裏切られ、超巨額の不良債権と化す未来を、今のゼニはまだ、全く知らなかった。