「――やはり、そういうことでしたか、ビアンCEO」
南太平洋に浮かぶDCの総本山、アイドネウス島。その地下深くに築かれた巨大格納庫の管制室で、ゼニ・ゴールドミラーは冷徹な金色の瞳をホログラムモニターに向けていた。
地上では、地球連邦軍の強襲揚陸艦ハガネとヒリュウ改が島への決戦を挑み、迎え撃つDC軍の残存部隊との間で激しい硝煙が上がっている。そしてその戦場の中心には、ビアン・ゾルダーク博士自らが駆る究極の特機『ヴァルシオン』が、圧倒的な重力波を放ちながらハガネ隊を文字通り蹂躙していた。
だが、ゼニの算盤(そろばん)は、その凄惨な勝利の光景に惑わされはしない。
端末に表示されるDC軍の防衛配置、補給線の計画、そして何よりビアン自身の精神波データ――その全てが、この組織の「計画倒産」を示していた。
「始めから世界を支配する気など毛頭ない。迫り来る異星人(エアロゲイター)の脅威を全人類に刻み込み、その牙を研がせるための、命を賭した『狂言(カンフル剤)』。……フフ、命という最大最高の資本を投げ打ってまで、市場の意識改革(リセッション)を狙うとは。経営者としてはあまりに不健全、かつあまりに狂信的だ」
次元転移の摩擦によって未来の記憶(原作知識)を失ったゼニであったが、向こう側の世界で軍の最高財務責任者を張っていた男のビジネス嗅覚は、ビアンの隠された意図を完璧に「監査」していた。
DCという巨大ベンチャーは、今日この日をもってデフォルト(破産)する。
ならば、投資家としてやるべきことは一つ。市場が完全に崩壊する前に、回収できる限りのアセット(資産)をむしり取り、速やかに『損切り』を行うことだ。
「さあ、ゴールドミラー社の全サーバー、稼働させなさい。ヴァルシオンの重力制御データ、Eフィールドの理論値、リオン・シリーズの最新基本設計図……これら全ての知的財産(IP)を、我が社の機密口座へサルベージ(強奪)するのです。ビアン博士の遺産は、我が社が有効に再投資して差し上げましょう」
ゼニが端末のエンターキーを叩くと、アイドネウス島のメインフレームから莫大な軍事機密データが、キンキラの愛機『ゴールドミラー・プライム』のストレージへと濁流のように流れ込み、バックアップが完了していく。
(これでいい。DCが潰れた後の市場は、再び地球連邦……ひいては、私が匿名パトロンとして、そしてイングラム少佐への裏金という形で出資している『SRX計画』が独占することになる。やはり私のポートフォリオ(分散投資)は完璧でしたね。誰が勝とうが、ゴールドミラー社は常に勝ち組の筆頭株主だ)
自分の先見の明に悦に入りながら、ゼニは優雅に格納庫へと向かい、ゴールドミラー・プライムに乗り込んだ。あとは、このデータを手土産に、どさくさに紛れて島から離脱するだけ――。
だが、戦場は商人の計算通りにだけは動かない。
ドゴォォォン!!
轟音と共に、地下格納庫の隔壁が内側から爆破された。土煙の中から現れたのは、あの忌々しい「赤い旧式機」――キョウスケ・ナンブのアルトアイゼン、そしてリュウセイ・ダテのR-1だった。
「みつけたぞ、金ピカの成金男! ここから先は、DCのデータも、お前自身も逃がさねえ!」
リュウセイが叫び、ブーステッド・ライフルを構える。
「……やはり来たか」
キョウスケは低く呟き、リボルビング・ステークのシリンダーを回転させた。そのコックピットから放たれる、勝利も敗北も度外視して「ただ目の前の敵を潰す」というギャンブラーの狂気が、通信越しにゼニの皮膚を粟立たせる。
「チッ……! よりによって、最も近づきたくない不健全な狼(キョウスケ)を引き当ててしまうとは。私の運も、この世界ではいささかポートフォリオが乱れているようです」
ゼニは露骨に嫌悪の表情を浮かべ、ゴールドミラー・プライムの操縦桿を引き絞った。全身の純金装甲からトロニウム・エンジンの黄金の光波が爆発的に吹き上がる。
「いいでしょう。大人しく撤退させてくれないというのなら、最後の『おみやげ(戦闘データ)』をその身から直接毟り取って差し上げます!」
巨神が手にする金塊の大剣『ゴールド・インゴット』が、地下格納庫の空間を圧殺するような質量で振り下ろされた。島が崩壊を始める中、ゼニの「DC戦争」における最後の清算(戦闘)が幕を開ける。