「おい、お前たち!! 私の、我がゴールドミラー社の出資金(ゴールド)を一体どうしてくれるんですか!!」
地球連邦軍の強襲揚陸艦「ハガネ」の第一格納庫に、激しい金属音と共に怒号が響き渡った。
ハガネ隊の面々が振り返ると、そこにはいつもの仕立ての良い高級スーツではなく、純金カラーの特製パイロットスーツに身を包んだゼニ・ゴールドミラーが、額に青筋を浮かべて突進してくる姿があった。その背後では、全身の装甲が眩いばかりの純金コーティングで覆われた巨大な特機『ゴールドミラー・プライム』が、すでにいつでも発進可能な状態で重低音の駆動音を響かせている。
宇宙要塞ホワイトスター(ネビイーム)の出現、そして絶対的な精神的支柱であり、チーフ開発者であったイングラム・プリスケン少佐の衝撃的な裏切り。
残されたRシリーズのパイロットたち――リュウセイ・ダテ、ライディース・F・ブランシュタイン、アヤ・コバヤシの三人は、信じていた指揮官に「地球側の最高戦力(SRX)を完成させ、それを自らの手で回収する」ための道具として利用されていたという冷酷な現実に、文字通り打ちのめされていた。格納庫の空気は、これ以上ないほど重く沈み込んでいた。
そこへ土足で、それも「カネの話」を引っ提げて乱入してきた成金経営者に対し、リュウセイがコックピットハッチから身を乗り出して怒鳴り返した。
「なんだよお前、こんな時に! イングラム少佐が裏切って、俺たちがどんな気持ちでいるか分かってんのか! カネのことなんか知るかよ!」
「黙りなさい、この格下げジャンク債(不良債権)どもが!!」
ゼニはリュウセイを指差し、格納庫の天井が震えるほどの声量で叫んだ。
「気持ち!? 精神的動揺!? そんな不健全な非関税障壁(言い訳)で、我が社の天文学的な投資焦げ付きが相殺されるとでも思っているのですか! いいですか、イングラム少佐が敵の産業スパイだったということは、私が匿名パトロンとして、そして連邦の正規ルートを通してこの『SRX計画』に投下した莫大なレアメタルも資金も、あの詐欺師にすべてマネジメント(横領)されていたということですよ!」
ゼニは懐からホログラム端末を取り出し、激しい勢いでハガネ隊の面々に財務諸表を突きつけた。
「R-1、R-2、R-3……! 機体そのものはイングラムの手によっていつでも合体できる極限状態まで完璧にチューニングされている! ビジネスプラン(設計図)は完璧、ハードウェアも最高、それなのに、肝心の合体テストでパイロット(お前たち)のメンタルが破綻して失敗したなど、経営陣の不祥事で株価がストップ安になるようなものです! 投資家に対する深刻な背任行為ですよ!」
「ゼニ・ゴールドミラー顧問、不躾な物言いは慎んでもらおう」
ハガネのブリッジから格納庫に降りてきたテツヤ・オノデラ大尉が、鋭い視線でゼニを制した。規律を重んじるテツヤにとって、軍の最高機密であるSRX計画を「投資」と呼び、兵士たちの傷心を「背任」と言い切るこの男の強欲さは、不快感を通り越して呆れるほかはなかった。
「彼らは今、過酷な現実と戦っている。軍は民間企業の損失補填のために動いているのではない。民間人は速やかに伊豆基地のシェルターへ退避しろ」
「退避だと!? 冗談ではありません、テツヤ副長!」
ゼニはテツヤの前に立ちはだかり、懐から『連邦軍最高財務責任者(自称)』の肩書が光る特製のIDカードを叩きつけた。
「退避して指をくわえて見ていろと? 表のDC(ビアン)の倒産で大損をぶっこき、裏の裏で全張りしていたイングラム少佐のリヴァーレには全財産を持ち逃げされ、最後の希望だったSRX計画まで凍結(監査入り)の危機! 私の完璧だったポートフォリオが、宇宙規模のハイパーインフレで紙屑になろうとしているのですよ! 1ゴールドたりとも回収せずに引き下がれるわけがないでしょう!」
ゼニの金色の瞳には、正義や義務感といった高潔な光は一切なかった。そこにあるのは、全財産を騙し取られた大富豪の、血を吐くような「債権回収(怨念)」の炎だけだ。
「イングラム少佐は去り際に言いました……『SRX計画は私が回収する』と! 泥棒の分際で、これ以上我が社の出資成果を掠め取られてたまるものですか! あいつの首を毟り取り、あの金食い虫の烏(リヴァーレ)をパーツ単位に分解してジャンク屋に叩き売り、1ゴールド残さず回収するまでは、私は自己破産(死ぬ)すら認めません!」
その異常なまでの執念と、どこまでも利己的でありながら一切のブレがない「強欲の覚悟」に、格納庫の誰もが圧倒され、言葉を失った。
沈黙の中、R-2のコックピットから降りてきたライが、冷徹な声でゼニを見つめた。
「……フッ、最高峰の詐欺師に全財産を毟り取られた哀れな大富豪、か。だが、その怒りだけは本物のようだな」
「当たり前です! 私は不健全な『分の悪い賭け(キョウスケ・ナンブ)』は大嫌いですが、回収見込みのある不良債権の取り立て(戦争)なら、喜んでこの命(最高資本)を張りますよ!」
ゼニは身を翻すと、ゴールドミラー・プライムのタラップへと足をかけた。
「ハガネの皆さん、宇宙へ上がりますよ! 私をハガネの船底にワイヤーで縛り付けてでも、ホワイトスターへ連れて行きなさい! これは軍務でもボランティアでもない……ゴールドミラー社による、宇宙規模の『敵対的買収(債権回収裁判)』の開廷です!」
イングラムへの怒りによって、奇妙な形でハガネ隊と利害が一致したゼニ・ゴールドミラー。
人類存亡をかけた「L5戦役」の火蓋が切って落とされる中、世界で最も強欲な借金取りが、黄金の輝きを放ちながらハガネと共に激戦の宇宙へと飛び立つ。その算盤が、さらなる世界の不条理に叩き潰されるか、あるいは奇跡の黒字転換(債権回収)を果たすか、すべての清算はホワイトスターの戦場へと委ねられた。