金の亡者、泥舟の世界で大儲けする   作:鳥ささみ

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第一話:泥舟の世界のゴールドラッシュ

黒煙に汚れた大気が、切り裂かれた装甲の隙間からコックピットへと流れ込んでくる。焦げたオイルと硝煙の臭い。前世のぬるま湯のような日本(あるいは神のいたあの真っ白な空間)とは根本的に異なる、生々しい「戦場」の現実がそこにはあった。

「――状況終了。敵機、すべて沈黙」

ゼニ・ゴールドミラーは、ホログラフィック・ディスプレイに映し出されるレーダーを確認し、深く息を吐き出した。

彼が乗っているのは、地球連邦軍の量産型パーソナルトルーパー『ゲシュペンストMk-II』。それも、お世辞にも整備が行き届いているとは言えない、型落ちのジャンク寸前の機体だ。

だが、その足元――砂塵が舞う荒野――には、原型を留めぬほどに破壊された3機の『リオン』が、無惨なスクラップとなって転がっていた。

「ふむ。初期投資に対するリターンとしては、上々(上等)と言うべきだな」

ゼニは不敵な笑みを浮かべ、コックピットのコンソールを叩いた。

神から授かった『操縦技術』と『戦闘技術』は本物だった。ポンコツのゲシュペンストを、まるで自分の手足のように、いや、それ以上に精密に駆動させ、最新鋭であるはずのリオンの死角へ回り込み、実弾機関砲の一連射でジェネレーターを正確にぶち抜いてみせたのだ。

しかし、ゼニにとって戦闘の勝利など、ただの過程に過ぎない。

本番はここからだ。

「さあ、お楽しみの『回収(サルベージ)』の時間だ。世界(相場)が完全にひっくり返る前に、軍資金をこの鉄屑から搾り取らせてもらうぞ」

ゼニは手際よくゲシュペンストを操作し、リオンの残骸から未だ無事なパーツや、希少なレアメタルの装甲板、そしてエネルギーカートリッジを手際よく剥ぎ取り始めた。

ここが「向こう側」の世界であると確信してから、まだ数ヶ月しか経っていない。

ゼニが転生したのは、連邦軍の末端組織が管理する、不法投棄地帯(ジャンク・ヤード)の警備兵という、最底辺のポジションだった。

普通の転生者なら「なぜこんな危険で貧しい場所に」と絶望するところだろう。だが、経済知識と原作知識を持つゼニにとって、ここは宝の山(エルドラド)以外の何物でもなかった。

なぜなら、この世界は「こちら側」と決定的に異なる歴史を辿り、兵器の相場が狂い始めているからだ。

(ヒュッケバインシリーズの開発計画凍結――いわゆるバニシング・トルーパー事件。あの件のせいであちらの世界(こっち)には、本来開発されるはずだった高性能機『ヒュッケバインMk-III』が存在しない。つまり、フレームを換装してあらゆる局面に適応するという高汎用コンセプトの機動兵器が、今の連邦軍には『皆無』なんだ)

だからこそ、いまテスラ・ライヒ研究所で開発されている『エクサランス』という機体は、連邦軍の上層部から「前例のない機能が満載」として、表向きは非常に高い評価を受けている。

だが、ゼニの『経済知識』と『原作知識』はその裏を見抜いていた。

高評価とは名ばかりの、予算の買い叩き。連邦軍の腐敗分子はあの技術をタダ同然で強奪しようと狙っており、さらにその革新的なコンセプトには、軍を裏から侵食しつつある「シャドーミラー」のヴィンデルやレモンまでもが、時流エンジン共々目をつけ、強奪の機会を伺っている。

いわば、エクサランスは**「誰もが喉から手が出るほど欲しがっているが、まだ誰も正式に買い取れていない、超高価値の未公開株(プラチナチケット)」**なのだ。

「よう、ゼニ! また景気良く稼いでるみたいだな!」

通信ウィンドウが開くと、ジャンク・ヤードの責任者である肥満体の男、バンスン曹長が下卑た笑みを浮かべて現れた。

連邦軍の腐敗を体現したような男だが、ゼニにとっては最高の「顧客」であり「利用価値のあるバカ」だった。

「ええ、曹長。不審な野良リオンを3機ほど片付けました。幸い、ジェネレーターと電子基板は無傷です。……例のルートで流せば、今月も上層部への『上納金』には困らないかと」

「ハハハ! 話が分かる奴は大好きだ。お前が来てから、俺の裏口座の数字が増える一方で笑いが止まらんよ。軍の監査なんて、書類を数枚偽造すれば誤魔化せるからな」

「当然です。……ところで曹長。以前お話しした、テスラ研周辺の連邦軍の『不穏な動き』についてのデータ、融通していただけましたか?」

ゼニの目が、金色の光を宿して妖しく光る。

バンスンは鼻を鳴らし、画面越しに非公式の軍行動データを転送してきた。

「ああ、お前が言う通り、連邦内の非正規部隊がコソコソ動いてるな。どうやらテスラ研がテスト予定の『エクサランス』って新型の輸送ルートを襲って、機体をデータごと『お漏らし(強奪)』させる計画らしい。……なぁゼニ、あんな上層部やシャドーミラーの連中が血眼になってる危険なヤマに、お前みたいなジャンク屋が首を突っ込んでどうするんだ?」

「フフ、ただの事前のリスクヘッジですよ、曹長。私は誰も買い手がついていない『最高の掘り出し物』を、一番おいしいタイミングで買い叩くのが趣味でしてね」

通信を切ると、ゼニの口元が醜悪なまでに歪んだ。

「――仕込みは完了だ」

原作知識と、現在の連邦軍の動きが完全にリンクした。

間もなく、連邦の非正規部隊(あるいはシャドーミラーの息がかかった連中)が、テスラ研の輸送コンボイを襲撃する。

ラウルやフィオナたち開発チームは、自分たちの機体がどれほど高い軍事価値を持っているかも知らず、資金難の中で必死に抵抗し、そして絶望するはずだ。

「誰もが狙う、前例なき換装型機動兵器。そして、無限のエネルギーを生む時流エンジン。……それが市場に流出するその瞬間、俺が『最大の資本』を持って、あの開発チーム丸ごと、共同経営者(お抱えの黄金のガチョウ)として買い取ってやる」

ゼニはゲシュペンストのコックピットで、手に入れたジャンクパーツの総資産価値を素早く計算していく。

すでに、しがない警備兵の枠を遥かに超えた巨額の資金が、ゼニが張り巡らせた複数のダミー口座へと還流し、テスラ研へ介入するための「弾薬」として牙を研いでいた。

「世界を敵に回す? ハッ、笑わせるな。世界中が欲しがる最高の商品を、俺の財布にするだけだ。……さあ、ゴールドラッシュの始まりだ」

黄金の野心を燃やす男を乗せて、ポンコツのゲシュペンストは、巨万の富と「前例なき巨神」が待つテスラ・ライヒ研究所の戦場へと向かって、砂塵を上げて走り出した。

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