「やった……のか……?」
リュウセイが駆るSRXの絶大な念動爆発、そしてゼニの『ゴールドミラー・プライム』による執念の猛攻が、漆黒の凶鳥を捉えた。
大破し、光の粒子となって崩壊していく『R-GUNリヴァーレ』。そのコックピットの中で、イングラム・プリスケンは最期に、どこか満足げな、哀しげな笑みを浮かべて暗黒の宇宙へと散っていった。
「フフ、ハハハ……! ついに、ついにやりましたよ! リヴァーレは機能停止(デフォルト)! あとはあのスクラップを回収し、レアメタルとトロニウム・エンジン、そして我が社の出資データをパーツ単位で差し押さえるだけです!」
ゼニ・ゴールドミラーは、操縦席で狂喜乱舞していた。全財産を持ち逃げされた大富豪の執念が、ついに宇宙最高の詐欺師を打ち破り、悲願の債権回収(黒字転換)を達成した――はずだった。
だが、戦場に響いたのは、勝利の歓声ではなく、ハガネのブリッジから放たれたテツヤ副長の悲鳴のような警告だった。
「各機、退避しろ! ホワイトスターの様子がおかしい……! エネルギー波形が計測不能、要塞そのものが『融解』を始めているぞ!?」
「……は?」
ゼニの笑顔が凍りつく。
メインモニターに映し出されたのは、あまりにも異様で、あまりにも絶望的な光景だった。
さっきまでイングラムの残骸(差し押さえ対象)が転がっていたホワイトスターの構造体が、意思を持つかのようにドロドロとした有機的な結晶へと姿を変え、急速に膨張を始めたのだ。メテオ3に組み込まれていた、人類の技術を遥かに超越する自動防衛プログラム――『セプタギン』の暴走である。
セプタギンは、周囲の物質、エネルギー、そしてゼニがさっきまで目を血走らせてかき集めていたリヴァーレのスクラップや、DC戦争の遺産であるヴァルシオンのデータ端末に至るまで、すべてを貪欲に飲み込み、ドロドロの結晶の胃袋の中へと融解(ロスト)させていく。
「ま、待ち、待ち、待ち、待ち、待ち、待ち、待ち、待ち、待ち、待ち、待ちなさいーーーーーっっっ!!!???」
ゼニの金色の瞳が、怒りと恐怖でこれまでにないほど激しく裏返った。
「何をしているのですか、あの巨大な結晶体の化け物は!! ストップ! ストップ・インベスティング(投資中止)です! 私がさっきまで命がけで差し押さえの手続きをしていたリヴァーレのパーツが、あのドロドロの中に全部飲み込まれて溶けて消えていくではありませーーーーんかっっっ!!!??」
『無駄だ、成金男! メテオ3のプログラムには、お前のカネの話など一切通用しない! あいつは地球圏のすべてを飲み込んで消滅させる気だ!』
ライが通信越しに冷徹に、しかし焦りを滲ませて叫ぶ。
「そんな不健全な天変地異(不可抗力)があってまるものですか!! いいですか、組織が倒産(デフォルト)したなら、トップ(CEO)の個人資産や親会社を訴えるのがビジネスの基本です! ですが……ですが、あの化け物には『意思』がない! 経営陣がいない!!」
ゼニは髪を猛烈に掻き毟り、自身の算盤(コンソール)を涙目で叩きつけた。
「意思を持たない自動プログラムを相手に、私は一体どこの裁判所に、誰を連帯保証人(被告)として損害賠償請求(民事訴訟)を起こせばいいのですか!! 請求書を送りつける宛先(住所)すら地球上に存在しない化け物など、ただの『究極の無慈悲なるゼロ清算(大破産)』でしょうがァァァ!!」
イングラムという個人詐欺の次元はとうに超えていた。
今、目の前で起こっているのは、ゴールドミラー社の全財産、これまでの全投資、そしてこの世界のすべての経済活動そのものを物理的に消滅させようとする、宇宙規模の巨大な「天災(破産宣告)」。
「おのれ、セプタギン……! 私のゴールドを、我が社の血税を、パーツ一個に至るまでドロドロに溶かして踏み倒そうなどと、経営者として……いや、生命体として絶対に許しません!!」
ゼニはボロボロになったパイロットスーツの袖で涙を拭うと、ゴールドミラー・プライムのトロニウム・エンジンを過負荷(オーバーヒート)寸前まで限界突破させた。全身の純金装甲から、怒り狂った超高出力の黄金の光背(オーラ)が爆発する。
「ハガネ隊の皆さん、こうなったら選択肢は一つです! あの化け物を木っ端微塵に叩き潰し、その体内の結晶(レアメタル)をすべて我がゴールドミラー社の現物資産として『強制調停(ぶん捕り)』して差し上げます! 1ゴールドの塵になろうとも、私は絶対に踏み倒し(自己破産)など認めませんよォォォォォ!!!」
正義のためでも、人類の存亡のためでもない。
「請求先を失った借金取りの、時空を超えた超ド級の逆ギレ」。
セプタギンという神の如き絶対の絶望に対し、世界で最も強欲な経営者が、天下無敵のSRXと共にキンキラの大剣を振り上げて最後の特攻を仕掛ける。L5戦役、真の最終決戦の火蓋が、最悪のテンションで切って落とされた。