金の亡者、泥舟の世界で大儲けする   作:鳥ささみ

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第四話:シャドーミラーの買収案件(オファー)

 

「――やはり、来たか」

テスラ・ライヒ研究所のゲストルーム。ゼニ・ゴールドミラーは、最高級のブランデーを口に含みながら、眼前に展開されたホログラフィック・モニターを眺めていた。

研究所の防衛アラートが赤く点滅している。

テスラ・ライヒ研究所を包囲するように出現したのは、連邦軍の機体ではない。洗練された独自の重装甲を纏った機動兵器群――『アシュセイヴァー』、および『量産型ゲシュペンストMk-II』のカスタム部隊。

別次元からの来訪者にして、戦争を永遠に継続させることで人類の進化を促そうとする過激派軍事組織、シャドーミラー。その先遣部隊だった。

「ゼニさん! 大変だ、正体不明の武装集団がこの研究所を包囲してる! 先日の連邦非正規部隊とは比べ物にならない組織力だ!」

ラウル・グレーデンが、息を切らせて部屋に飛び込んできた。彼の背後では、ミズホ・サイキとラージ・モントーヤが青い顔でタブレットのデータを書き換えている。

「落ち着きなさい、ラウル代表。慌ててパニックを起こすのは、破産寸前の経営者(三流)のすることですよ」

ゼニは優雅にグラスを置くと、ラージの方を振り返った。

「ラージ君、2機のエクサランスの調子はどうだ?」

「ゼニさんのお陰で、ラウルの『01』、フィオナの『02』、共にミズホの提案した『ストライカーフレーム』の換装プロトタイプ(基本3形態)の実装は完了しています。時流エンジンも、フレームを『消耗品』として逃がすバイパス回路によって、驚くほど安定した出力を維持しています。ですが……実戦データが圧倒的に不足している」

「ならば好都合だ。最高の『テスト環境(市場)』が向こうからやってきてくれたんだからな。01と02、2機の資産をフルに稼働させろ」

ゼニは立ち上がり、コートを羽織った。

神から授かった『原作知識』は失われていない。このシャドーミラーの襲撃こそが、ラウルたちを「こちら側(正史)」へと叩き落とす運命の引き金だ。今の戦力で勝てる相手ではない。だが、ゼニ自身がこの研究所の地下に眠るビアン・ゾルダーク博士の遺産――『DGG(ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン)』を合法的に「サルベージ(強奪)」するための、最大の商機でもあった。

「ラウル、フィオナ。あなたたちは2機のエクサランスを出撃させ、施設の正面防衛に当たりなさい。私は、我が社の所有物(ゲシュペンスト)で、敵の『CEO』と直接、条件交渉(商談)をしてくる」

「えっ、交渉って……あの武装集団と話が通じるのかよ!?」

「金と暴力の価値が分かる奴になら、誰にでもビジネスは通じるさ」

ゼニは不敵に笑い、ハンガーへと向かった。

テスラ・ライヒ研究所の荒涼とした外周部。

ラウルのエクサランス01、そしてフィオナのエクサランス02が、シャドーミラーの量産機を相手に、目覚ましい戦果を上げていた。

「すごい……! フレームが負荷で悲鳴を上げても、中核(コア)にダメージがいかない! これなら思い切り戦える!」

「ミズホの言った通りよ! 2機で交互に前線を維持すれば、時流エンジンに過負荷をかけずに戦線を維持できる!」

軍から「不安定な欠陥品」と切り捨てられた機体だが、ゼニの資本投資と「換装思想」によって、2機同時運用という贅沢な布陣で戦場で狂い咲いている。

だが、シャドーミラーの戦力は無限とも思えるほどに波状攻撃を仕掛けてくる。じりじりと防衛線が押し下げられようとしたその時、地鳴りのような爆音と共に、一機の「蒼き巨神」が戦場へと姿を現した。

特機『ソウルゲイン』。

そのコックピットに座るのは、シャドーミラー特殊任務実行部隊の隊長、アクセル・アルマーだった。

『――前例のない換装機能に、未知の動力源「時流エンジン」か。連邦の腐敗分子が目を付けるだけのことはある。だが、ヴィンデルの理想のため、その技術、ここで回収させてもらうぞ』

ソウルゲインが放つ圧倒的なプレッシャー。ラウルとフィオナの2機がかりの攻撃すら、その強固な装甲とアクセルの天才的な操縦技術の前には容易く弾き返される。

圧倒的な戦力差に絶望が過ったその時、戦場の中央に、一機のパッチワークのゲシュペンストMk-II――ゼニの愛機が、平然と滑り込んできた。

そして、ゼニは全周波数の広域通信(オープン・チャンネル)を開いた。

「――シャドーミラーの隊長殿。私はこのテスラ・ライヒ研究所の筆頭株主、およびグレーデン開発チームの最高財務責任者(CFO)、ゼニ・ゴールドミラーだ」

ソウルゲインの動きが、一瞬ピタリと止まる。

『ほう……技術屋の雇われ犬かと思えば、随分と肝の据わった商人がいたものだな。俺はアクセル。アクセル・アルマーだ。商人、命が惜しければその2機のエクサランスの権利をすべて引き渡してもらおうか』

「権利の譲渡、ですか。アクセル隊長、それはあまりにも『買い叩き(インサイダー)』が過ぎる。我が社があの時流エンジンと2機の換装型エクサランスにどれほどの先行投資を行ったか、ご存知ないわけではあるまい?」

『戦争になれば投資など一瞬で紙屑だ。力のない者の資産など、奪われるのがこの世界の理だからな』

「ならば、我が社の『商品の性能(時価の価値)』を、その身で査定(見積もり)していただこう!」

ドォン!!

ゼニのゲシュペンストが、爆発的な推進力で地を蹴った。

神業の『操縦技術』。型落ちのゲシュペンストであるはずの機体が、まるで生き物のようにソウルゲインの死角へと滑り込む。

「喰らいなさい。これが我が社の初期投資だ!」

ゼロ距離から放たれたメガ・ビームライフルが、ソウルゲインの関節部を正確に捉える。だが、ソウルゲインの玄武装甲は頑強極まりなく、火花を散らすのみで致命傷には至らない。

『いい動きだ、量産機でこの俺の不意を突くとはな! だが、火力が足りん!』

ソウルゲインの拳が迫る。それを紙一重で回避しながら、ゼニは冷徹に言葉の弾丸を撃ち込んでいく。

「アクセル隊長! あなたたちのボス――ヴィンデル・マウザーの目的は、『平和による緩慢な腐敗を阻止し、戦争が日常的にある世界を作る事』。そして最終的にあらゆる並行世界に介入して常に戦争を引き起こし続けるという、壮大な【戦争の永久供給(サプライチェーン)計画】だ。……違いますか!」

『……何だと?』

ソウルゲインの拳が止まる。それはシャドーミラーの最高機密であり、この世界の人間が知るはずのない情報だったからだ。

ゼニの金色の瞳が、コックピットの中で爛々と輝く。

「ヴィンデルが世界中に戦争を供給し続けるというのなら、このエクサランスの『フレーム使い捨て・換装思想』こそ、その戦場に最も適合した【最高効率の消耗品(商品)】だ! どれほど激しい戦争であっても、コアさえ無事なら何度でも新しいフレームを纏って戦線に復帰(再上場)できる! これほどヴィンデルの理想に合致した兵器システムが、他にあるかね!」

ゼニは敵の攻撃を受け流しながら、冷徹に交渉を進める。

「どうですか。私をシャドーミラーの『特別顧問(社外取締役)』として迎え入れるというのは? 私の持つ天文学的な資金力と経済知識、そしてこの機体の開発データをあなたたちに提供(出資)してあげましょう。その代わり、私の身の安全と、私の『個人資産』の持ち出しを保証していただきたい。並行世界を巡る大戦争……これ以上の『巨大市場(マーケット)』は、守銭奴として見過ごせませんからね!」

『……面白い男だ。戦場で命乞いではなく、ヴィンデルの計画の価値を見抜いた上で、対等な買収案件(M&A)を持ちかけてくるとはな』

アクセルはソウルゲインの拳を収め、フッと不敵に笑った。

『いいだろう、ゼニ・ゴールドミラー。お前のその「戦闘技術」と「度胸」、そして資金力、確かにただの商人じゃない。一時的に戦闘を凍結し、お前を我が組織の特別顧問として仮登録してやる。ヴィンデルがお前をどう査定するかは、俺の知ったことじゃないがな。……ただし、これから始まる本番の戦い、せいぜい役立ってもらうぞ』

「フフ、契約成立(ディール・ダン)だ。シャドーミラーの軍資金(リソース)、有効に使わせてもらいますよ」

ゼニは通信を切ると、妖しく金色の瞳を輝かせた。

ラウルとフィオナのパトロンでありながら、その裏で襲撃者であるシャドーミラーとも手を結ぶ。これぞ守銭奴ゼニ・ゴールドミラーの真骨頂。

すべては、泥舟の世界から最大のリターンを得て「こちら側」へと脱出するための、冷酷な資産運用(ポートフォリオ)だった。

「さあ、次の市場(戦場)へ向けて、地下の『眠れる黄金(DGG)』のサルベージを始めるとしようか」

混沌を極めるテスラ・ライヒ研究所の戦場で、ゼニの強欲な哄笑が、激しい爆音に混ざって響き渡るのだった。

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