金の亡者、泥舟の世界で大儲けする   作:鳥ささみ

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第六話:焦げ付き資産の回収(ジャンク・サルベージ)

 

「――見事なものだな、キョウスケ・ナンブ。お前のおかげで、極上の『不良債権』が市場に転がることになった」

極東管区、伊豆基地周辺の山林地帯。厚い雲に覆われた空の下、ゼニ・ゴールドミラーはパッチワークのゲシュペンストMk-IIのコクピットから、眼下に広がる凄惨な光景を眺めていた。

かつて地球連邦軍の最高機密であり、絶対的な決戦兵器となるはずだった巨神――SRX。

だが今、その姿は合体すら満足に果たせぬまま無残に引き裂かれ、大地にぶつ切りになった鉄屑として転がっていた。白煙を上げる巨大な装甲の隙間から、禍々しい赤い触手のようなアインストの細胞が、まるで獲物を貪った後の名残のようにうごめき、やがて塵となって消えていく。

この世界のタイムラインにおける最悪のIF。

アインストに寄生され、その細胞に肉体も精神も蝕まれたキョウスケ・ナンブが駆る『アルトアイゼン・ナハト』。その狂気的な奇襲の前に、天下のSRXチームは壊滅した。

軍にとっては国家予算をドブに捨てたに等しい大破滅。

だが、すべてを予測していたゼニにとっては、これ以上ない「バーゲンセール(大商談会)」の会場だった。

「さて……軍の救助部隊や憲兵隊が血相を変えてすっ飛んでくるまで、およそ十五分。シャドーミラーから融資(カツアゲ)してもらった超高周波ジャミング装置の稼働時間を考えれば、実質的な作業時間は十分といったところか。……ミズホ君たちがいないのが悔やまれるが、贅沢は言っていられんな」

ゼニはゲシュペンストを降下させ、SRXの構成機体の中でも、とりわけ重装甲の残骸――『R-2パワード』へと近づけた。

彼の狙いは、ただ一つ。この世界に実戦配備されているのは唯一これだけという、地球外の超高エネルギー物質――**【トロニウム・エンジン】**だ。

SRXは合体時に、このR-2に搭載された「たった1基のトロニウム」の爆発的な出力を各機に分配して稼働する。通常であれば連邦軍の最重要機密としてトリプルAクラスの隠匿措置が取られ、どれほどの財力を積もうが民間人が拝むことすら不可能な「絶対的禁制品(ブラック・アセット)」。

それが今、キョウスケの反乱という不可抗力によって「ただの戦闘損壊による廃棄物(ジャンク)」として、一時的に法の支配から脱落している。

「時流エンジン(最高の商品)を不渡りで失った以上、このたった1基のトロニウム(代替資産)を回収せねば俺の損益計算書(P/L)が真っ赤に染まったままだからな。……さあ、我が社の取り立て(サルベージ)を始めようか!」

ゼニはゲシュペンストの破砕用大型マニピュレーター(テスラ・ライヒ研究所から勝手に持ち出した重機パーツ)を駆動させ、R-2パワードの胸部装甲を強引に引き剥がした。

メキメキと不気味な金属音が響き、内部の冷却液が激しく噴出する。その奥で、淡い、しかし身の毛もよだつほどの高密度な光を放つ、唯一無二の円筒状のコアが姿を現した。

トロニウム・エンジン。

「美しいな。この世界にたった1つしか存在しない独占資産(モノポリー)だ。テスラ・ライヒの地下で眠っている『あの機体』の心臓としては、これ以上のものはない」

ゼニは神業に近い緻密な操縦技術で、機体のシステムを一切傷つけることなく、トロニウムの接続回路をピンポイントで焼き切った。ゲシュペンストの背面に増設した特殊重耐熱コンテナへ、細心の注意を払って格納し、完全にハッチをロックする。

『――おいおい、随分と景気のいい泥棒がいたものだな。連邦の憲兵かと思えば、まさかシャドーミラーの特別顧問殿とはな』

突如、オープン・チャンネルの通信回線から、低く、しかし野性味のある男の声が響いた。

ゼニがセンサーを周囲に走らせると、山林の影から、一機の異質な特機――『ソウルゲイン』が悠然と姿を現した。

シャドーミラー特殊任務実行部隊の隊長、アクセル・アルマー。

「これはアクセル隊長。奇遇ですね。あなたも軍の最高機密を拾いに(スカベンジ)来られたのですか?」

ゼニは平然と通信を返した。

『フン、ヴィンデルの命令でキョウスケ・ナンブの「成果」を確認しに来ただけだ。まさか、お前が型落ちのゲシュペンストで、SRXの心臓を盗み出そうとしている現場に出くわすとはな。お前、そのエネルギーがどれほど危険か分かってやっているのか?』

アクセルの言葉には、純粋な警戒と、どこか呆れたようなニュアンスが混ざっていた。

トロニウムは一歩間違えれば、伊豆基地周辺ごとマップから消し飛ばすほどの超高爆発物だ。それを専門の技術チームもなしに、ジャンクパーツの山から強引に毟り取ろうという行為は、正気の沙汰ではない。

「分かっていますよ、アクセル隊長。だからこそ、これは『我が社の独占案件』なのです」

ゼニはコンソールの数値をチェックしながら、フッと不敵に笑った。

「市場(世界)がどれほど混乱しようとも、エネルギーの価値だけは絶対だ。シャドーミラーがこれから引き起こす並行世界を股に掛けた大戦争……そこでは、連邦の規格に縛られた兵器など何の役にも立たない。必要なのは、既存の枠組みを破壊する圧倒的なスペックだ。私はこの唯一無二のトロニウムを使って、地下の『DGG(ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン)』を再起動(リバリュー)させる」

『DGGだと……? ビアン・ゾルダークが遺した、あの神の如き特機か』

アクセルの声が、わずかに鋭くなった。シャドーミラーの情報網でも、ビアン博士が開発していた独自の特機シリーズの存在は掴んでいたが、まさかテスラ・ライヒ研究所の地下にその実機があり、さらにこの商人がそれを動かそうとしているとは想定外だった。

「ええ。時流エンジンを失ったのは痛手ですがね。だが、この世界で唯一のトロニウム・エンジンをDGGのフレームに換装・同調させれば……どうなると思います? 時流エンジンの予測不能な不安定さとは対極にある、**【純粋な破壊力の絶対的暴力資産】**が誕生するのですよ」

ゼニはゲシュペンストの機体を反転させ、離陸体制に入る。作業完了だ。

「どうです、アクセル隊長。私のこの『新規事業(DGG再起動計画)』、シャドーミラーとしても投資(バックアップ)する価値があるとは思いませんか? 私はあなたたちに、連邦軍を完全に震撼させる最強の『切り札』を市場に供給して差し上げられる」

アクセルはソウルゲインの腕を組み、しばらくの間、ゼニのゲシュペンストをじっと見据えていた。

戦場で命を賭けて金を稼ぎ、絶望的な壊滅の跡地すら最大の利益に変える。その底知れない強欲さと、それを支える確かな実力(戦闘技術)。

『……ハッ、相変わらず大した度胸だ、ゼニ・ゴールドミラー。お前のその強欲さ、嫌いじゃない。いいだろう、その鉄屑(トロニウム)の持ち出し、シャドーミラーとしては黙認してやる。ヴィンデルもお前の「成果物」を見れば、文句は言うまい』

「フフ、話が分かるパートナーで助かります、アクセル隊長。それでは、私はこれにて失礼して、地下の『黄金』の鋳直し(リビルド)に入らせていただきます」

ジャミングの解除警告アラームが鳴り響く中、ゼニのゲシュペンストは、背中に地球上で最も危険で、最も高価値な「たった1本の熱源」を背負い、夜の闇へと音もなく跳躍した。

(待っていろよ、ラウル、フィオナ。お前たちが不渡りを出した時流エンジンの穴埋めは、この俺が完璧に済ませておいてやる。お前たちが「こちら側」へ這い上がってきたその時、このトロニウム駆動のDGGが、どれほどの時価総額(戦闘力)を叩き出すか……今から楽しみで仕方が無いな!)

戦火に包まれる極東の空に、守銭奴の冷酷な、しかしギラギラとした黄金の野心が、狂おしく燃え上がっていた。

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